さて映画の席を予約した圭と天羽は、”なぜか”客がほとんどいない館内にて、ど真ん中の一番いい座席に腰掛けて、二人してポップコーンを頬張っていた。
「衣緒さん。この映画って怖いやつですよね……」
「そうだよー。もしどうしても怖かったら、一緒に途中退室しちゃおうかー」
「い、いえ! 衣緒さんが隣なら、大丈夫です」
「ふふふ、気づいたら隣に誰もいなかった——なーんてね?」
「……いじわるはしないでください」
それにしても休日の映画館だというのに周りにはほぼ人がいない。というか、黒服姿の怪しい人が何人も座っているが、本当の劇場はここだった?(名推理)
「いや、それにしても映画といったらポップコーン」
「美味しいです。キャラメル味」
「うんうん、この当たり外れのある感じがクセになるよねえ。まるで人生みたいだ」
「ハズレは……あまり引きたくないですけどね」
「いやいや、長く生きてきたけどハズレもあながち悪くないものだよ?」
「衣緒さん、まだ高校生ですよね?」
「実は千年前から生きてたりする!」
「はいはい、こわいこわい」
そんな感じで圭からあしらわれつつ、ジュース……ではなく緑茶をずずずーっと吸う。
「途中でトイレ行きたくなっちゃうかも」
「飲み過ぎは厳禁ですよ?」
「緑茶は利尿作用があるから仕方ないよ〜」
「漏らさないでくださいね」
「おお! 言うようになったあじゃないか圭ちゃん」
「ふふっ、お返しです」
ぶぶーん。
音ともに、ホール内が暗くなり広告が始まった。
□■□■□
「その……四宮はこういうところは初めてか?」
「はい……会長。正直に言って、チケットの買い方も存じ上げませんでした」
「ああ、それは問題ない。今回ので覚えただろうし、今の俺たちの任務は警戒観察だ。気を抜かないで……いや、今の時間くらいゆっくりするか」
「——! いいんですか?」
「特に悪いことなんて起きていないしな。あれも天羽庶務の悪ふざけだったのだろう。ほら、ポップコーン食べるだろう? 塩味だ」
「はい、それでは失礼して……ぽりっ」
それは、四宮かぐやにとって。
初めての映画館という趣ののったしょっぱさだった。
「美味しいです……。ちなみに会長?」
「ん、どうした四宮?」
「会長はこういった、いわゆるホラー映画は得意なのですか?」
「…………だ」
「え?」
「……実を言うと、めちゃくちゃ苦手だ。特に虫だとかああいった大群は映像でも恐ろしい」
「意外、ですね。会長でも苦手なものはあるんだ」
「ああ、そういう四宮はどうだ? ホラー映画は」
「私は特に……まあ。びっくり系は苦手ですが」
「そ、そうか」
白銀御行は、この映画で失神しないと覚悟を決めた。
それもそのはず、好きな人の前で恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないからだ!
□■□■□
3。
2。
1。
——上映開始。
映画館の大型スクリーンに映し出される、配給会社の不気味なロゴマーク。
そして、じっとりと湿った空気を思わせる重低音。
ドドンと、陰鬱な文字でタイトルが浮かび上がる。
——『脳内侵略(ブレイン・インフェクション)』
スクリーンから放たれる青白い光。
それだけが、薄暗い劇場の座席をぼんやりと照らす。
その瞬間——。
『——ガサッ。……ギチ、ギチギチギチ……ッ!』
劇場のスピーカーから、耳元で這い回るような生々しい嫌な音が響いた。
画面には、人間の耳の穴からうねうねと這い出る『それ』の描写。
極小の寄生虫が、宿主の神経をジャックして肉体を意のままに操るという、エグい映像美の本格ホラー。
「ひえっ……!」
隣の席で、圭が小さく息を呑んで肩を跳ねさせた。
そのうなじには、天羽が貼ったあの「血行促進装置(仮)」が仕込まれている。
そして——。
劇場の照明が完全に落ち、スクリーン以外の光が消え、画面に眩い光が照らされた時。
ピピッ!
「……っは、あ……っん⁉︎」
圭の身体が、弓なりに跳ねた。
暗闇。
それは、この機械の真価を発揮する場面。
周囲の光がゼロになった瞬間、センサーは最大の感度を叩き出す仕様になっていたのだ。
つまり、今は何かが光るたびにセンサーが拾う。
そしてそれを止めるスイッチは今ここにない。
(うそ……なんで、こんな時に……っ!)
映画の劇中では、画面の人間が寄生虫に脳を支配され、痙攣しながら奇怪な笑い声を上げ始めている。
しかし、本当に痙攣しているのは圭そのもの!
おお、びくんびくん。もしかして、首の辺りにパラサイトが住み着いてしまったんじゃないか?(正解)
「圭ちゃん? もしかして映画怖かった?」
「ち、違っ……違います、これ、違うんです……んっ、本当に。くぅ……っ!」
小声で、天羽が心配気に声をかける。
そしてポップコーンを抱えたまま、両手で自分のスカートの裾をぎゅっと握りしめる圭。
スクリーンから響く「ギチギチ」という不気味な寄生虫の咀嚼音と、圭の口から漏れる甘い喘ぎ声が最悪のハーモニーを奏でる。
(やばい、これ本当にやばい……っ! 脳みそまで溶ろけちゃう……!)
映画のホラー演出で周囲の観客(ほぼ怪しい黒服たち)がスクリーンに釘付けになっているのが、不幸中の幸いか、あるいは地獄か。
誰も隣の異変には気づいていない。
だが天羽だけは、圭の様子をじっと観察していた。
「い、いお……さんっ、これ、とって……はずして、ください……っ!」
「えー今? まだ始まったばかりだよ?」
「むり、です……こんなの、頭おかしくなっちゃう……あっ、んぁ……っ⁉︎」
映画の緊迫したシーンとは裏腹に、別の意味で絶叫しそうになる圭。いやこれ嬌声というのでは?
あまりの強烈な刺激。
圭の瞳には仄かに甘い涙が浮かんでいた。
□■□■□
一方その頃、少し離れた座席。
「…………っ‼︎」
「会長……?」
「……何でもない。何でもない映画だな、ハハハ」
「そうですか? 私はむしろ、このようなホラー演出には技術的感銘を受けていますが……」
「そうだな、深い作品だな」
白銀はほぼ白目で映画を見ていた。
四宮はそれに気づかず、監督視点だ。
「あ、画面のあれは何でしょう。人間の耳から足が生えているような……会長?」
「ウン タラタ カンマン」
精神的に追い詰められた白銀御行。
彼は仏の力に頼って、不動明王を呼び出していた。
□■□■□
「あの、衣緒さん……っ」
「んー?」
「私、その、ちょっと……。どうしても、トイレに行きたくて……」
限界を迎えた圭。
彼女が、小刻みに震えながら立ち上がろうとした。
しかし、最大出力のパッチ(隠語)。
暗闇の中で歩こうものなら、快楽のままロビーを歩くことになり、絶対におかしな声を漏らすだろう。
「えー、今立つのはもったいないよお。クライマックスの面白いところなのに」
「そういう問題じゃありませんっ……‼︎」
「じゃあいってらっしゃい」
「その……。こ、腰が。砕けて歩けないんです……」
必死の形相でこちらの袖を掴みすがりついてくる圭。
その潤んだ瞳は、完全に男を惑わすそれだった。
「しょうがないなあ。じゃあ、ここでボクに捕まってな? じゃないと、転んじゃうよ?」
「……っ! うう……申し訳ないです——っん⁉︎」
絶え間なく送られ続ける振動に、涙目で唇を噛み締めながら、天羽の服の裾をぎゅっと掴む圭。
これは側から見れば、”お持ち帰り”だった。
二人は映画館の暗い通路を、まるで泥酔したカップルのようにして進む。
圭の足はがくがくと生まれたばかりの子羊の震え、一歩ごとに膝が折れそうになっている。
「はあ……はあっ……んく……!」
「もう少しだよ。女子トイレ、すぐそこ」
「衣緒さん……ご、ごめんなさいっあ——⁉︎」
「ふふ、圭ちゃん謝らなくていいよ」
「で、でも……」
「圭ちゃんは可愛いから、許してあげる」
「い、衣緒さん……!」
天羽は後ろから圭の腰をそっと支えてくる。
その手のひらの熱が、圭の身体にじわりと染みる。
「ほら、すぐそこだよ。スッキリしてごらん」
「はい……すぐ戻ります……」
「——ふふっ、ごゆっくり。外で待ってるね」
ようやく女子トイレの個室に滑り込む圭。
彼女はドアを閉めた瞬間、へたり込んだ。
そのまま下着を脱ぎ、用をたす形となる。
(ふぁぁ……っ、やっ……と……!)
ようやく誰にも見られずに一息をつける。
そう思ったのも束の間。
うなじのパッチが最大出力を叩きだす。
「——ひゃぁんっ⁉︎ あっ、あっ、だめぇ……っ!」
甘く電流のような振動。
圭は両の手で口を精一杯に塞いだ。
それでも漏れ出る甘い吐息。
それが狭い個室に反響する。
「んっ……んぅっ。はあ、はぁあっ……!」
腰が勝手にびくんびくんと跳ねる。
太ももが内側から痙攣し、膝ががくがく音を立てる。
(こんなの……おかしくなる。……頭、真っ白に)
もはや映画のホラーなどどうでもよかった。
今、圭の脳を侵略しているのは、「快楽」そのもの。
「衣緒さん‼︎ たしゅけてっ——! もう無理ぃ、頭がおかしくなっちゃうぅっ⁉︎」
下腹部に膨大なエネルギー集まる。
限界だと悟った圭は天羽に助け請うた。
だがこのエネルギーは超新星爆発する。
(あっ……もう、ダメだ——)
それを最後に、圭の意識は深く沈んでいった。
□■□■□
とある濃密な匂いのする空間。
「はあっ……はっ、くっ……!」
少女の荒い息遣いが、静かな室内に響く。
先ほどから何度も繰り返されるソレに、彼女の理性はすっかりと溶けかけていた。
「どう? 桃。ボクの新作、すごいでしょ?」
「うるさい……っ! 衣緒。今日一体何してた⁉︎」
少女の身体が大きく跳ねる。
シーツをぎゅっと両手でつかみしめて耐えている。
ピピッ、と電子音が小さく鳴り響く。
「っ——! あ、うぅ……っ!」
「ふふふ、昼間に白銀さんの妹さんでテストしたパラメータを、桃専用に手直ししてみたんだよね」
「お前……本当に……後で覚えてろよ——っ⁉︎」
「えー? こんなに気持ちよさそうなのに」
「気持ちよく……なんて、誰が……っ!」
「じゃあ出力あげるか」
「——それはダメぇっ⁉︎」
「…………ふーん?」
その一言で、少女は枕に顔をうずめた。
紅く染まった顔を見られないよう隠すために。
しかし、少年はその顎を優しく。
だが逃がさないようにしっかりと持ち上げる。
「桃。目を逸らさないで。可愛い顔が見たいな?」
「……ばか衣緒」
潤んだ瞳で見据えてくるその表情。
それは普段の強気とはかわり、儚くて愛おしい。
「白銀さんの妹は素直でよかったなあ?」
「……っ、私以外のやつの話をするな……!」
「ふふ……でもやっぱり。桃が一番可愛いね」
「……勝手にしろ。でも浮気したらころす」
「ボクは桃一筋だよ?」
「……ふんっ。口で言うだけは誰でもできる」
嫉妬したように顔を背ける少女。
「じゃあ今度一緒に映画見に行く? 二人だけで」
「…………いく」
それはきっと。
甘くてとろけてしまいそうなほどに。
□■□■□
「圭ちゃん、替えの下着買ってきたよ」
「ありがとうございます……」
「圭ちゃん、機械の暴走を止められなくてごめんね」
「いえ、私こそ迷惑をかけてごめんなさい……」
「謝らなくていいんだよ。何も悪くないんだから」
「でも、せっかく遊びに誘っていただいたのに……」
「——圭ちゃん?」
「はい……何でしょう?」
「ボクは圭ちゃんが好きだよ。だからまた必ず一緒に遊ぶ。それだけは命に賭けて誓うよ」
「っ——!」
「圭ちゃん、外で待ってるからね」
「は、はい゛っ……!」
白銀圭、乙女の涙を流す。
全ての原因は彼——天羽衣緒にあるというのに。
わる〜い男だ。それなのにまるで、
白馬の王子様のように見えてしまうのだから。
時系列が狂う〜^のは、もはや気にしないことにした
欲張りなので次回は早坂愛が出てくるかも?
ランキング計算式の非公開の係数ってなに……?
今までの小手先の技術は、もはや意味をなさない
なぜなら誰にもシステムがわからないから!
ハーメルン戦国時代は、目隠しプレイに入った‼︎