「あっ、クズの衣緒くんだ〜!」
「おっ、バカの千花ちゃん〜!」
「「おっは〜ろ☆」」
生徒会室に入るなりクズと言った藤原書記。
それを確認してからバカと返した天羽庶務。
二人はにこにこと仲の良さそうにピースをしている。
「おい四宮、あいつら一体どうしたんだ?」
「いえ会長、私も何がなんだかさっぱりです」
白銀も四宮も状況をつかめていない。
そこに、藤原千花がたたと白銀たちの元に近寄る。
「会長かいちょう! 聞きましたか⁉︎」
「急になんのことだ? 藤原書記……?」
「衣緒くんのことですよ! 最近の有名な!」
「いや……天羽が有名なのは今に始まったことじゃないはずだが……違うか?」
「違いますよ! う・わ・さ。最近の噂です!」
「うわさ……?」
「かぐやさんの方が詳しいんじゃないですか? その娘が所属するのはAクラスですから!」
「私と同じ……Aクラスの方?」
「はいそうです! ——『早坂愛』さんです‼︎」
四宮の顔がかちりと硬直した。
天羽? 早坂? 一体この二人に何の関係が?
それを問うべく、四宮は言葉を紡いだ。
「ええ……。早坂さんとは一応同じクラスですが、それが天羽さんとどう『噂』について関連して?」
「なんでも、衣緒くんが早坂さんと二人してホテルから出てきたとかなんとか‼︎」
………。
「ええええええええ⁉︎」
かぐやの絶叫。
それもそのはず、早坂愛の本当の正体は四宮かぐやの近侍(ヴァレット)だからである。
「藤原さん! 早さ……かさんは、そのホテルの中で何をしていたの⁉︎ まさかキッス⁉︎ キッスなの⁉︎」
「その中身で何が行われていたかまでは、むにゃむにゃ……ですが! 多分キッスしてると思います‼︎」
「ええええええええ⁉︎」
オクターブの上がった二度目の絶叫。
かぐやはぐるりと首を曲げ、天羽の方向を見た。
それは冷蔑の瞳であり、凍えるほどのものだ。
天羽はギョッとした様子でそれを受け止める。
「天羽さん……あなたには失望しました」
「いやちょっと言い訳があります」
「なんですか。早さ……かさんを傷物にして」
「あれは合意の上でした」
「会長。天羽庶務は本日を持って生徒会を退会するようです。手続きの方を——」
「四宮さん⁉︎」
ごほんごほん。
咳がなり、そちらの方を見ると白銀御行がいつにまして真剣な表情で天羽の方を見ている。
「天羽……お前、本当にやったのか?」
「いやいや御行信じてほしい。あれは合意の上だった。しかし重ねて言うなら、キッスはしていない!」
「では一体なぜホテルに……? 女子生徒を?」
「——アレはこっちが誘われたんだ。早坂さんに」
生徒会室の空気が止まる。
誰もが息を止めていて……。
「ええ↓えええええええ↑ ⁉︎」
ただ一人、四宮かぐやの絶唱が響いた。
---
そして暫くが経ち。
白銀御行が天羽側の言い分をまとめてみせた。
「つまりだ……あくまで天羽は被害者で、相手のほうから『ちょっと一息つかせてよ』とホテルに引っ張り込まれたと?」
「さすが御行、その通り。ボクはただ、街を歩いていたら偶然例の早坂さんに遭遇してね。『ちょっと足が疲れたから、あそこの静かなところで休も?』って誘われたから、仕方なくだよ。本当に仕方なく」
「仕方なくって……。早坂さんがそんな簡単に男子をホテルに誘うなんてありえません!」
「え、四宮さん。早坂さんとそんな仲良かったの?」
「た、ただの知人です!」
「まあともかく……いかがわしいことは誓ってしてません。そも面識なんてあってないようなものだしね」
天羽の視線が藤原に注がれる。
厄介なコトをしてくれたな、という目だ。
だがしかし、藤原は余裕の表情だ。
「はい会長! 衣緒くんは嘘をついています!」
「なに……? どういうことだ藤原書記」
「こちらがその浮気の証明写真となっております」
すっと、藤原が一枚の写真を取り出した。
「な……手を繋いでるだと⁉︎」
「それによく見てください! 手が恋人繋ぎで握られています‼︎」
「ホントだ! おい天羽‼︎ お前確か許嫁がいるっていってたのに、恋人繋ぎなんて確信犯じゃねえか!」
白銀が大いに突っ込む。
しかし、
「いや御行。それに関しては明確な反証がある」
すっと、天羽が一枚の写真を取り出した。
「誰かが”たまたま”撮っていた写真なんだが……このトレンチコートを着た不審者二人組。何だか見覚えがある気がしない……か?」
……白銀はそれを見て沈黙した。
そしてからすぐ、うんと頷いた。
「天羽衣緒に清き一票!」
「会長⁉︎ この裏切り者!」
手のひらくるーん。
これを持ち出されては、白銀は黙る他ない。
それは先日の四宮と手を繋いだアレだった。
「いや藤原書記、普通に考えて手を繋いだだけで浮気というのは論理が飛躍しすぎだろう。普通の男女ならば手を繋ぐことは一度や二度ある……だろう?」
「いやないですよ⁉︎ 小学生の頃までならまだしも、思春期過ぎた男女ですよ⁉︎」
「藤原さん、ごめんなさい。私も天羽さんに清き一票を送るわ。だって……”普通”ですもんね、会長!」
「そうだな。”普通”だからな、四宮!」
「二人の裏切り者〜! うわーーーん‼︎」
そしてバタンと、藤原千花は半泣きで生徒会室から走り去っていった。
「「普通だな(ですね)!」」
□■□■□
さて、時を巻き戻して。
ここは都内の一等地に建てられた四宮邸。
「かぐや様。本日の会長さんとのデートは、ずいぶんとお楽しみでしたね」
四宮の近侍がそう声をかける。
「で、デート⁉︎ 違います。あれは警戒任務です」
「それにしては、映画を二人で見たり、ましてや手を繋いでいたりもしてましたけどね」
「早坂⁉︎ あなたいたの⁉︎」
近侍——早坂愛が、主人の髪を整えながら答える。
「ええ、お気づきになられませんでしたか? 映画館、やけにスカスカだったと思うんですけど」
「そういえば……そうね」
「私もあの映画見ましたが、最後のシーンで寄生虫を倒すために核爆弾を投下して終わりなのは、あまりにも微妙というか壮絶な爆破オチというか——」
「——あれがいいの!」
「まあともかく。かぐや様、本日のデート……いえ、警戒任務はどうでしたか?」
早坂がまるで姉妹のように声をかける。
四宮はにこりと笑って自慢してみせた。
「会長と、手を握ったわ?」
「おおお、それは凄い進歩じゃないですか」
「でも途中で離しちゃったけど……早坂は?」
「はい?」
「だーかーら。早坂、あなたは男の人と手を繋いだことはあるの?」
「ありますけど」
「誰と?」
「……パパとか」
「とか?」
「小等部の頃は、ありましたよ」
それを聞くと。
四宮はにやりとした口元を隠してこう言った。
「あらあら、お可愛いこと……」
「——! かぐや様だって初めてじゃないですか!」
「でも私は手を握ったわよ? 会長の手、暖かくて男らしかったわ……ああ、早坂にはわからない話ね」
煽り煽る主人、それにキレた近侍。
「……ますよ」
「はい?」
「私だってできますよ! そのくらい!」
「へぇ……でも口だけ言うなら簡単だわ」
早坂、キレた!
「じゃあわかりました。今度までに、かぐや様を追い越したという証拠を見せてあげます——!」
□■□■□
そしてとある日。
「あれ〜? 天羽っちじゃん! ここで会うなんて、私たち奇遇だね〜!」
ギャル坂もとい、早坂愛は手頃な相手として、主人である四宮かぐやも身近な人物の、天羽衣緒をターゲットとして選定した。
気さくに声をかけ、親しみやすい表情を浮かべる。
「あー、早坂さん。お久しぶりです」
「え〜? そんなかしこまらなくていいのに〜」
「あー、はい。じゃあ早坂、お久しぶり」
「ほぼ毎日学校で会ってるはずだけどねっ!」
「まあ、クラス違うからねえ」
「それにしても奇遇〜! 何してたの〜?」
「いやそれはこっちのセリフだよ早坂。だって——」
そうここは。
ハートのホテル! 謎の事務所! なんかお風呂!
「——ここ、花街だよ?」
天羽が苦笑しながらそう言った。
早坂もそれに合わせて、逆に問い返す。
「うーん、でも天羽っちがここにいる方が怪しい〜」
「いやあ、うちはここらの人間だから」
「ふぅん〜? 本当は、こっそり『えっち』なことしに来たんじゃないの〜?」
「まだ未成年だからね。入ったら捕まっちゃうよ」
早坂はいじわるな笑みを浮かべて会話を続ける。
「でも天羽っちの家って”そういう”ことしてるじゃん? ふふっ、こっそりしてるんじゃないの〜?」
「いやあ、まあそう言うふうに見えちゃうよねえ」
「見えるみえる! 遊び慣れてそうだし〜」
「まあまあ、そんなことないよ」
天羽は早坂からのいじりを抑えて、駅の方向を指す。
「ここは早坂みたいな子がくる場所じゃないからさ。あぶな〜い人たちもいるかもだし、早く戻りな?」
「え〜? それを言うなら天羽っちもそうじゃん」
「ボクは……ここの人間だからセーフだよ?」
「うっそ〜。絶対えっちなことするし!」
天羽は困った顔をしながらも、早坂にこう言った。
「わかった。じゃあボクも駅まで一緒に行くから、早坂はお家に帰ろうね? わかった?」
「……だめ?」
「うん、だめ」
すると早坂は雰囲気を変えてこう呟いた。
「本当の私は、いるのかな?」
「ん? 本当の早坂?」
「うん、偽った私じゃなくて。本当の私」
…………。
「あっ、ごっめ〜ん! 急に変な空気にしちゃ——」
「——ここにくる人たちは皆が自分を偽っている」
急に冷静になって言葉を遮る天羽。
「……え?」
早坂は思いがけず、声を漏らす。
「演じて、騙して、殺して」
「…………」
「まあ、皆がみんなそうではないけど、ここにいる人たちは大方そういう存在だよ」
「……だから?」
「だから、もし本当の自分ってのがあるとしたら。逆に、ここにあるのかもしれない」
天羽は指を今度は反対の方向に、さした。
そこは、花街の中心街であった。
「…………ねえ、天羽っち」
早坂が顔を俯かせて、ぎゅっと天羽の袖を握った。
そして、か細い声でこう言うのだ。
「私、疲れちゃった。ちょっと……休憩しようよ?」
彼女もまた、花街を指さして——。
□■□■□
とある間接照明の効いた部屋にて。
「ねえ桃、ギャルみたいな服装着てよ」
「は? いやだ」
「どうしても、どうしてもダメ?」
「なんでんなことしなきゃ……」
少年が少女の隣に寄り添い、声をかける。
「なんか最近、ギャルの良さがわかってさ」
「は?」
「ギャルって明るいんだよね。でも影も大きい」
「だからなんだよ……」
「ギャップ萌えっていうかさ」
「はあ……?」
「桃がお腹出してたらもっと好きになっちゃうかも」
少女が呆れたように息を吐く。
「……腹なんて何度も見てるだろ」
「それとこれは別なんだよねえ?」
「じゃあどうしろっていうんだ」
少年がウキウキの表情で言う。
「今日さ、制服着てやってみない?」
「……へんたいだな」
「それでさ、お腹もちょっと出してさ」
「もっとへんたい……」
「そしたら桃がさ、ギャルピってやつするの」
「……めんどくさ」
少女はそう言いながらも立つと、制服を手に取る。
そして肌にそれを纏っていく。
「これでいいだろ……?」
「もっともっとスカート短くして」
「……はあ。十分か?」
「そうそう! 桃めちゃ可愛い! 萌え萌え‼︎」
少年は立ち上がり、カメラを取り出す。
「……おい、写真を撮るな」
「ねえ、最後のお願い。ギャルピして?」
「…………」
「桃なら絶対可愛いから!」
「……ちっ。ったく」
パシャパシャ。
「ふう、大満足だあ〜。幸せ〜」
「おい……衣緒」
「ん? どうしたの桃。可愛いよ」
「そうじゃなくて……」
少女が目をチラチラさせながら、控えめにこぼす。
「これで終わりでいいのかって」
「……ああ! そうか‼︎」
「言わせるな……バカ……」
「動画も撮っとかなきゃ——」
「——ちがう!」
少年は目をぱちくりさせる。
少女は苛立ったように、でも静かに抱きつく。
「恥をかかせるな……ばか」
「……そうだね。じゃあ——」
優しく、頬をそっと撫でる。
そしてぞっとするほど脳に響く声で、耳元で呟く。
「——今日は元気に動画も撮っちゃおうね、桃」
□■□■□
そして、現在——生徒会室。
「それにしても、本当に何もなかったんだな?」
「ええ……それだけは確認しておきましょう」
白銀と四宮の二人に問われた天羽は——!
「——実は、ちょっとだけ遊んじゃったかも?」
「「ええええええ⁉︎」」
次話に続く‼︎
申し訳ないが浮気展開はNG(約束)
明日の18:10更新をお待ちください!
何度もリピートしてみてくれ(紳士)