【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
「さて…まず掘ろうか」
標高が低い小川へ繋げる形で川を掘ることになった一行…いや、1人と配信結晶。
「えーっと、せいっ!」
砂利浜を避ける形で鍬を地面に刺す。
「…あ、もしかしてこれ苦行?」
:修行では?
:どの道ひとりでやるなら悟り開ける
:↑それ苦行やんけ
「……でも、私の理想と…この子には必要不可欠」
アイテムボックスから先刻見つけた野菜を取り出す。
【野生の根菜】
・ 食用
・ 栽培可
・ 品質 : 中
・ 備考 : 水分が豊富な土地でしか育てない。
「この辺りが水分に満ちてるって言ってもそう条件の良い土地が見つかる保証もない…」
本拠点から移動するのは、現時点のナナイにとっては論外だ。
「…もしかして川を作るって早すぎた?」
:現時点だと、このゲームの廃人がギリできるぐらいの所業ですぬぇ〜
:すなわち、ナナイにはキツイ
:魔法なしは無理では?
「そんなこと言われても…街に行って帰ってくるだけでかなりの時間がかかるんでしょ?」
:うん
:何回か野営を挟むことになるかな
「…なら、やるしかない」
鍬を振る。
すると、地面には傷が、期待する成果には見合わない川にも穴にすら届かない傷が生まれた。
その傷から予想される未来図にナナイは息を飲む。
この先に待つ苦労はいくらでも想像できた。確かなのは、今までにないほどの大仕事だということだけだ
今のままでは、無理。
:とっとと撤収しよう
「でも、でもでも!川を…川が!!」
:出来ないもんは出来ん
:ダメなもんはダメだ
:今は文明の進歩の時
その光景は、結晶に向かって喋る幼女にしか見えなかった。しかし、当人たちは本気だ
リスナーは自認父親としてわがままを言う娘を落ち着かせたい。なぜならこのまま川を作らせてしまえば、配信が冗長になり、リスナーも離れる。ナナイは1人で川を作ることになる上にその作業は途方もない。失敗もあるだろう。
(((この子のゲーム最後の記憶を苦行にしたくねぇ…!!)))
要は引退しないで欲しいのである。
「ぐぅ…」
リスナーの激詰めに思わず涙目になるナナイ。
ナナイもナナイで必死だ。
元々園芸部に入る目的でこのゲームを始めた。
園芸部員、主に川田からの締切の取り決めが無かったためナナイは可能な限り早く畑を完成させたい。
そしてナナイはナナイで少し完璧主義の気があるので理想を実現しようと躍起になっている。
:こういうのは、大きな目標に向けて小さな目標を刻んでいくもんだぞ
:今まで上手くできてたもんだから知ってると勘違いしてたんだが
「……お父さんみたいなこと言う」
ナナイは鍬をアイテムボックスにしまう。
それが合図だとばかりに頬を膨らませて苛立ちを隠さない。
「むぅ、でも水は大切だよ?代わりの案あるの?」
:川はまだ無理だけど
:水路とか
:それよりもまずは器じゃないか?
:水の持ち運びが出来ればなぁ
「…なるほど?」
:街に行けば解決じゃないか?
:実際問題それはそう
:畑を耕すことはもう可能だけど、水やりは難しいって話だろ?
:この場合、天運に任せるのは?
「てんうん?」
:雨乞いの儀式でしょ
:巫女になるだよあくしろよ
「なぁに言ってんだか」
:あ、アレは?樹皮で容器作るとか
:それこそ瓢箪探すのも良くない?
:でかい木の実を容器にするのはアリ
「でかい木の実…見たことないけどなぁ」
そう言いながら見上げる。
正直に言って新鮮な景色だった。
:そりゃそうじゃ
:配信結晶もそうだけど、常に下見てたし
:見上げなきゃ見えない景色もあるんやで
「…OK。それじゃあまずはでかい木の実探してみるよ」
:それこそ竹でもいいんだがな
:さすがにないでしょ
「…んー、あれは無理かな…?【自然物鑑定】」
今まで採取してきた木の実よりは大きいが水を入れて持ち運べるかと言われると難しいサイズの木の実を発見した。
【野生の木の実】
・ 食用
・ 品質 : 中
・ 備考 : 小動物の誘引に使える可能性がある。
「…へー!狼以外にも動物っているのかな?」
ナナイは喜び勇んで木の実を採取してアイテムボックスに詰め込んでいく。
:そらいるやろ
:脱線してーら
:なんでも拾うのやめな?
「はいはい!わかってるよ!次々〜」
木漏れ日が映える森の中、探索を続けていくナナイ。
上を見上げながら探索をするのが新鮮だったのもあるが、新しい発見もあってか探索スピードは早い。
「今までは野菜とかの為に地面しか見てなかったんだなぁ〜あ、鳥だ」
バサバサと飛び去っていく鳥。
「…焼き鳥」
:…え?
:動物が全部食べ物に見えてらっしゃる?
「そんなことはウワッ?!」
その時、上を見上げて歩いていたからか倒木に足を引っ掛けてしまい、そのまま斜面を転がり落ちてしまう。
「あばっあばばばばっ?!ぐへぇ?!」
身体の所々を打ち付けながらゴロゴロと転がり、木に頭をぶつけるまで止まらなかった。
視界のUI、HPの項目が三割程度減ってしまった。
「…うぅ…死ぬかと思った…怖かったぁ…」
:おち、おちっおちつあばばば
:↑落ち着くのはお前定期
:しっかり転がってて草
:足元には気をつけようね
「結構ちゃんと減った…」
ナナイは減ったHPを何とかしようとアイテムボックスを漁る。
「…あ、そうだ。回復ポーションあるじゃん」
ペットボトルより少し小さい瓶に入った回復ポーションを取り出す。
「飲めばいいの?」
:それ事前登録特典のやつか
:飲んでもふりかけてもいいやつ
「飲むね〜」
回復ポーションに口をつけて一息に飲む。
すると徐々にHPゲージが回復し、これまで負ってきた細かい傷も光って消えていく。
「ふぃー…ん?」
手元の瓶を見る。
回復ポーションを飲んでも消えない瓶。
:瓶は捨てれば砕けて消えるで
:何眺め…あ、せやね
「…容器ゲットー!!!」
つまり、捨てない限りは消えない容器だ。
瓶をアイテムボックスに納めれば、【ポーション瓶】と表示された。
「…でも小さいなぁ…」
:それはそう
:薬瓶みたいなもんだし
:でも水分値の回復のために湖と往復する必要があんま無くなったで
:進歩は進歩ですわ
「それもそうだね」
容器は見つけた。
ただ水やりに使えるサイズではない。
進歩は進歩でも、小さな進歩であった。
感想ありがとうございます。
右往左往して、なかなかに目標が遠い作品ではありますが、お付き合い下さい。
誤字報告、評価、感想お待ちしております。