【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
ある平日、礼園学園にて。
3年生の教室の前でソワソワしながら右往左往している生徒がいた。
主張しすぎないメイクながらに輝く美貌に金色に染められたサイドテール、入学を経て今に至るまでに数箇所改造された制服。
「ねぇ、あの子」
「後輩だね。かわい〜」
3年生が小声で話しながらクラスに入っていく。
時刻は朝会前の8時過ぎ。
七世結衣は園芸部の先輩、とりわけ今回の畑作りの始まりについて深く関わる女性を待っていた。
「七世」
「?!…か、川田先輩」
びくりと肩を震わせて結衣が振り返るとそこには、朝会前だからか白衣は身につけていない大和撫子然とした川田瞳が立っていた。
「…どうかした?」
長い黒髪を指で遊ばせたあと、七世に向き直り尋ねる。
結衣は金髪を撫でたあと、表情の強ばりを隠さずに質問する。
「その…あの件なんですけど」
「…あのゲーム、時間加速がかけられているそうだけど、随分時間がかかってるのね?」
ギクッという擬音を隠さずに肩を跳ねさせ、目線を彷徨わせる。
口笛まで吹き始めた。
「ぴゅ〜…」
「はあ…それで、時間がかかってる理由でもあるわけ?それとも、本気で匙を投げたのかしら?」
「とんでもない!畑自体はもう作れます!」
「……???」
意味がわからない、そんな顔をして結衣を見る瞳。
「…ただ、その…完成した畑がみすぼらしいのはあーしのプライドが許さないっていうか…」
「…あんた………」
瞳は察した。
(負けず嫌いなのは知っていたけれど…完璧主義なのね…)
「……まあ、いいわ。まだ4月も中旬。時間はあるし。やれるだけやりなさい」
だが、と瞳は続ける。
「6月。最長でも6月には確認する。旬も私も木実も、私費で同時期にVRゴーグル買うことにしたから」
「…は、はい!」
よっしゃ!それだけ時間があれば!と意気揚々と去っていく結衣。
溜息をつきながら見送る瞳。
瞳も瞳で結衣が直ぐに音を上げると考えていたため、締切を気にするほど畑に本気で取り組んでいることに驚いていた。
(心配ね…口振りから道具作りも土地の選定もあの女……あの子がしてるらしいじゃない…)
第一印象に縛られないフラットな視線を持てるのも瞳の長所だ。
この時、確かに瞳は結衣に対する考え方を少し改めた。
◇ ◇ ◇
「…よし」
アイテムボックスから【冒険者記録水晶】を取り出し、いつも通り側面の突起を押下する。
まずは配信情報を更新してから配信を開始した。
『【MMOで】何作る?』
#ギャル #ドワーフ #サバイバル #バッカロア湖
「…人来るまで肉焼くかぁ」
:肉焼き幼女
:とりあえず生で
「焼肉屋かぁ…イイね!」
:ほんまにいってる?
:わこつ
:居酒屋作るんか?
「いやー…」
火種を作って、火をつける。
焚き火を確認してから、肉を焼き始める。
「……昨日は美味しかったけど…正直鉄の味だし…」
思い出補正を抜きにすれば美味しいとは言えなかった。
せめて塩胡椒は欲しかった。そういう考えである。
「やっぱ街に行くべきかなぁ…」
街に行けば少なくともまともな食事とまともな道具があるはずだ。
6月まで時間はある。
ドワーフの足だろうと向かう価値はあるだろう。
「ま、いっか。やれるとこまでやるかぁ」
肉の焼き加減を確かめながら、ぼーっとする。
「…今あるアイテムで何ができるか考えよう」
アイテムボックスを開く。
やはり目につくのは、狼から取れた骨と皮。
「……」
何も言わずに自分の身体、アバターを見る。
ボロ布の下着を纏った筋肉バキバキの小さな身体。
ワイルド過ぎて最早これでいいのでは、と感じている面倒くさがりな自分をねじ伏せる。
「服、作るか」
『【MMOで服作り】どうにか獣から原始人になりたい』
とはいえ、皮から服を作る知識があるわけもないので素直にリスナーに頼る。
「どう作るの…?てか、この皮このまま使えるの?」
:そのまま使えはせんだろ…
:腐るってのは聞いた
「うーん…」
:肉と脂が腐る原因
:厳密にはそれを食うバクテリア
「はへー…それじゃあナイフで削いでみるね?」
アイテムボックスから皮と石製ナイフを取り出し、作業台に広げる。
「えーっと…赤いのと白いのを取ってみるよ」
木から樹皮を取り除くようにナイフで内側を削いでいく。
肉と脂のカスが作業台の隅に集まり、やがてポリゴンの塵になり消えた。
【皮の肉と脂を取り除きました】
【皮の硬化が始まります】
「おぇ?!なんで?!」
:ん?ん?
:草
:えーっと、旧石器時代だと噛んだり叩いたりしてたらしい
:筋繊維をほぐすんだよあくしろよ
「お?!あ、あ、わかったぁ!」
アイテムボックスから棒を2本取り出し、皮をボコボコ殴る。
「おらおらおら!」
次第に雑になっていき、最終的には石で殴り始めた。
:草
:アングルがやばい
:猟奇的なソレなんだがwww
「ふんっ!ふんっ!まだやんの?!」
:もう十分じゃない?
:まあええやろな
:あとは〜…ラックの下に焚き火起こして煙で燻そう
「ん?なんで?なんで燻製にすんの?」
:燻製って食いもんみたいな言い方するやん
:腐りにくくなる、らしいです
:あと血の匂いが消える、らしいです
「らしいらしいって…」
疑わしげに結晶を見るナナイ。
その目線に、リスナーは心外だと言わんばかりに抗議する。
:誰が原始的な皮の加工の仕方知ってるよ?!
:調べながら教えてやってんだから感謝しろや!!
:革製品ならまだ助言できたわ!!
:原始人プレイのアドバイスしてやってんだから文句言うんじゃねえ!!
「ご、ごめんて!!」
その剣幕に一歩引いたナナイは2基あるうち1つの下に火を焚いてから皮を干す。
「…これでいいんだよね?」
:…とりあえずは…?
:これ、どうなんの…?
:怖いんだが…?
「わかんないよ!!」
地面をダンッと蹴りながら叫ぶ。
その後、どこか虚しくなってしまい後頭部をかいてから胡座をかいて座った。
「…狼フード…かっこいいかも」
:蛮族コーデが加速するぞ
:今のとこ投げ斧だの伐採斧だの戦法が物騒だからな
:ただかっこいいのはわかる
「まあまあ皆の衆。狼の服が完成すれば街には…入れるんだからさ。選択肢に街が入るのよ!」
:それ考えるといい選択肢かもしれんな
:骨で裁縫針作れるらしいし、細工してみるのもアリ
:少し遠出してモンスター狩りか、ダンジョン探しもアリ
ナナイの目がキラリと光る。
「ダンジョン?!?!」
バッと立ち上がり、配信結晶をむんずと掴む。
ナナイの手は興奮で震えており、鼻息も荒い。
「行きたい!行きたい行きたい!!革完成したら行こう!!」
このゲームをはじめて、戦闘らしい戦闘は狼のみ。
だがその戦闘がナナイの闘争本能を刺激した。
せっかくのゲームだから、ファンタジーの要素に触れてみたい。
「ダンジョン探し!with探索!やるぞー!!」
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