【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
「うーん…うち、機械音痴ってわけじゃないけど…」
結衣。
高校一年生の春。
これから人生を満喫しようというミドルティーンの彼女はインターネットの専門用語の海に苦悶の表情で喘いでいた。
森戸旬に惚れ、さっそく園芸部への入部を決めた彼女ではあるが川田に入部資格がないと言われ、三重に入部するためのチケットを与えられた。
いわば入部するための試験への資格を手に入れたわけだが、これまで体育系の部活であからさまな華々しい人生を送ってきた彼女に今の時代に降って湧いたVRゴーグルうまく使いこなせというのは土台難しい話であった。
川田に宣言した通り、結衣は中学のテストでは上位常連であった。がそれを踏まえても脳科学に重きを置いたフルダイブ理論は理解の外だ。
ただフルダイブ理論が記された箇所まで見た瞬間、(あ、これ調べ方間違ってるわ)と察せられるところから地頭の良さが垣間見れる。
帰宅し、予習し夕飯を食べ自分の部屋でVRゴーグルのあれこれを広げている結衣は若干迷走している。
ラフな格好でダボついてるために冷汗が流れるのがわかる。
いや、焦るな。ここで躓いては畑を作れない…!(お目目ぐるぐる)
事前の情報収集を怠るという選択肢を持てない元来秀才肌の彼女はその予習からくじけ始めてしまっていた。
「あーもう!」
と苛立ち紛れにウェブサイトを流し読みしてみれば、
『小難しいことを言ってますが結論としては備え付けのバッテリーよりも有線でやった方が続けてプレイできますし、かぶるだけでプレイできるから楽ですよね。コレ』
と締めくくられていて彼女は無言で低評価ボタンを押した。
◇ ◇ ◇
『あなたの名前と性別を教えてください』
青く半透明な世界。
目の前に同じ色の半透明な人型が姿を現した。
新鮮な感覚に目を輝かせる彼女は食い気味に答える。
「ナナイ。女です」
一応、学校の備品であることを忘れないように普段ソシャゲで用いている名前を使わず、本名を少しだけもじったユーザーネームを使うことにした。
今からやるゲームはMMO、いわゆるやること多すぎて難しいゲームであり名前の被りが許されない類のゲームだ。
ただ【ナナイ】はいなかったようでスムーズに行程を進めることができた。
『あなたの種族を教えてください』
その言葉と共に目の前に碧く半透明の窓が現れる。
どうやら触れるようで触感を硬い感触が刺激する。
「触る感触までリアルなんだ…」
見るだけで様々な種族が存在することがわかる。
猫耳や尻尾が生える《獣人族》や身長が小さくなる《小人族》、逆に大きくなる《巨人族》。
ファンタジーによく出る《森人族》《土人族》。
フィクションでもあまり見ない《機人族》《蟲人族》なんてものもある。
カスタマイズの幅が大きいようで結衣は「着せ替えゲームとかよくやってたなぁ」と懐古していた。
「まあでも、《人族》で…」
人族で始めようとした結衣の目に留まるのは《土人族》。
畑仕事とはとどのつまり土いじり。
名前に入っている土!それはつまり土人族は畑の生き物と同義なのでは?!
とファンタジーに触れてこなかった純陽キャの彼女は考えた。
このゲームでは土人族は例にもれず鍛冶の種族として扱われる。ほかの種族と比べても強めの筋力、筋肉量に比例した鈍足などおおよそは人々のステレオタイプに漏れないキャラ設定だ。
農作業自体はどの種族でも行えるし、三重が言っていた通り発売間もないゲームではあるがβテストを行っていた歴史もあり、農業のノウハウ自体は有志によって判明している。
土人族でも問題なく農業できる。だが有利ではない。農業専用ともいえる種族もあるが事前の情報収集をあきらめた結衣にそれを初見で見極めるというのも無理な話だった。
種族全体に与えられる【受動技能】の関係性や、キャラリセットなども存在しないという不便性も含めて、このゲームでは、土人族で農業を始めるという選択肢は人によっては自滅行為ともいわれてしまうものだったのだ。
そんなことは結衣には知る由もない。
てなわけで彼女は寸分の迷いもなく土人族を選択した。
つづいて髪色や体型の調整などに移るが細かい変更はせず、元々の黒色の瞳に黒色の髪の毛に変更した。
…これについては部活動の一環であることとつまらない勘違いを防ぐためのものである。
完成したキャラモデルが初期装備である少しぼろい普段着装備で小さい身長と半袖からのぞく筋肉質な短い腕と短い脚、それでいて幼気な顔…
「これ…ちょっとだけガタイのいい昔のうちじゃん…」
という感じで、リアルバレの心配はほぼなくなった。なくなったがこの後の川田の反応が怖い。
とはいえ顔の構造をいじる選択肢はない。というのも昔やったゲームで顔をいじったらとんでもない造形のバケモノを生み出してしまったというトラウマがあるからだ。
そんなこんなで生まれたのはちっちゃい結衣である。
「…まあ、しばらく一人だし。畑作らなきゃ!こんなところで止まってられない!」
『最後に、あなたが生れ落ちる場所を決めてください』
選べる場所は3つ。
・バッカロア湖
・サカソア森林
・ガタノア池沼
これら3つはすべて初期街であるコーゼス町の近くに存在しているロケーションだ。
それぞれは近いが、情報を持つ者のみがどれが地雷なのかを知っている。
それはバッカロア湖だ。
湖とは名ばかり、日本で言う琵琶湖並みの面積を誇る詐欺初期値点なのである。
初期地点にスポーンするとはいえ全員が同じ場所に現れるわけではない。
若干のずれがある。だが初期地点詐欺を働いているバッカロア湖は圧倒的な面積のせいでスポーン地点は洒落にならないほどのずれが発生している。
ほかの地点は初期街と近く、だがプレイヤーたちにある程度の冒険を提供するため徒歩1日程度の道程があるのだがこれすらプレイヤーに不評だ。
バッカロア湖を選び最低値を叩き出せばコーゼス町へ徒歩1週間の道程へ繰り出すことになってしまう。
そして敏捷でワーストを記録している土人族はさらにかかる計算になる。
というような地雷に地雷を重ねて文明を捨ててしまうような状態になってしまうかもしれないのだ。
だがまだ大丈夫!彼女が選ばなければいいのだ!
「バッカロア湖で!!(水があれば畑作れるよね!!)」
こいつはコーゼス町に行くことすら考えていませんでした!
次週にご期待ください!!
『転送地点を演算。転送を開始。貴方の活躍を期待しています』
◇ ◇ ◇
「ここが…」
燦燦と光を降り注ぐ太陽。
太陽光が水面に反射しているのがよく映える。
波が打ち付け細かい砂利が揺れ動く光景は現実のものにしか見えない。
「さて、畑作りますか!」
とはいえ、砂利浜で何を用意できるか思案するがナナイの頭に思い浮かぶのは
(石を砕いてナイフを作成。そのナイフを用いて木材を確保。そこから石斧、石鍬などのツールを用意して農地開拓。…あれ?剣と魔法のファンタジーじゃないの?マインなクラフトじゃないよね)
見たところ角ばった世界ではない、が、とてもじゃないが文明も感じられない。
「ステータスオープン」
事前の情報収集でまずは自分のステータスを確認する必要があることを知っていたため、確認作業に移る。
━━━━━
name.ナナイ
Lv.1
species.土人族Lv.1
job.無職 Lv.1
strength.8
endurance.8
agility.5
dexterity.6
spell.10
passive skills
【道具作成】
active skills
━━━━━
このステータス欄には本来4つのレベルが存在する。
プレイヤーレベル、種族レベル、職業レベル、スキルレベルの4つ。
今回重要なのは種族レベル。
これは受動技能に関わることであり、土人族のレベル1つまり初期状態では【道具作成】のみが行使可能なのである。
レベルを上げていくごとにできることが増えていくシステムである。
やりたいこととできることは合致しているが無知ゆえにどこかズレている。
そんな女が七世結衣という女である。
ナナイが適当な石を手に取り、試しに呟く。
「【道具作成】」
すると目の前に半透明の窓が現れる。
記されている文字は2行
「石ナイフと石礫かあ…」
どうやら石を検分して使う素材を見極める必要はないらしい。
「【石ナイフ作成】っと。ん?」
すると手に持つ石になにやらマーカーが出現した。
それと同時に近くにある岩にポップアップ表示がされる。
「ああなるほど。打ち付ければいいのか」
お試しでそれなりの力を込めて石を叩きつける。
力のステータス値が高いこともあってかすぐに完成する。
「んむ…完成度:劣悪かあ」
出来上がったのは、力を込めて叩きつけた個所が三日月状に欠けたナイフだった。
これじゃあナイフというより枝の皮を剥ぐ石器だ。
「ああ!ちょうどいいじゃん!ほとんど想像だけど木皮から紐を作って!」
ポジティブに、着実に歩みを進めていく。
これがナナイの、結衣のいいところであったりする。
「【道具作成】」
出来上がった石ナイフで低木の太めの枝を採取。
木の皮を剥げることを確認した。
そこから道具作成を用いれば、予想通り樹皮繊維製の紐が完成した。
ちゃんと完成度は劣悪だった。
「結構楽しいかも!」
紐、枝、あとは石ナイフ。
「【道具作成】!」
ここまで予想通りだと、変な笑いが出てしまう。
「ぐ、ぐふふふ!【石斧作成】!!!」
サポート通りの工程をこなしてついにできたのは石斧。
ここまででそれなりの時間を使っているが相も変わらず完成度は劣悪。
だがそんなことはどうでもいい。
すべてうまくいきついに出来上がった我が子。
愛着が出てきてしまった。
「ついに出来上がった!!少し不格好だけど!」
少し小ぶりな手斧だが、これを用いてまずは素材を採取しようと考える。
完成度劣悪を何とかするため、質の良い素材を手に入れられればいいし、素材を探すために移動する際、畑に適した場所を探すことも視野に入れている。
まず立地を確認する。
…水平線の向こう。
うっすらと山の稜線が見える。
湖の砂利浜のほかに見えるのはどうやら森で囲われているようだ。
砂利浜をめぐってみてもいいのだがなるべく早く畑を完成させ、部室、いや植物園で森戸とあれやこれやをあわよくば!いや!まずは仲を深めて!…というわけで砂利でできた畑も作れんくそ立地とは早くおさらばしたいわけである。
畑を作り、作物を邪知暴虐の川田に提出しなければならないのだが、みすぼらしい畑で失望され部内であれこれ言われるのもごめん被る。
ナナイは3Dクリエイトは苦手とするわけだが美術の成績自体は悪くない。
それに多趣味が高じてアクアリウムなんかを作ったこともあった。
芸術的でいて機能的な畑。
そう。自然の水源を利用した、木漏れ日の映える奇麗な畑。
水滴できれいに輝く作物たち…!!!
その作物で作る最高の…シチュー!!!!!
おやおや、牛も飼わなくてはカナ?
と未来の展望で迷走し始めた彼女だった。
◇ ◇ ◇
「ん?」
森の中、それなりの大きさの石を眺めたり、低木に生った実をながめて食用になるのか悩んだり。
そんなことを繰り返しているうちに何やら電子音が聞こえた。
その音のもとを探るためにステータスを開いてみれば。
【スキル取得条件を達成。ポイントを消費しますか?使用Pt.1/残Pt.10】
という文言を確認した。
スキルというのは能動技能のことだろう。
とりあえず使用してみることにした。
【自然物鑑定】Lv.1を獲得しました。
自然物鑑定。
おそらくこれらの樹木、石、食材の判別が可能になるのだろうと見当をつける。
ひとまずそこらの草に自然物鑑定を試みる。
「【自然物鑑定】」
『薬草』
スキルで詳細を見ようと試みたところ、わかるのは端的な情報のようで。
「うーんなんにもわからない。Lv.1じゃここが限界なのかな」
とりあえず薬草を採取してみる。
効能なんかはわからなかったが丸い葉っぱが特徴の見た目をしている。
集めておいて損はないだろうと、先ほどからちょくちょく利用していたアイテムボックスに放り込む。
『薬草』
『石』
『木』
『木の実』
無作為に鑑定してみても平々凡々な結果しか表示されない。
…とりあえずすべてアイテムボックスに放り込んでいるが。
そんななかついに明確に欲しいと思えるものが鑑定結果に表示される。
『野菜』
「おっおおおおお! やったー!」
種類としては人参だろうか。
根菜のようで薄い朱色の野菜だ。
若干集まっていたようで数本まとめて取得できたことも特筆できることだろう。
取得した野菜は一本を除いてすべてアイテムボックスに放り込む。
現実で目にするような太いものとは違って、小さく細い。
だがこれはれっきとしたナナイの畑製作の第一歩なのである。
と、いうわけで途中いくつかとった木の実と一緒にいただくこととした。
一回湖へと戻り、人参(仮)、野イチゴ(仮)を水洗いし口に放り込む。
おいしい、わけもなく野性的な味が口の中に広がる。
えぐみや渋み、調味料もなく料理したわけでもない。
これは早急に何とかしなくては、固く誓ったナナイは野性的な味を受け入れて空腹値を回復させた。
◇ ◇ ◇
茜色の日光が辺りを照らし、これから夜が始まることを告げてくる。
いままで湖の辺縁の森をうろうろしていたが少し奥まった場所を探索しようとしたらこれである。
凶暴な獣、いまナナイが恐れているのはこれである。
早急なイベント進行を望むナナイにとって時間を無駄にはできなかった。
先ほどよりも工夫して作った石斧、完成度は悪まで上がったのだが手斧のみで凶暴な獣を倒すのは土台無理な話だ。
そう考えながらも着々と鑑定を進めていき相当な数の素材が集まった。
気づけば辺りは暗く月明かりが唯一の光源になっていた。
「暗いなあ…どうしおグっ」
と独り言を言おうとした瞬間、首元に衝撃。
息ができなくなった後、若干の圧迫感を感じ、やがて、視覚は完全に閉じた。
『デスペナルティ 再度ログインできるまで05:00:36』
と、言う表示。
まさに青天の霹靂。
なんやなにがおこったんや。
と似非関西弁を思い浮かべてしまうぐらいに困惑したナナイ、いや結衣はついに理解した。
「えっえええええ!!死んじゃったああああ!!!」
突然の死、デスペナルティは5時間ログインできなくなることのみ。
ただゲーム内時間は加速しているためリアルで5時間放置すればそれなりに変化が生じる。
まあワイルドな生活をしていて人と交流のない彼女にとっては大したペナルティにはならないものだった。
とはいえ今から5時間待ちまたプレイするのは高校生の彼女には到底できない夜更かしであった。
現在時刻は23時。仕方ないと割り切って寝床に入った彼女を責める者は今はいない。
◇ ◇ ◇
「はあ?夜森を出歩いてたら死んじゃった?」
昼休み中庭にて、川田、森戸、三重、結衣の四人は集まって昼食を食べていた。
昨日のゲームの報告に苦言を呈したのは勿論川田だ。
「……はい」
「あははー!結衣ちゃんワイルドな生活してるんだねー!」
「このゲームってサバイバルゲームなんだっけ?」
突然死ぬ恐怖を思い出して魂の抜けた表情をする結衣とは対照的に三重は面白おかしそうに笑い声をあげる。森戸はゲームジャンルに懐疑的な声を上げるがこの場にそのゲームをプレイした人員は結衣以外おらずわからないことには答えられないためとりあえず昼飯を口に入れるという状態になっていた。
「…はあ。畑は難しいかしらね?」
「い、いえ!できますよ!一回死んじゃったからって何です!!何度も挑戦すればいけます!」
「とはいえ、夜は必ず来るわ。それはゲームでも変わらないはずよ。何度も死んで畑もその分遅れる。なんて許さないわよ」
「…部内のわだかまりを放置するのも嫌だからね。まずはなにが理由で死んでしまったか。それを回避するためには何をしたらいいのか。こんな感じで順序だてて解決していけばいいんじゃないかな」
「森っていうと狼とかかな?じゃあ罠とかが有効かもしれないよ!あと安全な場所とかかな!」
そんなこんなで会議は深まっていく。
こんな非現実的な会話をしていたら好奇の目で見られるのは当然で、話している当人たちの表情からもふざけているとも思えないことから園芸部の連中はやばいという噂がちょっとだけ流れることになる。
お願いします。