【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
2年生の教室。
生徒らも新学期に慣れ、それぞれの日常を過ごしている。
だが、慣れたからこそ周囲に気を配る余裕も増え、悩みが急増する季節でもあった。
森戸旬もその1人である。
「………新入部員。ゼロ……」
思わず頭を抱える。
新入生もそれぞれの部活を見つけ、もう既に精力的に活動している。
園芸部も勧誘時期を大きく過ぎてなお、勧誘をしているのだが結果は芳しくない。
「最後の望み…」
最後の望みは、未だに正式入部していない“扱い”になっている七世結衣だった。
手続き上はもう既に入部しているのだが、「畑を作る」という入部条件を万が一達成できなかった場合、自主退部をする可能性すら有り得る。
それに、結衣が入部したとしても園芸部が窮地を脱したとは口が裂けても言えない。
「4人…4人なんだよなぁ…」
元気印のトラブルメーカー、三重木実。
植物狂いの副部長、川田瞳。
園芸部部長、森戸旬。
新入部員、七世結衣。
どれだけ数え直しても4人。
当然、少人数。
そしてこれにより生じる不都合がある。
「人数足りなくて…同好会に格下げされちゃうなぁ…」
去年まで、卒業生の部員が多く居たが、今の3年生である2年生の部員が獲得出来ておらず、今の2年生すら3人しか入部しなかった。
これまでの功績や瞳の研究の成果で今まで大目に見てもらっていたが、新入部員が入らなければ部としての権限を剥奪すると、去年から耳に穴が空くほど生徒会に忠告されてきた。
旬からすれば、畑云々など言っている場合ではなく、入るなら入って広告塔にでも何でもなって欲しいというのが正直なところ。
しかも、園芸部のトラブルメーカーが勝手に部費を浪費して園芸に関係ないVR機器を購入した事も火種として燻っている。
崖っぷちも崖っぷち。
生徒会が本腰を入れて潰しに来たら抵抗もできないのが現状である。
「どうするのさ…川田ぁ…」
状況を引っ掻き回して、尚且つ未だに植物の研究ばかりしている瞳に何も感じないかと言われれば嘘になる。
どの道、旬にできることは2つ。
勧誘する。結衣を待つ。
結衣が正式に入部すれば、状況は変わっていくだろう。
◇ ◇ ◇
その頃、1年生の教室で。
「うーん」
一目惚れした想い人の苦悩を知りもしない結衣はルーズリーフの前で、シャーペンを片手に唸っていた。
それを見た隣の席の蒲田燕二、カマンボーが質問した。
「何書いてるのん?」
「今やってるゲームの地図〜」
「へ〜、ゲートイデア・オンラインの?」
「そうそう…へ?よくわかったね」
ほぼ毎日、タイトルロゴを目にしている結衣。
さすがにゲーム名は覚えていた。
だけど、何故カマンボーがその名前を?と疑問が首を出す。
「え?あ、ああ!有名だからねん♩さすがに知ってるわよん」
「そうだよね〜」
「それで、どこの地図〜?」
「バッカロア湖っていうとこ〜」
((バッカロア湖?!?!))
カマンボーと、聞き耳を立てていた黒川翔斗が驚愕した。
現在、2人してVRゴーグルの入手のために各々資金集めに奔走する中、1回だけ初心者が気をつけるべきことを2人で調べたことがある。
(バッカロア湖って言ったら…初心者の街まで遠すぎて難しいって言われてる場所じゃないかしら…そ、そういえば、石器時代からやり直してる…とか言ってたわねぇ〜)
(……七世はゲーマーなのか…?)
「えっと、それで?地図には何が書いてあるのかしらん…?」
少しだけ身を乗り出し、地図を覗いてみる。
少々雑な地図だったが、結衣の丸くて可愛らしい文字と線の綺麗さから瞬時に読み取ることができた。
見切れたバッカロア湖を右下に、その少し離れた北西に結衣の拠点があり、その拠点から北に進んでいけば、バッカロア湖から分岐した小川が流れている。
そこまではわかった。
カマンボーも結衣がゲートイデア・オンラインに熱中しているのは知っていたため、拠点があることには驚かない。
だが、奇妙な何かがバッカロア湖から繋がっている。
まるで数珠だ。
「ねぇ?結衣?これは何?」
「ん?川」
「ん?なんて?」
◇ ◇ ◇
『【MMOで川作り】小川までもう少し!』
#ギャル #ドワーフ #サバイバル #バッカロア湖
#魔獣 #川作り
「こんにちは!ナディア!もきゅちゃん!」
「きゅ〜」
「もきゅ〜」
今日も今日とて、ゲートイデア・オンラインにログインするナナイ。
今日の目標は川(予定)を小川に繋げること。
そして、現状での川作りは【慈悲の免罪斧】、白い大斧で完結できているため、ナナイがこれから追加で道具を作ることはない。
とはいえ、作業が夜に持ち越される可能性も考慮し、昨晩燃え尽きた松明に代わり、新しい松明を作っておく。
とはいえ、先日もやった通り、簡潔な工程のみ。
「木の棒に、枯葉と一緒に紐を巻き付けて終了。【道具作成】」
:わこつ
:来たで
:簡単すぎて作っている気がしない松明さん
「お、みんなこんにちは…じゃなくてこんばんわ。今日も【大切断】工事していくよ」
:川作りユニーク武器
:スコップに見た目変えたら?
:斧が泣いてるぞ
「いやいや!元々呪いのアイテムだったんだよ?むしろ平和的な使い方をしてあげてるんだから感謝してほいね!」
:呪いの武器に贖罪を求めるな
:武器に人を害す意思はねえよ
:武器に苦役を課すな
斧の使い方じゃないと方々から攻撃するリスナーだったが、ナナイはナナイでトンチキな回答をする。
元呪いのアイテムなんだから雑に使ってもいいだろ!と正面から言い放ったのである。
:そこはほら。ゲームの攻略に使うとか…
:新しいダンジョンとか楽勝ちゃう?
:それこそネームドボスもわんちゃんあるぞ
「攻略かぁ…」
拠点近辺まで伸ばした工事現場に着き、木の実を口に放り込み水で流し込んでから考える。
本音を言うなら気になる。
とても気になる。
ナナイとて、ゲームの物語は気になるし知りたい。
今は土木作業ばかりで攻略に関わることは少ないが、ゲートイデア・オンラインにストーリーがあるのなら知りたい。
とはいえ、今のナナイには至上命題がある。
「畑作ってからね。終わったら…」
(色々やろうかな)
それはそれとして。
白い大斧をアイテムボックスから取り出す。
「そうなんです。畑のための川作りなんです」
:草
:そうでしたね
:忘れてた
大斧を掲げ、構える。
純白のエネルギーが刀身から吹き出し、青白い燐光が集合していく。
斧が震え、空気が揺れる。
「きゅー」
「もきゅ」
その様子を木の上から眺めているカーバンクルたち。
なにか思ったのか、もきゅっと鳴くカーバンクル(仮にもきゅちゃんとしておく)が熱心に斧とナナイを見詰めている。
:※土木工事です。
「【大切断】ッ!!!」
「【もきゅうううっ!!】」
「きゅっ?!」
ナディアが驚く横でもきゅちゃんの額の宝石が閃光を放つように輝いた。
純白のエネルギー、青い燐光、加えて緑色の燐光がナナイを包み込んだ。
「およ?」
ドッパァアアアアンッ!!!
空気を破る音、凄絶な速度で繰り出された【大切断】が文字通り、地面を切り裂いた。
今までとは一線を画す威力が発揮される。
衝撃波が土と岩を吹き飛ばす。
「きゅううううっ!」
「もっきゅうう?!」
あまりの爆風に範囲外にいたナディアともきゅちゃんがコロコロと転がり木のウロにスポッとホールインワンした。
「なにこれええええ?!?!」
ドスンッ
「へぁ?!」
ナナイの真隣に岩が落ちる。
「…こんなん当たったらシヌゥ!!」
ここ最近編み出した、降ってくる異物に対処する術。
「必殺!斧傘!」
:斧が泣いてる!!
:やめたげてよぉ!
:許したれよ!!
感想ありがとうございます。