【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
燦々と照らす太陽が水分を含んだ砂利浜と波打つ湖面を光らせる。
火を起こすのに失敗したナナイはこの景色を堪能しながらも若干ささくれだった神経でどうするか考える。
涼風もその熱くなりつつあるナナイの頭を冷やすことは叶わず、棒を折ってから通算三回目の失敗を迎えたナナイはついに爆発した。
「っだあああああ!!目的まで遠い!文明の利器!ライター!固形燃料!ぷりぃいいいいず!!!」
またゴミになったいい感じの棒の束を地面に叩きつけるナナイ。
摩擦熱で炭化し風に消えていく木屑が虚しい現状を教えてくれる。
そして、ナナイの肩口をふよふよと浮遊する冒険者記録水晶に熱情の矛先が向けられた。
「視界の端をウロウロとッ!気が散る!!セーブできたなら消えてよね!!」
と発散できないストレスを叩きつけるように水晶を鷲掴みにすると、水晶の輝きが強くなり配信情報と、現在の視聴者数、コメント表示のONOFF切り替えUIが表示された。
否が応でも配信情報に目が止まる。
如何にゲーム初心者といえど、如何にポンコツと言えどここまでの情報があればわかる。
わかってしまう。
震える手でコメント評価のUIをOFFからONへと切り替えれば…
: おー、ついに気付いた?
: わこつ
: 初見です
: ワナワナ震えてて草
: なんかこのアングルロリっ子に首締められてるようで興奮する。
: おまわりさんコイツです。
: (首が折れる音)
: ワイルド蛮族さんチーッスww
総視聴者数 : 67人
視界に映る見慣れない表示、そして日頃から扱ってきたスマートフォンの画面でよく見たことのある表示にナナイは叫んだ。
「は、配信してたのおおおおおっ!?!?!?!?」
配信水晶を前にナナイは今までの恥やその恥の上塗りを思い浮かべて、ついには土下座を敢行した。
「皆様、今までの光景は記憶から消していただければ幸いです」
: 草
: 草
: 忘れられない光景を今生み出してる自覚あります?ww
(終わった…人生終わったぁああああ!)
HowTubeをよく見るナナイは当然理解しているが、配信はインターネットを通して全世界に公開されている。
(てことは今までの失敗が全世界に流れてたってことじゃんッ……!!)
「無理ぃ!みんな記憶消してよおおお!!」
思わず溢れ出た要求にリスナー達は無情にもNo!を叩きつける。
: 無理無理カタツムリ
: まだまだリリースされて浅いゲームだけど推せる子見つけたのに無理でしょ
: 記憶消すにはちょっと衝撃足りないっす!!
: フー⤴ハッハッハ!!
「やめっやめろおおおお!!」
恥ずかしいコメントを発見して叫ぶナナイ。
: なんでもいいけどよぉ!配信は切らねえのかぁ?
「………この際だからもう配信は切りません。…この配信ってアーカイブは残りますか?」
: 土下座するほど恥じてたのにアーカイブは残すのか(困惑)
: 設定から残すか残さないか決めれるで
「なるほど。…記録が残るなら証拠として丁度よさそう」
小声で呟きながら、ナナイの脳裏に浮かぶのは先輩から出された課題の畑作り。
出来上がったものの画像を提出しただけでは疑われてしまうかもしれない。
(まあ、畑できましたって写真見せられたら…私は疑うかな)
というわけで映像として証拠を用意するのは最適と言える。
「みなさんにもう見られちゃったんでアーカイブは残します!配信もしますよ!もう!余さず!見られちゃってるんで!!!」
: 草
: 草
: 草
: 頑張って火を起こすんだよぉ!
: アーカイブ残ったら今までの火起こしの恥が動画サイトに永久保存されてしまうwww
「無駄無駄ァ!!もう!恥は捨てる!もう67人に…見られ、て…」
いまさっき確認はしたが、もう一回確認しようとナナイは総視聴者数を確認する。
67人→156人
: 配信タグがテンプレそのままなのと、常識破りのサバイバルプレイでオススメに乗ってるwww
「ひえええええっ!!視聴者数が二倍になってるんですけどおおおお!!156人に見られてるううう!」
: 随分増えたねwww
: 火起こし失敗集でクリップ作ったで
: 見てるぞー
: 頑張れ蛮族ちゃん
二倍超に増えた視聴者を前に恥を捨てると宣言したナナイ。
だが顔を赤くしながらもナナイの顔には自然と笑顔が生まれていた。
生来、多人数でワイワイするのが好きな陽キャ気質に少しだけ豊富なHowTube知識。
(配信って結構楽しいかも)
今までひとりで何とかしようとしていたナナイはそう思った。
「さて、気を取り直しまして。皆さん。火がつきません!」
: 見りゃわかる
: 草
: 指示厨じゃないけどアドバイスとかもダメかな?
: 固形燃料熱望ネキ
ナナイは『やりたくてもできない』という状況が大がつくほど嫌いだ。
火がつきそうでつかないという状況も相まって諸手を上げて降参しかけているレベルで、アドバイスを渇望しているのも事実。
「指示厨はあまり好きじゃないね!でも火がつかないのでアドバイスください!」
そう言うとリスナー達は示し合わせた訳ではないだろうに口々に対応策を示した。
: そのままじゃ無理だよwww火口作りな。乾いた小枝だったりよく燃えそうな小物をいっぱい用意して熱を移せば火がつくよ
: 火打石とかなかったっけ
: ↑打ち金っていう金属で火花出すから現時点じゃ無理じゃね?
「……あ、そんなのでいいんだ」
焚き火の為に用意していた、石を円状に並べた石囲いに今まで量産した棒の切れ端と拾って集めた小枝を放り込む。
さすがのナナイでも枯葉などは集めていなかったため、森と砂利浜の境界線から過剰気味に集める。
「いよーし…リスナーのみんな。見てろよ…アドバイス通りにやってできなかったら水晶振り回して酔わせてやる…」
: いわれの無い暴力に襲われそうになるリスナーたち
: こわい
: 草
: 頼むから成功しろ
今まで通り、倒木を固定して棒を回転させて摩擦熱を発生させる。
ナナイにとって慣れた作業だがここからが本番だ。
「煙が立ったね!ここで枯葉を投入!!」
ナナイの傍らでこんもりと山になっている枯葉の山から一掴み煙の発生源に載せる。
「…あっ?!煙が消えかけてるが?!」
: 息吹きかけて!!
: 酸素送れ!
: フーフーしろ!ふーふー!
「あっあっ!フー!!ふーー!!!」
枯葉が吹き飛ばないように、手で押えてナナイは息を乱しながら必死に酸素を送り込む。
時折むせながらもやめなかった。
すると、ナナイは手の中に今まで感じたことのなかった熱を感じた。
「きっ…きちゃあああ!」
じり、と。
枯葉の奥に赤い点が生まれた。
それは一瞬で消えそうな程に頼りないが、確かに“火”だった。
: 焚き火にぶち込め!
「はいさ!」
もはやコメントの指示通りに動いているだけだが、今まで失敗続きだった火起こしが成功しかけているためナナイは気にせずに指示通りにする。
火口を両手で包み込み、崩さないように慎重に石囲いの中へ移した。
発生した小火はまだ頼りなく、消えないように必死に酸素を送り続ければついに…
「火がついたぞおおおおお!!!!」
パチン、と水分の弾ける音が聞こえる。
目的であった“火”がナナイの目の前で確かに誕生した。
: おおおおおおおお!
: きたああああああ!
: おめ
: マジで火がついた。このゲームもよく出来とる。
◇ ◇ ◇
焚き火の前、縦に割って火種の台座にした物の片割れを椅子にして一息つくナナイ。
ぱち、ぱちと音を放ちながらゆらゆらと揺れる火。
それは今までの苦労が嘘みたいに穏やかな光景だった。
「……火…」
ポツリと呟いたあと、間髪入れずに、そして唐突に言い放った。
「ライターと固形燃料が恋しい」
: 藪から棒にw
: 台無しだよ
: あんなに失敗した火起こしだよ?!
: もっと感動しろ
「いや、だって…」
小枝が爆ぜる音に耳を傾けながら焚き火を見つめながら言う。
「これ…ゲームだし」
: 草
: 草
: 草
: いや、考えてみ?現実とおなじ手段でゲームなのに火がついたんだよ?すごくない?
コメントが目につくが、ナナイはその意味がよくわからずに首を傾げる。
「え?なにが?そりゃ最初は分かんなかったけど…摩擦熱で火はつくでしょ?なにがすごいの?」
: これが噂のフルダイブネイティブ…ですか
: いや、摩擦熱の処理とか……うん
: こんな技術、昔はなかったのよ…
: 俺もオッサンになっちまった…
: これって父性っつーんですか?この子見てると落ち着くんです…
「???なんか難しいこと言ってて草」