玲奈さんや陽南との関係が劇的に変わったとしても、俺のバイト先は相変わらずの様子だった。
ドラッグストアのバイトはぶっちゃけオタ活のための資金稼ぎだし、そこまで人間関係とかちゃんと考えていないのだけど。
──そんなやる気のなさは、やはり外からでもわかってしまうのだろう。
「ね、瑛士くん? 」
「ん?」
「よかったらさ、うちで働かない?」
「え?」
「レコンフォール、あそこなら陽南ちゃんをお迎えに行く時に融通も利くよ?」
それは実質バイトリーダーでありマネージャーのようなことをしている玲奈さんが道理をひっこめてでも利かせるという意味だったりはしないだろうか。
陽南が完全オフの昼間、俺たち三人は玲奈さんの車で少し離れためちゃでかいショッピングモールのフードコートで、それぞれ思い思いのご飯を食べつつ、雑談をしていた。
「ん~、給料いいんですよねあそこ」
「でも結構キツくない? 融通利かないでしょ?」
「それ、玲奈ちゃんのカレシとしての特権がなかったら条件一緒でしょ」
「特権があるから提案してるのに」
「余計な軋轢生みかねないかなそれ?」
「どうだろうねぇ」
玲奈さんの言葉が怖くて、丁重に辞退しておくことにした。ただでさえ、割と異次元の神対応されているせいで、特にちょっとイイ感じのイケメン高校生バイトくんに塩対応され気味なんだよなぁ。多分あれは玲奈さんを狙ってるとみた。
「あーあの子かぁ」
「……ねぇ玲奈ちゃん?」
「なぁに?」
「その人って、いつからバイトしてるの?」
「一昨年の冬からだね、今年受験なのに入ってくれるからありがたくって」
「時間もそれなりに被ること多いよね、玲奈ちゃん」
「私は人が少ないところと忙しいところの担当かなぁ、でも確かに一緒に居るねぇ」
「──じゃあ、もういっこ質問するね? ヤった?」
「……ふふ」
陽南の怒涛の質問で漸く俺も意味を理解した。だから俺嫌われてるんだな。俺は常々NTRは悪だと考えてるけど、ことこの状況において寝取ったのは俺というわけだ。高校生のバイトくんは脳を破壊されておかしくなっちゃってるってことだね。
「玲奈さん?」
「ごめんごめん、相馬くんと疎遠になった時にちょっとだけだったし、別に好きってわけでもなかったから忘れちゃってたよ」
「……玲奈ちゃんグロいね」
「うーん、そうだねぇ、自分でも自分が悪いと思う」
「それが自覚できてるだけ、マシだけどね」
まぁ恨まれる理由も納得したし、恨まれているということも確定したから俺としてはこれ以上どうこうすることはない。
玲奈さんが浮気、というかその彼のリビドーに流されてしまわなければ。
「うん、まさかこうやって常日頃から惚気てるのに迫ってはこないでしょ?」
「いーやそれはわからないと思う。なんせ相手はイケメンで賢そうな感じもある」
「そうなの?」
「うん、制服も偏差値高そうブレザーだった」
「なにそれ」
だってそうとしか形容できないんだもん! 偏差値高そうだったんだもん! 公立高校で偏差値も中の下だったうちの学ランとは雰囲気が違うんだもん!
というコンプレックスを爆発させつつ、だが俺にナメられる要因があるのは事実なんだ。
「この前も清州先輩が連絡してきてたし」
「そうなの?」
「うん、眼鏡とシュシュ忘れてるから欲しかったら取りに来いよって」
「絶対寝取るつもりだと思う」
「その人なら簡単にできそう」
「私が頑張って拒否して大丈夫ってパターンは二人にはないの……?」
「ないよ?」
「ないね」
「え、えぇ~流石にショックだなぁ……」
そんなこと言われても、清州相馬という先輩はさっきの高校生のバイトくんとはわけが違う。もう言葉の端々から高校生バイトのことはアウトオブ眼中ですと語っているのだが、清州先輩は玲奈さんの元カレ、しかもセフレのつもりから半ば強引に付き合うことにさせられた、と玲奈さん本人が語り、性癖を歪められた原因とまで語った相手だ。危険度は堂々のフェス限星5(ぶっ壊れ人権性能)ってところだ。
「ドル6のゲーム?」
「別のやつだね。六人くらい編成する系のバトルする美少女ゲームかな」
「それで例えると、じゃあさっき話題に出た高校生の彼と瑛士くんはどんな感じ?」
「うーん、私はあんまり詳しくないけど高校生の方は、イラストはいいけど性能微妙だし、星あげが面倒な配布って感じで、瑛士はチュートリアルで手に入るけど最前線でも使える便利キャラ」
「相馬くんは?」
「インフラ」
「……ごめん、ちょっと意味が解らない」
「持ってて当たり前、持たないユーザーはエアプと同義」
「……えぇっと、じゃあ手に入りやすい?」
「フェス限──半年に一回出たらいいなぁ程度のやつ、普段のガチャからは絶対出ない」
俺と陽南は認識にズレがないことを確認し同時に頷いた。普段からソシャゲをしない玲奈さんはついてこれてなかったが、要するにスペックというか玲奈さんの中でそれだけ清州先輩の存在はでかいくて、男としてのスペックも格上ということは言うまでもないってことだ。
「私の中では、瑛士くんが必須で、それ以外はいらないのに」
「心はそうでも身体はそうじゃない──むご」
「陽南? それ以上はいけません、うら若き16歳の言葉ではございませんよ?」
「……瑛士くん、別に下手じゃなかったんだけどなぁ」
「……玲奈さん、アウトです。ここ、公共の場ですよ?」
「そうだね、ごめん」
玲奈さんから頬を染めてそんなことを言われると、嬉しいがここは二人きりの場でもないどころか沢山の人が食事をするフードコート、それに陽南が居る場では控えてほしいと思う。最近は年齢が、とか未成年だからとかじゃなくて彼女のフラストレーション的な問題で。
「私はもう許したもん」
「でもいい気分じゃないだろ」
「大丈夫だって、玲奈ちゃんが瑛士を篭絡すればするほど、私へのガードも緩くなってくのはこの前証明したから」
「キス許可してもらったの?」
「うん」
許可出したんじゃなくて襲われました、しかも結構エグめで長いやつを。玲奈さんよりヤバかったと思ってしまうのは興奮状態ではなくてかなり素面だったからなのかもしれないけど、酸欠になるかと思うくらい濃厚で、シチュエーションも危ないものだったと記憶している。ぜひとも忘れたいものだ。
「まぁぶっちゃけ? 瑛士の理性なんてラクショーだと思ってるけどね」
「確かにねぇ」
「二人してひどくない?」
「そもそも決めきれずに二股してる時点で、ねぇ?」
「ふふ、そうだよ~? 私のこと泣かせてまで一度フったくせに、結局なんだもん」
「……ぐう」
なんとかぐうの音だけは出してやった。
──今、俺たちはどういう関係に見えるだろうか。俺としては余計な邪推をされていなければなんでもいいのだが。
陽南のことも、玲奈さんのことも大好きで大事な人だ。それは二人の時とは違って三人で過ごすと大きく、強くなる。家族愛というか居心地の良さに甘えてしまいたくなるような、そんな意味での好きだ。
「結局、プールも花火もなかったねぇ」
「いいじゃん、旅行するんだし」
「金欠の話、マジでごめんなさい、二人とも」
「いいって、瑛士は元々お金をヘブンズに使うって決めて使ってるんだからさ」
「そうだよ、そっちを優先していいっていうのは付き合う時に決めた約束だからね?」
「……甘やかしすぎだからね、二人して」
八月もそろそろ終わりが見えてきた頃、俺たちはもうすぐ大きな旅行計画を立てていた。
というより、俺と陽南が玲奈さんを誘ったという形になっている。
──なんせその場所は、俺と陽南が出逢った場所、二人の祖父母の家なのだから。当然、俺たちは事前に許可を得てから誘った。後で観光もできたらいいと多めに日程を開けて、玲奈さんを誘ったのだった。
玲奈先輩の知らない二人のルーツにせまる旅路です