俺の交友関係は、基本的にSNSの繋がりが中心となる。
オタ活仲間、というやつでその中の幾人かとはライブ等で顔を合わせて食事に行ったり、遊びに行ったりもしているため、ぼっちで寂しいという感覚に陥ったことはあんまりない。
もしかしたらその意識が、大学ではほぼぼっちという状況を作っている元凶かもしれない、とは思っているが。
『あとどのくらいで着きそうかな?』
「今最後の休憩なんで、後一時間くらいですね」
『わかった、駅で待ってるよ』
今回のライブは少し離れたところの野外であるため、夜行バスで朝に到着、その後に待ち合わせをしていた車持ちの現地人と合流して運んでもらうという予定を立てていた。
バスの中は真っ暗で、狭くて、正直あまり眠れないうえにスマホも使えないため結構苦痛だが、その分新幹線よりも安価なため、背に腹は代えられない。
「
「おはようございます、朝倉さん」
「うん」
いかにもスポーティでカッコいいというよりいかつい雰囲気を纏わせるのが、最も仲のいいオタ友の「朝倉さん」だ。本名っぽいがこれも立派なハンドルネーム、俺の「モリヒデ」と同じようなものだ。
俺のは単純に本名の漢字真ん中を取っただけの雑なネーミングだが、朝倉さんは本人曰くかすりもしていないらしい。
「いつも車ありがとうございます」
「いやいや、ボクとキミは親友じゃあないか」
「きっと言っても信じてもらえないでしょうけどね」
朝倉さんは俺よりも六つくらいは年上だ。下手すると三十代の可能性もあるからその倍という可能性もある。だが俺と朝倉さんは友達と言っていいし、ドル6にハマってから──つまりは俺が詩音を推す前からゲーム等で一緒に遊んできた人でもあるから付き合いも長い。
「それにしても、モリヒデくんも大学生か、時間が経つのは早いねぇ」
「俺もついに一人暮らしし始めたんですからね」
「立派な大人になっている証拠だ」
「言い方ちょいキモいっすね」
「ふふ」
駅のコンビニで朝ごはんのパンと飲み物を買いながらそんな軽口を言える結構な年上というのは、朝倉さんくらいしか思い当たらない。
以前にどうして俺に良くしてくれるのか、と訊ねたことがあった。朝倉さんは少しだけ嬉しそうな顔をして答えてくれたことをよく覚えてる。
「アニメ、ゲーム、なんでもいいんだけど二次元コンテンツにハマってもリアイベに来てくれる子って、実はなかなかいなくてね」
「そうみたいですね」
「その上、ライブのノリ……っていうのかな、ああいう騒がしい感じのオタクライブを楽しいって思ってくれる子は更に貴重なんだよ、最近は特にそうだって思うね」
「なるほど……?」
「更に更に言うなら、モリヒデって名前が気に入った」
「ちょいキモいっすけど、なんで?」
「ボクの朝倉って名前は戦国武将から取っててね」
それがどうしてモリヒデに反応するのかと思ったが、どうやら戦国武将には森氏という有名な人物が居るらしい。そこにシンパシーを感じたと知った時は申し訳ないとすら思ったけど、朝倉さん曰くそれはきっかけにすぎないからとのことだった。
俺は戦国武将に詳しくないからよく知らないが、そもそも朝倉氏と森氏は敵対関係だからとも言っていた。
「クラっさん」
「浅井くん、お待たせ」
「おっす、モリくん」
「どうも、ボウルさん」
朝倉さんの車に向かって歩いていると駐車場近くの喫煙所に行っていたのだろうか電子タバコを手に持った黒縁眼鏡のチャラそうな男の人が、車の前で待っていた。
この人は朝倉さんが紹介してくれた俺にとってはネット友達で所謂イツメンの一人で、ネットでは「アサイーボウル先生」という名前で活動する大学三年生だった。
時折関西訛りっぽい感じが混じるのが特徴的、後は朝倉さんは「浅井くん」って呼んでるが別に浅井が本名というわけではないらしい。
「浅井はアレやん、朝倉と手ェ結んで信長を裏切ったヤツ」
「なんか、歴史でやったような……」
「金ヶ崎の退き口だね、その後姉川で討たれてしまうが──」
「クラっさん、その辺で、オレも詳しいわけじゃねぇから」
初対面の時にそんな話をしたため、俺はボウルさんかボウル先生って呼んでいる。チャラそうな見た目で、実際チャラいと朝倉さんは評していたが、普通にオタクで今日も最初からフルグラTを堂々と着てるような人だ。
「にしてもモリくんは久しぶりやん」
「GWはボウルさんいなかったもんね」
「カノジョに止められた、流石に旅行しようってな」
「そりゃ言われるよ」
朝倉さんの運転で、車内では「
ボウルさんは大学三年生になって、少し忙しいから今年はあんまりライブ参戦できないかも、と愚痴っていて、朝倉さんは社会人だからあまり変わりはないと言っていた。俺は、大学生になったばかりだということもあって、ふとこの前感じていた忙しさを零していた。
「まァ、実際大学って高校とは結構違うとこあるもんな」
「そこにバイト戦士としてというのは疲れると思うよ」
「バイトでオタ活出れやんかったら意味ないからな、気をつけな」
「はい……」
「確か、今年から従妹と同棲してるんだったよね」
「なんそれ、ラブコメ?」
「環境が大きく変わるというのは、思いのほか大変なものだよ」
陽南の話は、朝倉さんにだけしていた。それが今から行くライブの出演者の一人だとは流石に明かせてはないけど。
この二人はなんというか、人生経験的にも先達という雰囲気がしている。単純に社会人で落ち着いた雰囲気の朝倉さんに、チャラいのに何処か達観した雰囲気のあるボウルさん。
オタ活仲間で同性だからか、失礼だとは思うが玲奈先輩よりも信頼している自分がいた。
「浅井くんもすぐ大変になるよ~?」
「やめてくれん? 脅しやんそれ」
「あはは」
「で? で? あかんモリくんの話めっちゃ聞きたくなってきた」
「ダメでしょ浅井くん、オタ友のリアル事情を愉しんじゃ」
俺の話を、ボウルさんも朝倉さんも真剣に──とはちょっと違う気がするけど、ただ笑って流すだけではなく、けれど重たく捉えずに聞いてくれる。
そうしたせいか、ついつい玲奈先輩とのデートと、その後の陽南の話まで、してしまっていた。
すると、ボウルさんの口数が急に減ってきてしまった。
「浅井くん、どう思う?」
「ん~、あ~、いやあんまりモリくんに言いたくないなァ」
「な、なにが?」
「従妹の方は、多分真剣っつーの? 身近な男やからってのはあるけど、ガチな気するわ」
「え、そうですね……従妹の方は?」
「先輩の方がなァ……オレの経験測として、地雷っぽいんよ」
地雷っぽい、というと地雷系のような感じか? と疑問符を浮かべているとフロントミラー越しに一瞬だけ朝倉さんと目線が合った。
どうやら違うのかも、と思っているとボウルさんは後頭部を搔きながら、懐からアメを取り出して口に放り込んでから申し訳なさそうに語り出した。
「前置きしとくと、モリくんの先輩がそうって言ってるわけじゃねェんだけどさ」
「ん?」
「オレの経験した似たような知り合いの女の子がな、なんつーか、え~っと」
「──サークラ」
「ああそれそれ、サークラなんよ」
「サークラって」
「オタクや同人活動、そういう系のコミュニティに入って、最終的にはそのコミュニティそのものを崩壊させる人のことさ」
朝倉さんの言葉に、俺は少しだけ嫌な気分になった。あの玲奈先輩に、そんな悪い言葉をぶつけられるという、その不快感だった。
けれどすぐ、それが別に玲奈先輩に向けられた言葉じゃないことを思い直し、息を大きく吸って吐き出した。
「大体クラッシュする原因は、その子が八方美人だから起きるんよ」
「そうだね、心理的には誰からも好かれたいみたいなものから起きる行動なんだろうね」
「なんスよね、クラっさんはそういうの遭遇しました」
「そりゃあ、ボクはオタクになって長いから」
八方美人、誰からも好かれたい。そんなことはないな、と思いながら、けれど俺の胸の中で不快感が消えなかった。
──俺が、玲奈先輩とデートした時の違和感が言語化されていく気がしたからだった。
「ビッチ、とは違うんだよね、併発する可能性は結構あるけど」
「あ~、大体メンバーほぼ全員と関係持って崩壊するから」
「せ、先輩はそういうんじゃない、とは思うんですけど……俺サークル入ってないし」
「そうだね」
「ケドまァ、もしかしたらセンパイはモリくんをキープしたいのかも、って外野からだと見えるんよ」
美人の先輩に好意をもたれる。そんなうまい話があるわけがないよな──その時の俺はそんなことを考えてしまっていた。
同時に玲奈先輩のこと、俺はあんまり考えないようにしてきたんだなぁと思わされてしまっていた。
あと一話で序章終わり、だと思います