「なんで俺たち、売れないんでしょうか?」
オフィクスとしての仕事がなくても、日々の業務までなくなるわけではない。
善斗は今日も今日とて、予定に入っていたヒーローとの面談に臨んでいた。
「と言うと?」
「これでも俺たち、B級レネゲイドの捕縛とか、実績はあるはずなんですが、全然ヒーローランキングが上がらなくて……」
「ランキングですか……」
ヒーローたちの悩みとしてよくあるものの一つが、ヒーローランキングについてだ。
日々の活動実績や市民からの評価などをもとに決定されるヒーローランキングは、彼らにとって実力や知名度を示す重要な指標である。
順位が上がれば、それだけ世間からの注目度も高まり、仕事の依頼や活動の幅も広がっていく。
そのため、実績を積んでいるにもかかわらずランキングが上がらないという悩みは、決して珍しいものではなかった。
「ランキング108位……ですか」
呟きながら、善斗は面談相手の情報が記載された資料に目を通す。
希望戦隊ホープレンジャー。
計四人で構成された戦隊ヒーローである彼らは、ここ最近、アーク・ライト社と契約した実力派の若手として活動している。
「……そうですね。確かに、ここ最近の実績を考えると、今の順位は少し低いように感じます」
B級レネゲイドの捕縛に複数回貢献しているうえ、救助活動にも積極的に参加している。
少なくとも、実績が不足しているようには見えなかった。
「ですよね!? ってことは、やっぱり……」
「恐らく、市民からの支持率が原因でしょうね」
ホープレンジャーのリーダーであるホープレッドに、善斗は考えられる原因を告げる。
「はぁ〜、一体どうしてでしょうか?」
「いや、どうしてって……」
善斗は改めて、目の前に座るホープレッドの姿を見た。
そして、その隣に並ぶ三人にも視線を向ける。
全員が戦隊ヒーローらしいデザインのスーツを身にまとっていた。
ただし、色は違う。
いや、正確には――。
「……とりあえず、みんなで服の色を赤にするのはやめた方がいいんじゃないですかね?」
善斗は、濃淡こそ違えど、全員が赤系統のスーツを着ている四人を見渡しながら言った。
「俺たちを赤色で一括りにするのはやめてください! ちゃんと全員、違うカラーなんです!」
「いや、全部同じ――」
「俺はホープレッド」
「俺はホープルージュ」
「僕はホープスカーレット」
「私はホープローズレッド」
「ほら、違うでしょうッ!?」
「…………」
ポーズを決めながら名乗る赤色四人組にを善斗は静かに見回す。
「いや、赤だよッ!? 広い意味では全部赤だよッ!!」
そしてやっぱり赤色だったため、叫んだ。
ルージュもスカーレットもローズレッドも、全部赤だ。もう真っ赤である。
「なんで青とか緑がいないんだよッ!? スカイライトだって赤と青の二色だぞッ!! なんで君たちは四人もいるのに、二人組のあの子たちより色のバリエーションが少ないんだッ!!」
「いや、ですから違――」
「うるさいッ! 色の濃さが違うだけじゃねぇかッ!! パッと見、誰が誰だか分からんわッ!?」
ホープレッドの言葉を遮り、善斗は再び叫んだ。
ただでさえ見分けがつきにくいというのに、ホープレッドとホープスカーレットに至っては体格まで似ている。並んで見比べても、違いが分からないくらいにはそっくりだった。
実力云々以前に、戦隊ヒーローとしてのビジュアルが破綻している。
「……失礼。少し感情的になってしまいました」
「いえ、こちらこそムキになってしまいました。すみません」
萎縮するホープレンジャーの面々を見て我に返った善斗は、頭を冷やしてから謝罪した。
ホープレッドもまた、熱くなってしまったことを反省するように頭を下げる。
「……それで、一体どうしてこんな狂ったカラーバリエーションになったんですか?」
善斗が問いかけると、ホープレッドは仲間たちに視線を向けたあと、「実は……」と重々しく口を開いた。
「チームを組んだとき、みんな赤がいいって譲らなくて……」
「思った以上にしょうもない理由が出てきましたね……」
てっきり、もっと深い事情でもあるのかと身構えていた善斗は、予想以上に幼稚な理由を聞かされ、思わず呆れた表情を浮かべた。
「えっ? そんなにレッドがいいですか? 別にブルーとかでもよくないですか?」
「何を言っているんですかッ! 戦隊モノといえば、やはりレッドですよッ! なぁ、みんなッ!?」
「「「そうだそうだッ!」」」
「そこで一体感を出さなくても……」
レッドに並々ならぬ情熱を注ぐホープレンジャーたちに、善斗はため息を漏らす。
とはいえ、彼らの間に譲れない思いがあり、仲間としての絆もあることは理解できた。
「けど、デビューする前に止められなかったんですか? 全員レッドとか、さすがに癖が強すぎません?」
「担当の方には『一周回ってウケそう』って言われまして」
「一周回って……」
――いや、止めろよ……。
善斗はホープレッドの言葉に頭を抱えた。
恐らく、担当者としては奇をてらったつもりだったのだろう。しかし、あまりにも奇抜すぎたせいで、市民からの支持を得られなかったに違いない。
――いやいや、並んだ姿を見れば察せるだろ。
どう見ても無理がある。
そもそも、並んでいる姿がまったく格好よくない。なんというか、赤い変態が四人集まっているようにしか見えなかった。
「…………とりあえず、素人ながら意見を言わせていただくなら、メンバーのうち三人の色を変えれば、今よりも支持を得られるようになると思いますよ」
「我々のうち三人が、レッドじゃなくなる……」
「「「…………」」」
善斗の意見をホープレッドは重々しく繰り返した。
そして、仲間たちへと視線を向ける。
彼らの表情はマスクに隠されていて分からない。それでも、ホープレンジャーの間に漂う空気から、この世の終わりのような顔をしているであろうことは察せられた。
――そこまで深刻なことかな?
ホープレンジャーとの温度差に、善斗が何とも言えない思いを抱いていると、ホープスカーレットがゆっくりと口を開いた。
「分かってましたよ、僕は。こんな日が来るんじゃないかって」
「ス、スカーレット!? お前、何を言って――」
ホープレッドが困惑した声を漏らす中、ホープスカーレットは変身を解除した。
――なんだなんだ?
「僕はレッドを捨てます。もし、誰かがレッドをやめなきゃいけない日が来たら、まずは僕からって決めてたんです」
困惑する善斗を尻目に変身を解除して童顔の優しそうな青年の姿になったホープスカーレットは、微笑みながら仲間たちに告げた。
「スカーレットッ! けど、お前ッ!!」
「いいんです。やはり、僕にレッドは赤すぎました」
――何言ってんだ、こいつ。
そのビジュアルも相まって、いかにも格好いいことを言っているように聞こえるが、発言の意味はさっぱり分からない。
そして何故、ほかの面々が感動しているのかも善斗にはまるで理解できなかった。
「フッ、お前がそう言うんじゃ、俺も降りないわけにはいかないよな」
そう言って、ホープスカーレットに続いて変身を解除したホープルージュは、ダンディな素顔をさらした。
とてもレッドに固執するような人物には見えないな、と思いながら善斗が眺めていると、ホープレッドが「ルージュッ!?」と驚愕の声を上げた。
「最初から分かってんだ。俺にはせいぜいグリーンくらいがお似合いだってな」
「なんでグリーンを貶した? 別にグリーンだっていいだろ?」
善斗は、さりげなくディスられたグリーンを庇おうとする。
しかし、自分たちの世界に入り込んでいるホープレンジャーたちには、まるで届かなかった。
「レッドはお前ら二人で決めてくれ」
「けどッ!」
「大丈夫だ。お前らなら、どっちがレッドになったって俺はついていくぜ」
「ルージュッ!」
そう言って、感極まった様子で抱き合うホープレッドとホープルージュ。
一方の善斗は、「俺は一体何を見せられているんだ」と言いたい気持ちをぐっとこらえ、黙って二人を見守っていた。
「……ローズレッド」
「ええ、レッド」
いよいよ残るは二人となったホープレッドとホープローズレッドが、静かに互いを見つめ合う。
まるで物語終盤の親友同士の決闘のような雰囲気を醸し出しているが、ここはアーク・ライト社の面談室だ。
そして、今から決めるのは、どちらがレッドを名乗るかということだけである。
「ローズレッド、レッドの座はお前が……」
そう呟きながら、ホープレッドは静かに変身を解除しようと、腰のベルトに手を伸ばす。
――決まったか。
ようやく終わったかと思い、ホープレッドが変身を解除するのを見届けようとした、そのとき。
横から伸びてきた手が、ホープレッドの手を止めた。
「ローズレッド?」
「いいえ、レッド。分かってるでしょ?」
――何が?
訝しむホープレッドに、ホープローズレッドは微笑みながら、自身の変身ベルトに手を伸ばした。
「ローズ、待っ――」
その行動に気づいたホープレッドが慌てて止めようとするが、遅かった。
ローズレッドの身体から淡い光が放たれ、次の瞬間、美しい妙齢の女性が姿を現した。
「ローズレッド、何故だッ!?!?」
「いや、変身を解除しただけだよね?」
まるでヒーローを引退したかのような勢いで叫ぶホープレッド。
しかし、彼女がしたのは、ただ変身を解除しただけである。
また変身すれば済む話のはずなのだが、善斗にはもう何も理解できなかった。
「私もみんなと同じ。本当は分かっていたの」
「あの〜、もうレッドも決まったことですし、この面談を終わらせていいですか?」
無駄にシリアスな雰囲気を醸し出しながら語り始めたホープローズレッドに、善斗はそう訴えかける。
しかし、面談室の誰も聞いていなかった。
「貴方がレッドで、私がローズレッドだった時点で、赤に相応しくないって」
「もしもし〜、聞こえてますか?」
「そんなことはないッ! 君だってッ!!」
善斗の言葉を無視して、ホープレッドはホープローズレッドの肩を掴みながら叫んだ。
「いいの、レッド。私もみんなと同じ。貴方ならいい。いえ、貴方だからいいの」
「ローズレッド……」
優しく微笑むホープローズレッドにホープレッドは言葉を失う。
「このホープレンジャーのレッドを、貴方に託していい?」
「……みんな」
ホープローズレッドの言葉を受け、ホープレッドは残る二人にも視線を向けた。
すると、二人は微笑みながら静かに頷く。
その姿を見たホープレッドは何かを噛み締めるように拳を握りしめ、叫んだ。
「分かったッ! ホープレンジャーのレッドは俺が引き受けるッ!! みんな、それでいいかッ!?」
「ああッ! もちろんだ!」
「はい、託します!」
「ええ、頼んだわよッ! レッドッ!!」
ホープレッドの宣言に声援を送るホープレンジャーの面々。
そして、ようやく話し合いを終えたホープレッドは善斗へと視線を向けた。
「決まりました!」
「時間過ぎたのでお帰りください」
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