コミュ障最強剣士、すれ違いで追放され世界滅亡の危機なので幼馴染と一緒にみんなの誤解を解きます! 作:七福燈
第3話 オッヤ・ノスネカ・ジィリは激怒した
「まず魔術師のオッヤ・ノスネカ・ジィリはとても優秀だった。オッヤ・ノスネカ・ジィリは常識を知らない俺に対しても様々なルールを教えてくれた。それだけじゃない、オッヤ・ノスネカ・ジィリは斥候ではないのにもかかわらずとにかく勘が良くその洞察力で仲間を助けてくれることが」
「ちょ、待て、ストップ」
アザヤカがワインからメンバーのそれぞれの特徴について詳しく聞いている時、あまりにも異様な文字列が並びすぎたため思わず手を前にやった。
「その、なんて?」
「ん? オッヤ・ノスネカ・ジィリの話だが。君がメンバーについて紹介をしてくれと言ったからまずオッヤ・ノスネカ・ジィリについて話そうかと思いオッヤ・ノスネカ・ジィリの魔術や勘の素晴らしさを説明すべきだと思い」
「うん、わかった。アタシの聞き間違いじゃないのは理解した」
アザヤカは再び頭を抱えた。
「えっと、その名前ってなんだ?」
オッヤ・ノスネカ・ジィリは、魔法学者の家系に生まれた20歳の女性である。オッヤが名であり、ノスネカがミドルネームであり、ジィリが姓だ。仲間からは、カジというあだ名で呼ばれている。身長は150cmほどと小柄で、金髪をツインテールに結んでいる。大きな三角帽子を被っているのは、少しでも背を高く見せたいからだ。
彼女のこの異様すぎる名前について弁明を行うと、親が悪意をもってこのような名前にした訳では無い。それどころか、彼女の両親はオッヤ・ノスネカ・ジィリを可愛がっており、「こんなに可愛い子が生まれたのだから神様に名を決めてもらいましょう」と言って神殿へ占いにいったら、このようになっただけだ。
信心深い司祭も、この時ばかりはさすがに汗をかいた。「もう一度占い直しましょうか」と確認はしたが、彼女の両親が「神の御心のままに」と言ってそのまま気に入ってしまったため、司祭は将来大きくなった彼女から刺殺される覚悟すらした。
悪意なくつけられた名前がコンプレックスとなった彼女は、周りから名前を笑われているのではないかと気を張り詰め続けた。その結果、本人も気が付かぬうちに第六感が目覚めていた。そうして、人一倍気遣いのできる女性へと育っていったのだ。だが、それも万能というわけではなく、あくまでも身近な人間の行動を人一倍鋭く察知できる程度のものだった。
アザヤカは、写影機で撮られたパーティ集合絵を見た。ちなみに、ワインは写影機を向けられると魂を取られると思い込んでいるため逃げようとした結果ものすごく姿がブレている。
「お前さ、ちょっと聞きたいんだけどその……魔術師のやつから名前で呼ぶなって言われたことねーのか?」
「ないな」
「あー……じゃあ、聞き方変えるわ。名前とかあだ名で呼んでくれ、って言われたことは?」
「それはある。だが、深く親しいわけではない女性を名で呼ぶのは礼儀がなっていないと感じたため断った」
「うんお前多分それも原因だと思うぞ」
ワインがパーティに入りたての頃の話である。
『あ、あのさ、ワイン君! その、そんな堅苦しい感じに呼ばなくていいよ! あたしのことはカジってあだ名で呼んでくれればいいから……!』
ワインは真っ直ぐな目で答えた。
『いいや、フルネームで呼ばせてもらう。これが俺の礼儀だ』
「ということがあった」
「お前マジで変なところで真面目というか古風なのがなぁ……!!」
深夜まで営業している食事屋だからといって、少ししか注文せずにダラダラと居座るだけでは店員に怪訝な顔をされる。アザヤカは、だるそうに仕事をしている店員を呼び止めポテトとサンブライトピザを注文した。
「彼女もそれに対して了承をしたためそのままフルネームで呼び続けた。俺は彼女の名前をおかしいと思わなかった」
「了承したっつうか、多分名前で呼んで欲しくねえって直接言えなかったんじゃねえかな……」
カジは自身のコンプレックスについて、一度も公言したことがなかった。それは、アザヤカの予想通り、自分の名前がコンプレックスであることをそもそも知られたくなかったからだ。
しかし、その異様な名前とあだ名で呼んでほしがるカジを見て流石に人々は彼女の内心を察していた。だから皆、空気を読んで彼女のことをあだ名で呼んだが、残念なことにワインは全く空気が読めなかった。
「いやちょっと待てお前アタシのことは普通に名前で呼んでるじゃねーかよ」
「…………」
「なに急に照れてんだよ」
「いやあ……」
ワインがモジモジし始めた。
「アザヤカは、昔からの付き合いだから……これで慣れてしまった……」
「なんなんだお前…………」
ようやくサンブライトピザとポテトが運ばれてきて、アザヤカがさっそくポテトをつまむ。ワインがその様子をじっと見ていることに気がつき、ポテトとピザをきっちり半分に分けてワインへと渡した。
「……じゃあとりあえずだ」
サンブライトピザにかかった赤いパプリカソースが、食事屋の明るい電灯を受けて艶やかに光っていた。
「まず最初に、原因がいちばんハッキリしてそうなその魔術師のやつに話をして……ッ!?」
そこまで話した瞬間だった。
アザヤカの目の前に、映像が流れ込んでくる。ジリ、とノイズが走り、膨大な情報が一瞬にして頭の中へ押し寄せた。
彼女はこれがなんなのか分かっていた。
予知だ。いつもこうやって、突然断片的な情報が見えてくる。
そして、今見えた予知というのが……
金髪ツインテールの女性が、大きめの岩の下敷きになって「きゃーー!!」と叫び、バタバタしている映像だった。
「…………」
「アザヤカ、どうした?」
「なあワイン、お前地理とか詳しい?」
「サンブライトから魔王城に行くまで最もなスムーズな道筋についてとその道中の特徴は約563個覚えているがそれ以外には詳しくない」
「うん平気そうだな」
アザヤカは、家の中に一度放り投げてきた荷物を思い出した。やはり、旅支度をして正解だったなと考えながら苦笑いを浮かべた。
「ちょっと……アタシがなんかの景色の特徴を言うから、その場所がどこら辺なのか予想してくんね……?」
こうして、二人はカジことオッヤ・ノスネカ・ジィリを探すことになったのである。
場面転換。
からの、ここまでのあらすじ。
アザヤカ・マリルはワイン・カミュと共にオッヤ・ノスネカ・ジィリことカジの誤解を解くため、サンブライトの田舎を出て彼女を探しに行った。
サンブライトを出て旅をすることに対し非常に緊張をしていたアザヤカだが、ワイン・カミュは最強だったため魔王城までの最もスムーズな道筋とその道中の特徴を約563個覚えており道端にいた悪魔族を全て薙ぎ払って無事に岩のある山へと辿り着いた。
脚色はない。もう一度説明しよう。
サンブライトを出て旅をすることに対し非常に緊張をしていたアザヤカだが、ワイン・カミュは最強だったため魔王城までの最もスムーズな道筋とその道中の特徴を約563個覚えており道端にいた悪魔族を全て薙ぎ払って無事に岩のある山へと辿り着いた。
アザヤカはここまでのスムーズさに、かなり引いていた。
まず、彼女は両親へ「突然になるけどワインと一緒に旅に出かけたい」と事情を説明した。流石に「世界が滅亡する未来が見えたので急いで外に出なくてはならない」と言っても信じてもらえるはずがないので、もしもここで両親に反対をされたら彼女の全ての尊厳を賭けて「駆け落ちをする」というていで出ていくつもりだった。だが、案外あっさりと了承された。
『アザヤカ……向こうで使われてるコインな、父ちゃんがいつも行ってる賭博場のコインに似てる上にちょっと安いらしいんだ』
賭博場で不正ができそうなコインを土産に頼んだ父親は、母親に思い切りしばき倒された。その後、アザヤカは「いつでも帰ってくるんだよ」と優しい言葉をかけられ、そのまま送り出された。彼女はワインと共に馬車に乗り、月を眺めながら「そういえば、うちの両親は駆け落ちをして結婚したと聞いたな」と考えていた。ならば最初から駆け落ちだと思われているのでは?
「アザヤカ……君は昔から、こうやって突然行動をすることがあるが、今回は何故岩山へ行きたいと言い出したんだ?」
当然の疑問だった。アザヤカはワインに対し、あまりにも詳しく目的地を指定していたのだから。
「あっ……と……それは、だな……」
アザヤカが傾斜のかかった地面を踏みしめ、目を逸らしながら頬をかいた。
「…………今日お前と一緒に飯食ったけどダイエット中だったから食ったぶん消費したくて登山したくなったんだよ」
無理がある。
かなり、無理がある。
「なるほど、確かに運動はした方が良いからな」
かなり無理があるのだが、そもそもワインもワインで、山にたどり着いてから疑問に思うのもおかしい。だが彼は、特に人を嫌いもしなければ疑いもしない性格のため、頼まれたら悪魔族を三秒で薙ぎ払って山に登ることくらいは平気でやるような人間であった。「食べすぎたから今からサンブライトを出てよくわかんねえ悪魔族が出る山を登ろう!」と言われたとしても、納得するのである。
「ならば軽食にサンドイッチを渡そうかと思ったがいらなかっただろうか?」
「あー……わりぃ、今はいいや。ありがとな」
「いいや、俺はこの中に入っているトマトが嫌いだから君にあげようと考えていただけだ。そのためお礼を言われる必要がない」
「押し付けてんじゃねえよ」
ちなみにだが、ワインによると「トマトは噛んだ時のプチュッとした食感が、まるで生きている個体を潰すようで苦手だ」とのこと。悪魔族を三秒で薙ぎ払うのは良いのだろうか。
ざく、ざくと土を踏みしめて山を登っていく。周りの景色は緑の木々から一変して灰色の岩たちに囲まれるようになってきた。
アザヤカは思い出す。一瞬だったが、予知で見えたのは確かにこの色の岩だった。そして、空もこのくらい暗かった。
「カジを探しに行こう」と決めた途端、予知が始まったということはこれがいわゆる〝正解〟の道筋なのだろうかとアザヤカは考えていた。神も、ワインの空気の読めなさが予想外だったから力を貸してくれているのだろう。そう思うことにした。
(あとは金髪ツインテールが叫び声上げてるのさえ聞こえれば……)
アザヤカが顔から流れる汗を拭い、また一歩踏みしめたその時だった。
「きゃーーー!!!」
────ちょうど良いタイミングで、やはり予知と全く同じ声が遠くから聞こえたのであった。
ここまで面白かった方は、ブックマークと星を1〜10のどれかで評価お願いします!すごくモチベーションになります!