パパは異世界ATM   作:taniko

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第102話 発着場

 

(わっ)

 

 護衛の男女の間を通って、ライチ一人で部屋を出た。

 すると、扉の外にも男性の護衛が二人いて、鋭い目で見られたので、少々驚いてしまった。こちらも貴族で、額にあるのは赤と黄の魔石である。

 

(生還おめでとう!俺!!

 ――さてさて、どこにいればいいのかな? 城の見学とかしてても許されるのかな)

 

 もう今日はお貴族様に会うのはごめんだが、会わなくていい範囲で見学はしてみたい。

 

「あっ、あなたは」

 

 案内の時の、説明好き?かもしれない使用人の男性が、ありがたいことに路頭に迷うライチのもとへ来てくれた。

 

「少しばかり長くかかるそうですが、いかがされますか? 別室での待機でも、中庭の散策でも構わないと聞いております」

 

(散策!したい!)

 

 お茶を出してもらえるなら、今すぐパサパサの口を潤したい気もするが、それよりも生きたファンタジー城を観光する誘惑の方が勝った。

 

「中庭も素敵なので見たいんですが、あの……できれば、飛車や風騎を近くで見れるような場所はありませんか?」

 

 城で自由時間がもらえるなんてチャンスは、もうないかもしれない。魔道具には漏れなく貴族がついてくるので、エンカウントを想像するだけで吐きそうにはなる。

 しかし!音だけでなく、飛車や風騎とやらが実際に飛ぶところを、是非見てみたいのである。是非!見てみたいのである!

 

「風騎でしたら、領主様と宰相様が乗ってこられたものが、そちらに置かれております。護衛が監視中ですので、安全上、近づくのはご遠慮ください。

 飛車は、発着場が別棟にございますので、見学には少々お時間がかかりますね。室内に確認を取ってまいります」

 

 (へぇ。あの知的な男性は、宰相だったのか)と思いながら、“そちら”、と示された方向を見る。

 一番近くの中庭の角に、白い板の上にT字の棒が刺さったような物が置かれているのが見えた。あれが風騎か。

 

 『飛車は見られません』で一蹴せず、わざわざ確認までしてくれるなんて、非常に心優しい男性である。

 

 ――チリリン

 

 ライチが感動していると、男性は護衛のいる部屋の前を通り過ぎ、その隣の部屋へ向かった。ドアの前で小さくベルを鳴らす。

 

 鍵がガチャリと鳴り、ドアが少し開かれる。

 男性と、平民の侍女らしき人が少し話すと、すぐにまたドアは閉められ、鍵がかかる音がした。

 

 先ほど鈍くさい金属板が連行されていった部屋だ。侍女が控えたり、お茶出しの準備などに使われる部屋なのだろう。

 

 少し待った後に、また同じように内側からドアが開かれた。ドアの隙間での会話を終えて、男性がにこやかにライチの前に戻ってきた。

 

「『見て回る分にはかまわんが、先のような無作法で、他の貴族に首を刎ねられても、わらわは知らぬぞ』という伝言を預かりました。よかったですね」

 

 首を刎ねられるのは全く良くはないのだが、男性の表情を見るに、グラキ領主さん的には、これは優しい部類の物言いなのかもしれない。

 

「商人組合長とお客様が一緒に帰れるように配慮してくださっているので、お待たせしないように、急ぎましょうか」

 

 男性は優雅な早足で歩き始めた。

 

 

 

---

 

 

 

「城の二階から四階は、完全貴族領域となっております。

 階段も、あるにはありますが、魔力を流さないと扉が開きませんし、基本的には城の風騎でしか入れないようになっております。

 お食事や身の回りのお世話は、一階を経由させながら、ご自身より下級の貴族にさせるわけですね。

 一階は、平民と貴族の共用部分ですので、今回領主様がお客様に“見て回ってもいい”とおっしゃったのは、一階部分を指します」

 

 そう説明を受けながら、城の一階を歩く。

 

(へぇ。魔力がないと、二階以上には上がれもしない構造なんだ。そりゃ一生、二階以上には行くことはなさそうだな)

 

 貴族が貴族の世話をする、右も左も貴族だらけの世界。絶対に関わり合いになりたくないものである。分けてくれていて感謝だ。

 

 

「――こちらが、飛車の発着場です」

 

 貴族街を見下ろす、南側だけ壁の抜かれた半外の渡り廊下を、しばらく歩いた先。

 四方を壁に囲まれた青天井の空間に、それは並んでいた。

 

「おぉ〜〜!!これが〜!! …………って、なんか……来た時の白い馬車と代わりませんね」

 

 もっとなんかこう、羽が付いてたり、装飾が凄かったりするのかと勝手に想像していたが、乗ったことのある白い馬車だ。馬がいないだけで、飛行には不要な車輪すら付いている。

 

「はい。こちらの飛車は、この発着場から、城内へ送迎するための飛車ですので、城特有の白い車体となっております。

 いきなり城のものではない飛車が内部に入り込むのは、非常に危険ですので、城専用飛車への乗り換えは必須、という決まりになっております。

 あちらに置かれている飛車でしたら、別家門の所有する飛車ですので、趣も違うかと」

 

(いや、色とか装飾が違うって話ではなくて……)

 

 見た目はガッカリだが、飛ぶところを見れば、もう少し興奮するかもしれない。飛車はさすがに、空飛ぶ手紙のように、ふらふらガンガン……なんて鈍くさくはないだろうし。

 

「あっ、ちょうど、来客の飛車と、護衛の風騎が来られますよ」

 

 男性の声に、ライチは目を輝かせて空を見上げた。

 確かに、まだ管理笛?登録笛?の音は聞こえないが、空を飛ぶ点が三つ、大小小と確認できた。

 

 すぐにヘリコプターくらいの距離感まで近づいてくる。笛の音も聞こえ始めた。

 

 ――ヒィーーー……

 

(わ〜〜!! 本当に馬車が馬なしで浮いてる!護衛の人が板の上に立って浮いてる!カッコいい!これぞ、ファンタジーだ〜!!!)

 

 目からキラキラしたものが流れ出そうなほどの感動である。

 

(護衛の人も、空中戦のときは、剣なんて持っててもあんまり意味がないよな? もしかして飛び道具で戦うのかな? 気になる!……うわぁ〜、どっちも乗ってみたいなぁ)

 

 着陸や、離陸はどんな感じなのだろうか。

 

 ライチがドキドキと胸を高鳴らせながら着陸の様子をじぃっと見つめていると、

 

「お客様……お客様っ」

 

と切羽詰まったように呼ばれた。

 

 今、いいところなのに……と呼ばれた方を見ると、真っ青な顔で男性が最敬礼をするように目で訴えている。

 

(ハッ!そっ、そうかっ!あれに乗ってるのは首切りマンたちなんだった!)

 

 貴族のことを、気分屋の殺人鬼や処刑人とでも思わないと、ついつい“みんな平等”の日本人として、感覚を間違える。

 

(身分社会に慣れない!)

 

 ライチは大慌てで発着場の隅に寄り、最敬礼のポーズで固まった。

 

(ちぇ、着陸するところは見れずか)

 

 ――ヒィーーー

 

 和音の笛の音が大きくなる。耳だけで近づいてきたことが分かる。

 どうやら速度で音の大きさも変わるようだ。着陸のあたりにはかなり小さな音になって、最後には音が消えた。

 

 ――カッカッカッ

 

 石畳を複数人が歩いて、しばらくしてまたヒィーーという音が聞こえてきた。

 先ほど見ていた白い送迎の飛車に乗り換え、城内の貴族区画に向かうのだろう。

 

「お客様。もう結構ですよ」

 

 男性に声をかけられる。

 

「領主様のおっしゃる意味が、よぉく、分かりました。首元が冷たくなりました……」

 

 ライチの無作法に、死の危険を感じさせてしまったらしい。実に申し訳ない。ライチは男性に何度も頭を下げた。

 

 

 

---

 

 

 

「飛車を近くで見てもいいですか?」

 

「城のものでしたら構いませんよ」

 

 にこやかに言われ、ライチは次の飛車が来る前に、急いで白い飛車のもとへ向かった。

 

 

「……う〜〜ん。馬車とは何が違うんですか? 外に従者席まであるし」

 

 馬が不要なのに、外で馬を操る席まであるのだ。

 

「ほぼ同じでございます。が、従者席をよくご覧ください」

 

「……あっ! T字の操縦桿がありますね」

 

 風騎と同じように、こちらも操縦桿で操縦するようだ。

 

「貴族様が従者なしに一人で操縦できるように、車内にも同じ操縦桿があるのが、平民用の馬車との違いですね。

 それに合わせて、外が見やすいように、窓が大きく作られているのも異なる点かと」

 

 言われてみれば、ライチが乗った、尾てい骨破壊装置より、かなり窓が大きい。

 

 窓ガラスがないので、このまま走ったら、暴風に砂に雨なんかで大変な目に遭いそうだが……おそらく貴族街と同じシステムで車内は守られているのだろう。

 

 

「これ、従者席でいいので、乗ってみてもいいですか?」

 

 ライチはワクワクと尋ねた。初めての乗り物に出会った時、運転はできなくても、せめてハンドルを握ってみたいというのは、全人類、同じだろう。

 

「どうぞお乗りください。領主様より、『何がヒントになるかも分からぬ、好きにさせよ』と仰せつかっております」

 

 グラキ領主が、そんなことまで……!

 少し見る目が変わった。良い人じゃん。ありがとう!

 

 ライチはいそいそと従者席に上り始めた。

 

(ん? どこを持って、どこを踏んで上がればいいんだ?)

 

 意外と難しい。白いだけに、変な所を踏んで汚すのも憚られる。

 

「そうです、そちらを持って、足は……はい、そちらです」

 

 男性が丁寧に教えてくれて、ようやく座ることができた。

 操縦桿を揺らしてみる。

 

(三輪車の後ろの大人用T字ハンドルとかをイメージしてたけど、なんだ、突き刺さってるだけで、動かないんだな)

 

 もはや操縦桿ではなく、金色のラインが綺麗なだけの、持ち手の棒だ。

 

「これは、どうやって操縦するんでしょうか?」

 

 グラキ領主からの許可もあるということで、どんどん気になることは聞いてみる。

 

「持ち手の小魔導盤が、左右と前進の方向制御でして、中央の大魔導盤が浮上降下の制御用でございます」

 

 男性が下から手を伸ばして、持ち手と中央の、間あたりを指す。

 

「魔導盤同士と、飛車を浮かせる風魔石は、魔導線により接続されております。

 これにより、直接、車体の底にある風魔石に手を触れなくても、魔力を送ることができます。

 込める魔力量で、操作ができるそうですよ」

 

(へぇ、魔力量で操作するのか!それはハンドルが動く必要がないな)

 

 だから、風騎のフォルムが、ただの板の上に棒だけを刺した状態なのだろう。エンジンやハンドルとタイヤを連結させるような操縦システムが、すべて不要なのだから。

 

 この理論だと、椅子の形の風騎、バスタブの形の風騎、なんなら家の形の飛車なんかも、底に風の魔石をつけるだけで、すぐに作れそうだ。

 

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