パパは異世界ATM   作:taniko

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第113話 風信

 

「昨日はタイミングが合わず、すみません」

 

 いつもの鐘楼。アルフィアーナは何も悪くないのに、会って早々に詫びを入れてくれた。

 

「とんでもないです。こちらこそ一日に何度もすみませ」

「それで、荒地に行った結果はいかがでしたか? 何かヒントのご神託はありましたか?」

 

 ライチの謝罪に被せるように、アルフィアーナが前に乗り出して聞いてきた。かなり結果が気になっていたようだ。

 

「サーチも、エネルギーを放出するのも、どちらも不発でした……」

 

 ライチが肩を落とすと、アルフィアーナはその白く細い指を顎に当てて、思案げな表情になった。

 

「そうですか……。やはり魔力と同じで、直接土地には撒けないのですね」

 

「なんか……城、でしたっけ、大きな魔道具に魔力を込めないといけない、とかですよね」

 

 ライチがにわか知識で答えると、アルフィアーナが頷いた。

 

「そうですわ。領地へ魔力を行き渡らせるには、城の地下にある大魔道具へ、魔力を注ぐ必要があります」

 

「地下、ですか」

 

 なんとなく、“領地へ魔力が行き渡る”と聞いて、高台的な所から、ふわ〜っと魔法的な力が空から振り注ぐ様子を想像していたのだが。

 

「はい。その昔、魔導線を各地へ繋げたのが、大魔道具の始まりだと言われていますの。そして、その大切な生命線が敵に見つからないよう、地中深くに隠した、と」

 

「領地全体の地中に隠したんですか!それは……気の遠くなる作業ですね」

 

 ライチの感嘆の声に、アルフィアーナは二、三瞬きをした。

 

「…………。あっ。そうですわよね、魔道具についてご存知ないのですものね。

 土の魔道具があれば、大地を起こすことは、いくら古代人だったとしても、簡単なことだったと言われていますわ」

 

「え〜!? そっか!土の魔道具!大地を起こせるなんて、凄いですねぇ」

 

 土木作業の概念が崩れる新発見だ。土の魔道具。ぜひこの目で見てみたいものである。

 

「なるほど。電線みたいなものが地下に埋まってて、それで魔力が流れて……あれ? 流れた先の土地ではどうなってるんでしょう?」

 

「ふふっ、なかなかライチさんも、いいところに気付くようになって参りましたわね」

 

 アルフィアーナが嬉々として微笑んだ。

 

(オタクあるある。好きなものについて突っ込んで聞かれると嬉しくなっちゃう)

 

 倍ほど年上であるだろうライチも、それを微笑ましく受け取る。

 

「領地の大魔道具には、魔石のような出口がないのです」

「えっ!じゃあそれは……!……あれ? えーと……どうなります?」

 

 なんか大変なことになりそう!とは思ったものの、魔力と縁がなさすぎて、さっぱりどうなるか想像すらできなかった。

 

「たどり着く先で、なんとかどこかに流れ込めないかと強引に放出が始まります」

 

「ほうほう」

 

(普段は電気が流れない空気中に、無理やり雷とか静電気が通るのと同じかな?)

 

「魔力放出に長年晒されると、土地そのものが魔導鉱へと変質していきます」

 

「魔導鉱って、魔導線になるやつ、でしたよね、多分」

 

「おっしゃる通りですわ。魔導鉱に変質した後にも流れてくるので、受け止めきれなかった魔力は、最後、土地へと放出され……」

 

「魔力で満ちた土地になる、と」

 

 アルフィアーナが、嬉しそうに頷く。

 

「その通り、ですわ!やればできますのね」

 

 ちゃんと実感を持って聞くと、前回より話が理解できてきた。ロバの汚名(ムリーナに失礼だが)が少しは返上できたようだ。

 

(魔導線でできた魔導鉱プレートの上に、豊かな地面が乗ってるって感じかな?)

 

 大雑把なイメージだが、大きく外れてはいないだろう。

 

「となると……荒地を緑化して使うには、地下深くに穴を掘って、そこにある魔導鉱に、魔力や父性エネルギーを流し込まないといけないってことですよね」

 

 飛車の魔導盤のように、直接プレートを捕まえて、父性を流し込まないといけないということか。

 

 ライチのアイディアに、アルフィアーナは静かに首を振った。

 

「非常に良い案ですわ。他の土地なら、そのやり方ももしかしたら可能なのかもしれません。

 ……しかし、残念ながら荒地部分の地中には、基礎となる魔導線も、魔導鉱も、敷かれていないと聞いています」

 

「ええっ!捨て土地だ、捨て土地だ、とは聞いてましたけど、もう古代からして捨て土地にしてたんですか」

 

 基礎の魔導線や魔導鉱が地中にないのならば、土木工事からになるではないか。それには土の魔道具が必要で……。

 

「……あれ? 詰みました?」

 

 ライチが呆然とこぼしたその一言に、アルフィアーナは頬に手を当てて考え込んだ。

 

「…………一応、城の大魔道具に直接触れて、神からのエネルギーを流し込む……という手も……」

 

(そんな中枢、絶対入れなさそう……)

 

 アルフィアーナ自身、言いながら、『これはないな』と思っているようで、二人は目を見合わせて黙り込んだ。

 

「………………」

 

 結局、荒地を緑化する方法は見つからない。

 

 魔力についてはいくらか理解が深まったものの、答えは持ち帰れないまま、時間だけが過ぎていく。

 

(いよいよ本格的にヤバくなってきたぞ……)

 

 首に触れる。まだ繋がっているということを確認するように。

 

 その時だった。

 

 ――ふよっ ふよっ

 

「……あれは」

 

 金属製バインダーが、ひとりでに宙を漂いながらこちらへ近付いてきた。

 

「……懐かしい。城からの“風信”、ですわ」

 

 アルフィアーナは遠くを見るような目で答えた。

 

(グラキ領主に届いてたやつだ。風信って言うんだな)

 

 鐘の横の隙間を抜けて、ライチのもとまで降りてきたようだ。頭上でふよふよと浮いて止まっている。

 

「ほいっ、と」

 

 ライチは謁見した部屋で見たように、風信を捕まえてみた。

 

「開かない……」

 

 護衛の騎士は、風信を捕まえたあと、さくっと開いていたように見えたが、ライチには開け方が分からない。

 

 アルフィアーナが見かねて説明をしてくれた。

 

「風信は、魔力があれば登録されている魔力を流します。魔力がなければ、ギルドカードをそちらの球体に当てます。個人認証が終わると、開けられるようになりますわ」

 

 言われた通りにギルドカードを中央の球体に当ててみる。風信は簡単に開くようになった。

 

「おぉ〜!開きました!さすがアルフィアーナさん」

 

 お礼を言いながら中身を取り出す。木札だ。

 

 黒いインクで、流れるような字で書いてあるが、重なって光る日本語訳により、内容は問題なく理解できた。 

 

「読みますね」

 

“宰相ルキディウス、行商人ライチへ。

 

 神の御元、健やかならんことを。

 命じられた件について、いかほど進んだか。

 不足する物品、人員、費用等、入用のものがあれば、裏面に記し、返信すること。

 

 ヴェルディウス神の加護が汝とともにあらんことを”

 

「……圧をかけるのが早いっ!こわっ!」

 

(いかほど進んだも何も、昨日の今日だぞ? 早すぎるだろ)

 

 首が飛びかねない圧力に顔を青くするライチを尻目に、アルフィアーナはキラリと目を光らせた。

 

「これは……チャンスですわよ。飛車を貸してほしい、と頼んでみましょう!魔力と父性エネルギーの研究にもなりますし、うっかり暴走を防ぐのにもいいですし、何より広大な土地を管理するのに便利ですし!他にもあれば……」

 

 アルフィアーナが考え込み始める。

 

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