「昨日はタイミングが合わず、すみません」
いつもの鐘楼。アルフィアーナは何も悪くないのに、会って早々に詫びを入れてくれた。
「とんでもないです。こちらこそ一日に何度もすみませ」
「それで、荒地に行った結果はいかがでしたか? 何かヒントのご神託はありましたか?」
ライチの謝罪に被せるように、アルフィアーナが前に乗り出して聞いてきた。かなり結果が気になっていたようだ。
「サーチも、エネルギーを放出するのも、どちらも不発でした……」
ライチが肩を落とすと、アルフィアーナはその白く細い指を顎に当てて、思案げな表情になった。
「そうですか……。やはり魔力と同じで、直接土地には撒けないのですね」
「なんか……城、でしたっけ、大きな魔道具に魔力を込めないといけない、とかですよね」
ライチがにわか知識で答えると、アルフィアーナが頷いた。
「そうですわ。領地へ魔力を行き渡らせるには、城の地下にある大魔道具へ、魔力を注ぐ必要があります」
「地下、ですか」
なんとなく、“領地へ魔力が行き渡る”と聞いて、高台的な所から、ふわ〜っと魔法的な力が空から振り注ぐ様子を想像していたのだが。
「はい。その昔、魔導線を各地へ繋げたのが、大魔道具の始まりだと言われていますの。そして、その大切な生命線が敵に見つからないよう、地中深くに隠した、と」
「領地全体の地中に隠したんですか!それは……気の遠くなる作業ですね」
ライチの感嘆の声に、アルフィアーナは二、三瞬きをした。
「…………。あっ。そうですわよね、魔道具についてご存知ないのですものね。
土の魔道具があれば、大地を起こすことは、いくら古代人だったとしても、簡単なことだったと言われていますわ」
「え〜!? そっか!土の魔道具!大地を起こせるなんて、凄いですねぇ」
土木作業の概念が崩れる新発見だ。土の魔道具。ぜひこの目で見てみたいものである。
「なるほど。電線みたいなものが地下に埋まってて、それで魔力が流れて……あれ? 流れた先の土地ではどうなってるんでしょう?」
「ふふっ、なかなかライチさんも、いいところに気付くようになって参りましたわね」
アルフィアーナが嬉々として微笑んだ。
(オタクあるある。好きなものについて突っ込んで聞かれると嬉しくなっちゃう)
倍ほど年上であるだろうライチも、それを微笑ましく受け取る。
「領地の大魔道具には、魔石のような出口がないのです」
「えっ!じゃあそれは……!……あれ? えーと……どうなります?」
なんか大変なことになりそう!とは思ったものの、魔力と縁がなさすぎて、さっぱりどうなるか想像すらできなかった。
「たどり着く先で、なんとかどこかに流れ込めないかと強引に放出が始まります」
「ほうほう」
(普段は電気が流れない空気中に、無理やり雷とか静電気が通るのと同じかな?)
「魔力放出に長年晒されると、土地そのものが魔導鉱へと変質していきます」
「魔導鉱って、魔導線になるやつ、でしたよね、多分」
「おっしゃる通りですわ。魔導鉱に変質した後にも流れてくるので、受け止めきれなかった魔力は、最後、土地へと放出され……」
「魔力で満ちた土地になる、と」
アルフィアーナが、嬉しそうに頷く。
「その通り、ですわ!やればできますのね」
ちゃんと実感を持って聞くと、前回より話が理解できてきた。ロバの汚名(ムリーナに失礼だが)が少しは返上できたようだ。
(魔導線でできた魔導鉱プレートの上に、豊かな地面が乗ってるって感じかな?)
大雑把なイメージだが、大きく外れてはいないだろう。
「となると……荒地を緑化して使うには、地下深くに穴を掘って、そこにある魔導鉱に、魔力や父性エネルギーを流し込まないといけないってことですよね」
飛車の魔導盤のように、直接プレートを捕まえて、父性を流し込まないといけないということか。
ライチのアイディアに、アルフィアーナは静かに首を振った。
「非常に良い案ですわ。他の土地なら、そのやり方ももしかしたら可能なのかもしれません。
……しかし、残念ながら荒地部分の地中には、基礎となる魔導線も、魔導鉱も、敷かれていないと聞いています」
「ええっ!捨て土地だ、捨て土地だ、とは聞いてましたけど、もう古代からして捨て土地にしてたんですか」
基礎の魔導線や魔導鉱が地中にないのならば、土木工事からになるではないか。それには土の魔道具が必要で……。
「……あれ? 詰みました?」
ライチが呆然とこぼしたその一言に、アルフィアーナは頬に手を当てて考え込んだ。
「…………一応、城の大魔道具に直接触れて、神からのエネルギーを流し込む……という手も……」
(そんな中枢、絶対入れなさそう……)
アルフィアーナ自身、言いながら、『これはないな』と思っているようで、二人は目を見合わせて黙り込んだ。
「………………」
結局、荒地を緑化する方法は見つからない。
魔力についてはいくらか理解が深まったものの、答えは持ち帰れないまま、時間だけが過ぎていく。
(いよいよ本格的にヤバくなってきたぞ……)
首に触れる。まだ繋がっているということを確認するように。
その時だった。
――ふよっ ふよっ
「……あれは」
金属製バインダーが、ひとりでに宙を漂いながらこちらへ近付いてきた。
「……懐かしい。城からの“風信”、ですわ」
アルフィアーナは遠くを見るような目で答えた。
(グラキ領主に届いてたやつだ。風信って言うんだな)
鐘の横の隙間を抜けて、ライチのもとまで降りてきたようだ。頭上でふよふよと浮いて止まっている。
「ほいっ、と」
ライチは謁見した部屋で見たように、風信を捕まえてみた。
「開かない……」
護衛の騎士は、風信を捕まえたあと、さくっと開いていたように見えたが、ライチには開け方が分からない。
アルフィアーナが見かねて説明をしてくれた。
「風信は、魔力があれば登録されている魔力を流します。魔力がなければ、ギルドカードをそちらの球体に当てます。個人認証が終わると、開けられるようになりますわ」
言われた通りにギルドカードを中央の球体に当ててみる。風信は簡単に開くようになった。
「おぉ〜!開きました!さすがアルフィアーナさん」
お礼を言いながら中身を取り出す。木札だ。
黒いインクで、流れるような字で書いてあるが、重なって光る日本語訳により、内容は問題なく理解できた。
「読みますね」
“宰相ルキディウス、行商人ライチへ。
神の御元、健やかならんことを。
命じられた件について、いかほど進んだか。
不足する物品、人員、費用等、入用のものがあれば、裏面に記し、返信すること。
ヴェルディウス神の加護が汝とともにあらんことを”
「……圧をかけるのが早いっ!こわっ!」
(いかほど進んだも何も、昨日の今日だぞ? 早すぎるだろ)
首が飛びかねない圧力に顔を青くするライチを尻目に、アルフィアーナはキラリと目を光らせた。
「これは……チャンスですわよ。飛車を貸してほしい、と頼んでみましょう!魔力と父性エネルギーの研究にもなりますし、うっかり暴走を防ぐのにもいいですし、何より広大な土地を管理するのに便利ですし!他にもあれば……」
アルフィアーナが考え込み始める。