パパは異世界ATM   作:taniko

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第114話 風信 返信

 

 言われてみれば、圧力の方に気を取られてちゃんと内容を咀嚼していなかったが、貴族側から『なんでも用意するよ?』と言ってきてくれるのは、ものすごく好待遇な気がしてきた。

 

「土の魔道具とか、どうですかね!あとは魔導線をもらうとか!そしたら自力で地中に埋めちゃえるかも」

 

 ライチの思いつきをしばらく受け止めて考え、アルフィアーナはその白く滑らかな眉間を少し寄せて、険しい顔になった。

 

「飛車ですら、借りられるかどうか怪しいですわ。一旦、飛車だけにしてみませんか? いきなりたくさんを要求すると、怪しまれて飛車すら貸し出されなくなるかもしれませんし。それに、例え魔導線を地中に埋められたとして、本当に父性が魔力と同じように働いて、魔導鉱ができて、土地の命の力として機能するかは……正直五分五分ですわ」

 

「た、確かに!」

 

 おっしゃる通りである。なんと頼もしいアドバイザーだろう。さすが王様のお嫁さんを目指していただけある。なんならもう全てを丸ごと任せたいくらいだ。

 

「飛車を貸して欲しいって、え〜と、なんだっけ、ルキ……ルキディウス、さんに、返事を書きます!」

 

「そうですわね。筆記具を取ってきますわ」

 

 鐘楼からサッといなくなったアルフィアーナが、すぐに戻ってきて細い金属ペンを差し出してくれた。

 ライチは木札を裏返し、ゴリ……ゴリ……と力いっぱい返事を書き始めた。

 

(硬っ……!)

 

 柔らかい木なので頑張れば跡は付くものの、かなりの筆圧が必要だ。慣れていないライチは、数文字で親指の付け根がつってしまう。

 

 右手の先をブンブンと振りながら、なんとか書き上げた。

 

 

『ルキディウス様

 

 昨日はお時間をいただき、ありがとうございました。

 また、物資についてのお心配りを賜り、誠にありがとうございます。

 生産体制を整えるにあたり、物流面についても多角的に確認したいと考えております。

 つきましては、城の飛車を一台お借りできませんでしょうか。

 乗り手につきましては、魔力組合で手配する予定です。

 ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

 

 ライチ』

 

 

「……よし」

 

「よしっ、ではありませんわ。貴族宛の書き方には全くなっていないではないですか」

 

 すかさずアルフィアーナからツッコミが入った。横でずっと見ていたのに、ここまで書き上げてから言うなんて、なかなかいい性格をしている。

 

(リーマン風に書きすぎたか?)

 

「……首が飛びそうな感じに、失礼だったりします?」

 

 こわごわと確認するライチに、アルフィアーナは首を振った。

 

「失礼ではありませんわ。内容は伝わりますし、このままで問題はないかと思います。下町らしくもなく、富裕層らしくもなく、どことなく歪に仕上がってはいますが」

 

(いびつ!)

 

 リーマン文化は、中世西洋貴族には歪。今日の新しい学びだ。神様翻訳が悪さをしている可能性だって、まだ残されているし。

 

 お墨付きをもらって安心したライチは、いそいそと木札を戻し、バインダーを閉じる。

 

「…………」

 

 ――ふよっ ふよっ

 

「……あれ?」

 

 風信は帰らない。ライチの上で浮いたままだ。

 

「何これ……ずっと付いてくるのか?」

 

 鐘の下をうろうろと動いても、付いてくる。なぜだ。ルキディウスの所に帰るのではないのか。

 

 子ガモを連れた親ガモのようなライチの様子に、アルフィアーナが小さく吹き出した。

 

「ふふっ。……送り返すには、再度ギルドカードを当てるのですわ」

 

「おお、なるほど。開くときと、“帰っていいよ”と閉じるときの、両方にギルドカードがいるんですね」

 

 ライチが言われるままに噛んだギルドカードを当てると、風信は、待ってましたとばかりにふわりと向きを変え、鐘楼を飛び出して飛んでいった。

 

「便利だなぁ……」

 

 ガラケー時代のメールの送信感覚に似ている。どこにいても電波に乗せて手紙を送れる、あの感覚。こちらでは、手書きが飛んでいくアナログファンタジーなのだが。

 

「城から送信された物が返る場合は、基本的に本人の近くへ返るので、タイムラグが小さいのですわ。

 逆にこちらから送る場合は、城の受信室へ全て届くので、検閲などを通して、やりとりには結構な時間がかかりますの。

 今回の返事は、すぐに来るかもしれませんわね」

 

 なんて話していると、本当に五分も経たないうちに、再び風信が戻ってきた。

 

「本当に来た!」

 

(うわぁ、飛車、借りられるかな?!)

 

 ほとんどダメ元だ。借りられたらラッキー!

 

 前回よりさらになぐり書きの様な急ぎで書いた字の木札には、

 

『魔力持ちを雇って城まで取りに来れば、気の済むまで飛車を貸し付けよう。

 この証を魔道具管理所と魔力組合へ提出するように。

 宰相 ルキディウス』

 

のような内容が書かれていた。

 

 確かに、バインダーには、木の許可証が二枚入っている。

 

「仕事が早すぎる……」

 

 思わず呟くと、アルフィアーナが苦笑した。

 

「これは……優しさというより、『必ず成功しろ』という圧力のように感じられますわね……」

 

「ですよねぇ……」

 

 ライチは乾いた笑いを漏らした。

 

 魔力持ちと、飛車まで貸してもらえるとなれば、もう後戻りはできない。

 

 ライチは急ぎ、木札の裏に、受け取った旨とお礼を書いて、返送した。

 

 二枚の許可証を服の中に大事にしまい込む。

 

「魔力組合と、魔道具管理所に行かなきゃ!……アルフィアーナさん、ご一緒に、」

 

 一瞬だけ期待して顔を見る。彼女の白が、ライチの視界を埋める。

 

 アルフィアーナは、静かに首を横へ振った。

 

「申し訳ありません。修道女は大聖堂の外へは出られませんので……」

 

「で、ですよね……」

 

 見る気はなかったのに、額の黒い魔石が目に入ってしまい、それとなく目を逸らした。

 

 王妃を目指していたような人が、一生を修道院で過ごすとは、どのような気持ちなのだろうか。歴史的には聞いたことのある話だが、ライチには想像もできない。

 

「……魔力組合は貴族街に入ってすぐにあります。門番に許可証を見せれば、あとは自動的に進むかと思います。その後は、そこで雇った魔力持ちに案内してもらって、城の魔道具屋……魔道具管理所に行くとよいと思いますわ」

 

 アルフィアーナは心配そうに、ライチの動きを提案してくれた。

 

「“貴方に、神の光が降り注ぎますように”」

 

 アルフィアーナが祈ってくれた別れの挨拶に、世界はキラキラと輝くが、ライチの心は不安でいっぱいだ。

 

(めっ、めっちゃくちゃ、心細い……)

 

 アルフィアーナ無しに、魔力系のことをこなすなんて。

 ……しかし、ライチにはどうにもならないことを嘆いている暇はない。比喩ではなく、首がかかっているのだ。

 

(まずは飛車を借りて、魔道具が使えるか確認!そのあたりを上手く手がかりにして、大量生産を叶えるぞ!)

 

 ライチは足早に大聖堂をあとにした。

 

 

 

 

---

 

 

 

 貴族街に向かうならば、まずは身支度を整えてもらわねば。

 

 ライチはプルデリオの屋敷へ戻って事情を説明し、着替えなどをお願いしていた。

 

 『一人で貴族街へ向かうのはさすがに心細いので、誰か慣れた人に付いてきてもらえないか……』と恥をしのんで使用人に相談をしていると。

 

「では、私がお供いたしましょう」

 

 そう名乗り出たのは、たまたま屋敷にいた、老執事フィデリスだった。

 

「フィデリスさ〜ん!!た、助かります!」

 

「今朝のレシピ代をお支払いに来たところで、お役に立ててよかったです」

 

(あ!領主様用に考えたレシピ代!ラッキー!)

 

 なんと心強い申し出だろう。フィデリスがいるならば安泰だ。

 

「どうぞよろしくお願いします」

 

「ちょうどこの後、貴族街に用事がありましたので、お気になさらず」

 

 にこりと上品に微笑むフィデリスが頼もしい。

 準備を終えた二人は、お金のやりとりを終え、城へ向けて歩き出した。

 

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