パパは異世界ATM   作:taniko

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第117話 昇降場

 

「――手続きは全て完了しました。係員が昇降場までご案内します」

 

(昇降場?)

 

 いつも通り、漢字は不思議と伝わった。小工場ではなく、昇降場。もしかして、字面的に、例のエレベーターではないだろうか。

 

 物々しいネーミングに、ライチはそわそわと期待に胸を膨らませる。

 

「私が案内しますね。こちらへどうぞ」

 

 受付の人とは別の、緑の魔石の係員が現れた。

 部屋の奥の面にある、受付カウンター横の扉へと通され、窓のない廊下を歩き始める。

 

 

 ――…………

 

 

 壁の向こうから、何か物音がしている。石壁を抜けてくるなら、結構な音量だろう。

 

「音が気になるのか?」

 

 ライチの様子を見て、フガークスが声をかけてきた。

 

「この壁の向こうには、魔道具の研究所と工房がある」

 

 歩きながら、壁をコン、とノックする。

 

「設備は最高なんだけど……好き勝手に研究できる場所じゃないんだよなぁ」

 

 フガークスの残念そうな言葉に、係員が前からちらりと目線をよこす。

 

「でも、領内最高峰の研究ができますよ。……まぁフガークスさんには向いてないと思いますけど」

 

 フガークスと案内の係員は知り合いだったようだ。わざわざ言わなかっただけで、受付の人とも知り合いだった可能性もある。

 

(そりゃそうか。魔力持ちなんだから、魔力関係の場所で働くよな)

 

 フガークスにはホームなのだと思うと、幾分か緊張感が和らいだ。

 

「そう、向いてない。……でも、設備と物資はほんと最高……。今行き詰まってるやつも、ここで研究できたらなぁ」

 

「あっちは万年金欠の、ボロ……いえ、成熟した施設ですもんね」

 

 二人はわりとよく話す仲のようだ。

 一日一人百万円も取っていて、金欠でボロボロになるとは……。魔道具研究はものすごく金食い虫なのかもしれない。

 

 どことなく二人の会話には入りづらく、ライチはふむふむと聞き入りながら無言で歩き続けた。

 

 

「着きました。この風騎で地上に行って待っててもらったら、別の係員が飛車を持ち上げて持ってきてくれますよ」

 

 係員がライチに説明してくれる。

 

 廊下の終わりは壁になっており、右にある扉のない出入口の横に、金色の円盤と金色の線が見えた。魔導盤と魔導線だ。

 

「おおっ、エレベーターのボタン!」

 

 上下ボタンではなく円盤だが、配置と役割が完全にエレベーターなので、思わず声に出してしまった。

 

 係員はライチの言葉はスルーして、円盤に触れた。ライチが飛車を浮かせた時のように、円盤が光る。

 

「風騎の呼び出しを見るのは初めてですか? 昇降用のやつは、こうして呼び出せる構造が多いですよ。風騎が少なくて済みます。

 壁がなくて昇降の筒が確保できないところは、また別ですけど」

 

(そうそう、“風騎”だ)

 

 壁がないところでの昇降……城の中庭のような場所のことを言っているようだ。

 

「はい、来ました。乗ってください。……上げます」

 

 深く考える前に、T字の棒がついただけの床面が下から上がってきた。ライチも見たことのある形だ。

 三人でその板の上に乗り込み、係員が金ラインのT字の操縦桿に手を触れると、床面が上に上がっていく。

 

(おぉぉ……!エレベーターより地に足がつかないというか、ふよふよする感じというか)

 

 エレベーターは箱を紐で引き上げているのだから、感覚が違うのも納得だ。

 

「――はい、地上です。降りてください」

 

 風騎の通り道の天井は木の蓋でふさがれており、係員が手動で開く。穴の中も暗くはなかったが、急に飛び込んできた日光に、ライチの目は眩んだ。

 初めての魔道具搭乗を味わう暇もなく、あっという間に、地上に着いてしまった。

 

 風騎から降りて地面を踏み、周りを見る。

 

 正面とは城の見え方が違う。廊下を歩いているうちに、城の裏にでも来ていたのかもしれない。

 

「しばらくお待ちください」

 

 

 係員は、開けた場所へ歩いていく。おもむろに腰のバッグから、先の尖った何かを取り出すと、地面に突き立てた。

 

 突き立てた場所から、係員の前側に向かって、緑の光が地面をジグザクに走りだす。宇宙船のメカニックなハッチのように、台形の凹凸がパズル的に噛み合っているような形だ。

 

 線は十メートルほど伸びたあと、今度は左右に分かれて円を描き始めた。

 

(ま、魔法だ!これはもう魔法!)

 

 二本の光の道が、係員の突き立てた何かと繋がった、その瞬間。

 

 ――ガゴン!

 

「わっ!」

 

 突如地面から鳴った大きな音に、反射的に声が出る。

 

 

 ――ゴ、ゴ、ゴゴゴゴ……

 

 

「……地、震?」

 

 地面の奥から、振動とともに低い音が響いてきた。日本人のライチには、震度ニくらいの揺れに感じてしまう。

 

 

 ――ズ、ズ、ズ、ズズズズズ……

 

 

 巨大な板状の岩が、土や草を乗せたまま、ゆっくりと滑り始めた。係員のいる場所を支点にして、まるでワニの口が大きく開くように。

 

「う、うわ、わぁ……!」

 

 目の前でどんどん地面が割れていく。開いた先にあるのは、闇。下は空洞になっているようだ。

 

(ロボットものにある、地面が開いて出てくるやつだ〜!!)

 

 脳内に重低音の、“ズン、ズン、ズン、ズン、ドンドン……”と、使徒を倒しに行く残酷な出撃シーンのBGMが流れ始める。

 

 異世界に来て、過去一番、テンションが上がってしまっているかもしれない。

 

(発進!とか、出撃!とか、言って、飛び出てほしい……!)

 

 ライチは目を輝かせているが、係員は地面に片膝を付いて魔力を流したまま、なんてことない顔をしている。

 

 もちろんフガークスも暇そうに立っている。

 

 これが、彼らの日常なのである。

 

 ――ズズズズズズ……

 

 岩盤の下にあったのは、大きな四角い空洞だった。

 

(へぇ、蓋は円なのに、中は四角なんだ)

 

 フィット感が微妙に気になってしまったが、便宜上、そうなっているようだ。

 

 ――ズズズズ……

 

 穴の底は見えない。

 ただ、四角い穴の角には、いくつもの淡い明かりが見えている。滑走路の誘導灯のように。

 

 ――ゴ……ウン……

 

 音が止まった。岩盤のスライドも止まっている。

 

 ぽっかりと空いている大穴を見て、ライチが呆然としていると、フガークスが笑った。

 

「ははは。最初見たとき、驚くよな。俺もガキの頃、腰を抜かしたわ」

 

 ライチが小刻みに頷く。

 

「ほんとほんと、地面が割れるなんて、ビックリです。あんな重いものを動かして、係員さんは大丈夫なんでしょうか?」

 

 驚きのあまり、小学生のような語彙になってしまう。

 

 少し離れていたが、ライチの声はしっかり聞こえたようだ。スタスタとこちらに歩きながら、係員が答えてくれた。

 

「はは。この魔道具は接地してるんで、風魔道具で重いものを浮かせる……とかより、全然楽なんですよ。

 岩盤も土、乗っかってるのも土なんで、両方に魔導効果を出せるから、鳴ってる音ほどは、摩擦感がないんです。面白いでしょ」

 

 係員が楽しそうに饒舌に説明してくれる。

 

 それもそのはずだ。ここにいるのは、魔力持ちのなかでも、魔道具の管理に回されているような者たちだ。みんな研究オタク……なのかもしれない。

 

「土属性同士、とかな、自分の魔石に合った属性だと、そんなに抵抗がなくて、動かすのが楽なんだよ」

 

 フガークスが付け足してくれる。

 

 なるほど。額に土の魔石を持つ人が、風の魔道具で地上に上がってくることもできるが、土の魔道具で地面を開く方が、楽に最大効果を発揮できる、という仕組みらしい。

 

(個性というか……体質だな。ちょうど四属性あるし、イメージは血液型みたいなものかな?)

 

 まぁ、ヒトの血液型では、発揮できる力が変わったりはしないのだが。

 

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