パパは異世界ATM   作:taniko

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第119話 口外禁止

 

「はい、到着」

 

 器用に荒地に着陸して、フガークスが従者席から振り返った。

 

「ありがとうございます」

 

 ライチは、ふーーー……、と細く長く、息を吐いた。

 

(フガークスさんが、全てを話していい人かは分からない。

 次の人がもっといい人なのか、逆なのかも分からない。こればっかりは、誰になったって、他言無用の誓いを立ててもらうしかないよな……)

 

 誓いの存在は、いつもライチの心の支えになっている。神様が約束を見張ってくれる、安心感。

 

(誓いを立ててでも聞きたいって、そう思ってくれれば……――いや。本当に自分で言う通りの研究馬鹿なんだとしたら、俺の匂わせ方によっては、是が非でも聞き出そうとするはず。

 そう思えば、やっぱりフガークスさんが適任だ)

 

 なにせ、魔力ではないもので魔道具が動くのだから。彼ならばきっと、この話に乗ってくれるはず。

 

「あの、魔力を使うお仕事ではないんですが……降りて少し、俺の話を聞いてもらえませんか?」

 

 その言葉に、フガークスは、黒目がちの双眸でじっとライチを見つめたまま、小首を傾げた。

 

「半日に十万Gもかけて、“話”? ……いいね。聞こうか」

 

 フガークスの目には期待の色が見える。

 

 飛車の隣に立って向かい合った二人の間を、荒地の乾いた風が通り抜けていく。

 

「えっと、俺と誓いをして欲しくて」

 

「誓いを?」

 

(うわ、間違えた。初手でしくじった)

 

 なにが、“俺の匂わせ方によっては”だ。匂わせるどころか、匂いの元を強引に鼻の穴に突っ込んでしまった。

 

「あ、違う、いや、違わないんですけど、そう、えっと、俺は、内緒の話がしたいんです」

 

「ふふっ、いいね。内緒話か」

 

 しどろもどろになるライチの様子に、フガークスがクスクスと笑い始めた。

 

「俺って、実はちょっと変わってて、その変なところを、一緒に飛車を使うと、赤裸々に見られちゃいそうなんです。ちょっとフガークスさんの研究と近いところがあるかもなんですが……。それを、他の誰にも伝えないでほしくて」

 

 研究と近い、と聞いて、フガークスの片眉がピクリと上がる。興味を持ったことが分かりやすい。

 匂わせることには失敗したが、ようやく、伝えたいことを話し始めることができてきた。

 

「へぇ。変わってる、ねぇ」

 

 フガークスが、じぃぃ……と、穴が空きそうなほどライチを見つめる。

 

「枠にはまれないというか、はい。俺の変なところも、飛車を使って領地を良くする方法も、他の人の前では、見なかった、聞かなかったことにしてほしいです」

 

「領地を良くする?」

 

 ライチは荒地に視線を落とした。

 

「俺、故郷は思い出せないんですけど……ここの領地の人にはすごくお世話になってるんです。だから、領地を豊かにして、恩返しがしたいです」

 

 この言葉はするすると出てきた。何の後ろめたさもない、心からの言葉だからだろう。

 

「領地を豊かに、ねぇ……」

 

 カラスのような男が、ニヤリと笑った。

 

「反乱分子とか、飛車でプスッと殺して回るつもりかな?」

 

「ええぇ〜〜?!」

 

 何をどうしたらそうなる?!

 ……あっ、他言無用の誓いを立てさせるからか!

 

「違います違います違います!他言無用は、そういうことじゃなくて……俺の事情を、多くの人にあまり知られたくないだけですから」

 

 ライチの説明に、フガークスは片方の眉と口角を上げて応えた。

 

「誰も傷つかないなら、いいよ。人を不幸にする魔力の使い方には、俺は加担しないから。甥っ子姪っ子に顔向けができない」

 

(お、おぉ……!)

 

 最後の一言で、ライチはフガークスと固く握手をしたくなった。 

 

(やっぱり、子どもを可愛がっている人は、同士だ!ぜひ握手をおねがいします……!)

 

 我が子がいるとは聞かなかったのに、すでにご立派な父性をお持ちである。

 

「怪しい魔力の使い方をする気だとこっちで判断したら、協力ストップで」

 

 フガークスが続けた言葉に、ライチは頷いた。

 

「勿論です。俺も、遠くに住む我が子に知らせられないようなことは、絶対にしません」

 

 例え同じ世界にいなくても。

 

(俺は、ルノとレントとロクの、父親だからな)

 

 我が子の顔が曇るようなことは、しない。

 

「契約成立かな? “内緒”の内容は分からないけど、先に誓っとこうか」

 

「ありがとうございます。では、“ライチに関することで、ライチから口外するなと言われた内容は、ライチの許可なく他者に伝えない”で、どうでしょう」

 

「いいね」

 

 ライチの提案をフガークスが快諾した。

 

 すぐに誓いが行われる。

 

 ふわりと胸が温かくなったので、神様に届いたようだ。

 

 これで、フガークスの前で多少の無茶をしても、寄ってたかって解剖されることはないだろう。ほっと一安心である。

 

「で? その“研究に近い内緒”、早く教えてくれよ」

 

 フガークスは興奮した面持ちで、ずいっとライチに一歩近づいてきた。

 

「見せるのが一番手っ取り早いんで、ちょっと一緒に飛車の従者席まで来てください。今から見せるものは、口外なしで」

 

 いろいろと説明したいこと、お願いしたいことはあるが、まずは大前提からだ。

 

「うん」

 

 フガークスが、わくわく、といった様子で従者席にライチと横並びに座る。

 

「知り合いの魔力持ちの人に言ったら、“魔石もないのにそんなばかな”と驚かれたんですけど……その、見た感じはそこまでパッとしないです、なんかごめんなさい」

 

 あまりの期待のされように、ライチは長めの前置きをしてしまう。

 

「いいから、勿体つけないで」

 

 野性的な目が怖い。黒目が大きくなっているように感じる。従者席が狭くて近い。

 

 

 ――ふーーーー……

 

 深呼吸をする。

 

 ライチは、城での出来事を思い出しながら、操縦桿の中央の金の円盤に手を置いた。

 

 どんなときだって、彼らを思えば、こんなにも。

 

(……ルノ、レント、ロク)

 

 呼びかけるだけで、会いたい気持ちが溢れる。

 

 魔導盤が金の光を放つ。

 

「ぇ」

 

 フガークスの声が漏れた、その時。

 

 ――ふわ

 

 飛車の車体が地面から浮いた。ほんの十センチほどだろうか。暴走してはいけないので、すぐに手を離す。飛車はゆっくりと着地した。

 

「…………」

 

 隣にいたフガークスの動きが止まる。

 

 いつもなら、何が起きても「へぇ」と笑って済ませそうな男だった。

 

 しかし今は違う。

 

 目が大きく見開かれているのが、長めの前髪の隙間から見える。

 

「……今の、何? 額の魔石はどうした? 外せたのか?」

 

「元々ないです」

 

「は? 魔石のない魔力持ち?」

 

「いやそれが、実はですね、神様のお告げで、『想いの力が魔力みたいに使えるよ〜』、と言われてまして」

 

「は?」

 

「口で説明するのが難しいんですけど……フガークスさんみたいに、身体にあるエネルギーを送り込んでるんじゃなくて、心に、ある想いをいっぱいにすると、なんか勝手に魔力的なものが流れ出しちゃってですね」

 

「はぁ?」

 

「お城で、たまたま飛車に触れたときに、こうやって浮いたんで、フガークスさんには、うまく操作できるように、練習に付き合ってほしくて」

 

「ちょっと待てちょっと待て」

 

「はい」

 

「一から十まで何一つ理解ができない。まずその、ある思いってのはなんだ。ここだけ隠されても混乱が加速するだけだ」

 

 フガークスが頭を抱える。

 

(それもそうか)

 

 もうこうなったら、アルフィアーナのように巻き込み型で、しっかり説明させてもらおう。

 

「じゃあ自己紹介からしますね。俺の、最初の記憶が、スピネラ村という、この領地の農村でした」

 

 ライチは、転移とスキルのことは含めずに、農村からこれまでのことを、ざっくりと“記憶がある部分”として、説明し始めた。

 

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