プレッシャーが、鉛玉のように内臓に負荷をかけ始めたその時。
救いの声がライチに降り注いだ。
なんてことはない口調の、アルフィアーナの声だ。
「そうそう。お召し物のお話で全て頭から飛んでしまっていましたが、わたくしも、昨日あれから何かいい案はないか考えて、一つ試したいことを思いつきましたの」
(アルフィアーナさん……!!)
大量生産を叶えよと命令されて、孤軍奮闘で案を考えているライチ。
フガークスには軽く流され、プルデリオには更に仕事を増やされ、もはやアルフィアーナしか、拠り所がないのだ。
「一般的に、魔導線と魔導鉱が地中にあれば、魔力が土地に流せますわよね」
「あっ!!」
アルフィアーナの一言で、ライチはピーンと閃いた。
「そうか。魔石を砕いて粉にして撒いたら、荒れ地に魔力を届けられたりしませんかね?!」
(なんで思いつかなかったんだろう!)
埋まってないなら、振りかければいいじゃない。
ライチのナイスな発言に、アルフィアーナは静かに首を横に振った。
「わたくしも考えましたが、魔石粉に魔力を伝えるのは、難しいでしょうね。多くの研究家が、魔石を砕いて、効果範囲を広げることを試してきましたが、成功には至りませんでした」
「そっかぁ……」
良い案だと思っただけに、ライチは肩を落とす。
「ふりかけ作戦、簡単でいいなと思ったんだけどな」
「そこなのですわ」
名探偵アルフィアーナのような声を出して、彼女がニヤリと笑う。
「魔導鉱は魔力を流し続けた土地が変質したもの。
魔導線は魔導鉱を加工したもの。
魔石も、魔導線と同じく魔力は流れる。
つまり、魔石粉か、魔導鉱粉を、土地に振りかければ、ほとんど地下に大魔道具を埋めているような状態になる。
――しかし、ふりかけた点と点が繋がっていないと、粉のままでは隙間があり、魔力は伝達しない……」
もったいぶるアルフィアーナに、ライチはそわそわとする。
(そ、それは前に聞きました……!)
「だから、粉でなくせばよいのです。
粒と粒を、つなぎでつないでしまう作戦は、いかがでしょう?」
「ほ、ほほう。して、その、つなぎ……とは……」
そんなつなぎがあるなら、あちこちに普及していそうだ。
「これが、昨夜のひらめきですの。ライチさんが、肥溜め池のものを使ってクラフトなさってると聞いたのを思い出し、ピンときたのですわ」
「え、肥溜め池? スーパーバクテリアくん?」
「“魔石は身体組織”。それなら、つなぐものも、“身体組織”にすればよいのですわ」
「ま……まさか……!!」
「そう、そのまさかです」
(魔力持ちの身体や、身体から出るもので、粉を繋ぐってこと?!)
「髪や骨は……」
「悪くはないけど使いにくいですわね。つなぎにはならなさそうですわ」
「血は……」
「もちろん却下」
「涙や唾液……」
「集められますか?」
「残っているのは……」
「…………」
「…………」
二人は同時に、同じ結論へたどり着いた。
「「排泄物」」
ライチがつい吹き出す。
「またうんちですかぁ。まぁ子育ても、食事とうんちと服の世話ばっかみたいなところ、あるもんなぁ」
そんな愚痴のようなジョークを言った、その時だった。
《父性クラフト パパサーチ 起動》
「!!」
「悪くはないですわよね? これならば、もしかしたら、」
《[新規項目追加]:人工魔導体《魔力持ちの生体由来物質仕様》》
「土地に地上から魔力を送れるかもしれません。我ながら悪くない思いつきですわ」
「ちょ、ちょちょちょ、アルフィアーナさん!きたっ!脳内の声!きてます!」
《【クラフト方法】》
「ええっ?! 今まさに、神のお声が?!」
(情報が混じるっ!)
アルフィアーナが即座に口を閉じる。
ライチは必死に脳内の声に集中した。
《・魔導鉱、または魔石を粉末化し、“魔導粉”を作る。
・魔力持ちの生体由来物質を、スーパーバクテリアくんによって、“魔導粘土”へ変換する。
・魔導粘土を水で洗浄し、付着したスーパーバクテリアくんや不要なヘドロを取り除く。
・魔導粉と魔導粘土を練り合わせ、自由に成形する。
・成形したものに魔力と神聖力を込め、“人工魔導体”へと硬化させる。
【基本仕様】
・人工魔導体は、魔導鉱や魔石と同様に、魔力を通す性質を持ちます。
・硬化後は、硬く、しなやかです。
・鋭利な刃物で切断できます。
・硬化前のものを使えば、延長・接続ができます。
・神の加護を受けた人工魔導体を地表に配置することで、通常、土地の生命力にはなり得ない父性エネルギーが、緑化に活用できるようになります。
・神の加護により、通常の魔導線より、エネルギー伝達率、エネルギー放出率、周囲のエネルギー保有率が飛躍的に上昇します。
【ご注意】
・百年単位で長期間使用すると、周囲の土壌とともに、魔導鉱化します。
・スーパーバクテリアくんと反応させる段階で通常汚物が混ざった場合、魔導粘土とヘドロに分離されます。純度が低下するため、きちんと洗い流し、人工魔導体に練り込まないようにしましょう》
《パパの育コツメモに自動保存されました》
ライチは、脳から消えない情報の海を、何度も咀嚼しながら呟いた。
「終わりまし、た……」
「まぁ、神との交信が終わられたのですね……!奇跡の瞬間を目の当たりにしてしまいましたわ。興奮がおさまりません……!」
(みんなを興奮させてしまうヴェル神様……)
フガークスのようにギラつく目を、理性で覆い隠しながら、アルフィアーナは前のめりになって詳細を聞いてきた。
「それで、内容は」
「クラフト方法の前に、驚きの大前提が分かりました」
「大前提? それはなんですの?」
興奮しすぎて顔が近い。魔道オタクが強火だ。
「アルフィアーナさんが、『魔力のように生命エネルギーになるかは五分五分』、と言ってたのがピタリ正解でした。父性エネルギーは、そもそも生命エネルギーにはなれなかったみたいです」
「まぁ……それでは、土地の緑化のことを考えても、無意味だったというわけですわね」
ハの字眉で肩を落とすアルフィアーナに、ライチは否定の意味で手を振った。
「いや、それが、今降りてきたのが“人工魔導体”というクラフトなんですが、それに父性エネルギーを流し込んだら、魔力と同じように生命エネルギーとして使えるらしいんです。……神の祝福を受けているから、ですって」
「神の、祝福!」
アルフィアーナが、綺麗な目をまん丸にした。
「……これまで、下町に合わせて“ライチさん”とお呼びしていましたが、やはり、“ライチ様”とお呼びすべきお方なのでは……」
かしこまるアルフィアーナに、ライチはギョッとした。
「やめてくださいよ。アルフィえも……じゃなくて、アドバイザーのアルフィアーナさんがいてくれないと、俺なんてほんとポンコツですから」
「えも……? ライチさんが少々世間知らずなのは、間違いありませんが」
慌てすぎて、脳内のお助けキャラの呼び方がポロリと出てきてしまったが、アルフィアーナはスルーしてくれたようだ。
「それで、どのようなご啓示だったのですか」
「えーっと、魔石とか魔導鉱の粉を、アルフィアーナさんが思いついた、魔力持ちから出たもので繋ぐって、そのままのやり方でした」
「まぁ……!神にわたくしの思いつきが……!」
アルフィアーナが感激している。確かに、ふとした思いつきを呟いたら、神が啓示をしてきたんだから、ハイテンションになってしまうのも無理はない。