「違うのは、その魔力持ちから出たものを、スーパーバクテリアくんに通して、ヘドロ……じゃなくて、魔導粘土ってものにするところくらいかな?
そもそも、できあがりも人工魔導体って名前なんで、本当に、地下にあるらしい大魔道具の魔導線と魔導プレートで起こっている現象を、地表で再現する……ってクラフトみたいです」
「神のおっしゃる通りですわ!古代人が地下へ大魔道具の魔導線を埋めたのは、敵に見つからないためたったと言われています。
その理論なら、地上に大魔道具を作ったっていいんですわよね」
「あれ?」
ライチは、そこまで聞いて、ふと首を傾げた。
「それだったら、元から魔導線を買うとか貰うとかして、荒地に敷いとけば、あっさり大量生産問題は解決してたのかぁ」
「いえいえ」
アルフィアーナが、すぐさま首を振る。
「父性エネルギーは土地の命の力にはならないと、神が仰ったばかりではないですか」
「あ!そうか」
言われてみれば、その通りだった。
魔導線を用意したところで、ライチが持っている父性エネルギーを流しても、土地を豊かにできない。
「あ、でも、魔力持ちの人とかの魔力をもらえば……」
「アゼルシルバ領は下位領地ですので、貴族も少なく、魔力は全く余っていません」
アルフィアーナがゆっくりと首を振る。
「領地全体に行き渡らせるための魔力は、城の大魔道具へ送るだけで精一杯ですわ。河港の自分達の食糧。山全体の生活資源……。荒地へ追加で送り込める余地はありませんの」
「なるほど……」
つまり、魔導線を敷くだけではダメ。
魔力も足りない。
だからこそ、父性エネルギーを使える人工魔導体が必要だったわけだ。
ライチは、さっき頭の中に流れ込んできた情報を思い返した。
「あ」
「どうしましたの?」
「そういえば、クラフトの説明に……」
記憶を探りながら、ゆっくりと言葉にする。
「『神の加護により、通常の魔導線よりも、エネルギー伝達率、エネルギー放出率、周囲のエネルギー保有率が飛躍的に上昇します』ってあって」
ライチは先ほど降りてきた内容を頭の中で思い浮かべた。
「軽い思いつきですけど、あちこちに人工魔導体を敷いていけば、もしかしたら今までの大魔道具より、少ない魔力で土地が豊かになるかもしれませんよね」
言ってから、ライチ自身も少し考える。
(鉄線より銅線のほうが、電気をよく通す……みたいな話だもんな? 取り替えなきゃ損だよな?)
もちろん、魔力と電気が同じ仕組みだとは思っていない。
ただ、同じように“通すもの”にも性質の違いがあるのだろう。
「…………」
アルフィアーナが固まっていた。
「アルフィアーナさん?」
「なんですって……?」
ゆっくりと、彼女が顔を上げる。
「先ほどのお言葉……もう一度お聞かせいただけます?」
「え?」
「『通常の魔導線より、少ない魔力で土地を豊かにできるかもしれない』と?」
「あ……いや、俺が勝手にそう思っただけで――」
「その根拠となる神のお言葉を、もう一度!」
アルフィアーナが食い気味に遮った。
「えーっと……」
頭の中に残っている言葉を、一つずつ思い出す。
「『エネルギー伝達率』。それから『エネルギー放出率』。あと、『周囲のエネルギー保有率』が飛躍的に上昇する……ですね」
「…………」
アルフィアーナの目が、みるみる輝いていく。
「ライチさん」
「はい?」
「今一度、神のお声を最初から、一言一句逃さず、全て通して、お聞かせくださいませ……!」
さらに前のめりになった。顔が近い。
完全に、魔道オタクの目だ。
「わ、分かりましたから!」
フガークスはともかく、年頃の娘さんがこの距離にいるのは心臓に悪い。
ライチは、少し距離を取ってから、もう一度クラフトの内容を頭の中で辿った。
そして、アルフィアーナが納得するまで、何度も繰り返し説明することになった。
――ようやく彼女が口を閉じた頃には、すっかり興奮も落ち着いていた。
「本当ですわね……」
アルフィアーナが、ぽつりと呟く。
「神の仰る通りなら……」
その視線が、遠くを見るように細められた。
「全ての大魔道具は、作り替えられるべきですわ……」
「えっ、全て?」
思わずライチの声が裏返る。
「領地の大魔道具は王国の管轄ですから、王族も巻き込んで――という話になりますけれど」
そこで、アルフィアーナは小さく息を吐いた。
「まあ、絵空事ですわね」
「えっ、絵空事なんですか?」
ライチはパチパチと瞬きをする。
「別に、地表に粘土で作った、硬くてしなやかなコードが敷いてあっても、誰にも何にも、バレなくないですか?」
「バレる、バレない以前に、王国では違法なことで――……」
アルフィアーナの言葉が止まった。
「……は、ないですわね?」
彼女が考え込む。
「本当ですわ。地表に置く分には、大魔道具に一切触れていませんもの」
「ですよね?」
「つまり、王国の設備を改造するわけでも、破壊するわけでもない」
「じゃあ、置いてもいい?」
「法に触れる理由は……ありませんわね」
「おお」
思わぬところで、使用許可が下りた。
ライチは嬉しくなって、ぽんと手を打つ。
「グラキ……領主様に教えたら、喜ばれそうですね」
「喜ばれるのには、間違いありませんが……」
アルフィアーナの表情が、今度は少しだけ硬くなった。
「これは、あまりにも革命的なご啓示ですわ。世界がひっくり返ります。必ず。
本当に、神の仰る通りに、既存の魔導設備より飛躍的に高効率なのだとしたら、ですが」
「そこは多分、間違いないかと」
「でしたら、他者に伝える際には、細心の注意を払わなければなりません」
「……確かに」
ライチも頷いた。
最初は、ただ荒地を緑にしたかっただけなのに。
気づけば、とんでもないものを作ってしまったらしい。
(おかしい。魔道史に名前を刻みたかったわけではないのに)
そこまで考えて、はたと気づいた。
「これ、勿論考案者は、アルフィアーナさんですよね?」
「え?」
ライチの突然の言葉に、アルフィアーナの時間が止まる。
「排泄物とかで繋ごうよってアルフィアーナさんの案、そのままですもん。俺の発案では断じて無いですよ」
「え、ええっ」
他人事のつもりで、世界がひっくり返るぞぉと言っていたらしいアルフィアーナが、急にあたふたとし始めた。
「わたくしではなく、形にしたのはライチさんですわよね?」
「いや、俺はアルフィアーナさんの案を受け取った神様の言葉を、中継しただけなんで……百歩譲って、考案者は“アルフィアーナさんと神様”ですよ」
ここだけは断固譲れない。人の手柄を取ってまでして儲けた金を、家族に送る気はない。
「――分かりましたわ……発案者はわたくし、ということにさせていただきます」
「ですよね!了解です」
観念した様子のアルフィアーナに、ライチはサムズアップを送った。
アルフィアーナが、冷ややかな目でそれを一瞥する。
「……あとは、どうやって材料を手に入れるか、ですわね」
「そこですね。……今回もルキディウス様頼り?」
「そうですわね。魔石の粉や、魔導鉱の粉は魔力組合の方面からいただける可能性があるかもしれませんが、魔力持ち全体の排泄物となると……」
思案するアルフィアーナに、ライチは気になっていたことを質問した。
「貴族街にも下水溝ってあるんですかね?」
「ありますわよ。建物の裏を、普通にコロコロと流れています。あれが、ここまで悪臭を放つものだと知ったのは、ここに来てからですが」
(そうだ、貴族街は悪臭が消されるんだ。昔母親が「母さんのオナラは薔薇の香りだからいいの!」とよく言っていたけど、それのリアル版だ)
「多少生ゴミとかが混じっても、水洗いでヘドロとして落ちちゃうみたいだし、下水溝が下町に来るところで待ち構えて回収しても良いかもですけど……」
ライチは少し想像してみて、首を振った。
「無理か。お料理の下水とかも全部まとめて延々流れ出て来ますもんね。クラフトする場所まで運べる気がしないや」
「そうですわね。ここ下町にある便壺の周りに座る場所を作った箱型便器というものが、貴族街ではいくつも置かれています。その中身だけを樽などに集めさせてもらう方が、断然効率が良いと思いますわ」
「ルキディウス様に頼んで?」
「はい。……と言いますか、領主様のご許可を得て」