パパは異世界ATM   作:taniko

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第129話 送金方法

 

「じゃあ、今日の組合に払う代金を、もらっておくな。十万G。このギルドカードに送って」

 

 そうだそうだ。支払いだ。

 

 フガークスが取り出したギルドカードに、自分のカードを当てようとしたとき、ライチはフリーズした。

 

「――あ……あれ? 銀行でも、お屋敷でも、俺って、一度も自分で金額設定して、送金したことがないかも……」

 

 金額を入れたことがあるのは、ATMスキルだけだ。画面にタッチできるやつ。

 

「あぁ、たまたま引き去り金額が固定されてるところだけだったんだな」

 

 フガークスは嫌な顔一つせず、丁寧に使い方を教えてくれた。

 

「ギルドカードは、先人の叡智が詰まった素晴らしい魔道具だ。情報書き換え系といえば、たいてい土魔道具だ。砂鉄が動くのと同じような原理だな。

 裏面に“ # ”みたいな区切りの浅い溝があるだろ」

 

「あっ、滑り止めかと思ってたやつ」

 

「上から、123、456、789。下の真ん中のはみ出たところが0だ。0の両側は“送る”と、“受ける”。

 相手へ送金するか、相手から引き去るか、だな」

 

 十二の区切りで電卓のようになっているらしい。

 

(0の概念とか、大きな数字の概念とか、前の世界のこのくらいの時代より、発達してるよな。ギルドカードのおかげかな?)

 

「押し間違えたらどうするんでしょう?」

 

「順番にいくぞ。まず最初に、表面の残高の部分を強く押して反応させるんだ。そうすると、裏字が光る。

 裏の数字を強く押すと、表の残高の部分に、入力した数字が光るようになる。その表の入力した字を強く押すと、リセットだ」

 

「おっ……おおっ……ほんとだ!」

 

 ギルドカードを触れ合わせず、入力だけを練習する。

 

(タッチパネルじゃなくて、金属板を押し込むことで、砂鉄的な物が動くのを、土の魔石に感じ取らせてるのか。奥が深いなぁ)

 

 いちいち表に返して数字を確認しないといけないのは手間だが、現金でやりとりするより遥かにマシだ。魔道具開発をしているすべての人に、感謝である。

 

「――五万でいい」

 

「へ?」

 

 十万と入力し終えたライチに、フガークスは『ふっ』と笑って言った。

 

「初回は信頼度を上げるために金額が固定されてるだけど、あとは半日で五万Gずつにもできるんだ」

 

「そうだったんですか!やった!なんか、得した気分ですね」

 

 半日五十万円。半日百万円よりも、かなりお得だ。ラッキー。

 

「…………変わってるって言われる?」

 

「? 言われないですね。ごく普通です」

 

 五万Gを無事送金しながら会話する。

 

(え? 半日百万円が、五十万円になったら、誰でも喜ぶよな?)

 

 フガークスの感性はよく分からないが、ここは甘えておこう。

 

「それじゃ、今日は栄養のあるものを食べて、よく眠るんだよ」

 

(多分それは身体器官で魔力が生成されるときの休み方……!)

 

 労り方が甥っ子姪っ子相手のようで、ライチは微笑ましく思った。

 

「了解です。…………あっ」

 

 ライチは別れの挨拶で大切な用を思い出して、懐から一枚の木札を取り出した。

 

「そうだ、フガークスさん。一つお願いがあるんですけど」

 

 なんだ? という視線を受けて、言葉を続ける。

 

「これを、お城の宰相様まで風信で送ってもらえませんか? やり取りの内容は、見てもいいですけど、“口外禁止”で」

 

 木札には、先ほどアルフィアーナと話し合った内容が書かれている。

 

『魔力持ちの排泄物を肥料として利用することで、大量生産に繋がらないか試したい。

 また、魔石の粉や、魔導鉱の粉も、生産に役立てられるのではないかと検討中。

 どちらも、なんとか使わせてもらうことはできないだろうか。

 もしもらえるならすぐにでも取りに行くつもり』

 

 フガークスは木札を一瞥すると、軽く肩をすくめる。

 

「オッケー。魔力持ち由来の肥やしね。確かに効きそう。

 粉も、今は土に還してるから、普通にもらえそうだし。

 ……そか。俺のうんこもいるってことだよな」

 

「へ??」

 

 ライチは、目の前にいる男性が放った言葉を理解するのに、しばらく時間を要した。

 

(――!!

 ほんとだ!魔力持ちの排泄物で、一番手に入りやすいのって、フガークスさんの物じゃんか!)

 

 全くの盲点だった。

 

 しかし、お願いしようとして、モゴモゴと言い淀んでしまう。

 

「あっ、えっと、顔を知ってる人の排泄物を、個人が分かるような状態で受け取るは、ちよっとさすがに……」

 

(プライバシー的に、駄目だよな?!)

 

 検尿・検便でも、渡すときにこっそりと恥ずかしがっているライチだ。知り合いだと更に。

 

 現代人の感覚で遠慮するライチに、フガークスはあっけらかんと言い返した。

 

「何が? みんなその辺に転がしてるじゃんか。

 今度出すときには、何か別容器にためるようにするよ」

 

(そりゃそうか。犬の糞を拾って、おしっこを溜めて、窓から汚物を捨ててる下町の生まれなら、排泄物を欲しがる人に渡すなんてのは、日常の一部か……)

 

 自分の出した汚物を、わざわざ行き交う人に見せびらかしているような状況だ。道に出して見せるか、器に入れて見せるかの違いしかない。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「ピピだって、工房が買いに来るし、一緒一緒」

 

 フガークスがつけ足した言葉に、ライチは、それもそうか、と納得した。

 

(ピピ……ピーピー、おしっこの略か。日本語だとシーシーだから、シシ? うちは“チッチ”派だったなぁ。 自然と子ども言葉が出るなんて、甥っ子さんと姪っ子さんを、よっぽど可愛がってるのかな)

 

 本人にはあまり自覚がないのか、あまりにナチュラルに入り込んだ子ども言葉に、ライチですら聞き逃してしまうところだった。

 

(おしっこが出せた時の、「ちっち でたよ〜」。うんちが出せた時の、「んち でたよ〜」。

 ああ……可愛かったなぁ……)

 

 回想に浸るライチの横で、ファークスが淡々と話題を変える。

 

「あとは、風信な。送るのはいいけど、魔力組合に戻ってからになるし、こっちから送る分は城の受信室止まりだから、返事が来るまでは結構時間がかかるかもよ」

 

「みたいですね。聞いたことがあります。それで大丈夫です」

 

 ライチはキリっとした顔に戻って頷く。

 

「オッケー。じゃあ、また明日、同じ時間に」

 

「はい。フガークスさんこそ、今日は寝てくださいね。隈が怖いですよ」

 

 笑うライチに、フガークスはこめかみを揉んだ。

 

「研究に没頭してたら、五徹くらい余裕だろ?」

 

「すぐ死んじゃうんでやめてください……!」

 

 睡眠は大切だ。

 

「“タイムイズマネー”、ではありますけど、身体が資本ですよ!」

 

「“時は飛ぶ”か。時間は飛ぶもんじゃなくて、ただ過ぎていくもんだと思ってるけどな。研究してたら確かに“飛んで”いくけど」

 

(へ? 時は飛ぶ? 光陰矢の如し、的な感じかな?)

 

 時間を貨幣に見立てる言い回しは、ここにはなかったようだ。似たような意味に意訳されている。神様翻訳の興味深いところである。

 

「ま、できるだけ寝るようにする。じゃあ」

 

 そう言って、笛の音をさせながら、フガークスは飛んでいった。

 

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