パパは異世界ATM   作:taniko

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第94話 アドバイザー

 

「お……お役に立てたようで、何よりですわ。わたくしが聞きたかったことは、すべて聞けたと思います。個人的な質問に丁寧にお答えいただき、本当にありがとうございました。

 今後わたくしは、ライチさんのお話は一切聞かなかったことにして、この秘密は神の御元まで連れていきますので、ご安心ください。ご心配なら神にも誓えますわ」

 

 締めの言葉を紡ぐアルフィアーナに、ライチは咄嗟に声をあげた。

 

 

「アルフィアーナさん!」

 

 アルフィアーナが、ライチのその勢いに目を丸くする。

 

「魔力も神聖力も持ってて、貴族様であり、聖職者であるあなたに……俺の、この世界のアドバイザーになってもらうことは、可能でしょうか……!!」

 

「ア……アドバイザー??」

 

 言葉の意味は神様翻訳で通じるはずだが、何を言ってるのか、意味が分からないという様子で、アルフィアーナがたじろぐ。

 

「そうです! 俺……魔力も、魔石も、魔道具も、貴族も、神聖力も、聖道具も、聖職者も……何もかもこの世界のことが分からないし、分かる人のツテもなくて。

 でも、せっかくのスキルとエネルギーなんで、使わないと勿体ないじゃないですか。だから、知識を教えてくれたり、相談に乗ったり、さっきみたいにアイディアをくれる人、本当に貴重で……!

 これで忘れる、なんて言わないでもらえると、嬉しいです。ぜひぜひ、そのお力を貸してください!」

 

 女子高生くらいの年頃の女性だが、貴族の方だ。何が正解かは分からないが、とりあえず必死に頭を下げて依頼をする。

 

 貴族で聖職者。両方の立場を兼ね備えたこの人に全てが伝わってしまったのも、神様からの縁ではないかと思うほどに、貴重すぎるエンカウントだ。このまま逃しては勿体なさすぎる。

 

「力なんて……。……今のわたくしにできることなんて、たかが知れてますし……」

 

 彼女に、これまで様々なことがあったであろうことは、黒の魔石と、祈りの足りない貴族には現れないと噂の神聖石があることで、簡単に推測できる。何もできることはないと言いたくもなるだろう。

 

 了承を渋るアルフィアーナに、頭を下げ続けるライチ。

 

 

 ――先に折れたのは、アルフィアーナだった。

 

「…………何かお困りの時に、ここでお話を聞くくらいなら、できますわ。だからといって、あなたに必要な良き言葉をかけられるかは分かりませんが……」

 

 もごもごと続けるアルフィアーナに、ライチはパッと顔を輝かせて頭を上げた。

 

「スキルの使用はずっと一人だったんで、聞いてもらえるだけでもめっっちゃくちゃありがたいです……!ありがとうございます、ありがとうございます!!」

 

 ライチの感激した様子に、アルフィアーナは仕方なさげに、ふぅと小さな溜息をついて応える。

 

 そして、はたと我に返ったように、階段の下を指し示した。

 

「わたくしがあれもこれもと聞いたがために、鐘楼に担当者が来る時間が近づいてきました。申し訳ありませんが、急ぎお帰りを。

 鐘と鐘の間の時間なら、人も来ないので、ここでお話を伺うことができます。また困ったことがあれば、孤児院か、大聖堂の者にお声がけしてもらえば、こちらに移動してお聞きしますわね」

 

「なんかほんと突然お時間いただいてすみません。色々とやってみたいことが山積みで、毎日のように押しかけちゃうかもなんですけど……よろしくお願いします」

 

 厚かましいライチのお願いに、アルフィアーナは、整ったその眉をハの字にして応えた。断られてはいないから、了承ととっておこう。

 

「“貴方に神の光が降り注ぎますように”」

 

 アルフィアーナからのキラキラのお祈りお辞儀を流れ作業で受けつつ、二人で慌ただしくその場を去る。

 

 ライチは、この世界で唯一、自分の身の上を知ることになった人物が、様々な分野のアドバイザーにもなってくれそうな奇跡に、空を仰いで神様に感謝した。

 

 

 

---

 

 

 

 大聖堂の敷地から出ると、敷地に入る前と比べて、街の空気が一気に浄化されているような心地がした。

 アドバイザーを得たことによる安心感から来る晴れやかさ……ではなく、物理的に悪臭が激減しているのだ。

 

「おぉ〜。やってくれてる、やってくれてる」

 

 あちらこちらでモップもどきでのスーパーバクテリアくんの塗布が行われている。

 

 差し入れと先払いの報酬によって、村人たちの元気がみなぎっているようで、以前に見た下水溝の清掃活動とは全く違う手際の良さである。

 

(街のみんなはまだ気づいていなさそうだ)

 

 これまで手で清掃していた郊外村人が、棒で掃除をしながらそこに花を置いていっているのだが、そんなことは誰一人気にも留めていないようだ。

 

「あなたがたが窓から捨ててるうんちや生ゴミ、落ちた瞬間消えてるんですよ……くくく」

 

 成功の予感に、ついつい一人ほくそ笑んでしまう。

 

(うーーん……本当はすぐにでも街を出て、何か荒地を緑地にするクラフトができないか、アルフィアーナさんの案を調べてみたいんだけど……)

 

 郊外村の人達が総出でライチの願いを叶えようと行動してくれている時に、その街を出て全く違うことをするというのも、どうにも気が引けてしまう。

 

「…………うん。サーチは塗布が終わってからに回そう」

 

 一日二日遅れたからといってどうなる話でもない。まずは発案者の自分も、責任を持って塗布しよう。

 

 ライチは、ムリーナを郊外村から屋敷に帰すときについでに着替えたまともな服を、再度ボロ着に替えに行き、ひたすらその後の時間を塗布に費やした。

 

 

 

---

 

 

 

「うぉ〜。二の腕がバッキバキ。腰もバッキバキ」

 

 翌朝。

 

 半日ほどひたすらモップもどきでゴシゴシしていたので、特に鍛えもせず、育児しか好きなこともなかった全身が悲鳴をあげている。

 

 サピダンのチラチラ攻撃をかわしながら夕食をとり、湯浴みをして布団に飛び込んでの今朝だ。

 

 もちろん、夕食時の日課?のプルデリオ夫妻への報告には、アルフィアーナへのうかっかり全ゲロは含まなかった。

 

 

「さーて、今日もぬりぬり、やったりますか」

 

 身体は非常に疲れているが、効果が著しく、やりがいのある仕事なので、今日働くのもちょっと楽しみなのだ。

 郊外村の人たちと、こっそり美化計画を推進しているという、共犯感と一体感も癖になる。

 

 

 

 ――チリリン

 

 

「ライチ様。お休みのところ失礼します。プルデリオ様のお越しです」

 

 使用人の声だ。

 

(こんな朝早くに? 朝食の席でも会えるのに?)

 

 やる気のポーズのまま一時停止していたライチが許可すると、ドアが静かに開かれた。

 

 

「昨日聞いた本日の予定は、すまないが全てキャンセルにしてくれ。

 ……城からの呼び出しを受けた」

 

「あ、わかりまし、……え? 誰がですか?」

 

 

 ライチはただの旅人で、この街では行商人登録をしている庶民だ。

 新製品に関する組合会議では、目以外は隠して、書記席で息を潜めていた存在だ。

 ちょっと下町の工房にフォーク作りを頼んだり、郊外村の人たちと街の美化に努めている途中ではあるが……城に呼ばれるような者ではない。……はず。

 

 

「私と、ライチ君、君だ」

 

 

「俺? …………な、なんでです?」

 

 

 城からの呼び出しなんて、子どもならば校長室。大人なら社長室くらいの、ゾゾッと感のあるイベントだ。

 

 満場一致で『俺、何かやらかした……?』が頭を駆け巡ることだろう。

 

「……分からない。

 先ほど届けられた召喚状には、

 

【朝食後 当主プルデリオ 客人ライチ 登城すべし 領主】

 

のみ記載されていて、私も戦々恐々という心地だ。役人からの呼び出しでなく、領主直々の呼び出しであることも肝が冷える」

 

 言われてみれば、いつも冷静沈着な雰囲気のプルデリオが、今は顔面蒼白に近い血の気の引きようである。プルプルデリオだ。ふざけてる場合ではない。

 

「……な、なんかまずいことしましまかね……。う、打ち首とか、されません……よね?」

 

 聞いても仕方がないことは分かっているが、ついついプルデリオに縋るように質問してしまう。

 

「充分に秘匿はできていたとは思うのだが……思い当たる節だらけだ……すまない」

 

(デスヨネー……)

 

 我ながら色々とやらかしてしまっている自覚がある。

 

 

 処刑場に向かうような胃の重い心地で、味のしない朝食をとり、プルデリオ家の正装を着付けてもらっていく。

 

 どれだ? どう振る舞えばいい? そんな答えの出ない問いがぐるぐるとライチの頭を回り続けていた。

 

 

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