抗争の翌朝、竜胆は制服を着て学校へ向かう。昨夜、六本木の夜に立っていた弟が、今は昼の校門をくぐっていく。その姿を見て、蘭は竜胆にも昼の場所があることを知る。そして数日後、天竺とトーマンの話し合いが行われる。天竺は独立した組織としては終わり、トーマンの傘下へ入ることになる。それでも蘭は、天竺に残ることを選ぶ。ただし、すべてを夜に置いていくのではなく、戻る場所を持ったまま。夜の続きを選ばなかった、最初の昼。そして、壊れる方へ進まなかった夜。ナマエに会う日が、少しずつ近づいていく。
I. 戻る場所
抗争の翌朝、竜胆は本当に制服を着た。
洗面所から出てきた顔には、まだ薄く腫れが残っていた。口の端も切れている。
それでも髪を整え、ネクタイをゆるく締め、スクールバッグを肩にかけると、昨夜、特攻服を着て立っていた人間とは別人のように見えた。
蘭はリビングのソファに座ったまま、それを眺めていた。
「……ほんとに行くの」
「行くって言ったじゃん」
竜胆は靴下を引き上げながら答えた。
「昨日の今日で?」
「昨日の今日だから」
「意味わかんねえ」
「兄貴が言ったんでしょ。終わったら戻るって」
蘭は黙った。
確かに言った。
深追いはしない。
もし自分がやりすぎそうになったら止めろ、とも言った。
終わったら戻る。
昨夜、竜胆はそれを守った。
そして今朝、学校へ行こうとしている。
「兄貴も来るんだろ」
蘭は少し遅れて、面倒くさそうに立ち上がった。
「……行く」
竜胆は振り返った。
少しだけ困った顔をする。
兄に校門まで送られる歳ではない。
まして、灰谷蘭に。
けれど、約束だった。
蘭は軽い上着を羽織り、携帯と財布だけをポケットに入れた。
「行くぞ」
「どっちが学校行く人?」
「いいから歩け」
朝の街は、昨夜と違っていた。
同じ道なのに、まるで別の場所だった。
昨夜は、湿ったアスファルトの匂いがあった。
怒号があった。
血の気を含んだ空気があった。
けれど今は、駅へ向かう人の流れがある。
自転車で急ぐ学生。
コンビニの前で缶コーヒーを飲む会社員。
ゴミ袋を出す主婦。
街は勝手に朝になる。
誰かがどれだけ夜にしがみついても、朝は来る。
竜胆は隣で、いつもより少しゆっくり歩いていた。
「痛む?」
蘭が聞いた。
「まあ、ちょっと」
「休めば」
「休んだら、昨日の続きみたいになるじゃん」
竜胆は前を向いたまま続けた。
「一回、昼に戻っといた方がいい気がする」
その言い方が妙に大人びていて、蘭は何も返せなかった。
マンションから学校までは、歩いて二十分ほどだった。
途中、蘭の携帯が震えた。
画面を見ると、ナマエからだった。
『帰ってきてくれて、ありがとう』
蘭は足を止めなかった。
竜胆が横から聞く。
「ナマエちゃん?」
「ん」
「なんて?」
「帰ってきてくれてありがとう、だって」
竜胆は小さく息を吐いた。
「ちゃんと送っといてよかったじゃん」
「……分かったって」
蘭は携帯をしまった。
校門が見えてくる。
私立の一貫校らしい、少し古い門だった。
小学校から大学まで、同じ敷地の中にそれぞれの時間が流れている。
蘭も、中学三年まではここにいた。
毎朝この門をくぐっていた時期が、確かにある。
制服を着て、鞄を持って、教室へ向かっていた。
中学三年で大検に受かって、自分で辞めた。
後悔しているわけではない。
あの時は、それでいいと思っていた。
けれど、竜胆はまだ、この門をくぐれる。
制服姿の生徒たちが次々に中へ入っていく。
笑いながら歩く者。
眠そうにあくびをする者。
友達と肩を並べて話している者。
竜胆は、その流れの手前で足を止めた。
「ここでいいよ」
「中まで行こうか」
「やめて。目立つ」
「今さら?」
「今さらでも目立つ」
蘭は校門を見た。
昨夜、竜胆は自分の隣にいた。
六本木の灰谷兄弟として、当然のように立っていた。
その弟が今は、鞄を肩にかけて、校門の前にいる。
どちらが本当の竜胆なのか。
そう考えて、蘭はすぐに違うと思った。
どちらも竜胆だ。
だからこそ、自分が片方に引きずり戻してはいけない。
「じゃあ、行ってくる」
「……おう」
「兄貴」
「何」
「ナマエちゃんに、あとで返せよ」
蘭は眉を寄せた。
「余計なお世話」
「分かってる顔してない」
「顔で判断すんな」
竜胆は少し笑い、校門の中へ入っていった。
すぐに、同じ制服の男子が竜胆の肩を軽く叩く。
「灰谷、顔どうしたの」
「転んだ」
「絶対うそじゃん」
少し離れたところから、女子が笑って言った。
「竜胆くん、今日来たんだ。先生びっくりするよ」
「失礼すぎ」
竜胆はそう返しながら、普通にその輪の中へ入っていった。
誰も、怖がっていない。
遠巻きにもしていない。
昨日の夜を知っているような顔もしない。
ただ、たまに学校に来る、少し目立つ同級生として、竜胆を受け入れている。
通りかかった教師が、竜胆を見つけて眉を上げた。
「灰谷、今日は一限からか」
「偉いでしょ」
「毎日来たらもっと偉い」
「考えときます」
教師は呆れたように笑い、そのまま校舎へ歩いていった。
竜胆も、友人たちと話しながら歩いていく。
その背中が、制服の群れの中に紛れていく。
ここも、竜胆の場所だった。
蘭はしばらく、その場に立っていた。
完全に見えなくなってから、ようやく歩き出した。
II. 昼の音
家に戻る気にはならなかった。
駅の方へ向かい、そのまま目についたカフェに入った。
店内は思ったより混んでいた。
学生よりも、会社員らしき人間が多い。
スーツの男がノートパソコンを開いている。
隣の席では、女が片耳だけイヤホンをつけ、画面を見ながら何かを打ち込んでいる。
奥の席では、二人組が資料を広げて仕事の話をしていた。
「それ、午後の会議までに直せますか」
「先方には今日中に返します」
「数字だけ先に共有してください」
聞き慣れない言葉だった。
蘭は窓際の席に座り、アイスコーヒーを前に置いたまま、店内を見ていた。
昼の街は、夜より静かなわけではない。
ただ、音の種類が違う。
怒鳴り声ではなく、電話の声。
バイクの排気音ではなく、キーボードを叩く音。
挑発ではなく、確認。
殴るための距離ではなく、話すための距離。
同じ六本木なのに、まるで別の国みたいだった。
蘭はストローを指で回した。
スーツの人間たちが、誰かを殴るでもなく、怒鳴るでもなく、画面を見ながら何かを進めている。
つまらないと思っていた。
昼の世界なんて、退屈で、窮屈で、六本木の夜よりずっと弱いものだと思っていた。
けれど、目の前の人間たちは逃げているようには見えなかった。
誰かを殴らなくても、席に座っている。
大声を出さなくても、相手に話を聞かせている。
名前を知られていなくても、自分の仕事をしている。
それは弱いことなのか。
蘭には分からなかった。
むしろ、少し面倒な強さに見えた。
竜胆が校門をくぐった背中が、ふと頭に浮かぶ。
竜胆は、戻った。
では、自分は。
その時、竜胆からメッセージが届いた。
『一限、眠い』
続いて、机の上の教科書らしき写真。
文字が多い。
古文の教科書だった。
蘭は鼻で笑った。
『寝んな』
『無理』
蘭は画面を見たまま、しばらく動かなかった。
教室にいる。
授業を受けている。
くだらないことでメッセージを送ってくる。
昨夜に全部つながっていたはずの世界が、そこで一度切れている。
よかった、とは言わない。
言ったら負けた気がする。
けれど携帯の画面を見ながら、蘭は確かにそう思った。
蘭はストローから手を離した。
胸の奥に、落ち着かないものがある。
焦りとは違う。
退屈とも違う。
今までなら、そういう感情は誰かを呼ぶか、どこかへ行くか、面倒な相手にぶつけて消していた。
けれど今日は、それをしない。
蘭は携帯のカメラを起動した。
窓際の席。
テーブルの上のアイスコーヒー。
向こう側に見える朝の光。
ぼんやり写り込む、ノートパソコンを開いた人たち。
自分の顔は写さなかった。
傷を見せたくなかったのではない。
見せれば、ナマエが心配するのが分かっていたからだ。
写真を一枚撮る。
送信先を開いた。
ナマエの名前を選び、短く打つ。
『竜胆、学校行った。俺も昼にいる』
写真を添付して送信した。
ナマエも今頃、一限だろう。
蘭は携帯を伏せ、背もたれに身を預けた。
誰も灰谷蘭を見ていない。
誰も恐れていない。
誰も期待していない。
ただ、自分が何をするのかだけが残っている。
分からない。
けれど、ひとつだけ分かったことがある。
待つというのは、ただ時間が過ぎるのを眺めることではない。
相手に会わない時間の中で、自分がどこに立つのかを決めることだ。
竜胆は校門をくぐった。
ナマエも、自分の場所で踏ん張っている。
父親との条件も、未来の話も、全部抱えている。
なら、自分だけが夜の中に座り込んでいるわけにはいかない。
蘭は少し薄くなったアイスコーヒーを飲んだ。
携帯が震えたのは、その直後だった。
ナマエからだった。
蘭は一瞬、息を止めて画面を開く。
『よかった』
たった一言だった。
その下に、少し遅れてもう一通届く。
『昼にいてくれて、ありがとう』
蘭は画面を見たまま、しばらく動けなかった。
胸の奥が、変に痛んだ。
嬉しいのか。
情けないのか。
腹が立つのか。
安心したのか。
どれも違う気がしたし、どれも少しずつ合っている気もした。
返事を打とうとして、指が止まる。
何を書けばいいのか分からなかった。
ありがとう、と返すのは違う。
心配すんな、と書くには軽すぎる。
大丈夫、と打つには、まだ少し嘘になる。
余計なことを書けば、また何かを間違える気がした。
だから、短く返した。
『一週間後な』
それだけ送って、携帯を伏せた。
窓の外では、昼の光が少しずつ強くなっている。
昨夜から、まだ半日も経っていない。
何かが劇的に変わったわけではない。
竜胆を校門まで送り、昼のカフェに座り、ナマエに写真を送った。
それだけの一日。
けれど、灰谷蘭にとっては、夜の続きを選ばなかった、最初の昼だった。
ナマエは、蘭が考えるのを待っていると言った。
信じていると。
蘭自身もまた、自分がどこへ向かうのかを、少しずつ選び始めていた。
III. 残るなら、選べ
天竺とトーマンの話し合いは、抗争から数日後に行われた。
場所は、前と同じような夜の中だった。
蘭と竜胆は、少し遅れて入った。
竜胆の口元には絆創膏があり、蘭の頬の腫れもまだ残っている。
奥の席に、イザナがいた。
背もたれに体を預け、いつものように見える姿勢で座っている。
けれど、いつもと同じではなかった。
敗北の色がある。
ただし、惨めさではない。
刃物のような意地が、まだ残っていた。
負けた。
それでも、折れてはいない。
少し離れて、トーマンの幹部たちがいる。
そして、仲介役として、佐野真一郎。
万次郎の実の兄であり、かつてイザナが兄だと信じた男。
最初に口を開いたのは、万次郎だった。
「天竺をどうするかは、イザナが決めろ」
声は静かだった。
勝者の声ではなかった。
「潰す気はねえ。でも、残るなら、俺は一緒にやりたい」
イザナは顔を上げた。
目には、まだ棘がある。
「俺を下につけたいってことか」
「違う」
万次郎は即答した。
「一緒に支えてほしい」
獅音が舌打ちした。
モッチーが腕を組み直す。
ムーチョは黙って万次郎を見ていた。
蘭も、何も言わずに聞いていた。
命令なら拒めた。
屈辱なら怒れた。
見下しなら壊せた。
けれど、場所を差し出されると、どうしていいか分からなくなる。
イザナは低く笑った。
「綺麗事だな」
「そうかも」
万次郎は言った。
「でも、本気」
イザナの顔が少し歪む。
真一郎は口を挟まなかった。
ただ、二人を見ていた。
やがて、イザナが真一郎を見る。
「アンタは?」
真一郎は少し目を伏せ、それから言った。
「俺は、万次郎の考えは悪くないと思ってる」
「じゃあ、俺に入れって言うのかよ」
「言わない」
真一郎は静かに返した。
「決めるのはお前だ、イザナ」
場が重くなる。
選ばされるのではない。
選ぶ。
しばらくして、イザナが口を開いた。
「天竺は、解散しない」
獅音が顔を上げる。
モッチーも動いた。
「ただし、独立した組織としては終わりだ」
場が静まった。
「トーマンの傘下に入る」
誰もすぐには声を出さなかった。
イザナは万次郎を見た。
「勘違いすんなよ。お前の下に跪くわけじゃねえ」
万次郎は頷いた。
「うん」
「俺が選ぶだけだ」
「うん」
「元天竺の連中は、俺の隊として動く」
万次郎は少しだけ考え、頷いた。
「それでいい」
真一郎が小さく息を吐いた。
獅音が低く言う。
「つまり、俺らはトーマンの下につくってことかよ」
イザナは獅音を見た。
「嫌なら抜けろ」
冷たい声だった。
けれど、それも選ばせる言葉だった。
獅音は悔しそうに歯を食いしばる。
「……抜けねえよ」
モッチーも短く言った。
「俺も残る」
ムーチョは頷くだけだった。
鶴蝶は、当然のようにイザナのそばにいる。
天竺という形は変わる。
でも、イザナの周りに集まるものは、まだ残っている。
その時、イザナが蘭たちを見た。
「灰谷兄弟」
蘭と竜胆が顔を上げる。
「お前らは?」
場の視線が集まった。
蘭は竜胆を見る。
竜胆も、蘭を見た。
先に口を開いたのは竜胆だった。
「俺は残る」
蘭は竜胆を見た。
「でも、学校も行く」
獅音が吹き出しそうになる。
けれど、他の誰も笑わなかった。
「トーマンに入っても、全部は置かない。俺は俺の昼も持っていく」
万次郎が少し目を細めた。
ドラケンが小さく笑う。
「いいんじゃねえの」
三ツ谷も言った。
「むしろ、その方がいいだろ」
竜胆は少し驚いたような顔をした。
蘭も同じだった。
学校へ行く。
昼を持っていく。
それを、トーマン幹部たちは弱さとして扱わなかった。
蘭は、ようやく口を開いた。
「俺も残る」
イザナがじっと見る。
「でも、竜胆と同じ。全部は置かない」
万次郎が蘭を見る。
蘭はその視線を受け止めた。
「必要な時は動く。でも、無駄な喧嘩には出ない。やりすぎない。終わったら帰る。昼にも戻る」
獅音が呆れたように言った。
「残るくせに、随分条件つけんだな」
蘭は少しだけ笑った。
「条件じゃないよ」
場が少し静まる。
「先に決めてるだけ。どこまで行くか。どこで止まるか」
蘭はそこで一度、言葉を切った。
「決めとかないと、戻れなくなる」
竜胆は隣で黙っていた。
蘭は竜胆を見なかった。
けれど、その言葉が誰に向いているのか、竜胆には分かった。
蘭は、自分自身に言い聞かせている。
今までみたいに、夜の奥へ進み続けるつもりじゃない。
戻る場所を持ったまま残るために、先に線を引こうとしている。
その言葉に、獅音すら一瞬黙った。
万次郎は、蘭をしばらく見ていた。
「いいと思う」
蘭は目を細める。
「本気で?」
「うん」
万次郎は頷いた。
「戻る場所があるやつの方が、ちゃんと止まれる」
蘭の胸が少し痛んだ。
――戻る場所があるやつの方が、止まれる。
理由は分からない。
けれど、その言葉は軽くなかった。
真一郎も静かに蘭を見ていた。
責めるのではなく、ただ見ている。
ナマエの父と少し似た、逃げ道を塞ぐような目だった。
イザナは少しだけ笑った。
「面倒なこと言うようになったな」
蘭は肩をすくめる。
「そうだね」
「でも」
イザナは続けた。
「言ったなら、通せよ」
蘭はイザナを見た。
否定ではない。
許可でもない。
褒め言葉でもない。
ただ、イザナなりの認識だった。
蘭は静かに言った。
「そうする」
話し合いが終わる頃には、形が決まっていた。
天竺は、独立組織としては終わる。
イザナは、トーマン内で元天竺を率いる。
幹部たちも、イザナについていく。
求心力は残る。
ただ、上に万次郎がいる。
屈辱でもあり、新しい形でもあった。
完全な和解ではない。
イザナは、まだ万次郎を受け入れきっていない。
万次郎も、イザナをすぐに兄と呼べるほど単純ではない。
真一郎も、すべてを解決したわけではない。
それでも、壊れる方には進まなかった。
話し合いが終わり、人が少しずつ散っていく。
獅音はまだ不満そうだった。
モッチーは何も言わずに立ち上がる。
ムーチョは鶴蝶と短く言葉を交わしていた。
イザナは最後まで席を立たなかった。
万次郎も、少し離れた場所に残っている。
真一郎はその間にいて、どちらにも踏み込みすぎない距離で立っていた。
全部が綺麗に収まったわけではない。
誰かが急に救われたわけでもない。
負けた痛みも、屈辱も、まだそこにある。
それでも、終わり方はひとつではなかった。
潰れる。
消える。
壊す。
それ以外の道が、今夜、ひとつ残った。
竜胆が隣で小さく息を吐く。
「……帰る?」
「帰る」
蘭は言った。
竜胆が頷く。
二人で外へ出る。
夜の空気が肌に触れた。
抗争の夜とは違う。
熱も、怒号も、血の匂いもない。
ただ、湿った風だけが通り過ぎていく。
竜胆が隣で言った。
「兄貴、本当に言ったね」
「何を」
「昼にも戻るって」
「言った」
「みんなの前で」
「だから何」
「逃げらんないなと思って」
蘭は横目で竜胆を見た。
「お前もだろ。学校行くって言った」
「俺はもう行ってるし」
「一日だけだろ」
「一日目が大事なんでしょ」
竜胆は少し笑った。
蘭は何も返さなかった。
一日目。
確かに、そうかもしれない。
夜の続きを選ばなかった、最初の昼。
そして今夜、壊れる方へ進まなかった天竺。
終わったわけではない。
始まったばかりだった。
蘭はポケットの中の携帯を指先で確かめた。
ナマエに会うまで、あと数日。
天竺の行き先は決まった。
イザナも、竜胆も、それぞれの残り方を選んだ。
なら次は、自分の番だった。
自分はどこへ戻るのか。
誰の隣に、どう立つのか。
ナマエに会う日が、数日後に近づいていた。
会えば、きっと何かが決まる。
蘭はもう、その予感から目を逸らせなかった。