ひぐらしのなく頃に~鬼囃し編(圭羽)   作:晃晃

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其ノ七 冥土の主

監督は診療所内の惨状をゆっくりと見回してから俺たちのほうへと振り向き、眼鏡のレンズを鋭く光らせた。

 

「診療所をこんなにめちゃくちゃにして……皆さん、覚悟はできているんでしょうね? とびっきりのお仕置きをしてあげますよ。このご主人様がね!」

 

 

瞬間。

 

空間が塗り替えられていく。監督の意志が世界を蹂躙していく。

 

己の内面、心象風景そのものを世界に上書きしていく、限りなく魔法に近い魔術。

 

「メイド・イン・ヘヴン!」

 

監督の、固有結界……!

 

「……ひゃあっ!?」

 

「な、なんですかこれっ!?」

 

「はうぅっ!?」

 

一瞬にして皆の着ていた衣類が消し飛ばされ、代わりに身体をゆっくりと覆っていくのは……言わずとしれたメイド服! それが肌を覆い隠す面積が増えるに従って、皆の目から光が失われてゆく。しまった……、まさか!

 

「そのまさかです、前原さん! この入江京介の固有結界の中では、誰もが身も心もこの私のメイドさんとなる……悪いメイドさんたちには、お仕置きです!」

 

「は、はい……ご主人様……」

 

「ご主人様、お仕置きしてくださいませ~……」

 

メイド服に全身を覆われた魅音や沙都子たちがふらふらと監督のほうへと向かう。

 

「お、おい! 待てよ!」

 

「あぅあぅ、圭一! このままでは梨花も!」

 

羽入の声で、俺は慌てて一番近くにいた梨花ちゃんを引っ張った。

 

「ご、ごしゅ……あれ、圭一? ど、どうなって……」

 

俺の胸の中に倒れ込んできた梨花ちゃんは、メイド服からいつもの私服に戻っていた。同時に洗脳されかかっていた意識もはっきりしたのか、顔を赤くして俺を見上げる。

 

「圭一の周囲だけは、圭一の固有結界に包まれているので平気なはずなのです!」

 

「そうか! で、でも、みんなは……!」

 

すでに魅音、詩音、沙都子は軍門に下ったらしく、監督の前で傅いている。

 

「ご、ご主人さ、……はぅう……ッ……」

 

すこし離れた床で、半裸の状態でのたうちまわっているのはレナだった。

 

「レナは圭一の固有結界の余波を浴びているのでまだ抵抗できているようなのです!」

 

「ああ、とんでもなく嬉しい眺めだけど助けないとな!」

 

だが、それはできなかった。

 

レナに駆け寄ろうとしたところで、顔に風圧のようなものを感じた俺はとっさに床へと身を投げる。直後、俺と梨花ちゃんの頭上を駆け抜けていったのは旋風さえ伴った強烈な回し蹴り、フリル付きのスカートを翻して監督の前に降り立つのは……山狗隊長、小此木さんだった! 黒メイド服の!!

 

「へっへ、ご主人様。ここは俺たちにまかせてもらいますぜ!」

 

「ヤなもの見た!」

 

梨花ちゃんの短い悲鳴が、その場の全てを物語っていた。

 

「どうやら我がメイド帝国にまつろわぬ者たちがいるようですね……いいでしょう。皆さん、あの3人にお仕置きをしてあげなさい! 多少痛めつけても構いません!」

 

小此木さんを含めた4人のメイドたちが、戦闘態勢をとる。

 

「いくよ……炎の部長、園崎魅音!」

 

「血まみれの鉄鬼……園崎詩音!」

 

「裏山の罠師、北条沙都子ですわ!」

 

「そして盾の守護狗、小此木だッ!」

 

なぜか自己紹介とともにポーズを決める。どこかで聞いたような聞かないような構成!?

 

「我ら、冥土の主の下に集いしメイド……」

 

「……ご主人様ある限り、我らのご奉仕尽きること無し!」

 

それか! 元ネタはそれだったかっ!

 

「く、くそ……魅音、沙都子、詩音、目を覚ませ! お前らは監督のメイドなんかじゃない、俺の大事な仲間だっ……!」

 

この際、小此木さんはどうでもよかった。

 

だが俺の声に目ざとく反応したのは魅音でも沙都子でもなく、監督だった。

 

「メイド『なんか』……? 前原さん、あなたは間違っている!」

 

白衣を翻して、やたらとかっこいいポーズを決めながら監督が叫ぶ。

 

「メイドこそはこの世の至宝、ありとあらゆる萌えの頂点に位置するもの! 清楚にして妖艶な衣装に身を包んだ少女たちが、敬愛するご主人様に身も心も捧げてご奉仕の限りを尽くすその姿こそが人類にとっての奇跡の結晶! 神の福音なのだと断言しましょう!」

 

ぐっ……、力ある言葉が叩きつけられ、俺の意志がくじけそうになる。俺のちんけな固有結界が軋み、せめぎあう力が悲鳴をあげているのが感じられた。

 

「ダ、ダメです圭一、入江の言葉に惑わされたら、圭一の結界が破られます!」

 

わかってる、わかってるんだ……けど!

 

「前原さん、それでもメイド『なんか』と言えますか? 言えませんね? 言えるわけがない! あなたほどの男なら、エプロンの白さに目がくらむはずだ!」

 

魅音の空気投げで吹き飛ばされる俺。

 

「ひざまずくメイドさんの、白いうなじに目を奪われるはずだ!」

 

詩音のスタンガンを喰らってよろめく俺。

 

「スカートの奥のガーターベルトに恋い焦がれるはずだ!」

 

沙都子のタライを数十個も脳天に喰らう俺。

 

「そして、帰宅したその日、お帰りなさいませと言われてみたいはずだ!」

 

小此木さんの鉄拳をもろにくらって、壁に叩きつけられる俺。

 

かろうじてかばった梨花ちゃんが、泣き出しそうな顔で俺を揺さぶる。

 

「圭一、圭一! しっかりして、負けちゃダメよ!」

 

「あ、あぁ……わかってる、わかってるさ……」

 

ふらつきながら、背後に梨花ちゃんと羽入をかばう。

 

反撃しろ、前原圭一。ここで負けるわけには……いかないんだ!

 

「メイドさんが凄いのはよくわかった……だけどな、監督! それが萌えの頂点だってのには異論がある。世の中にはいろいろな萌えがあるじゃないか……猫耳、スク水、ロリ、ツンデレ、なんだっていい。全ての萌えは平等であり、等価なんじゃないのか!」

 

「萌え談義になってるー!?」

 

羽入と梨花ちゃんが驚きと呆れの入り交じった叫びを上げる。

 

満身創痍の俺の言葉に、監督は唇の端を歪めた。

 

「甘い、甘い、甘過ぎます! ツンデレ猫耳メイドさんを思い浮かべなさい!」

 

「ッ!?」

 

身体が、震える。

 

「あるいは、スク水にカチューシャだけつけたロリロリメイドさんを!」

 

膝が、落ちる……!

 

もはや言葉だけで、俺は打ちのめされていた。勝てねぇ、勝てねぇよ……!

 

「メイド喫茶が全ての萌え系喫茶の中心にあるように、メイドこそがこの世のあらゆる萌えに対して最高の相乗効果を産み出す唯一絶対至高の萌えなのです……!」

 

大きく手を広げ、高らかに宣言する監督。

 

「そんな……こんな馬鹿な負け方って、あるの……?」

 

ああ、認めるさ監督。

 

「あぅあぅ、圭一、立つのです! 圭一ぃっ!」

 

認めるとも……たしかに、メイドさんは萌えの代表格、無知なマスゴミがメードと表記しようが揺るぎなき萌え文化の金字塔、そこらのやわな妄想では太刀打ちできない!

 

……だがな、相手が悪すぎたぜ。

 

「……むっ?」

 

俺は、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

今宵この場であんたの前にいるのはこの俺、萌えの伝道師、前原圭一だ……!

 

「まだ戦う力があるとでも……」

 

そう……、最強の妄想がメイドさんであるならば、俺はそれすらも凌駕する最悪の妄想を投影するのみ……!

 

―――基本嗜好、解明。

―――倒錯感情、共感。

―――超常属性、補強。

 

「こ……これは……、いけない、前原さんにとどめを!」

 

俺の固有結界が鳴動するのを感じ取ったか、監督が指示を出す。

 

「わかりましたわ、ご主人様!」

 

沙都子が跳躍し、俺たちの頭上からガソリン入りのバケツを放つとともに、火のついたライターを投げ込んでくる。あの攻撃をくらえば、ひとたまりもないだろう。

 

だが、もう遅ぇええぇえッ!

 

「―――投影、開始」

 

俺の中の撃鉄が、一斉に落ちていた。




<雑談>

唐突なfateネタです。
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