マチルダ隊は今日も元気です 作:ガルパンおじさん復帰勢(にわか)
ネタバレはありませんが、キャラ崩壊があるかもしれません。
独自設定、オリキャラ、ガバガバ戦術と粗も多いですが楽しんでもらえたら嬉しいです。
いついかなる時も、優雅たれ。
これは聖グロリアーナ女学院の全淑女が体現するモットーだ。
とはいえ、淑女との呼び声高い戦車道のメンバーも、その本質は華の女子高生。
今日もマチルダ隊の三人は少々お行儀の悪い日常を謳歌するのであった。
*
マチルダ隊三両は、林道を見下ろす丘に展開していた。
ダージリン率いる本隊が敵を追い込み、こちらで退路を塞ぐ。演習開始から二十分、すでに包囲網は完成している。
正面をニルギリ、左翼をルクリリ、右翼をキームン。
あとは敵が来るのを待つだけだ。そんな緊迫した状況下で、ルクリリがぼそりと呟いた。
『なあ、ダージリン様って、なんかMっぽいよな』
「…………は?」
通信を聞いたキームンの返答まで、たっぷり三秒かかった。
思いも寄らぬ言葉に、立派な黒髪ドリルを指先でいじる。
キームンのティーカップは小刻みに震えていた。
「今、何とおっしゃいましたの?」
『いや、追い詰められると妙に楽しそうになるじゃん。それってつまりMじゃんか』
「指揮官としての余裕でしょう」
『前の練習試合でも、包囲されてんのに嬉しそうに紅茶飲んでただろ』
「身も心も滾る試合にきっと興奮されたのですわ」
『自分が追い込まれて興奮するのはMだろ』
「違いますわあっ!」
キームンの絶叫が無線に響いた。
ルクリリも思わず耳を抑える。砲手が怪訝な表情で見ていた。
「ダージリン様は、もっとこう、女王様のように振る舞うお方でしょう!? 優雅に紅茶を召し上がりながら部下に命令を下す! あの威厳、あの気品! どう考えてもSですわ! ザ・クイーン・オブ・サド!」
『そうかあ? 振り回されて喜ぶタイプな気がするけどなあ』
「というか、伝統と格式ある聖グロリアーナ女学院の隊長がMなんて、とんだスキャンダルですわあ!」
『確かに誇れることじゃないけどさあ』
キームンは砲塔の中で地団駄を踏んだ。装填手が迷惑そうに足を引っ込める。
「わたくしたちの指揮官がドMだなんて、絶対に認めません!」
『おい、誰もドMとまでは言ってないぞ』
「お黙りなさい!」
『お二人とも、少しよろしいですか?』
通信にニルギリが穏やかに割って入った。
『どちらの可能性もあると思います』
『出たよ。どっちつかずの事なかれ主義』
『ルクリリさん。人間というのは必ずしも一つの型に嵌め込めるものではありません』
『さいですか』
「ニルギリさん! これは聖グロリアーナ女学院の戦車道の沽券にかかわることです! 曖昧な立場をとってはなりませんわ!」
『……であれば、あえて申し上げましょう。どちらかと言えば、Mではないでしょうか』
「んなっ!?」
『指揮官として部下に命令を下すのは当然のことです。ですが、追い詰められたときに心底楽しそうになさるのは、ダージリン様ご本人の気質ではありませんか?』
『ほら見たことか!』
「な、何をおっしゃるの、ニルギリさん! あれは困難に動じない類稀なる精神力の表れですわ!」
『私には困難そのものを楽しんでいらっしゃるように見えますが?』
『やっぱりMだ! ダージリン様はM! マゾマゾマゾマゾマゾ!』
「いやあああああああっ!!」
再びキームンが絶叫した。操縦手からうるさい!と苦情が入る。
穏やかな笑みを浮かべたニルギリが片眉をあげた。
「ダージリン様がドMなんて嫌ですわあああっ!!」
『だからそこまでは言ってねえよ』
「一緒ですわ! まさかニルギリさんまでそんなことをおっしゃるなんて!」
『あくまで推測ですよ?』
「推測でも嫌ですわ! 聖グロリアーナ女学院の隊長はS! 女王様のS!」
『ったく、うるさいなあ……』
『あの、ルクリリさん』
『あ?』
『敵車両が一両、こちらへ向かっています』
ニルギリの報告に、ルクリリは車両から身を乗り出して双眼鏡を覗いた。
クルセイダーが林道を爆走していた。
『ありゃあ、偵察だろ。幸いこっちには気づいていないみたいだ』
『キームンさん、射界に入りますか?』
「あと二十メートルほどですわ。前方の木が邪魔になりますので」
『では、そのまま待機してください。ルクリリさんは左側を警戒していただけますか』
『了解。今のところ後続は見えない』
林道を進む敵車両が、緩やかな曲がり角へ差しかかった。
『キームンさん、そろそろですね』
「ええ。射線が通りましたわ」
キームン車の砲手が照準を合わせた。あとはニルギリの指示を待つだけだ。
『……今です』
「撃ちなさい」
キームンの言葉とともに短い砲声が響いた。
砲弾は敵車両の側面に命中し、ほどなく白旗が上がった。
『撃破を確認しました。ほかに敵影は?』
『こっちはなし。キームンはどうだ?』
「見当たりませんね。引き続き待機ですわ」
『了解です』
三両は再び林道の監視に戻った。
しばらく、無線にはエンジンの低い唸りだけが流れた。
手持ち無沙汰になったニルギリは眼鏡を拭き始めた。
すると、再びキームンから通信が入る。
「……ところで、ニルギリさん」
『はい?』
「先ほどのお話ですが、少し考えを改めましたの」
『まだやんのかよ』
ルクリリが肩をがくりと落とす。美しく整えられた茶髪のおさげが揺れた。
「確かにダージリン様は、殿方にリードされる方がお好きそうですわ」
『あー、てか恋愛じゃ案外ヘタレっぽいよな。自分から告白とかできなさそう』
「そうでしょう? 困ったように微笑みながら、殿方の言葉を待っていらっしゃるお姿が目に浮かびますわ」
『恋と戦争においては手段を選ばない、とか言うクセにな』
ルクリリがふぁさっと髪をかきあげて、ダージリンの真似をした。
ティーカップ片手に格言をかます姿は案外、様になっていた。
装填手と砲手が小さく拍手する。
「お待ちになって。こんな格言を知ってる?をお忘れですわ」
『ああ、そういえばそんな感じだったな』
『待ってください』
すかさずニルギリが口を挟んだ。
『意外とダージリン様は、性格の悪い女郎蜘蛛なのではありませんか?』
ニルギリの言葉に装填手がぎょっとする。
思わず車長を二度見したら、ニルギリにウィンクされた。
先ほどまで騒がしかったルクリリとキームンが黙る。
『いや、全然意外じゃないぞ!』
「むしろありそうですわ!」
二人が吹き出した。キームンは自身の膝を、ルクリリは車両の壁を叩いて大笑いしている。
『あはは! 絶対、自分からは告白しないよな!』
「おほほ! 相手が告白した途端、少し考えさせていただけるかしら、と惑わすタイプですわ!」
『ふふ。そして退路を塞いでから、最後の一歩だけ踏み込ませるんですね』
『それじゃ今の包囲網と一緒じゃねえか!』
三人の笑い声が無線に響いた。
久しぶりに、マチルダ隊の意見が一致した瞬間だった。
*
一方、少し離れた丘の上。
チャーチルの車内では、通信機から三人の笑い声が流れ続けていた。
ダージリンは紅茶のカップを手に、にっこりと微笑んでいた。
それはもう、たいそう美しい笑顔だった。
隣に座るオレンジペコは、身動き一つできなかった。
「……目は口ほどに物を言うといいますけれど」
オレンジペコがぽつりと呟く。
「人間は、空気でも物を言えるのですね」
深いため息が漏れた。
「あら、ペコ。何か言ったかしら?」
「……いいえ。何でもありません」
ダージリンは微笑んだまま、カップを置いた。
「次の演習も楽しみだわ」
オレンジペコは、もう一度ため息をついた。アッサムを見たら、肩をすくめられた。
通信機の向こうでは、三人がまだ笑っている。
コメディは苦手なので不安です……。
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