マチルダ隊は今日も元気です 作:ガルパンおじさん復帰勢(にわか)
ネタバレはありませんが、キャラ崩壊があるかもしれません。
独自設定、オリキャラ、ガバガバ戦術と粗も多いですが楽しんでもらえたら嬉しいです。
聖グロリアーナ女学院には、いくつかのお茶会がある。
ノーブルシスターズのお茶会は、優雅で穏やかだ。クルセイダー隊のお茶会は、少々騒がしい。以前、お誘いいただいたときには、紅茶を飲んでいたはずが、いつの間にかスコーンの早食い競争になっていた。
そして、マチルダ隊のお茶会。これについては、私もよく知らなかった。
「よろしければ、今度いらっしゃいませんか?」
ニルギリ様からお誘いをいただいたのは、先週のことだった。
ニルギリ様はマチルダ隊をまとめる、穏やかで気配りのできる先輩だ。
ルクリリ様は少々口が荒いけれど、後輩の面倒見がよい。キームン様も、普段は嫌味をおっしゃることが多いものの、戦車道では頼りになる。
三人とも、ダージリン様が信頼を置いている優れた淑女だ。きっと楽しいお茶会になるだろう。
その予想は、少なくとも最初の十数分は正しかった。
*
「こちらのスコーン、お口に合いますか?」
「はい。とても美味しいです」
「よかった。今日はペコさんがいらっしゃるので、少し奮発したんです」
ニルギリ様は嬉しそうに微笑まれた。
テーブルには焼きたてのスコーンとジャム、クロテッドクリーム。ティーポットからは柔らかな湯気が立っている。
「ニルギリさんは本当におもてなしがお上手ですわね」
キームン様が感心したように言った。
「お菓子の選び方にも品がございます。やはり、横浜の山手ご出身で、育ちのよい方は違いますわ」
「そんな、大げさですよ」
「いえいえ。こういうところにこそ、日頃の教養が表れるものですわ」
「おい、私のときはそんなこと言わなかっただろ」
ルクリリ様が口を挟んだ。
「先週、私が菓子を持ってきたときだよ。もっとマシなのはなかったのかって言ったじゃねえか」
「だって、袋のままテーブルに置くんですもの」
「別にいいだろ。美味しければ」
「まあ、お下品」
キームン様は呆れたように首を振った。
ルクリリ様は鼻を鳴らしてスコーンを一つ取る。
ニルギリ様は笑っていた。
いつものことなのだろう。
それからしばらくは、授業や休日の話が続いた。
キームン様はお菓子に詳しく、ルクリリ様は最近見つけた店の話を楽しそうにしてくださった。
お二人とも、思っていた以上に気さくな先輩だった。
「ところで、ペコさん」
「はい」
「ダージリン様はお元気ですか?」
「ええ。今日も朝からお忙しくされています」
「大変ですね。隊長ともなると」
ニルギリ様が紅茶を注ぎ足してくださる。
「最近は演習も増えていますね」
「ええ。ダージリン様も皆さまにはとても感謝されていました」
「まあ!」
キームン様が顔を輝かせた。
「それは光栄ですわね」
「はい。ダージリン様は皆さまを信頼していますから」
何気ない一言だった。
日頃からお世話になっている先輩方に、感謝を伝えたかっただけなのだ。
「当然ですわ」
キームン様が満足そうに頷いた。
「隊長の護衛という大任を任されておりますもの。ダージリン様のご期待に応えることこそ、わたくしの使命ですわ」
「また始まったよ」
ルクリリ様が呆れた声を出した。
「護衛、護衛って。私たちが前に出て敵を押さえてるから、お前は隊長の傍にいられるんだろ」
「まあ、ルクリリさん」
キームン様が目を細めた。
「ずいぶんと勇ましいことをおっしゃいますのね」
「事実だからな」
「ええ、確かに。敵と真っ先に遭遇するのは、いつもあなたですものね。もっとも、増援を求める無線もあなたからですけれど」
「……何だと?」
「いえいえ。ご活躍は十分に承知しておりますわ」
キームン様は紅茶を一口飲んだ。
「少々、後先を考えないところが玉に瑕ですけれど」
「てめえ!」
「お二人とも」
ニルギリ様が穏やかに割って入った。
「前衛には前衛の、護衛には護衛の役割がありますから」
「ええ、まったくですわ!」
「ですから、キームンさんも護衛としての役割をもう少し意識していただけると嬉しいです」
「……はい?」
「敵を追いかけるのは少々、役割を逸脱していますから」
ルクリリ様が噴き出した。
ニルギリ様はにっこり微笑んだ。
「先日もダージリン様に追撃を止められていましたよね?」
「あれは敵を捕捉する絶好の機会だったのです!」
「ええ。また機会があるといいですね」
「そうですわ!」
「今度はカップも割らずに済むでしょうから」
「ニルギリさん!」
ルクリリ様が腹を抱えて笑っていた。
私は紅茶を飲んだ。
少しばかり、雲行きが怪しくなってきた。
*
「だったら、はっきりさせようじゃないか!」
ルクリリ様がスコーンを一つ、テーブルの中央に置いた。
「これがダージリン様のチャーチルだ」
「食べ物で遊ぶものではありませんわ! これだから海老名出身は!」
「お前だって地元は相模原だろ!」
「では、こちらも使いましょうか」
ニルギリ様が角砂糖を三つ並べた。
「先日の演習を例にすると、わかりやすいと思います」
「ニルギリ様?」
「せっかくですから」
私は口を閉じた。
スコーンがチャーチル。角砂糖がマチルダⅡ。ティースプーンが敵戦車。
ルクリリ様が小皿を動かし、演習場の地形を再現し始めた。
「ここが森だろ。私が先行して、敵車両と接敵したのがこの辺りだ」
「いえ、違いますわ」
キームン様がすかさず口を挟んで、スプーンを動かした。
「実際にはこちら。敵が林から出る直前に、ルクリリさんが敵車両を発見したのです」
「……ああ、そうだったな」
「その後、敵は後退したのでしょう?」
「そうだよ。だから追いかけようとしたんだ」
「そこが間違いですわ!」
キームン様は角砂糖を一つ、スコーンの左側へ動かした。
「敵の目的はあなたを誘い出すことです。そうすれば、別働隊がチャーチルの側面へ回り込める」
「私が敵を引きつけてる間にお前らで対処すればいいだろ」
「もちろんダージリン様の護衛として止めますとも! ですが、おバカな先遣隊が誘いに乗ることがそもそもおかしいではありませんか!」
「誰が馬鹿だ!」
「落ち着いてください」
ニルギリ様が二つの角砂糖を動かした。
「敵の陽動に乗らないという点では、キームンさんの判断が正しいですね」
「ほら見なさい」
「ただし、ルクリリさんが敵と接触したことで、敵本隊の進出方向を絞り込めたのも事実です」
「だろ?」
「ですから、ルクリリさんには敵との接触を維持していただき、キームンさんにはこちらの側面を警戒していただきます」
なるほど。
私は思わずテーブルに目を落とした。
敵の陽動に対して無理な追撃を行わず陣形を維持する。その間に護衛車両が敵の進路を制限し攻撃の準備をする。合理的な判断だった。
「ただ、それでは敵に主導権を握られますわね」
キームン様が指摘した。
「敵の動きに合わせてばかりでは、いずれこちらの配置を見抜かれますわ」
「そうですね」
「でしたら、こちらから誘いをかけるべきです」
キームン様が角砂糖を動かした。
「突破できそうな経路を一つ残しておきます。こちらの森と射線で別の経路を塞げば、敵はそこを選びやすくなりますでしょう?」
森の代わりに、ジャムの小瓶が置かれた。
「そこで待ち伏せするわけですね」
「ええ。通路の出口で先頭を足止めすれば、後続の進出も妨げられますもの」
「おい、それなら私をこっちに回せよ」
ルクリリ様が自分の角砂糖を動かした。
「敵が止まったところで側面から叩けば、一気に崩せるだろ」
「それでは敵の予備隊に対処できませんわ」
「お前ら護衛が倒せばいいだろ」
「護衛を何だとお考えなの!?」
キームン様がルクリリ様の角砂糖を押し戻した。
「おい! 勝手に動かすな!」
「その位置では敵の射線に晒されますわ!」
「だから、撃たれる前に片付けるんだよ!」
「それができない場合の話をしておりますの!」
ルクリリ様が再び角砂糖を前に出した。そしてキームン様が押し戻した。
角砂糖が二人の指先で行ったり来たりしている。
その光景は優雅とは言い難かったが、私は感心していた。
三人とも戦術上の問題を即座に理解している。しかも、それぞれの意見には確かな根拠があった。
ダージリン様がこの方々を信頼される理由もわかる。
「ですが、キームンさん」
ニルギリ様が口を挟んだ。
「その配置では、敵が通路の手前で停止した場合、あなたの車両が孤立してしまいますよ」
「そうなったらわたくしは後退いたしますわ」
「どちらに?」
「こちらです」
「そこはチャーチルの進路ですよ?」
「チャーチルも後退すればいいでしょう!」
「そうしたら後続のマチルダ隊が詰まってしまいます」
ニルギリ様は、後方の角砂糖も動かした。
先ほどまで綺麗に並んでいた三つの角砂糖が、スコーンの周囲で窮屈そうに固まった。
キームン様の頬が引きつった。
「これだから温室育ちのお嬢様は!」
私は固まった。
ルクリリ様も、一瞬だけ口を閉じた。ただし、挑発的な笑みを浮かべて。
「主導権を相手に握らせてどうするのですか! 攻めに転じないと敵に後れを取りますわ!」
「そうですね」
ニルギリ様は穏やかに頷いた。
「ですが、無謀な攻めで味方を失っては本末転倒です」
「ぐっ……!」
「キームンさんの案は面白いと思います。ただ、退路が確保できなければ採用できませんね」
キームン様が歯ぎしりする。
ルクリリ様が笑った。
「ははっ! 言い負かされてやんの!」
「ルクリリさんも、あまり笑っていられませんよ」
「あ?」
「先ほどの配置では、側面攻撃に出るまでに時間がかかります。敵がその間に後退したら?」
「そんときは追いかける!」
「マチルダで?」
「……っ!」
「先遣隊としては、もう少し早く進路を確保していただきたいですね」
「おほほほ! ニルギリさんのおっしゃる通りですわ!」
「お前は黙ってろ!」
ルクリリ様は自分の角砂糖を乱暴につまみ上げた。
「じゃあ、ここから先回りすりゃいいだろ!」
勢い余って、隣の角砂糖まで転がった。
「あら。私の予備隊が倒されてしまいましたね」
ニルギリ様が倒れた角砂糖を起こした。
「このような事故が実戦で起きたらどうするのでしょうか?」
「今のは手が当たっただけだろ!」
私は口元を押さえた。
ニルギリ様は、決して怒鳴らない。
声を荒らげることもない。
けれど、だからといって反撃しないわけでもないらしい。
「そもそもニルギリ! お前は慎重すぎてトロいんだよ!」
ルクリリ様がテーブルを叩いた。スプーンが跳ね、キームン様の角砂糖に当たった。
「ちょっと! わたくしの護衛車両が!」
「敵の攻撃だよ! ダージリン様を守れて良かったじゃないか!」
「何ですって!?」
ルクリリ様は構わず続けた。
「敵が動いてから考えてたんじゃ遅えんだろ!」
「まったくですわ! 一手、二手先を読むのは戦において必須ですわ!」
「お二人とも、私にチェスで勝てたことないですよね?」
「チェスと戦車道は違うだろ!」
「そうやって動かない盤面で考えるから頭が固くなるんですわ!」
キームン様が小皿を動かした。スコーンがこけた。
「そもそも敵がこちらに回り込むように部隊を前進させれば……」
「キームンさん、そこは森ですよ?」
「邪魔な木をマチルダでなぎ倒せばいいではありませんか!」
「それはまた、随分と優雅ではない作戦ですね。ダージリン様がなんと言われるか……」
「あんな横浜女の言うことよりも勝機を逃すことの方が一大事ですわ! この隙にルクリリさんが囮役を担って……」
「何で私が尻拭いしなきゃならねえんだよ!」
三人の手が、テーブルの中央に伸びる。
小皿が滑り、ジャムの瓶が押し出され、スコーンが端に追いやられた。
「おい! そこのスコーンは動かすな!」
「隊長車両の位置は固定ではありませんでしょう!?」
「ペコさん、少しお皿を寄せていただけますか?」
私は黙って自分の皿を引き寄せた。
その直後、先ほどまで皿があった場所に角砂糖が二つ置かれた。どうやら、新しい戦線が開かれたらしい。
ニルギリ様が配置を修正すると、キームン様が別の敵進路を指摘する。ルクリリ様が先行配置を提案し、キームン様が弱点を見つける。
弱点を補えば、また別の問題が生まれる。ついでに余計な嫌味が増える。
「そもそもニルギリさん。あなたは損害を恐れすぎですわ!」
「そうでしょうか?」
「敵を撃破できる好機を、何度見逃してきたとお思い!?」
「ですが、キームンさんが敵を追いかけたがるたびに、護衛が一両減ってしまいますから」
「追撃には戦術的な価値がございます!」
「おい、その話はもういいだろ!」
ルクリリ様が割って入った。
「それより、ここで敵の後ろを取ったらどうだ?」
「ルクリリさん。そこに到達するまで、本隊が集中砲火を浴びるリスクがありますよ?」
「だからお前は慎重すぎんだよ!」
ルクリリ様が再びテーブルを叩いた。今度はジャムの瓶が倒れかけた。
私は慌てて手を伸ばし、それを支えた。
危なかった。あと少しで、テーブルクロスに甚大な被害を与えるところだった。
「ペコさん!」
「は、はい!」
「ダージリン様なら、わたくしの案を採用なさると思いませんか!?」
キームン様がこちらを向いた。
「いや、先に私の案を聞いてくれ!」
「ペコさん、まずこちらの配置を見てください」
ニルギリ様まで角砂糖を差し出す。
「ええと……」
私はティーカップを置いた。
どの案にも長所があり、欠点がある。
その欠点を指摘すると、また新しい案が生まれる。
そして、新しい案が生まれるたびに喧嘩が始まる。
ようやく理解した。
マチルダ隊のお茶会も騒々しい。
ただ、一つだけ違う。
「ですから! その配置では敵に側面を取られるでしょう!」
「取らせねえって言ってんだろ!」
「ではルクリリさん。どうやって防ぐおつもりですか?」
「今から説明する!」
「どうせ矛盾だらけのザル案が出るだけですわ!」
「うるさい!」
私は、すっかり冷めた紅茶を飲んだ。
どうやら、マチルダ隊のお茶会は終わるということを知らないらしい。
*
数日後。
「それで、ペコ。マチルダ隊のお茶会はどうだったの?」
ダージリン様に尋ねられた。
いつもの談話室だった。今日はアッサム様もご一緒している。
「……とても勉強になりました」
「あら、それはよかった」
「ただ、少々驚きました」
私はお茶会での出来事をお話しした。
スコーンと角砂糖を使って戦術議論に発展し、最後まで終わらなかったこと。
「皆さま、とても優秀な方々だとは思うのですが……どうして、あんなに喧嘩になってしまうのでしょう?」
アッサム様が微笑んだ。
「三人とも、ご自分の判断に自信があるからですね」
「簡単に言うと、頑固なのよ」
「……たしかに」
ダージリン様が紅茶を飲む。
「それぞれ長所も欠点もはっきりしています。ルクリリは交戦を急ぎすぎる。キームンは敵に執着しすぎる。ニルギリはリスクを警戒しすぎる」
「……なるほど」
「ですが、三人が揃えば互いの欠点を補えます。部隊全体としては、非常に優秀ですよ」
アッサム様は資料を閉じた。
「もっとも、もう少し冷静に行動してくれれば、こちらも助かるのですが」
「ねえ、ペコ」
ダージリン様が口を開いた。
「あなたは、あの三人の誰が一番優秀だと思った?」
私は困ってしまった。まさに、その話をきっかけに大騒ぎになったのだから。
「……それは難しいです。皆さま、優れているところが違いますから」
「ええ。そのとおりね」
ダージリン様は満足そうに頷いた。
「ニルギリには部隊を預ける。ルクリリには敵の動きを探らせる。そしてキームンには、私の周囲を守ってもらう。それぞれが得意なことをしてくれればいいのよ」
「ですが、キームン様は時々、敵を追いかけようとされますよね?」
「そうね」
「どうして追撃を許可されることもあるんですか?」
ダージリン様は微笑んだ。
「彼女が追いかけたがっているからよ」
「……はい?」
「もちろん、追撃する価値がある場合に限るけれど。感情的だからといって、判断まで間違っているとは限らないもの」
なるほど。ダージリン様は三人の欠点も承知のうえで、その能力を活用していらっしゃるのだ。
「こんな格言を知ってる? チームワークとは、共通のビジョンに向けて共に協力する能力のことだ。それこそが、凡人が非凡な結果を達成するための燃料となる」
「アンドリュー・カーネギーですね」
ダージリン様は満足げに頷いた。
あれほど激しく議論できるのも、互いの実力を認めているからなのだろう。
「少し、わかった気がします」
「それはよかった」
ダージリン様はカップを持ち上げた。
「ところでペコ。次のお茶会には、私とアッサムが招待されているのだけれど」
「……そうなんですね」
「あなたもご一緒するでしょう?」
私は黙って天井を仰いだ。
あの議論は、まだ終わっていなかったのだ。
「楽しみね、ペコ」
ダージリン様は微笑まれた。
「ええ……」
私は力なく頷いた。
アッサム様は、すでに資料を整理し始めている。
「せっかくだから、私も一つ作戦を提案してみようかしら」
ダージリン様が楽しそうにおっしゃった。
どうやら、次はもっと騒がしくなりそうだった。
コメディは苦手なので不安です……。
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