天涯孤独のお人好し青年は神々に与えられた加護でダンジョン世界を無双する 作:木刀
(ああ……良い匂いがする……って、え!?)
美味しそうな匂いに気付いて覚醒した私は、すぐに慌てて飛び起きた。
「……痛ぁ…っ」
頭がガンガンと痛む。
完全に二日酔いの症状だったが、それは史上最悪のコンディションだった。
周囲を見ると、そこは六畳くらいの質素なアパートの一室のようだった。
私は、畳の上に敷かれた布団の上に寝かされていた。
「ああああー、やっちゃったぁ……」
昨夜は一体どれだけ飲んだのか。
うう、しかも途中から記憶が無い……。
周囲を改めて見回す。おそらくここは宗太くんの部屋だろう。
壁際のハンガーラックには、私のジャケットが綺麗にかけてある。物が少なく片付けられたその様子が、主人の生真面目さを表しているようだった。
振り返ったところにある曇りガラスの引き戸。その向こうにキッチンがあるらしい。
宗太くんらしい人影が動いているのが、ガラス越しにわかる。
これは焼き魚の匂いだろうか。途端に空腹を感じる。
外は大分明るいが、今は何時くらいだろう。手元にはスマホが無い。
ふと、すぐ近くに置かれたちゃぶ台の上を見る。
そこにはスマホと、すぐ隣には黒っぽい何かが置かれていた。
「………あれ!?」
私は慌てて布団から抜け出し、四つん這いのまま手を伸ばす。
ちゃぶ台の上に綺麗に畳まれていたそれを広げると、間違いなく私のブラだった。
いや、ていうか私、今ノーブラじゃん!!
そもそも昨日着てたブラウスじゃなくて知らないTシャツ着てるし!?
(……え!? 私もしかして、あの後、宗太くんに戴かれちゃったの!?)
そんな風に私が混乱していると、がらりと引き戸が開いた。
当然、そこからは宗太くんが顔を出す。
「あ、
「……ちょ、ちょっと宗太くん!! これは一体どういうことなの!?」
「え゛」
私は立ち上がって、物凄い勢いで宗太くんに詰め寄った。
絶対、セキニン取って貰わないと!!!!
◇
「……本当に、本っ当に申し訳ございませんでしたッ!!!!」
「や、やめてくださいよ、礼依さん」
私は、誠心誠意を持って畳の上で土下座していた。
そんな私に、おろおろとする宗太くん。
結局、すべて私の勘違いだった。
昨夜、私は宗太くんを散々に連れ回した挙句、先に酔って前後不覚に陥り、
……宗太くんに背負われ、近くのタクシー乗り場へ向かう途中で盛大にリバース。
二人とも吐瀉物塗れではタクシーに乗れないという当然の判断になり、
介抱するため、徒歩圏内にある彼のアパートへ連れて来られたのだ……。
優しい宗太くんは、私の汚れたブラウスを苦労しながらどうにか脱がせ、
代わりのTシャツを着せて一枚しか無い布団に横にしたところ……
私はいつもの癖で服の上からブラを外して、宗太くんに投げつけたらしい。
………
………………
なあああにやってんだ!!!!
昨日の私いいいいいいいいいいいい!!!!!!
よりによって!!!!
よりによって宗太くんにいいいいいい!!!!!!
折角ちょっとイイ感じだったのにいいいいいい!!!!!!
「うわあああああ!! この際は、腹を切ってお詫びを!!!!」
「ちょ、ちょっと礼依さん!?」
うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
………………!!!!
………!!
…
◇
「お、落ち着きましたか?」
「……うん……このお漬物、美味しいわね……」
燃え尽きた私は、宗太くんの勧めで一旦シャワーを借りて、今は彼の作ってくれた朝食(もうすぐお昼だけど)をいただいていた。メイクも落ちてしまい、めちゃくちゃすっぴんだけど、もうどうにでもなれという心境だった。
ご飯に味噌汁、焼き魚に和え物と漬物、ほうじ茶。
すべてが美味しく、二日酔いの身体と荒んだ心に染み渡るようだった。
「良かったね宗太くん……これならすぐお婿さんに行けるよ……」
「なに言ってるんですか、もしかしてまだ酔ってます?」
本当だよ……できることなら、私が貰いたかったよ……。
「あのー、礼依さんって今日は一日お休みなんですよね」
「うん、そうだけど……」
食後、どうしてもと言って食器洗いをさせて貰い、更に何かできることはないかと尋ねると、そんな質問が返ってきた。
「僕、今日この後、夕方頃に園の方に行くんですけど、女の子たちに買っていくプレゼント選びが難しくて……」
ああ、神様。
もしかしてまだ挽回のチャンスが残されているのでしょうか。
「ええ、付き合うわ!! 何歳くらいの子で、予算は一人いくらくらいなの?」
「ええと、小学校高学年から高校生までで、一人2000円くらいを考えてるんですけど」
「うん、それならコスメとかが喜ばれるかな」
「うわぁ、助かります!! そういうの全然分からないから……」
「できれば、その子たちの写真とかあったりすると助かるんだけど……」
でも、思春期の女の子が、そんな簡単に写真撮らせてくれないかな。
きっと難しい環境にいる子たちだろうし……。
「ありますよ、もちろん。えーと、コレなんですけど……」
「あるんだ……」
うわー、可愛い!! 美人!!
みんな、めちゃくちゃ良い笑顔で宗太くんに抱きついてる!!
羨ましい、じゃなくて!! 絶対好きじゃんこんなの!!
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないわ。出発前に、ちょっとメイクさせてね」
あれには、すっぴんでは太刀打ちできないわ。
そもそも今更取り繕って、意味があるか分からないけれど……。
◇
「ただいまー」
ようやく自宅へ帰りそう言っても、返事は無い。
結局、宗太くんとは買い物にだけ付き合ってそのまま別れてきた。彼は施設へ誘ってくれたんだけど、あの写真を見たら絶対行かない方が良いと分かる。
私がチョイスしたプレゼントも「由希子ママに選んで貰ったことにしなさい」と釘を刺してきた。大好きな男の子に女の影があったら、絶対落ち込んでしまうだろうし。
彼女たちにとっての希望を、私には奪うことはできなかった。
けして若い子たちの隣に立ちたくなかったわけではない。
「はー、しかしホントに良い子だなぁ、宗太くん」
私は化粧を落とすために洗面台の前に立った。
鏡に映る自分に向かって、ユニークスキルを発動する。
「……やっぱり、見間違いじゃないか」
自分のステータスの最下段。
そこには【鑑定+】の文字があった。
きっとこれは神様からのお告げだと、私は気付いていた。