天涯孤独のお人好し青年は神々に与えられた加護でダンジョン世界を無双する 作:木刀
【収集者】
危険な場所で戦う最前線組を支援するために、攻略済みエリアでモンスターのドロップ品を集める人たち。ただひたすらに同じモンスターを狩り続けるため根気が必要で、また低いドロップ率のために収入が安定し辛い。
スマホで調べた【収集者】の概要を見ながら、自分の受付番号が呼ばれるのを待つ。
ここはダンジョンのすぐ脇にある協会の支部で、必要な登録を行うために訪れていた。
やがて、ピンポーンという音と共に、機械音声で番号が呼ばれた。
受付に向かうと、恰幅の良い男性職員さんが迎えてくれる。
「あのー、すみません、僕はじめてなんですけど」
僕の言葉に、職員さんはにこやかに頷く。
「はい、新規の方もこちらで大丈夫です」
「あとコレがあるんですけど……」
そう言って、
「こちらは、えーと……あ、紹介状をお持ちなんですね。
それでは拝見します。えー、紹介者は……ダンジョン課の矢嶋さん!?」
手渡した紹介状の紹介者欄を見て、職員さんは飛び上がるような驚き方をした。
……え?
「あれ、礼依さんとお知り合いなんですか?」
「れ、礼依さん……? いや、ええと、知り合いと言いますか……」
僕の質問に、職員さんはバツの悪そうな顔をする。
「……お恥ずかしい話、この辺りの支部は自前で【鑑定】持ちの人材を用意できなくてですね……鑑定依頼されたものは市のダンジョン課にいる矢嶋さんのところに全て持ち込んでるんですよ。なのでこちらの支部は全員、彼女に頭が上がらないんです」
「ああ、なるほど、そういう……」
日本ダンジョン協会は、全国のダンジョンを一括管理している組織だ。こうして、ダンジョンや出土したアイテム、そこで働く人たちの管理をしている。
一方、各自治体のダンジョン課は、ダンジョン産のアイテムによる地域内のトラブルや、ダンジョン関係の法的問題に対応する市民向けの部署だった。
礼依さんから聞くまでよく知らなかったけれど、ふたつは協力関係にこそあれ、実はまったく別の組織であるらしい。
「あとはやっぱり美人なので、利用者に人気があります。市の広報誌にも出てますし、ファンクラブもあったと思いますよ。なのであまり、他の利用者には言わないほうが良いかもしれません」
「え」
や、やっぱり有名人なのか礼依さん。
ていうか【鑑定】って、そんなに珍しいスキルなんだ……本当は今回のダンジョン挑戦にもついて来てくれるはずだったのに、職場の許可が降りなかったって言ってたもんな……。
今は【鑑定+】に進化してるってことだったけど、バレたら更に大変になっちゃいそうだ。絶対に言わないようにしないと。
「その礼依さんから、最初は装備をレンタルできるって聞いてきたんですけど」
「え……ええ、そうですね。新規登録後一ヶ月は、無料で装備品をお貸しできます。そうなりますと、こちらの登録申請のほかに、もう一枚サインしていただくんですが……今日は何か身分証をお持ちですか?」
「これで大丈夫ですか?」
「もちろんです。一旦、お預かりしますね」
僕は職員さんにマイナンバーカードを手渡して、必要書類に記入を始めた。
窓口でダンジョン利用者登録を終えると、奥の広いスペースへ案内された。
中央にあるカウンターには金属製の格子が張り巡らされており、物々しい雰囲気だ。
「
格子の向こうから、眼鏡をかけた小柄な女性が声をかけてくる。
首から提げている名札には「装備品担当」の文字。手にしているタブレット端末には、おそらく僕の情報が表示されているのだろう。
厳つい大男みたいなものを想像していたので、ちょっと意外だった。
「あのー、弓ってありますか?」
「弓ですと、短弓、長弓、そしてクロスボウがございます」
困った、違いが分からないぞ。こっちは礼依さんから『宗太くんは器用値が高いから弓がオススメよ、安全だし』と言われて鵜呑みにしただけだった。
「えーと、オススメはどれですかね?」
「弓道経験者でなければ、短弓かクロスボウですね。前者は器用値が高い方が、後者は筋力値が高い方が好まれる傾向にあります。また、クロスボウは複雑な構造上、自分で手入れするのが難しく、追加で整備費用が発生しやすいです」
「じゃあ、短弓でお願いします」
「レンタルですので、矢を紛失されると別途補償が必要になりますが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
そうして奥の部屋から持ってこられたのはシンプルな黒色の短弓と矢だった。
格子とカウンターの隙間から、こちらに渡される。
どちらも手に持つと、意外なほど軽い。
「こちらが矢を入れる矢筒と、短弓の使用動作に合わせられた防具一式です。予備の弦はこちらの収集バッグに入っていて、すべて使い方はこちらの冊子にまとめてあります。防具の装着はこの部屋向かいの更衣室でお願いしますね。コインロッカーがありますので、貴重品はそちらへどうぞ。もし着方が分からなければお手伝いしますので、お呼びください」
何百回と言ってきたのか、有無を言わせぬ素晴らしい説明だった。
「終わりましたら記入するものがありますので、再度こちらへお願いします」
「あ、はい」
男子更衣室に入り、冊子を覗きながら装備を身につけていく。
うん、ベルトとかが結構硬いけど、なんとかなりそうだ。
………
全てを身に付け、コインロッカーに貴重品を預けてカウンターへ戻ると、レンタルした装備品の一覧が書かれた控え書類にサインをさせられた。
「手続きはこれで完了です」
「ありがとうございます。それじゃ、お借りします」
「はい、お気をつけて」
あ、もしかしたら女性の手伝いが多いから、担当者が女性なのかもしれない。
装備品を借りた建物の外に出て、広い公園のようなスペースへ進む。
そこには、この地域を守るための城があったそうだけど、今は立派な石垣が残るのみ。
そして、その石垣の中心にダンジョンはあった。
通称【旧城跡ダンジョン】と呼ばれるそこは市内最大の規模を持つダンジョンらしい。
入り口の両脇には、装備品を身に付けた守衛のような人たちが立っている。
その人に首から提げた許可証入りのパスケースを見せる。
守衛さんは、僕を見て周囲を確認する。
「初めてですよね。後からだれかいらっしゃいます? まさかソロですか?」
「あ、ソロなんですけど、今日は練習というか腕試しというか……」
本当はユニークスキルのことがバレると面倒事になるからなんだけど。
「あまり奥に進まないよう気を付けてくださいね。はい、お通りください」
「あ、ありがとうございます」
よーし、ついにダンジョンデビューだ……!!
神々も焦れるスローペース。
次回より、いよいよ戦闘シーンです。