俊道は達也達と別れて、家に帰ってきた。すると、
「あっ、お兄ちゃんお帰り〜。」と可愛らしい声で、俊道の6つ下の妹
神藤 楓が居間の奥からやってきた。そして、
「楓、ただいま。」と俊道もいつも通り優しい声で返した。
神藤家は現在現当主の神藤 宗一、次期当主の俊道、今は全寮制の中学にいる3つ下の神藤 英明、妹の楓、の計4人で過ごしている。他にも神藤家が抱えている門下生はいるが、皆、離れにある道場の寮に住んでいるので、基本的に目を合わせる訳ではない。
また、母親は、楓が生まれてからとある事件によって、その後亡くなっている。そのため、家の家事は俊道が率先して行っている。
今日は、大事な仕事があるため、宗一はおらず、晩ご飯を俊道と楓の2人で食べる。
これはかなり珍しいことであり、当主とはいえ、宗一は基本的には門下生達に依頼を任せているので、言い方が悪いが暇な時間は多いのである。もちろん、門下生達に古式魔法や体術なども教えているが、それ以外は何もない。そんな宗一自ら、仕事をしにいくのは余程依頼が難しいのだろう。
宗一は当然として、門下生達も古式魔法師としてはかなり強く俊道も純粋に古式魔法だけでの勝負ならたびたび負ける事があるほどだ。しかし、俊道は、今回だけは何かが違う気がすると内心思うのだった。
俊道は食事終わり、いつも通り風呂に入り歯を磨く。その後自分の部屋で日課となった瞑想をし、そのまま精神世界に入る。
『今日も来たか』
とジンは言う。
ここで俊道は間髪入れず、背中側からジンの胴に鋭い蹴りを与えようとする。しかしながら、この胴を狙った鋭い蹴りはいとも簡単に流され、振り向きざまにジンの拳が俊道の腹にめり込む。
『グハァ!』俊道は地面に倒れ込む。
『まだまだ、不意打ちが甘いね。砂糖菓子よりも甘いよ』と挑発するように言う。
この挑発に俊道は乗ることはなく、すぐに体勢を立て直し距離を取る。
『いつも思うけど、何でこんな綺麗に流されるんだ』と少し苦そうに言う。
『単純に歴が違うよ。僕が前世からずっとやってるのもあるけど、俊道には日常生活が忙しくて時間がないしね。むしろ、1日1時間しか鍛錬してないのにここまで鋭くなったの十分だ』とジンは俊道を素直に褒める。
胴を狙った鋭い蹴りを綺麗に流すのは余程の技量差がないと出来ることではなく、この蹴りを直撃しようものならすぐさま病院に行き、緊急手術を必要とするぐらいにはダメージを与えられる。しかし、ジンはこれを背中側の死角となる所から放たれたのも構わず、綺麗に流す。これだけでジンと俊道の差が分かるだろう。
『それじゃ、次は僕から行こうか』
ジンは俊道の目の前に『縮地』し、次は俊道の鳩に『発勁』をする。
俊道は『発勁』の威力を逃すべく、後ろへと飛ぶが、ジンはそんなこと関係なく、遠当ての要領で『発勁』を当てる。しかし、俊道もギリギリダメージを最小限に流し、そのまま『自己加速術式』と『縮地』の合わせ技でジンに膝蹴りをかまそうとする。ジンはこれを手で受け止めた。ジンは純粋な技術で膝蹴りの威力を、体がその場から動くことなく、完璧に受け止めた。『今のかなりいい攻撃だったよ。短い距離での『縮地』だったら僕ももう負けてるかもね』続けて『でもね、まだまだ威力が弱いよ。僕も最低限吹き飛ばしたいなら、』とジンはお手本を見せるように、さっきの俊道と同じように距離を取り、『俊道、ちゃんと防御してね。じゃないと死ぬよ?』ジンは『縮地』をし、膝蹴りを与えて、速度だけで見たら、俊道の方が速いが、威力は全く比にならない。腕を重ねて、脚で本気で踏ん張っても、10m強吹っ飛ばされる。その際に腕はへし折れ、脚の筋肉を断裂する。その痛みは想像できるものではなく。声を出すことすらもできない。しかし、ここは精神世界、俊道の怪我はすぐに戻る。
『どうだい?全然違うだろう。それもそのはず、質量×速度は力っていうけど、力の伝え方がまだまだ下手なんだ。重心をもう少し前にするだったり、インパクトの瞬間に力を入れるだったり、後地面の踏み込みも全く出来てない。魔法で強化するのはいいけど、別に素の身体能力を強化してるわけじゃない』と手厳しい評価を下すジン。俊道の努力と実力は認めているが、それはそれとして厳しく指導する。
『俊道の『縮地』はまだまだ地面を踏み込みきれてないし、魔法と併せるのはまだまだ先だね。それじゃ』とジンは刀を出し、俊道もそれに合わせて、刀を出す。『行こうか!』
ここは精神世界と言っても、夢に近いものであり、そのためいくらこの世界で傷付こうが、現実世界の体が無事である限りどんな傷であろうが絶対に治す事が出来る。こうして、ジンとの鍛錬が過ぎていく。
一方その頃達也はというと、
(初めて会った時と今日、森崎のCADをはたき落としたの視た時、トシの情報体《エイドス》の内容が変わっていた。まるで自分の体を動きに合わせて、体の構造そのものを最適にするようにだ。あの時のトシの脚はおそらく最も速さに優れていただろうし、CADを叩く際の腕も同じだった。だが、終わった後に視たら、最初の情報と同じになっている。なぜだ?....なぜそうなる?)
達也は俊道の異常性に気付きつつあるというか7割ぐらい当たってる。俊道は森崎の時もそうだが、先ほどのジンとの鍛錬の時にも同じように身体の構造を変えている。無論、これはジンもしている。
しかし、ソファーに座っている達也に後ろから、
「どうしたのですか?お兄様」と深雪が話しかける。
「いや、少し考え事をしてたんだ」
そういえばと思い、
「深雪、トシの学校生活はどうなっているんだ?お前が良ければ教えて欲しい」と深雪に質問し、
「トシくんですか?どうやらほのかと雫と知り合いのようで、.....!」はっと深雪は、
「トシくんが一度食堂でお兄様に文句を言った先ほどの無礼者にどうやら怒ってしまったようで...その際に、髪色が白になって、突然サイオンの量が増えていました。その量はおそらく私やお兄様を超えていました。」
「何?」達也は眉を顰める。それもそのはずである。
深雪と達也のサイオン量は常人の数百倍はあり、余程魔法の過剰行使をしなければ尽きることはないのである。
そんな2人のサイオンを超える俊道に達也は警戒心を高める。
ここで達也は入学式前日の会話を思い出す。
───入学式前日の夜
達也達の家のヴィジホン《映像電話》で電話が来る。
そこに映っていたは、当代における世界最強の魔法師の1人『極東の魔王』『夜の女王』と全ての魔法師から恐れられている『十師族』四葉家当主四葉 真夜がそこにいた。
今のご時世伝えたいことは全部スマホで用を伝えれば良いが、わざわざヴィジホンで、しかも、秘匿回線で来るなんてことはほぼない。それほどまでに大事な話なのだろう。
『今晩わ。達也さん。夜分遅くにごめんなさいね。ところで深雪さんは?』
「深雪は明日の準備があるため、もう寝かせました。」
『そう...まぁいいわ。今日は達也さん、貴方にお願いしたい事があります。明日第一高校にあの佐渡侵攻事件の『剣聖』神藤 俊道が、入学するそうよ」
達也は目を見開いて驚く。その後、達也は落ち着いた口調で、
「それでは、何をすれば良いのでしょうか?」
『そうね。彼には何か秘密がありそうなの、だから貴方のその眼で視ておいてくれればそれでいいわ』
(なるほど、俺の『精霊の眼《エレメンタルサイト》』で監視をしろということか)
『精霊の眼《エレメンタルサイト》』とは、イデア(情報次元体)にアクセスし、ありとあらゆる構造体のエイドス(情報体)を視る事が出来る異能力である。現代魔法はこのイデアから魔法式をエイドスに投射する事で発動する事が出来るため、達也は相手が発動する魔法を理解する事が出来るのである。
「分かりました。ですが、」と達也は続きを言おうとするが、
『もちろん分かってるわよ。最低限、お願いしたことさえしてくれていれば十分よ。達也さん。それでは、深雪さんにもよろしく伝えといて下さい。では』プツンと電話を切る。
「神藤 俊道か。深雪にも明日の朝伝えておこう」
そして今、
(まさか叔母上が仰っていたあいつが、初日からいきなり話しかけてくるとは思いも寄らなかったかが、どうやら叔母上の言う通り、何か秘密があるそうだ。俺にも隠してることはあるが、あいつはそれ以上だろうな。)と、綺麗にブーメランが返ってきそうな発言であるが、実際にその予想は当たっているため誰も否定出来ない。こうして夜は更け、明日がくる。
ジンと俊道が使っている技は、次回出す予定です。お楽しみ下さい。
俊道の魔法師としての強さは、果心居士の再来こと九重八雲より強く、体術のレベルも遥かに強いのですが、ジンが強過ぎて、俊道の強さが霞むのが作者的は悲しいです。