うちはオビトside
「おや、三代目火影様!」
「おお、サクモではないか! 達者にしておったか?」
「僕はこの通り、元気ですよ。 火影様は少し老けましたね」
まあ、否定はできん、とヒルゼンは苦笑した。
「ああ…、分かっておったよ。 ワシは長く生きすぎてしまっていた、とな。 初代様、二代目様より受け継がれし灯火を、次の世代に任せる時が来たのだと」
「火の意志ですか」
「そうじゃ」
三代目火影は慈しみ深い笑顔でうなずいた。
満足そうな笑顔だった。
はたけサクモもつられて微笑んだ。
ここは、猿飛ヒルゼンが陽炎のように現れ出るまでは、光の届かない深海のように真っ暗な空間だった。
はたけサクモは一人きりでいた。
だから、人に会うのは久しぶりで、はたけサクモはうまく笑えているかどうか不安になった。
何せ、死ぬ前ですら、人と会話することを避けていたのだ。
ぎこちなさがあっても無理はないだろう。
しかし、三代目火影はそんなサクモの気持ちを知ってか知らずか、ゆったりと優しげな口調で語りかけた。
「ワシはのう、お主に忍者学校(アカデミー)の教育者になってほしかったと、今でも思っておるよ」
ヒルゼンの真摯な眼差しに、サクモは気恥ずかしげに目を伏せて言った。
「ははっ。 それ、生前に耳にタコができるくらい聞きましたよ。」
「嫌じゃったか?」
「いいえ。 嬉しかったですよ」
ですが、とサクモは続けた。
「教授(プロフェッサー)、私は弱い人間です。 自分一人を持て余してしまうくらいですから、まして他人の面倒なんて。 現に、私の倅(せがれ)を置いていきましたから」
ヒルゼンは、ううんと唸った。
「そう自分を卑下するでないよ」
一言一言に重さを感じさせる声音だった。
「お主は強い。 強いとも。 ワシはお主の行いを咎めたりはせぬ。 そして、弱みを隠さず打ち明けることは、とても勇敢なことじゃ。 できればお主が生きとる間に聞きたかったがのう」
焚き火がパチパチと音を立てて燃えていた。
火がゆらゆらと揺れて、今のサクモのようだとヒルゼンは思った。
「忍者学校(アカデミー)が創設されたのは、ちょうどワシが子どもの頃じゃった。 乱世の最中、里の戦力確保と教育の充実が急務であるとした二代目様の発案でのう」
懐かしむように目を細めたヒルゼンは、おもむろに懐を探った。
捜し物を見つけたようだ。
嬉しそうに取り出した煙管を吸い始めた。
サクモはその様子をじっと見つめて、言葉の続きを待った。
ゆっくりとした時間が流れていた。
辺りには煙管の煙が浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。
「ワシはその遺志を継ぎ、特に教育者の育成に力を入れてきた。 ワシは初代様、二代目様、そのお二人の部下じゃったから、教育者が生徒の今後を左右すると、誰よりも身を持って知っておった。 教育者の選抜基準は特に厳しくしておったよ。
里を愛し、その平和と反映に尽力する志を持つ者。 不撓不屈の精神を有し、たゆまぬ努力と鍛錬を行う者。 まさしくお主のような、教育者を求めておったのだがのう」
不意にヒルゼンがサクモに微笑みかけた。
気づいたサクモは軽く会釈をした。
「ワシは皆の教授、そして火影となり、同じくお二人の部下だった水戸門ホムラやうたたねコハルはご意見番となって、ワシと共に里を導いてくれた。
素晴らしい技術と精神を持った上忍。 側で補佐してくれた暗部の者。 自分の限界に挑戦する勇敢な中忍。 目立たぬところで木の葉のために働く下忍。 木の葉隠れの里に住む全ての人々。 多くの人々に感謝を告げられずにこの世から去ってしまったことだけが心残りじゃて」
「火影様はいつも里の全ての人に尽くしておいででした。 きっと、その気持ちは伝わっていると思いますよ」
心から伝えた言葉だった。
見ると、ヒルゼンは目を細めて微笑んでいた。
「ありがとう、サクモ。 ワシもお前の仲間への気持ちは、伝わっておったと思うよ」
「…ところで、カカシの話を聞かせていただけませんか? 僕、あれからカカシがどうなったのか、知らないんですよ」
はやる心で三代目に目線をやると、予想外にも呆然と、三代目がこちらを見つめ返していた。
「ここでは下界の様子が見られぬと申すのか!?」
「え、ええ。 見ての通り、真っ暗な空間で、それ以外に窓も何もありませんから」
「そうか。 お主が、カカシの活躍を見守っておらんかったとは…。 カカシも可哀想じゃが、お主も辛かったのう。 よし、それでは、ワシがお聞かせ進ぜよう。 これは、うちはカカシの物語じゃ」
「あの」
サクモがおもむろに話を遮った。
そのことが気に障ったように、ヒルゼンは不機嫌そうにフン、と鼻を鳴らした。
しかしヒルゼンは内心微塵も気を悪くしてはいない。
老人の短気に呆れさせ、サクモの元気を少しでも取り戻そうとした優しい嘘なのである。
サクモもそのことが分かっているのか、火影の不機嫌な顔を見ても、穏やかな表情を決して崩さなかった。
「何じゃ?話の出だしくらい静かに聞けんのか」
「すみません。 ですが今、『うちは』カカシと仰いましたか? 僕たちの姓は『はたけ』なのですが」
サクモはつい言い間違えたのだと思って、尋ねたが、反応は意外なものであった。
ヒルゼンは怪訝な顔をした。
「何を言っておる? お主の名前はうちはサクモ、一人息子の名前はうちはカカシじゃろう?」
サクモは狐につままれたような表情をして、僅かに語気を荒げながら言った。
「えっ、カカシだけでなく僕も? それは冗談ですか?」
「本気じゃ。 何か、お主の記憶とワシの記憶に食い違いがあるのかのう? それとも、お主とワシが生きてきた世界が違うとか…。 これはちと小説の読みすぎかもしれんな」
「よ、よく分かりませんが、カカシの話を聞かせてください。 姓が何であれ、僕の息子には違いはありませんから」
はたけサクモは頭を抱えていた。
一体何がどうなっているんだ、と混乱している様子がはっきりと見てとれる。
そんな様子にヒルゼンも少々戸惑いながら話を続けた。
「うむ…。 仕切り直しじゃ。 それでは、うちはカカシの物語を話し始めるとしよう」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
【うちはオビト】
任務が終わったのが22時で、今日の出勤が4時。
Q.残業代は出ましたか?
A.いいえ、出ませんでした。
Q.それは、労働基本法に違反していませんか?
A.road・Kihonho?
すみません。
オレはあまり英語が得意ではないので、日本語でお願いします。
Q.法律を盾にとることも許されない、厳しい労働環境にいるのですね。
それでは、労働組合運動を始めてはいかがでしょうか?
A.それは里に謀反をするということですか。
それは止めておきます。
仮に一族の協力をあおいでクーデターを起こすとしたら、恐ろしく強い、お面を被った忍びに殺されると思います。
Q.そ、それは恐ろしいですね!
でも大丈夫、私があなたの労働運動をサポートします。
あなたの名前と、その企業の名前を教えてください。
A.僕の名前はうちはオビト。
木の葉隠れの里っていう企業で勤めている中忍です。
メイデイ!メイデイ!繰り返す。
出勤4時。
今、4時半
メイデイ!メイデイ!
「しまったァーー!」
目覚ましを見て思わず叫んでいた。
オレ、うちはオビト!
結構寝覚めはいい方!
でも、何故今日に限って目覚ましの電池が切れてくれやがりますか!?
着替える前にトースターにつっこんでおいた食パンを口の中にねじこみ、牛乳で一気に流し込んだ。
ゴーグルと額当てを装着し、慌てて家から飛び出すと、夜明け間近のぼんやりとした明るさがオレをさらに焦らせた。
あーっ、くそ!
またアイツと一緒にリンにお説教食らっちまうのか!?
(やばい!!)
オビトは息を切らせながら木々の間を疾走している。
チラチラと確認するのは後方であり、後方からは、耳にゴムを回して付けた白いマスクで口元を覆った、白髪の少年が気だるそうにオビトの後をつけていた。
等距離を保っているように見えるが、カカシの方が若干スピードが早く、到着までに追いつかれるか、追いつかれないか、目算ではギリギリといったところだった。
(…このままだと…カカシに先を越される!)
(間に合うか!?)
オビトは咄嗟に、リンが背中を叩いてくれていることを想像する。
想像上のリンが耳元で言うのだ。
「オビト、カカシなんかに負けちゃダメだよ! あんな変態! 負けたら忍びの恥よ! うちはの名折れ!」
ああ、リン!俺は負けないぜ!!
「クッソ! 速度落とせェー変態! 追いついてくんな! 近寄んなァー!」
「え、ひどくね?」
カカシの呟きが聞こえたその時、オビトのささやかな勝利への願望は、一本の枝に躓くことによって無情にも裏切られた。
3メートルほど上からムササビ落下スライディングで、既に来ていたリンとミナトの元に到着した。
負けたことに気づかずオビトは尋ねた。
「ギリギリか!?」
「カカシがオビトより早く来るの始めてじゃない?珍しい!」
「ん!約3秒差かな。 短距離走の世界選手権なら物凄い差だけどね。 あいにくレース(競争)じゃなく、トレース(追いかけっこ)。 勝ったのはカカシだけど、どちらも遅刻は遅刻! 二人とも、何か言い訳はあるかい?」
オビトはミナトの視線の先に、カカシを見つけた。
オビトより数メートル先で、水筒に入った茶をのん気に飲んでいる。
しかし熱かったらしく、アッツ!と顔をしかめていたのが物凄くダサかった。
「うーん、リンはもう何となく予想ついてるでしょ? 先生、オレは寝坊です。 遊び半分で熟女物のAVを見ていたら、あ、これ意外といk」
赤面したリンの鉄拳が、カカシの腹に吸い込まれる!!
呆然としながら思った。
あれは痛い(確信)。
「任務終わってから見なよ…」
ミナトは顔をひきつらせながらカカシを立ち上がらせた。首もとに手をやりながら、ミナトに礼を言った。
「げっほげっほ! しかし、先生も男なら分かるでしょう? 耐えたくても耐えられないときがある! 目の前に金塊を積み上げられ、これと、絶世の美女、どちらかを選べと言われたらどちらを選ぶか。 決まっています!美女でしょう!」
「奥さんが怖いから僕には聞かないでくれ! オビト、パス!」
「俺? 俺なら金塊! リン、パス!」
「私に聞くなっ」
リンはぷりぷりと怒ってそっぽを向いてしまった。
「ま、俺が言いたいのは、金塊ですら美女には霞んでしまう。 まして任務で得られるはした金と、熟女の色っぽい視線とじゃ、比べるまでもないってことだ!」
カカシは得意気に説明した。
「そう思っているのは俺だけじゃないと思うよ? うちは一族って木の葉隠れの里が創設される前からあるから、蓄積された財産をたんまりと持ってるし、仕事より女!って人、たっくさんいると思うけどなー」
「いつまでもその話を続けるなッ!」
真っ赤な顔のリンがカカシのみぞおちに拳をぶちこみ、カカシはなす術もなく吹っ飛ばされた!
カカシは見るのも哀れなほど息をつまらせていた。
そんなカカシにリンは、首に手をかけ(端から見ると息の根を止めようとしているように見える)、回復させ、また平手打ちを食らわせ、回復するという、拷問の如き所業を行った。
「カカシ、毎度毎度、何度言ったら分かるの? 私の前でそういう話をしないでって…! それに何で熟女なの? どうして毎回好み変わるの? この前はミニスカ暗部だったよね? あなたの好みは一体何なのよーッ!」
今度は涙目でカカシを激しく揺さぶっている。
カカシはというと、今にも死にそうな表情で目を回している。
「何でカカシの性癖が気になるのリンさん…」
怯えるオビトは質問できずにいた。
(あの乱暴さ…怒ったときのクシナみたいだ…)
ミナトはぞっと身震いをした。
カカシに対するリンの応酬は依然として続いている。
(このままだと任務に支障をきたしそうだ)
意を決してリンをなだめようとしたミナトが、カカシのとばっちりを食らったのは言うまでもない。
「まあまあ…リン、落ち着いて…アイタッ!」
「先生!? ごめんなさい! 本当にごめんなさい! …ハッ! 異常にニッコリ微笑んでいる先生がリュックを下ろした…!?」
「俺は悪くない…俺は悪くない…ブツブツ」
カカシの意識が混濁している!
ミナトが瞬身の術を使った!
「何でオレ!?」
ミナトの攻撃をくらったオビトは華麗に吹っ飛んだ!
「女の子殴るわけにはいかないからね!」
「そこはカカシだと思います…」
「ん、遅刻の罰だと思えばいいよ! それにオビトはリンを傷つける人を許せないだろう? 何たって君はリンを…」
「うわァー! わァー! 先生言っちゃダメです!」
「?」
オビトが顔を真っ赤にして慌てふためく中、何だろう?と、可愛らしく首を傾げるリンであった。
「なぁーカカシィ。お前の趣味にとやかく言おうとは思わん。思わないからさ、」
草原で一列に歩いていたところ、しんがりを務めているオビトが、列の3番目のカカシに忍び寄り、ちょっと恥ずかしそうに耳打ちした。
『この前そーゆーのが売ってる裏ルートの店の最後の一軒つぶれたの言ったよな? お前のつてを紹介してくれよ! 最近新しいの、手に入らなくてさあ…』
『別に紹介してもいいけど、それなりの対価はあるわけ?』
明らかに乗り気ではないカカシを横目に、オビトは勝利を確信しているかのよえにニヤリと笑った。
『ラブ☆リーヴズの丸猫ちゃんの一曲ダンスサービス券でどうだ?』
カカシの目の色が喜色に変わった。
『なに!? 俺が求めてやまない物じゃないか!! お前、それをどこで手に入れたんだ!? よし、成立だ成立』
手のひらを返したようにカカシが乗り気になった。
してやったり!でも、こいつ、昔はこんなやつじゃ無かったのにな…と少し悲しくなったのは内緒だ。
『券と引き換えに紹介する。とりあえず帰ってからだな』
気づくと、カカシの目に鋭さが現れていた。
今までに見たことがないくらい真剣な表情だった。
いや、一度はあったと思う。
さっきの丸猫ちゃんがいるメイド喫茶、ラブ☆リーヴズ。
略してラブ☆リーのお客様感謝イベントでのこと。
『私のハートを射抜いて☆わがままダーツ!』というゲームの商品の一等賞に、『丸猫のラブ☆リー日記』というのがあった。
本当に信じられないのだが、一年間の丸猫ちゃんの業務日誌のコピーのことだ。
丸猫ちゃんはラブ☆リーの一番人気メイドだ。
丸猫ちゃんのファンの男たちは一人残らずこのイベントの参加したそうだ。
その的は、1mm×1mm。射抜かせる気ねえだろ!と誰もが思ってしまうサイズだった。
それを制限時間1分以内にダーツの矢で一番多く射抜いた人が勝ちというゲームだった。
そのゲームの開始直前、オビトとカカシは一緒に参加していたのだが、カカシが真剣に頼みごとをしてきた。
「俺の体を頼む。 ちょっと、これ、本気を出さなきゃいけないから、終わった後、無事ではいられない」
「え、それどういう意味だよ?」
開始の合図が鳴った。
ラブ☆リーの店の外に設置された無数の的に、むさくるしい男たちが一心不乱のダーツを投げ続ける。
俺も負けじとダーツを投げる。
しかし、隣の奴の速さと精度がえげつなかった。
もちろんカカシである。
投げたダーツは百発百中で命中し、応援にきていたメイドたちが黄色い声をあげ、誰も彼も、ゲームの参加者以外はカカシに釘付けだった。
体術と投擲術を熱心に鍛錬していたのは知っていた。
しかし、これほどまでだったとは…
うちはの居住区でも、忍者学校(アカデミー)でも、同じ班でも。
見たことがないほど、真剣な表情を浮かべたカカシがそこにはいた。
気づくと俺は手を止めていた。
他の参加者もそうだった。
こいつには勝てない。
みんな、悟ったようだった。
涙を流しているやつもいる。
よっぽど悔しかったのだろう。
その時、手を止めたカカシが叫んだ。
「諦めるのかッ!!??」
「「「!?」」」
一同は思わず息をのんだ。
その迫力に。
その声の力強さに。
ビリビリと痺れるような威圧感を、あのカカシが発していた。
次は語りかけるように優しい声音だった。
「後20秒ある。 お前らは、本当に諦めてしまうのか?」
泣いている男たちのすすり泣きがいっそう激しくなった。
諦めたくはない。
みんなそう思っている。
でも、お前という壁を越えれそうにないから、みんな諦めているんだよ…
「なあ、カカ「立ち上がれ!!!!」
うっ、とオレは言葉を飲み込んだ。
まただ、また、この声だ。
このビリビリとした痺れを通して、心に直接訴えかけてくる…!!
「根性見せろォッ!!!
お前らは木の葉の男だろォーがッ!!!」
シン、と辺りが沈黙した。
途端に、男たちののぶとい雄叫びが多方向からあがる。
そして、一人、また一人と、諦めて置いたダーツを取り上げ始めた。
もう男たちの目に諦めはない。
迷いもない。
目標に向かって猪突猛進に突き進む、ダーツ。
心の底からあげる雄叫びは、聞いているこっちまで心を揺さぶられるものがあった。
くそ、思わず感動しちまったじゃねーか!
あのカカシのくせによ、見直したぜ。
目にたまった涙をこっそりと拭った。
「すげえよ、お前…。 みんなの心を変えちまった。 まるで、火影みたいだったぜ…!」
照れ隠しに、的を見据えるカカシの肩を乱暴にバシッと叩いた。
「オビト…後は頼んだ」
カカシが薄く笑って倒れた。
この後、慌てて運んだ病院で、駆けつけたカカシの母ちゃんから聞いた話だが、カカシは元々、心臓が弱かったらしく、父親が死んでからは一度も無かったが、それまではよく道端でひきつけを起こして倒れたりしていたらしい。
全く知らなかった。 カカシが目を覚ましたとき、無遠慮だとは思ったが、忍を諦めた方がいいのではないか、と提案した。
そのときのカカシの怒りようときたら、半端なかった。
なだめるために、カカシが持病持ちということは誰にもばらさないことを誓わされた。
「あー、もう! 母さんが余計なこと言うからだ…。 俺はもう平気だって、いっつも言ってるのに!」
「でも実際倒れたじゃねーか!」
「オビトまでそんなこと言うの!? あのな、俺が倒れたのは心臓のせいじゃない。 これのせいなんだよ」
一瞬カカシの目が赤く光った。
2つ巴の写輪眼…!先を越された、とオビトは内心悔しがった。
「お前開眼してたの?」
「ああ、誰にも言ってなかったけどな」
すぐに普通の目に戻しながらカカシは続ける。
「俺がチャクラ少ない話、知ってるでしょ? 写輪眼は俺にとって、チャクラを食らいまくる魔物みたいなものさ。 手に負えないものを、わざわざ人に言う必要はないからな」
ま、35秒もったから新記録だな。と呟きながらカカシはまたベッドに寝転がった。
「ほら、分かったならさっさと出てけ。 男に看病されてもちっとも嬉しくないんだよ」
そううんざりした顔で言うカカシに一発拳をお見舞いしてから、俺は言われたとおり出て行った。
あの時カカシに感じたリーダーシップは気のせいだったのだと、自分に言い聞かせながら。
余談だが、カカシが鼓舞したあの男たちの中の一人にうちは一族がいたそうだ。
カカシは倒れた件について、そのうちはの一人に問い詰められ、手に入れた日誌を泣く泣く渡して、自分の持病を強く口止めしたらしい。
命の危機にあってまで手に入れた物を犠牲にしてまで、隠したいものなのかと、オビトは口には出さなかったが怪訝に思った。カカシのプライドは俺には理解できなさそうだった。
そう。
その命をかけた行動をとる前に見たのがこの目だった。
だからオレは何かいやな予感がして、つい名前を呼んでしまった。
「カカシ?」
「あ、いや、何でもない。 とにかく、帰ったら頼んだよ」
カカシは俺に背を向けたので、あの表情を見ることはもう無かった。
「そろそろ任務の説明をしようかなぁ? もう国境近くだしね」
4人は、巨大な岩の上で地図を中心に集まった。
「いい…? このラインだよ」
ミナトは地図上を指差しつつ、念押しして言った。
「今、土の国が、草隠れの里を侵略侵攻してきてるラインね。 もちろん敵は岩隠れの忍…敵の前線にはすでに千の忍がいるって情報なんだよね」
「この前よりさらに前進してる…」
オビトが呟いた。
「これだけの進撃を見せてるってことは…後方の支援がスムーズに働いているってことですね…」
リンが確認するように目線をやると、ミナトはこくりと頷いて続けた。
「そこで今回の任務…ここね…」
ミナトはまた新たな場所を指し示した。
橋だ。
「最前線では敵を叩くのにたくさんの忍が必要になるよね。 だから、オレたち妨害工作をする忍びは、少数精鋭でやるしかないんだ。 そこで、効率を考えて隊を2つに分けたよね。 君達の任務は……」
ミナトが3人を見回して言う。
「敵の後方地域に潜入。 物質補給に使われているこの橋を破壊し、敵の支援機能を分断。 その後速やかに離脱すること」
「「ハイ!!」」
「ん、どうしたのカカシ。 何か質問ある?」
一人返事をしなかったカカシに、怪訝そうにミナトが訊ねた。
「はい。 移動中にも申し上げましたが、やはり隊編成を変更することはできないのでしょうか。 オビト、リンは中忍ですが、何より俺は下忍だ。 間違いなく隊の足を引っ張ることになるでしょう。 それでも…?」
「うん、変更はない。 何せ木の葉は未曽有の戦力不足だからね。 崖から突き落とすようで悪いけど、そろそろ一小隊として行動してもらうよ。 オレは前線で直接敵を叩く。 君達の陽動にもなるからね」
ミナトは大丈夫だよ、とカカシに微笑みかけると、手を前へ差し出した。ミナトの手に残る3人の手が重ねられていく。
「とりあえず今日はオビト君が隊長ね。 国境までは一緒に同行するけど、そこから別れて任務開始(ミッションスタート)だよ!」
「「「ハイ!!」」
そこからは敵の察知を警戒し、誰一人声を出さなくなった。
しばらくすると、敵の気配を察知したミナトが、無言で静止するよう3人に促した。
「気をつけなね。 みんな…。 敵は二十はいる。 …おそらく、影分身の術だけどね」
「気ィ抜くなよ…!」
オビトはもうすぐ来るであろう敵を迎え撃とうと、臨戦態勢をとった。
「こっちのセリフだよ。 お前が隊長とか世も末だな」
「オビトならきっと大丈夫! 落ち着いて!」
「隊員に励まされてばかり…。 ハァ、本当にオレが隊長でいいのかな…」
「来るよ!」
多方向から多数のクナイが飛来した。
オビトは確実にクナイで弾き返し、リンも問題なく。 カカシは異常な動体視力と瞬発力でクナイの柄の部分を掴み取り、そのまま投げ返していた。
「影分身だとしても、クナイは全て本物だ。 この準備の良さからして、偵察の忍にちがいない。 隙を見せた途端に本陣に報告をしにいくだろう。 フォーメーションAだ。 一気にたたみかけるぜ!」
オビトの合図と同時に、4人が走り出した。
機動性は悪いが、確実に相手をしとめるフォーメーションだ。
一人、また一人と数を減らしていった。
「オビト! 一人この場を離れていくよ!」
リンが慌てて報告をする。
「カカシ、追ってくれ!」
「了解」
カカシは短く返事をすると、リンが指し示す方向へ駆け出した。
「ミナト先生、カカシの援護を頼みます!」
「分かった!」
「オレとリンでミナト先生を守るぜ!」
「うん!」
岩隠れの里の忍で、先ほどまでオビト隊と交戦していた忍の本体は、本陣へ報告しようと走り出していた。
くそ、何だあの身体能力は!?
クナイを素手で掴むってあの小僧、人か?
それよりも気になるのはあの金髪ヤローだ。
あんなガキどもを引き連れてるから確証は得難いが、危険だと俺の勘が告げている。
一人では対応しきれない。
本陣との中間にいるはずの仲間を応援に呼び、報告しなければ。
「やーあ。 マヒル君? 元気? 久し振りだねェ」
耳元から声がしたので、ギョッとして飛び退いた。
クソ!もう追いつきやがったか!
後ろ髪がバッサリ切られていた。
後もう少し反応が遅ければ、首を切られて、確実にお陀仏だっただろう。
なぜ俺の名を知っている?
久し振りとはどういうことだ?
そうか、これはこの小僧のただの時間稼ぎ。
影分身が数を減らし続けている。
あの上官が来るのを待つつもりなのだろう。
俺は無言で水平に刀を滑らせた。
何度も何度も。
小僧は、半歩下がっては、紙一重で避けていた。
器用なやつだ。だが、
小僧の背中がドン、と木の幹に当たるのを確認すると、起爆札を投げつけた。
爆発を避けるために飛び退いた野郎をひとつきにしようと刀を押し出す。
背中をギリギリまでのけぞらせて避けやがった。
チッ、ちょこまかと…!
影分身の最後の一体が消された。
もうなりふり構っていられない。
足払いをするとやはり避けられた。
「そろそろ、こっちからもいくよ、マヒル君?」
飛び上がっていた小僧が、そのまま体を捻らせて蹴りを繰り出した。
足払いの格好から飛び退くのは難しく、腕でガードする。
次々と繰り出される足技に、防戦一方になってきた。
気がつくと、今度は俺が木の幹に追いつめられていた。
「ま、待ってくれ! それ以上近づくなァッ!」
なんてな。
尻餅をついたフリをして、おれは土遁を繰り出した。
とどめの踏み切りを終えていた野郎は止まりきれず、土遁に飲み込まれる。
「あばよ、小僧」
立ち上がろうとしたとき、もう立ち上がれなかった。
俺の胴体と腰が離れていた。
一体何が…?
最後に見たのは、不敵に笑う白い悪魔の姿だった。
「あの時は死ぬかと思った。 本当にいいタイミングでしたよ。 ミナト先生」
真夜中。見晴らしのいいところで陣をとっているとき、オビトとリンが眠る中、カカシとミナトは見張りをしていた。
「逆に、君が余裕で勝つところも見たことないけどね。 カカシ、何か決め技みたいなものは無いのかい?」
「ええ。 ひたすら体力勝負です」
「これからは持久戦だし、こまめに休憩するようにね。 明日からは三人一組(スリーマンセル)だ。 君たちは連携に関しては同期で一番なんだから、その強みを生かせるように、他の隊員と離れ離れになることがないように気をつけて」
「ハイ…。 ミナト先生。 もしもの話なんですけど、聞いてくれますか?」
「君がオレと雑談なんて珍しいね。 いいよ」
ミナトは涼しげな目でカカシを見据えた。
「オビトとリンが危険にさらされるとします。 命に関わるような危険に。 どちらかを救えば、どちらかを失う…。 そういうときって、先生ならどうしますか?」
「中々哲学的だね」
うーん、と、ミナトが夜空を見上げて考えている。
ブルーの瞳が夜空の色を映し出して、いつもより濃く見えた。
「オレは…。 うん、選べないよ。 どちらも大切な人だ。 必死で、二人がどちらも生き残れる道を探すと思う。 カカシは?」
「俺は…。 俺も、そうです。 でも、やっぱりどっちかが死ぬんですよ…。 俺…どうしたら…」
「カカシ、仮定の話だろう?」
「えー、あ、はい。 そうでした」
しかし、カカシには思い詰めているような印象を受けた。
ミナトは気を落ち着かせようと思って、優しく語りかけた。
「何があったのかは知らないけど、もしそんな状況に陥っても、決して諦めてはいけないよ。 きっと後悔するから。 一度きりの人生、悔いを残さないように…ね!」
ぽんぽんとカカシの背中を叩いた。
「ええ…そうですね。 そう…」
カカシは言い聞かせるように呟いた。
「ん! そろそろ行くよ!」
「「「ハイ!」」」
「ここからは二手に分かれる。 みんな頑張るんだよ。 …昨日の敵はたまたま単独で偵察中だっただけで、これからはチーム戦になる。 気を付けて…。 よし、行くよ!」
「「「ハイ!!」」」
「散!!」
見渡す限りの竹林で、方向感覚がなくなりそうだった。
どこから敵が出てくるのか分からない…キリキリとした緊迫感が、絶えず三人に迫ってきた。
時たま休憩を入れ、方向を確認しつつ、なるべく気配を気取られないように、細心の注意を払った。
そしてとうとう、その時が来た。
カカシは一つ呼吸をして、意を決したように叫んだ。
「オビト、リン。 敵がいる! 敵は二人だ。 岩隠れの忍で、一人は風景に同化してリンをさらうつもりだ! もう一人はバランスが取れていて強い。 オビトを土遁で生き埋めにした忍だ! 油断するな、俺らの生死が、ここで決まるぞ!」
「んなっ!? 生き埋め!?」
「え!? 私を!?」
二人は訳が分からないと言った感じだ。
「オビト、ここだけは俺に任せてくれ! 頼む! フォーメーションAだ!」
オビトは危険だとは思いつつも、カカシの顔色を窺った。 これは本気だと分かった。 カカシの言葉の真意は図りかねるが、とにかくこれを切り抜けないとヤバそうだ。
「分かった! 任せたぜ、カカシ!」
「んもう、いつものバカ発言じゃないよね? しっかりお願いね。 隊長!」
こんな状況なのに、カカシは嬉しそうに笑った。
間髪入れずに竹槍が飛んできた。
「オビト、リンを頼む!」
「了解!」
ーーー木の葉旋風
カカシの蹴りの風圧が、竹槍を吹き飛ばした。
すかさず後ろを振り返る。
オビトがリンを用心深く守っている。
ほっと胸をなで下ろしたのも束の間だった。
背後に忍び寄る気配。
アイツだ!オビトを生き埋めにした野郎…!アイツは今ここでしとめる!
ーーー写輪眼
こちらも振り向きざま、忍刀を構える。
相手は不敵に笑っていた。
両方が踏み出し、ぶつかり合う。
残り32秒。
竹のしなりぐあいを利用して飛び回る双方は、空中で刀を激しくぶつかり合わせた。
「クソッ見えねー。リン! 俺から離れるな!」
残り20秒。
相手の動きを完全に捉えた。
ここだ!!
相手の首をかっ切った。
敵の体が崩れ落ち、首だけとなった顔から不敵な笑みが消えたのを横目に、カカシは地面に降り立った。
残り18秒…!
際どいところだった。
写輪眼を解除し、すかさずオビトとリンのところへ向かう。
「無事か!?」
「リンがさらわれちまった! 本当に、今、一瞬で消えて…俺」
「今から急げば追いつく! 行くぞオビト!」
カカシの切羽詰まった表情を見て、オビトは溢れそうになる涙をぐっと堪えた。
そして力強くうなずいた。
「待てよ!リンを渡せ!」
ものの1分程度で追いついた二人は、リンを抱えた忍がゆっくりと振り向くのを見ていた。
左手にはリン、右手にはクナイ。
やはりそうなるか…。
カカシは眉間にしわを寄せた。
「それ以上動くな。 動いたら、こいつを殺す」
「ーッ!!」
オビトは動きそうになった体を必死で自制した。
「応援を要請する影分身を放った。 あと数分で俺の仲間が駆けつけるだろう。 そうしたらお前らは死ぬ。 この娘もろともにな。 しかし、今我々を見逃して、尻尾を巻いて逃げれば、お前らの命だけは救ってやる。 どうする?」
「そんなっ…クソッ…」
「お前が今抱えているのは、木の葉の医療忍者の一人だ。 殺したら大損だぞ」
カカシが吐き捨てるように告げた。
「ほう…。 それはいい拾い物をした。 死ぬまで岩隠れでこき使ってやる…クク」
沈黙が続いた。
カカシとオビトはどうにもできず固まってしまった。
敵は時間稼ぎできたらよいのか、暇そうにクナイの刃先でリンの髪の毛をもてあそんでいる。
「リンを解放してくれないか?」
カカシはダメ元で頼んでみる。
「それが人に頼む態度か? 小僧?」
敵の忍の口角が卑しくつり上がった。
「土下座しろ! 土下座!」
カカシは言われたとおりに土下座をする。 頭を地面にこすりつけ、必死に懇願する。
「お願いします。 俺たちには、リンが必要なんだ…」
「はっはっはっは。 愉快、愉快。 ずっと地面で這いつくばってろ」
カカシの頭の上に唾が吐きかけられる。
「カ、カカシ…!」
オビトも意を決して、土下座をした。
「俺からも、お願いします…!!」
「バカが二人。 木の葉の忍が、こんなにもプライドの無いやつらだったとはな。 お前らの健気な行いは、酒の席で肴にしてやるよ。 木の葉の一人前の忍が、土下座で俺に頭を垂れたってな! はっはっは」
カカシの頭が蹴飛ばされた。続いて、オビトの頭も蹴飛ばされた。
カカシが蹴飛ばされたとき、ちょうどリンの顔が近くにあった。
これはチャンスだ!
写輪眼を使い、虚ろなリンを強制的に覚醒させる。
目覚めたとき、体をピクリとも動かさなかったのはさすがだと思った。
これでどうにかなるかもしれない…!
「お前、何だその目は?」
写輪眼に感づかれてしまった。
すかさず敵に幻術をかける。
敵は卒倒した。
「ごめん、ごめんね、カカシ、オビト…
二人とも鼻血出てるよ。 本当にごめんなさい」
「いいよ、リン。 カカシ、一旦撤退するぞ!」
「俺も気にしていない。 ああ!撤退だ!」
すると、遠方から数十人の気配が迫ってきているのを感じた。
「敵の応援が来るぞ…! カカシ、どうする?」
「切り抜けるしかないでしょ! 俺に続け!」
なるべく敵の気配が薄い方へ、なるべく火の国の近くへ!
数時間後、火の国の領内の昨夜の野営地に到着した。 何とか振り切ったようだ。
そこから見える夕日はとてもきれいだった。
「な、何とか逃げ切ったね」
リンがはふー、とため息をつき、穏やかな表情で二人に微笑みかけた。
カカシとオビトもつられて笑った。
三人は大岩に腰掛けた。
「本当に長かったよ…」
カカシが感慨深げに呟いた。
色んな感情をごちゃまぜにしたような、複雑な表情だった。
「で、カカシよ。 俺が生き埋めってなんのことだったんだ?」
「そうそう! なんで私がさらわれるって知ってたの?」
「いいじゃないか、もう」
「いや、よくないだろ! 気になって眠れねーよ!」
「カカシはそんなことないとは思うけど、スパイの疑いだってあるのよ?」
「はあ…。 そう言われたら話すしかないじゃないの」
二人はカカシの方をじっと見つめた。
いつものカカシなら、ラブ☆リーヴズの丸猫ちゃんをほめ殺したり、18禁の素晴らしさを力説したり、うんざりするようなことしか話さない。
でも、今のカカシなら、真面目に話し合えそうだ。
「カカシ、泣いているの?」
リンが静かに尋ねた。
「事情とかさっぱりだけど、頑張ったと思うぜ。 カカシ!」
言いながら、ぽん、と肩に手を添える。
手の感触から、カカシが震えているのが分かった。
カカシは声を押し殺して泣いていたのだ。
俺とリンは顔を見合わせると、リンは、仕方ないわね、と微笑んでいた。
リンはカカシの横に移動して、俺の反対側から同じように肩に手を添えた。
「私を助けてくれてありがとう、カカシ」
「俺もお前に救われたみたいだな? 迷惑かけちまった。 すまん」
「もう、それ以上言わないで…。 俺に泣いてほしいの? わざとなの?ッ」
カカシはその日は何も語らなかった。
ただひたすら泣き続けた。
カカシが子供だからなのか、本当に誰にも言えない悩みを抱えていたのか、理由は分からない。
カカシが泣き疲れて、眠ってしまった後、俺とリンは話し合った。
今日のことは三人の秘密にしよう、と。
俺が切り出すことなく、リンもそう考えていたみたいだ。
カカシがなぜ俺たちの身に起こることを知っていたのかは分からない。
カカシについて分からないことや、不信なことだらけではあるが、これだけははっきりしている。
カカシは俺たちを何よりも一番、大切に考えてくれていること。
今日見せた涙が何よりの証拠だった。
カカシが俺たちの前で泣くのは初めてだったし、父親が死んだときさえ泣かなかったアイツが、俺たちの無事に安心して涙を流したのだ。
俺たちは、またいつか、カカシが自分から話してくれる時を待つことに決めた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「そろそろ行くか」
音の四人衆は木の上で一人佇むサスケを上から眺めていた。
サスケを大蛇丸の元へ導くため、今日は説得、もとい力試しをしに来たのだった。
その時。
何者かが放った手裏剣と、その輪に通したワイヤーのようなものを使って、サスケは木の幹に一瞬で縛り付けられてしまった。
そのワイヤーを操っていたのは、木の葉の忍だ。
サスケが敵意を見せないことから、知り合いの誰かなんだろう。
とりあえず4人は様子を見ることにした。
「何のマネだ!?」
「こーでもしないと、お前、逃げちゃうでしょ。 大人しく説教聞くタイプじゃないからねー」
鬼童丸はじっと目を凝らして言った。
「……あいつは…!」
「何だ、知っているのか?鬼童丸」
多由也はちらりと鬼童丸の方へ目をやった。
「何っ、お前知らないのか!? 今や世界を股に掛ける大人気メイド喫茶、ラブ☆リーヴズ最高顧問兼会長、うちはカカシ会長だ! あの人がいなければ、萌え文化は広まることなく消滅していたとまで言われている。 っかー! こんなところでお目にかかれるなんて…!」
「ハッ。クソみてえな情報だな」
多由也は本当に興味がなさそうに言った。
「それだけじゃないぜ! あいつは手配書(ビンゴ・ブック)に載ってるS級被手配者。 死神カカシ…。 恐ろしいのは、出会った敵は必ず1分以内に仕留めるという嘘みてえな逸話だ」
「…ここは見逃してやろうか」
「ああ…。 それが懸命だ」
話している内に、随分時間がたっていたようだ。
いつの間にかサスケがかなりの興奮状態になっていたのが見てとれた。
「アンタに何が分かる!! 知った風なことをオレの前で言ってんじゃねーよ!」
「まぁ…。落ち着け…」
「何なら今からアンタの一番大事な人間を殺してやろうか! 今、アンタが言ったことがどれほどズレてるか実感できるぜ!」
「………」
カカシは押し黙った。
そして意外にも明るい調子で話し出した。
「そうしてもらってもけっこーだがな…。 お前には手に余ると思うなー。」
まず、と言って話を続けた。
「五代目火影、うちはオビト。 若くして火影にまでなった里随一の優秀な忍だ。 木の葉医療部隊隊長、のはらリン。彼女に乗り越えられない患者の死線は無いとまで言われている」
それに、と続けたカカシは、万感の想いを込めて言った。
「何より俺の本当に大切な人たちなんだ。 何があっても、あいつらを守り抜くって決めたんだ。 お前に俺を殺せるかな?」
『うちはカカシ逆行伝・完』