お労しいナギサ様へ   作:ムテケル

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今回は、いよいよ先生との初めての話し合いです。

補習授業部について、原作とは少し違う考えを持つナギサ様。

先生とのやり取りを楽しんでもらえたら嬉しいです!


四人のための補習授業

「……こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」

 

 俺は、丁寧に頭を下げた。

 

 そして、改めて目の前の人物を見つめる。

 

 少し跳ねた黒髪。

 

 優しそうな目元。

 

 白いシャツにネクタイを締め、グレーのスーツを着た青年。

 

(……おお、アニメの先生そっくりだ)

 

 原作では数多くの生徒を救ってきた、シャーレの先生。

 

 実際に会ってみると、思っていたよりもずっと若々しい。

 

 それでも、その穏やかな笑顔には不思議な安心感があった。

 

(……この人が、あの先生か)

 

 少し感動してしまう。

 

 しかし、今日はただ会いに来たわけではない。

 

 重要なお願いがあるのだ。

 

「それじゃあ、座って。お茶でも淹れるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 案内された席に腰を下ろす。

 

 ツルギは護衛のためか、少し離れた場所に立ったままだった。

 

「ツルギも、よかったら座って」

 

「……いや、私は護衛だ」

 

「そっか。じゃあ、何かあったら言ってね」

 

「……ああ」

 

(……本当に普通に接するんだな)

 

 初対面のツルギに対しても、先生の態度は変わらない。

 

 あの見た目に少しも怯んでいないのは、なかなかすごいと思う。

 

「……それでは先生、本日お願いしたいことについて、ご説明させていただきますね」

 

「うん。お願いします」

 

 俺は鞄から資料を取り出した。

 

     ◇

 

 ――午後二時十分。

 

「……補習授業部?」

 

「はい」

 

 俺は、用意していた資料を先生へ差し出した。

 

「現在、トリニティでは学力や素行に問題のある生徒を対象に、特別な補習授業を行う予定です」

 

「なるほど」

 

「その指導を、先生にお願いできないかと考えています」

 

 先生は資料を受け取った。

 

 そこには、四人の名前が記されている。

 

 阿慈谷ヒフミ。

 

 下江コハル。

 

 浦和ハナコ。

 

 白洲アズサ。

 

「……あれ?」

 

 先生の目が、一人の名前で止まった。

 

「ヒフミもいるんだ」

 

「……お知り合いなのですか?」

 

「うん。アビドスで一緒に行動したことがあるんだ」

 

「……そうだったのですね」

 

(……まあ、知ってるけどな)

 

 俺は、内心で小さく笑った。

 

「ヒフミ、何かあったの?」

 

「……それについては、後ほどお話ししますね」

 

「……分かった」

 

 先生は頷き、他の三人の資料にも目を通していく。

 

「……コハルは正義実現委員会の生徒なんだね」

 

「ええ。学力面で少々問題がありまして」

 

「……ああ」

 

 離れた場所に立っていたツルギが、小さく頷いた。

 

「……あいつは、うちの一年生だ」

 

「そうなんだ。ツルギから見て、どんな子?」

 

「…………」

 

 ツルギは少し考え込んだ。

 

「……真面目だ。正義感も強い」

 

「なるほど」

 

「……だが、勉強は……」

 

 そこで言葉が止まった。

 

「……苦手なんだね?」

 

「…………」

 

 ツルギが、ゆっくりと頷いた。

 

「……ああ」

 

(……そこは否定しないんだな)

 

 思わず笑いそうになる。

 

「コハルさんには、学力面での支援が必要だと考えています」

 

「分かった」

 

 先生は頷いた。

 

 続いて、ハナコとアズサについても簡単に説明する。

 

 ハナコは、以前の成績から大きく低下していること。

 

 アズサは転入生であり、学園生活に慣れていないこと。

 

「……なるほど」

 

 先生は、最後まで話を聞いてから資料を置いた。

 

「四人とも、それぞれ事情があるんだね」

 

「はい」

 

「分かった。私でよければ協力するよ」

 

「……ありがとうございます」

 

(……よし!)

 

 思わず、心の中で拳を握る。

 

 やはり先生は、生徒のためとなれば協力を惜しまないらしい。

 

 しかし。

 

「……でも、ナギサ」

 

「はい?」

 

 先生が、こちらを見つめた。

 

「一つ、聞いてもいいかな?」

 

「……何でしょうか?」

 

「今回の補習授業部は、本当に勉強を教えるためだけに作ったの?」

 

「…………」

 

(……やっぱり、聞かれるよな)

 

 資料を見れば、学力面だけが問題ではないことくらい分かるだろう。

 

「……そうですね」

 

 俺は、小さく頷いた。

 

「実は、もう一つ目的があります」

 

「……うん」

 

「補習授業部の皆さんについて、少し注意して見ていただきたいのです」

 

「……注意?」

 

「はい」

 

 俺は、少しだけ声を落とした。

 

「現在、トリニティでは学園内に裏切り者がいる可能性を疑っています」

 

 先生の表情が、わずかに変わった。

 

「……裏切り者?」

 

「ええ。セイアさんが襲撃された事件については、ご存じでしょうか?」

 

「……うん。話は聞いているよ」

 

「犯人はいまだ判明していません。しかし、学園内部の人間が関与している可能性も否定できないのです」

 

「……なるほど」

 

「そのため、不審な行動が確認されている生徒について、調査を進めています」

 

 先生が、資料へ視線を落とした。

 

「……それで、この四人が?」

 

「正確には、コハルさんを除いた三人です」

 

「…………」

 

「現時点では、裏切り者の候補として疑われています」

 

 もちろん、俺は原作の事情を知っている。

 

 しかし、今ここでそれを説明するわけにはいかない。

 

 そもそも、アズサが単純な裏切り者ではないことも分かっているのだ。

 

「……どうして、その三人なの?」

 

 先生が尋ねた。

 

「……まず、浦和ハナコさんです」

 

 俺は、一枚の資料を取り出した。

 

「彼女は以前、非常に優秀な成績を収めていました。しかし、最近になって成績が急激に低下しています」

 

「……そうなんだ」

 

「さらに、校内を水着姿で歩き回るなど、奇妙な行動も報告されています」

 

「……水着?」

 

「はい」

 

「……学校で?」

 

「……ええ」

 

 先生は、少し困ったような表情を浮かべた。

 

(……まあ、そうなるよな)

 

「もちろん、それだけで裏切り者と決めつけるつもりはありません。ただ、急激な変化には何か理由があるかもしれませんので」

 

「……うん。本人に事情を聞いてみたいね」

 

「ええ」

 

 俺は、次の資料へ手を伸ばした。

 

「続いて、白洲アズサさんです」

 

「……うん」

 

「彼女は転入生なのですが、経歴に不明な部分が多く、学園内でも不審な行動が報告されています」

 

「……不審な行動?」

 

「ええ。正義実現委員会との間で、トラブルも起こしています」

 

 その言葉に、ツルギが反応した。

 

「……ああ。報告は、受けている」

 

「……そうなんだ」

 

 先生は、少し考え込んだ。

 

「でも、転校してきたばかりなら、慣れないことも多いだろうしね」

 

「……そうですね」

 

(……やっぱり先生だな)

 

 怪しいという話を聞いても、まず本人の事情を考えようとする。

 

 アズサを任せるなら、やはりこの人が一番だろう。

 

「そして、最後に阿慈谷ヒフミさんです」

 

「……うん」

 

 先生が、少しだけ姿勢を正した。

 

「ヒフミは、何か問題があったの?」

 

「……そうですね」

 

 俺は資料を確認した。

 

「彼女については、ブラックマーケットへの出入りが確認されています」

 

「…………」

 

 その瞬間。

 

 先生の手が、ぴたりと止まった。

 

「……ブラックマーケット?」

 

「はい」

 

「……そ、そうなんだ」

 

 先生は、少しだけ姿勢を直した。

 

 そして、なぜか手元の資料を意味もなく揃え始める。

 

「……先生?」

 

「ん? ああ、何でもないよ」

 

 そう答えながら、今度はネクタイの位置を直していた。

 

(……あれ?)

 

 俺は、少しだけ首を傾げた。

 

(……もしかして、もう心当たりがあるから落ち着かないのか?)

 

 先生は、何事もなかったかのように微笑んでいる。

 

 しかし、さっきから妙にそわそわしていた。

 

「……それで、ヒフミは何をしていたのかな?」

 

「詳しいことは、まだ分かっていませんが……」

 

「……うん」

 

 先生は、そこで一度お茶へ手を伸ばした。

 

「ちょっと失礼」

 

「ええ、どうぞ」

 

 どうやら、少し落ち着きたかったらしい。

 

 先生は湯飲みを持ち上げ、ゆっくりとお茶を口に含んだ。

 

「……さらに、ある犯罪集団との関係も疑われていまして」

 

「…………」

 

「銀行強盗事件に関与した疑いのある集団です」

 

「ぶふっ!?」

 

 先生が、お茶を噴き出した。

 

「ごほっ! ごほっ!」

 

「……せ、先生!?」

 

「だ、大丈夫! ごめん、ちょっとむせただけだから!」

 

 先生は、慌てて口元を拭った。

 

 俺も、驚いて立ち上がりかける。

 

 しかし。

 

(……あっ)

 

 次の瞬間、思い出してしまった。

 

 覆面水着団。

 

 アビドスでの銀行強盗。

 

 そして、その場にいた先生。

 

(……なるほどなぁ)

 

 俺は、必死に表情を整えた。

 

(……ブラックマーケットの時点で怪しかったけど、まさかここまで反応するとは)

 

「……すみません。突然、物騒なお話をしてしまいましたね」

 

「い、いや! 大丈夫だよ!」

 

 先生は、少し慌てた様子で手を振った。

 

「銀行強盗なんて言われたから、ちょっと驚いただけで……」

 

「……そうなのですね」

 

「うん!」

 

 先生は頷いた。

 

 ただ、何となくこちらの顔を見づらそうにしている。

 

(……ふふっ)

 

 危ない。

 

 油断すると笑ってしまいそうだ。

 

「……先生」

 

「……な、何かな?」

 

「お茶、もう一杯いかがですか?」

 

「……あ、ありがとう。でも、今は大丈夫かな」

 

(……警戒されてる!)

 

 俺は、内心で吹き出した。

 

 もちろん、顔には出さない。

 

 すると、様子を見ていたツルギが口を開いた。

 

「……先生」

 

「……うん?」

 

「……大丈夫か?」

 

「うん! 大丈夫だよ!」

 

「……そうか」

 

 ツルギは、少し不思議そうにしていたものの、それ以上は何も言わなかった。

 

(……ツルギの前でこんな反応するんだもんなぁ)

 

 俺は、小さく息を整えた。

 

「……ただし、現時点では間接的な情報が中心です」

 

「……うん」

 

「ヒフミさんが実際に事件へ関与したという、確かな証拠はありません」

 

「……そ、そうなんだ」

 

 先生は、少しだけ肩の力を抜いた。

 

「それなら、まずは本人に話を聞いてみたいね」

 

「ええ。私もそう考えています」

 

 俺は、静かに微笑んだ。

 

(……まあ、先生自身が知ってるんだけどな)

 

 しかし、ここで追及するつもりはない。

 

 そもそも、あの銀行強盗事件には色々と事情があった。

 

 俺だって、ヒフミを犯罪者扱いしたいわけではないのだ。

 

(……それにしても、面白いものを見せてもらったな)

 

 まさか、先生があんな反応をするとは思わなかった。

 

 原作で知っている先生より、少しだけ親しみやすく感じてしまった。

 

     ◇

 

「……つまり、ナギサ」

 

「はい?」

 

「三人の中に、トリニティの裏切り者がいるかもしれないと考えているんだね?」

 

「……そうですね」

 

「…………」

 

 先生は、しばらく考え込んだ。

 

 そして。

 

「……一つ、確認させて」

 

「何でしょうか?」

 

「もしかして、シャーレの権限を利用して、あの子たちを退学させようとしているわけじゃないよね?」

 

「…………」

 

 その瞬間、離れた場所にいたツルギが、わずかに反応した。

 

「……ナギサ様?」

 

 俺は、すぐに首を振った。

 

「……いいえ。そのようなことをするつもりはありませんよ」

 

「……本当に?」

 

「はい」

 

 俺は頷いた。

 

「……ただ、正直に申し上げますと」

 

 少しだけ言葉を選ぶ。

 

「最初の頃は、そのような方法も選択肢に入れていました」

 

「…………」

 

 先生の表情が、少しだけ険しくなった。

 

 ツルギも、黙ってこちらを見つめている。

 

「疑わしい生徒を一か所に集め、必要であれば退学処分を行う。そのために、シャーレの権限を利用できないかと考えていたのです」

 

「……ナギサ」

 

「……はい」

 

「それは、あまり良いやり方だとは思えない」

 

「……ええ」

 

 俺は、静かに頷いた。

 

「今は、私もそう思っています」

 

「……今は?」

 

「……色々と、ありましたので」

 

 俺は、曖昧に微笑んだ。

 

(……まあ、中身が変わったんだけどな)

 

 もちろん、そんなことは説明できない。

 

「現在は、彼女たちを受け入れたうえで、普段の様子を見守る方が良いと考えています」

 

「……見守る?」

 

「ええ。問題があるのなら、その原因を知る必要がありますから」

 

 俺は続けた。

 

「疑わしいという理由だけで排除してしまえば、何が起きていたのかも分からなくなってしまいます」

 

「……なるほど」

 

「もちろん、必要な確認は行います。ですが、彼女たちの行動を制限したり、不当に処罰したりするつもりはありません」

 

 先生は、静かに話を聞いていた。

 

「それに、四人には実際に解決すべき問題があります」

 

 俺は、資料へ目を向けた。

 

「ハナコさんは、成績の急激な低下と奇妙な行動」

 

「……うん」

 

「アズサさんは、転入後の学園生活への適応と、周囲とのトラブル」

 

「……なるほど」

 

「ヒフミさんについても、ブラックマーケットへ出入りしている理由など、確認すべきことがあります」

 

「…………」

 

 先生が、少しだけ咳払いした。

 

(……あっ、また気にしてる)

 

 俺は、何とか笑いを堪えた。

 

「そして、コハルさんには学力面の問題があります」

 

「……ああ」

 

 ツルギが、小さく頷く。

 

「つまり、裏切り者の疑惑とは別に、四人とも何らかの支援が必要だと考えています」

 

「……うん」

 

「ですが、現在の私はエデン条約の準備で手一杯です」

 

 俺は、少し申し訳なさそうに微笑んだ。

 

「正直に申し上げますと、四人全員の問題を私一人で解決する余裕がありません」

 

「…………」

 

「ですので、先生にお願いしたいのです」

 

 俺は、静かに頭を下げた。

 

「彼女たちが安心して学べる環境を作り、必要な支援をしていただけないでしょうか?」

 

 先生は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……顔を上げて、ナギサ」

 

「……はい」

 

「もちろん、協力するよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「でも、一つだけ約束してほしい」

 

「……何でしょうか?」

 

 先生は、まっすぐこちらを見つめた。

 

「疑わしいというだけで、あの子たちを処罰しないこと」

 

「……はい」

 

「それから、何か問題が起きても、まずは本人の話を聞いてほしい」

 

「……もちろんです」

 

 俺は、すぐに頷いた。

 

「私も、そのつもりです」

 

「……そっか」

 

 先生は、ようやく微笑んだ。

 

「それなら、安心したよ」

 

(……よかった)

 

 どうやら、先生にも理解してもらえたらしい。

 

 これで、補習授業部については一安心だ。

 

 しかし、俺にはもう一つ、表には出せない理由があった。

 

(……そもそも、補習授業部をなくしたくないんだよな)

 

 原作を知っているからこそ、四人のことはよく分かっている。

 

 ヒフミは、周囲をまとめることができる。

 

 ハナコは、非常に頭が良く、物事の本質を見抜く力がある。

 

 アズサは、過酷な環境で育ちながらも、必死に前へ進もうとする強さを持っている。

 

 そして、コハル。

 

 少々騒がしいが、真面目で正義感が強い。

 

(……この四人、案外相性いいんだよな)

 

 それぞれに欠点がある。

 

 しかし、その欠点を、他の誰かが補うこともできる。

 

 原作では、そうして四人が少しずつ仲良くなっていった。

 

 やがて、互いを大切に思える友人になる。

 

(……せっかくなんだから、あの関係をなくしたくない)

 

 もちろん、俺が行動することで未来は変わっていくだろう。

 

 原作通りの出来事が起こる保証なんてない。

 

 それでも。

 

(……補習授業部がなくなったら、逆に困ることもあるかもしれないしな)

 

 特に、アズサのことだ。

 

 彼女が他の三人と出会わなければ、どうなってしまうのか。

 

 考えるだけでも、少し怖かった。

 

(……だから、ここは原作通りでいい)

 

 補習授業部を作る。

 

 先生に指導してもらう。

 

 そして、四人が友人になれるようにする。

 

(……むしろ、積極的に応援したいくらいだな)

 

 俺は、小さく微笑んだ。

 

     ◇

 

 ――午後三時。

 

「……それでは、試験の内容についてですが」

 

「うん」

 

 補習授業部についての話し合いは、その後も続いていた。

 

 補習の実施場所。

 

 授業の進め方。

 

 試験の日程。

 

 そして、各生徒に必要な支援について。

 

 先生は、かなり熱心に質問してきた。

 

「……ハナコについては、単純に勉強を教えるだけでは解決しないかもしれないね」

 

「……そうですね」

 

「成績が急に下がったのなら、何か理由があるはずだから」

 

「ええ。私もそう考えています」

 

 先生は、資料を確認しながら続けた。

 

「アズサについても、まずは安心して学校に通えるようにしたい」

 

「……はい」

 

「それから、コハルは……」

 

 先生が、一瞬だけ言葉を止めた。

 

「……勉強、頑張ってもらおうか」

 

「……そうですね」

 

 俺は、思わず笑ってしまった。

 

「ふふっ」

 

「……?」

 

 ツルギが、不思議そうにこちらを見る。

 

「……何か、おかしいか?」

 

「……いいえ」

 

 俺は、慌てて首を振った。

 

「コハルさんには、ぜひ頑張っていただきたいですね」

 

「……ああ」

 

 ツルギは、真剣な表情で頷いた。

 

(……本当に、いい先輩だな)

 

 やがて、先生が資料をまとめた。

 

「……うん。大体分かったよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「補習授業部については、引き受けさせてもらうね」

 

「……本当ですか?」

 

「もちろん」

 

 先生は微笑んだ。

 

「生徒たちが困っているなら、力になりたいから」

 

「…………」

 

(……ああ、やっぱり先生だな)

 

 思わず、胸の奥が温かくなった。

 

「……ありがとうございます、先生」

 

 俺は、丁寧に頭を下げた。

 

「どうか、あの子たちをよろしくお願いいたします」

 

「うん。任せて」

 

 こうして、補習授業部の指導について、正式に先生の了承を得ることができた。

 

「……それで、ナギサ」

 

「はい?」

 

「今日は、もう一つ話があるんだよね?」

 

「……ええ」

 

 俺は頷いた。

 

「ですが、その件については、ヒナさんがいらしてからお話ししたいと思っています」

 

「分かった」

 

 先生は、穏やかに微笑んだ。

 

「じゃあ、それまでは少し休憩しようか」

 

「……そうですね」

 

 俺は時計へ目を向けた。

 

 ヒナとの面会予定は午後四時。

 

 まだ少し時間がある。

 

(……そうだ)

 

 ふと、一つの考えが浮かんだ。

 

 せっかく先生と会えたのだから、もう少し人となりを知っておきたい。

 

 原作の知識では、先生が信頼できる大人であることは分かっている。

 

 しかし、実際に自分の秘密を打ち明けるとなれば話は別だ。

 

(……ちょっと確かめてみるか)

 

 俺は、二人へ視線を向けた。

 

「……先生、ツルギさん」

 

「ん?」

 

「……何だ?」

 

「お時間もありますし、少し思考実験に付き合っていただけませんか?」

 

「……思考実験?」

 

「はい。最近、少しハマっていまして」

 

 俺は微笑んだ。

 

「お二人なら、どのような答えを出されるのか興味があるのです」

 

「へえ、面白そうだね」

 

 先生は、興味深そうに身を乗り出した。

 

 ツルギも、小さく頷く。

 

「……構わない」

 

「ありがとうございます」

 

(……さて)

 

 俺は、鞄から一枚の白紙を取り出した。

 

 これからのことを考えれば、先生がどのような価値観を持っているのか、もう少し知っておきたい。

 

 それに、今のナギサにとっても、きっと無駄にはならないはずだ。

 

(……じゃあ、始めますか)

 

 俺は、ペンを手に取った。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

最近は政治的な駆け引きや真面目なお話が続いて、少し堅苦しくなっていたので、今回は先生にコメディーの犠牲になってもらいました(笑)

今回は退学を懸けた状況ではなく、原作よりも緩い雰囲気での話し合いだったため、先生も少しあたふたしています。

ちなみに、この作品の先生は原作の先生と性格はほぼ同じですが、少しおっちょこちょいなところがあります。ただ、決めるべきところでは、なぜかビシッと決めてくれる。そんな先生です!

次回は、ナギサ様が先生とツルギに思考実験を出すお話です。

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