心強い協力者を得た主人公ですが、その胸には、まだ誰にも明かしていない考えがあるようです。
そして、ようやく救護騎士団での診察へ。
楽しんでいただければ嬉しいです!
「それでは、皆さん」
会談を終え、席を立った三人へ声をかけた。
「今後も情報交換をする機会が増えると思いますので、モモトークを交換しておきませんか?」
「うん、もちろん」
先生が端末を取り出す。
「何かあった時、すぐに連絡できた方がいいからね」
「私も構わないわ」
「……ああ」
ヒナとツルギも、それぞれ端末を取り出してくれた。
こうして、三人との連絡先を交換することになった。
(……おお)
画面に表示された名前を見て、思わず感動してしまう。
先生、ヒナ、ツルギ。
(……なんか、すごいなぁ)
原作では画面越しに見ていた人物たちだ。
それが今では、直接話し合うどころか、連絡先まで交換している。
(……まあ、今さらなんだけどさ)
それでも、嬉しいものは嬉しい。
「……ナギ?」
「はい?」
先生に呼ばれ、顔を上げる。
「何だか嬉しそうだね?」
「ふふっ。そう見えますか?」
「うん」
「そうですね。皆さんとこうして協力できることが、嬉しいのです」
俺は微笑み、三人を見回した。
「ああそれと、連絡先の表示名は『ナギサ』のままでお願いいたしますね」
「ああ、そうだったね」
「他の人に見られる可能性もあるものね」
「はい。ご協力ありがとうございます」
表向きは、これまで通り桐藤ナギサとして生活していく。
本来の彼女が戻ってきた時に困らないようにするためにも、余計な混乱は避けておきたい。
「それでは、参りましょうか」
◇
会談室を出て、しばらく廊下を歩いたところで、先生が足を止めた。
「それじゃあ、私はここで」
「はい。本日はありがとうございました」
「こちらこそ、色々話してくれてありがとう」
先生は、穏やかな笑みを浮かべた。
「ナギサ。何か困ったことがあったら、いつでも連絡してね」
「ふふっ。ありがとうございます。先生も、お身体にはお気をつけてくださいね」
「あはは。お互いに、だね」
「……そうですね」
思わず笑みがこぼれる。
先生はヒナとツルギにも挨拶をすると、別の廊下へと歩いていった。
その姿が角を曲がり、見えなくなるまで見送る。
(……さて)
俺は、改めてヒナとツルギへ向き直った。
「それでは、私たちも参りましょうか」
「ええ」
「……ああ」
三人で、一階へ向かって歩き始める。
護衛の生徒たちとは、一階で合流する予定だ。
階段へ差しかかったところで、俺は口を開いた。
「そういえば、お二人に一つだけお伝えしておきたいことがあります」
「何かしら?」
ヒナがこちらを見る。
「アリウスについてなのですが、少々厄介な兵器が存在していまして」
「……兵器?」
「はい」
俺は周囲に他の生徒がいないことを確かめ、声を落とした。
「ヘイロー破壊爆弾、というものをご存じでしょうか?」
「…………」
ヒナの足が止まった。
「ヘイローを……破壊する爆弾?」
「はい。原作では、アリウスがヘイローを破壊するための特殊な爆弾を用意していました」
「……何だと?」
ツルギの表情が険しくなる。
「そんなものが、存在するのか?」
「ええ。セイアさんの襲撃事件にも関わっていた兵器です」
「…………」
ツルギが拳を握り締めた。
「……セイア様の……」
「もちろん、今の世界でも同じものが存在しているか、どこに保管されているかまでは分かりません。ですが、原作と同じ状況であれば、アリウス側が所持している可能性があります」
「……なるほど」
ヒナが腕を組む。
「通常の爆弾とは、危険性が違うということね」
「ええ」
キヴォトスの生徒たちは、普通の人間とは比べものにならないほど頑丈だ。
銃撃や爆発に巻き込まれても、命を落とすことは滅多にない。
だが、それは決して不死身という意味ではない。
「ヘイローが破壊されれば、命を落とす可能性があります。ですので、アリウスと接触する際には、どうか警戒してください」
「……私たちに教えたのは、直接アリウスと対峙する可能性があるから?」
「はい。特にヒナさんは、万魔殿とアリウスの接触について調べてくださる予定ですから」
「確かに、知っておくべき情報ね」
ヒナは真剣な表情で答えた。
「覚えておくわ」
「ありがとうございます」
「……私も、警戒しておこう」
ツルギが口を開く。
「そんなものを、トリニティの生徒たちに使わせるわけにはいかない」
その声には明確な怒りが滲んでいた。
「ええ。私も、そう思っています」
これで、少なくとも二人が何も知らずに遭遇する危険は減らせたはずだ。
だが、そこでヒナが口を開いた。
「……先生にも伝えておいた方がいいんじゃないかしら?」
(……あっ)
内心で身構える。
だが、表情は変えずに答えた。
「そうですね。ただ、先生にはヘイローがありませんから」
「……ええ」
「ヘイローそのものを破壊する兵器である以上、先生が直接の標的になる可能性は低いと思います」
もちろん、爆発そのものが無害というわけではない。
だが、調印式での襲撃や銃撃の危険性については既に説明している。
「今は、直接アリウスと対峙する可能性の高い方々の間で、情報を共有しておきたいと思っています」
「……なるほど」
ヒナは考え込んだ後、こちらへ視線を戻した。
「分かったわ。ただし、先生や他の生徒たちがその兵器と接触する可能性が出てきたら、その時は話すべきだと思う」
「ええ。もちろんです。必要な情報まで隠して、誰かを危険に晒すつもりはありませんから」
「……それならいいわ」
ツルギも、特に異論はないようだった。
(……よし)
胸の内で息を吐く。
少なくとも今のところ、先生に爆弾の存在を知らせずに済みそうだ。
もちろん、いつまでも隠し続けられるとは限らない。
(……今は、これでいいよな)
「それでは、参りましょうか」
三人は、再び階段を下り始めた。
◇
一階に到着すると、護衛の生徒たちが待っていた。
「ナギサ様。救護騎士団までの送迎車を手配しております」
「ありがとうございます」
ここから先は、普段通りの桐藤ナギサだ。
「それでは、ヒナさん」
「ええ。万魔殿の件については、確認できる範囲で調べてみるわ」
「ありがとうございます。くれぐれもご無理はなさらないでくださいね」
「……あなたもね」
俺は苦笑した。
「ええ。気をつけます」
「それじゃあ、私はここで失礼するわ」
「はい。また何かありましたら、モモトークでご連絡ください」
「分かったわ」
ヒナはそう答え、その場を後にした。
俺も送迎車へ向かおうとすると、ツルギが隣に並ぶ。
「……行こう」
「はい」
「……最後まで護衛する」
「ふふっ。よろしくお願いいたします」
今日の護衛を担当してくれているのは、ツルギだ。
当然、帰りも同行してくれることになっている。
こうして、俺はツルギと共に送迎車へ乗り込んだ。
◇
車の扉が閉まり、ゆっくりと走り始める。
運転席には正義実現委員会の生徒。
後部座席には、俺とツルギが並んで座っていた。
「……今日は、長かったな」
ツルギが、ぽつりと呟く。
「ええ。本当に色々なことがありました。ですが、皆さんにお話しできてよかったと思っています」
「……そうか。なら、よかった」
それきり、車内は静かになった。
ツルギは無理に話しかけてこず、窓の外へ視線を向けている。
(……気を遣ってくれてるのかな)
ありがたい。
今は、考えておきたいことがあった。
(……ヘイロー破壊爆弾、か)
ヒナとツルギには、その存在を伝えた。
だが、先生には意図的に伏せた。
(……あの人、思っていた以上に鋭いからなぁ)
今日の会談を思い返す。
先生とは、まだそれほど長い付き合いではない。
それなのに、あの短い時間だけで、俺の性格をある程度見抜かれていた気がする。
ハッピーエンドを望んでいること。
そのために、できる限りの準備をしていること。
そして、最悪の事態まで想定して行動していること。
(……あの辺りは、何となく察してたっぽいんだよな)
もちろん、すべてを見抜かれているわけではない。
だが、先生に爆弾の存在を教えれば、そこから新しい疑問が生まれるだろう。
例えば、ベアトリーチェについて。
あいつが何のためにアリウスの生徒たちを利用し、最終的に何をしようとしているのか。
今日の会談では、アリウスを支配していることまでは説明した。
だが、アツコの神秘を利用し、崇高へ至ろうとしていることまでは話していない。
(……まあ、先生に聞かれたら答えるけどさ)
生徒たちの安全に関わる情報だ。
尋ねられれば、隠すつもりはない。
ただ、そこまで話した場合が問題だった。
崇高には、神秘と恐怖という二つの側面がある。
そして、生徒たちのヘイローもまた、神秘と深く関係している。
もしヘイロー破壊爆弾が神秘そのものに干渉する兵器なら、神秘を取り込んだベアトリーチェにも通用するのではないだろうか。
(……俺は、可能性が高いと思ってるんだよな)
もちろん、確証はない。
ベアトリーチェに生徒と同じヘイローがあると確認されたわけでもなければ、爆弾の詳しい仕組みが分かっているわけでもない。
それでも、最悪の場合に検討する価値のある手段だと考えている。
そして、先生も同じ可能性に気づくかもしれない。
そうなれば、さらに一つの疑問が生まれる。
最悪の事態まで想定して行動する俺が、その可能性を見落としているだろうか、と。
(……そこまで考えられたら、怪しまれるよなぁ)
俺が、ベアトリーチェに使うつもりなのではないか。
そんな疑いを持たれるかもしれない。
もちろん、先生が必ずそこまで考えるとは限らない。
だが、もし直接尋ねられたら。
(……たぶん、上手く誤魔化せないだろうな)
そもそも、先生に嘘をつきたくない。
だからこそ、今はあえて話さなかった。
先生に知られれば、俺が何を覚悟しているのかまで気づかれ、きっと止めようとするだろう。
(……まあ、止められるのも当然なんだけどさ)
俺は窓の外へ目を向けた。
そもそも、原作では先生とアリウススクワッドがベアトリーチェを倒している。
それも、殺すことなく。
今回も同じように解決できるなら、それが一番いい。
その可能性を高めるために考えたのが、プランAとプランBだ。
本命のプランAは、俺自身が中心となって動く作戦。
予備のプランBは、ヒナの協力を取り付け、下準備まで終えている。
どちらも目的は同じ。
調印式の前に、アリウス自治区を見つけることだ。
(……どっちか成功してくれればいいんだけどなぁ)
いや、できれば両方成功してほしい。
手掛かりが多ければ、その分だけ選択肢も増える。
それに、二つの作戦が失敗したとしても、まだ警備の強化や避難など、できることは残っている。
すぐに最悪の選択をする必要なんてない。
それでも。
(……もし、本当にどうしようもなくなったら)
俺は、膝の上で手を組んだ。
原作では、ベアトリーチェを殺す必要はなかった。
だが、俺が未来を変えようとしている以上、今回も同じ結末になるとは限らない。
もし、原作とは違う展開になってしまったら。
本来なら殺さずに済んだベアトリーチェを、殺さなければ止められない状況になってしまったら。
(……その時は、俺がやるしかないんだろうな)
その覚悟は、すでにできている。
自分でも意外なほど、その決断自体に強い迷いはなかった。
だが、問題はそこではない。
(……先生には、背負わせたくないんだよなぁ)
先生は、キヴォトスの生徒たちにとって、かけがえのない存在だ。
学園も立場も違う生徒たちが、あの人を信頼している。
その信頼があったからこそ、救われた生徒たちもいる。
そして、これから先も先生を必要とする生徒は大勢いるはずだ。
だからこそ、仮にベアトリーチェを殺さなければならない状況になったとしても、その判断を先生にさせたくなかった。
先生なら、最後まで別の方法を探そうとするだろう。
それでもどうにもならず、誰かの命を奪う決断を迫られてしまったら。
あるいは、先生の判断に従った生徒が、その手を汚すことになってしまったら。
(……先生と生徒たちの関係が、壊れる可能性だってある)
もちろん、必ずそうなるわけではない。
事情を理解してくれる生徒もいるだろう。
だが、受け入れられない生徒がいる可能性もある。
何より、先生自身が、その決断を後悔しない保証もない。
(……あの人、自分のこと責めそうだしなぁ)
今日の会談だけでも、十分に分かった。
先生は、自分のことより生徒たちのことを優先する人だ。
だからこそ、そんな責任まで背負わせたくない。
先生への信頼が揺らげば、これから救えるはずだった生徒たちにまで影響が及ぶかもしれない。
そんな未来は、絶対に避けたい。
(……だったら、俺が引き受けた方がいいよな)
そう考えていた。
もちろん、最後まで別の方法を探すつもりだ。
だが、もし本当に他に手段がなくなった場合、覚悟だけでは足りない。
もう一つ、考えておかなければならないことがあった。
(……ナギサのことだよな)
俺は、自分の手を見つめた。
白く、細い指。
本来の桐藤ナギサの身体だ。
もし俺がベアトリーチェを殺せば、周囲からは桐藤ナギサが人を殺したように見える。
(……それだけは、絶対に避けたい)
だから、その場合の対策も考えていた。
(……悪魔にでも取り憑かれていたことにするか)
本当にベアトリーチェを殺すしかなくなった時には、実行する前に、桐藤ナギサ本人とは別の存在が身体を動かしていることを明らかにする。
得体の知れない何かが、彼女の身体を乗っ取っていた。
そして、その存在が勝手に行動した。
そう説明できれば、少なくともナギサ本人への非難を減らせるかもしれない。
(……まあ、実際に別世界の人間が入り込んでるわけだしな)
完全な嘘というわけでもない。
当然、全員が信じてくれるとは思っていない。
それでも、ナギサ本人の行動ではなかったと理解してくれる人が一人でも増えるなら、意味はある。
先生も、ヒナも、ツルギも、すでに俺の正体を知っている。
あの三人なら、少なくとも本来のナギサと俺を分けて考えてくれるはずだ。
(……先生には、めちゃくちゃ怒られそうだけどなぁ)
ただし、こんな説明を今から広めるつもりはない。
何事もなく事件を解決できれば、そもそも必要のない話なのだ。
余計な混乱を招くくらいなら、最悪の選択をする直前まで伏せておいた方がいい。
もっとも、それでも完全にナギサを守れるとは限らない。
外から見れば、桐藤ナギサの姿をした人物が誰かの命を奪ったという事実は残る。
そうなれば、事情を知らない人々から心ない言葉を向けられるかもしれない。
人殺し。
冷血な女。
化け物。
(……そんなこと、ナギサに言わせたくないんだよな)
俺自身、元の身体で罵倒されるだけでも相当きついと思う。
それが、ただでさえ追い詰められていたナギサに向けられるとしたら。
(……お労しすぎるだろ、ナギサ……)
俺は目を伏せた。
エデン条約を成功させようと、必死に働いて。
セイアを失った悲しみを抱えながら、それでもティーパーティーのホストとしての責任を果たそうとして。
周囲への疑心暗鬼に苦しみ、誰にも弱音を吐けず。
最後には、自ら命を絶とうとした可能性があるほど、追い詰められてしまった。
確かに、原作のナギサにも問題はあった。
補習授業部の子たちを傷つけるような行動も取っていた。
だが、だからといって、あの子自身の苦しみまでなかったことにはできない。
(……だからこそ、幸せになってほしいんだよな)
そもそも、俺はハッピーエンドが好きだ。
それも、できる限り全員が幸せになる結末がいい。
別に、何かを成し遂げた人間だけが幸せになるべきだとは思わない。
誰だって、何も特別なことをしていなくたって、幸せになっていいはずだ。
ただ、長い間苦しんできた人や、ずっと頑張ってきた人には、その分まで報われてほしいとも思う。
そして、ナギサは間違いなくその一人だった。
先生がいて、ミカがいて、セイアがいて。
友達と笑いながらお茶を飲み、何かに怯えることなく毎日を過ごす。
(……そんな日々を、あの子に取り戻してあげたいんだよ)
それなのに、俺の行動で新しい不幸を背負わせるわけにはいかない。
だからこそ、最悪の選択をする場合の備えまで考えていた。
だが。
(……できれば、そんなもの使わずに済ませたいよな)
アリウス自治区さえ見つかれば、まだできることはたくさんある。
生徒たちとの話し合いも、ベアトリーチェの拘束も、事前に行動を封じるための準備もできるかもしれない。
何より、今は先生たちも協力してくれる。
俺一人では思いつかなかった方法が見つかる可能性だってある。
(……そうだよ。今から最悪の結末ばかり考える必要なんてない)
覚悟は決めている。
だが、その覚悟を使いたいわけじゃない。
(……頼むから、プランAとB、成功してくれよ)
そのためにも、まずは自分にできることから進めよう。
◇
「……ナギサ様」
「……っ」
不意に声をかけられ、顔を上げた。
ツルギがこちらを見ている。
「……大丈夫か?」
「えっ?」
「……難しい顔をしていた」
「ああ、すみません。今後のことを考えていただけですよ」
「…………」
ツルギは、しばらく俺を見つめていた。
「……そうか。だが、無理はするな」
「ふふっ。ありがとうございます」
「……ああ」
それだけ言うと、ツルギは再び窓の外へ視線を向けた。
(……本当に、いい子だなぁ)
俺は頬を緩めた。
(……さて、次はミネさんだな)
救護騎士団長、蒼森ミネ。
原作では、襲撃されたセイアを保護し、その安全を確保するために身を隠していた人物だ。
しかも、救護騎士団の団員でさえ、ミネの居場所を知らなかった。
(……今も、きっとセイアの護衛をしてるんだろうな)
であれば、今すぐ会える可能性は低い。
それどころか、手紙を届けることすら難しいかもしれない。
(……まあ、駄目元だよな)
それでも、何もしなければ可能性はゼロのままだ。
セイアの安全を脅かすつもりはないし、無理に居場所を探すつもりもない。
ただ、一度話をしてみたい。
俺は、鞄から便箋とペンを取り出した。
「……ナギサ様?」
ツルギがこちらを見る。
「手紙か?」
「ええ。ミネさんに、少しご相談したいことがありまして」
「……ミネに?」
「はい。もっとも、お忙しい方でしょうから、お返事をいただけるかは分かりませんけれど」
「……最近、姿を見ていないな。届くとは限らないぞ」
「ふふっ。承知しています。ですが、お手紙をお預けするくらいなら、問題ないかと思いまして」
「……そうか」
ツルギは、それ以上何も言わなかった。
俺は便箋へ向き直る。
(……さて、どう書こうかな)
セイアの生存を知っているかのようなことを、露骨に書くわけにはいかない。
かといって、普通の面会依頼だけでは、忙しいミネが興味を持ってくれるか分からない。
(……少しだけ、含みを持たせてみるか)
もし今もセイアを守っているのなら、ミネ自身が何かを感じ取れるような言葉。
それでいて、他の誰が読んでも問題のない文章。
そんな内容を考えながら、俺はペンを走らせた。
◇
蒼森ミネ様
突然のお手紙にて失礼いたします。
ティーパーティーの桐藤ナギサです。
日頃より、救護騎士団の皆様には、トリニティの生徒たちのためにご尽力いただき、心より感謝しております。
本日は、一度ミネさんに直接お会いして、お話を伺いたいことがあり、ご連絡いたしました。
先般の事件以降、私自身、誰かを守るということの難しさについて、改めて考える機会がございました。
大切なものを守ろうとするあまり、周囲の気持ちを見落としてしまうこともあるのだと、今は反省しております。
もし現在、ミネさんにも何より優先すべきお務めがございましたら、どうかそちらを大切になさってください。
私から無理にご事情やご所在をお尋ねするつもりはございません。
ただ、今後のトリニティの安全について、救護騎士団長であるミネさんのお考えを、一度お伺いできればと思っております。
もし、安心してお話しできる機会がございましたら、その時にお時間をいただけますと幸いです。
もちろん、お返事を急ぐ必要はございません。
突然のお願いで大変恐縮ですが、ご無理のない範囲でご検討いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
桐藤ナギサ
◇
「……うん」
書き終えた手紙を見直す。
(……こんな感じでいいかな)
普通に読めば、救護騎士団長への面会依頼だ。
忙しい相手の事情を尊重し、時間ができた時に会ってほしいとお願いしている。
それだけの文章。
だが。
(……もし、今もセイアを匿ってるなら、少し違って読めるかもな)
大切なものを守る。
所在を尋ねるつもりはない。
安心して話せる機会。
どれも、普通の手紙に使っておかしくない表現だ。
それでも、セイアを護衛しているミネが読めば、ナギサが何か知っているのではないかと疑うかもしれない。
もちろん、それが良い方向に働くとは限らない。
むしろ、警戒される可能性もあるだろう。
(……まあ、それは仕方ないよな)
今の俺には、ミネの居場所が分からない。
こちらから会いに行くこともできない。
だからこそ、無理に接触しようとはせず、判断を彼女に委ねることにした。
(……セイアの安全が最優先だしな)
俺は手紙を封筒に入れ、丁寧に封をする。
「……よし」
これで準備は整った。
あとは、救護騎士団に託すだけだ。
◇
救護騎士団の施設へ到着した頃には、外も暗くなり始めていた。
車を降りると、ツルギが自然と隣に並ぶ。
「……ナギサ様」
「はい?」
「……身体の方は、本当に大丈夫なのか?」
「ふふっ。診察を受けるために参ったのですから、きちんと確認していただきますよ」
「……そうか。なら、いい」
(……本当に、みんな心配性だなぁ)
先生も、ヒナも、ツルギも。
今日だけで、一体何回身体のことを心配されたのだろう。
まあ、それだけ気にかけてもらえているということか。
「それでは、参りましょう」
「……ああ」
俺はツルギと共に、救護騎士団の施設へと足を踏み入れた。
建物の中には、薬品の独特な匂いが漂っている。
(……病院っぽいなぁ)
元の世界でも、何度も嗅いだことのある匂いだ。
異世界に来たというのに、こういう部分はあまり変わらないらしい。
「……ナギサ様」
隣を歩いていたツルギが、こちらを見る。
「私は、ここで待っている」
「よろしいのですか?」
「……ああ。診察中まで付き添う必要はないだろう」
「ありがとうございます。それでは、少々お待ちくださいね」
「……ああ」
ツルギは、施設の入口近くで警護を続けてくれることになった。
さて、受付はどこだろうか。
そう思いながら案内板へ視線を向けた、その時だった。
「……あの、桐藤ナギサ様でしょうか?」
「はい?」
突然、すぐ横から声が聞こえた。
(……えっ?)
思わず振り返る。
そこには、救護騎士団の制服を身につけた一人の少女が立っていた。
淡い桃色の髪。
柔らかな表情。
そして、どこか人を安心させるような雰囲気。
(……あれ?)
俺は目を瞬かせた。
(……もしかして、セリナじゃん!?)
鷲見セリナ。
救護騎士団に所属する、心優しい少女だ。
(……まさか、こんなところで会えるとは)
驚きを隠しながら、いつもの微笑みを浮かべる。
「はい。桐藤ナギサです」
そう答えると、少女は嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり……!」
そして、丁寧に頭を下げる。
「私は、救護騎士団の鷲見セリナと申します」
こうして、俺は新たな出会いを迎えることになった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は文章が長くなってしまったため、前後編のような形で2話に分割しました。
今回、主人公が考えていたのは、プランA・Bとは別の、最悪の事態に備えた実質的な「プランZ」とも呼べる選択肢です。
もちろん、主人公自身もそんな手段を使いたいわけではありません。
果たして、プランZを実行することなく、誰もが幸せになれる「第三の選択肢」を最後まで選び取ることができるのでしょうか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです!