今回はナギの過去にも触れるため、いつもより少し長めのお話となっています。
そして、その過去はかなり重めです。前回との温度差がすごいことになっていますが……。
最後までお楽しみいただければ幸いです!
――寒い。
窓の隙間から、冷たい風が入り込んでくる。
壁には染みが広がり、使い古された家具が並ぶ、小さな部屋。
(……ああ、懐かしいな)
ここは、日本。
俺が生まれ育った家だ。
俺が生まれた家は裕福とは、お世辞にも言えなかった。
欲しいものは簡単に買えず、冬には暖房代すら気にするような生活。
それでも、両親は俺を大切に育ててくれた。
そんな家庭に生まれた俺には、一つだけ、周囲と大きく違うところがあった。
――頭が良すぎたのだ。
幼い頃に受けた知能検査では、大人たちが何度も結果を確認するほどの数値が出た。
当時の俺には、その意味がよく分からなかった。
ただ、一つ教えてもらえば、その先の十まで自然と理解できた。
そして、他の人もそうなのだと思っていた。
……それが、間違いの始まりだった。
◇
『……だから、こうすればいいんだよ』
『え? 何で?』
『ここをこうして、こっちに持っていけば終わりじゃん』
『……だから、何でそうなるの?』
『え? だって、見れば分かるでしょ?』
その瞬間。
目の前の同級生の顔が歪んだ。
『……は?』
『……え?』
『お前、それわざと言ってんの?』
『何が?』
『俺が馬鹿だから分かんないって言いたいんだろ!』
『ち、違うよ!』
『じゃあ何で、分かんないって言ってんのに同じことしか言わないんだよ!』
同級生は、プリントを乱暴に掴んだ。
『もういい! お前になんか聞かなきゃよかった!』
『……待って』
『うるさい!』
そのまま、走り去ってしまった。
(……何で怒ったんだろう?)
当時の俺には、分からなかった。
俺の頭の中では、一から十までが自然と繋がっていた。
だから、最初の一つさえ伝えれば、相手も理解できると思っていた。
……けれど。
当然、そんなわけはない。
俺が一しか説明していないことに、俺自身が気づいていなかったのだ。
そして、そのすれ違いは、少しずつ大きくなっていった。
『あ、天才様が来た』
『今日も百点なんでしょ?』
『いいよねー、勉強しなくてもできるやつは』
『……そんなことないよ』
『はいはい。どうせ俺らとは頭の出来が違うんだもんな』
最初は、そんな言葉だった。
少し嫌な感じはしたけれど、冗談なのだと思っていた。
だから、俺も笑おうとした。
……でも、だんだん笑えなくなっていった。
『お前さ、何でいつも先生に褒められてんの?』
『……分かんない』
『そういうのがムカつくんだよ』
『……ごめん』
『何で謝るの? 俺らが馬鹿だって思ってるから?』
『ち、違う!』
『じゃあ黙ってろよ』
そう言われて、黙るようになった。
すると今度は。
『見て、また一人で本読んでる』
『俺らと話すのが嫌なんだろ』
『天才様は普通の人間と話したくないんだってさ』
……どうすればいいのか、分からなくなった。
話しても駄目。
黙っていても駄目。
勉強で良い点を取れば嫌がられ、わざと間違えれば馬鹿にしていると言われた。
やがて、嫌がらせも始まった。
机に書かれた『天才様』の文字。
隠された筆箱。
床に落とされたノート。
『あ、ごめーん。気づかなかった』
笑いながら、ノートを踏まれた。
『……返して』
『え? 何?』
『……ノート』
『天才なんだから、そんなのなくても平気でしょ?』
……ああ。
あの時は、本当に嫌だったな。
新しいノートを買うのだって、家では簡単なことじゃなかったから。
だから、汚れたページを一枚ずつ拭いて、破れたところをテープで直した。
父さんと母さんには、何も言えなかった。
二人とも、仕事で疲れている。
これ以上、心配をかけたくなかった。
それに。
(……俺が、ちゃんとできないから)
当時は、そう思っていた。
◇
……もちろん。
俺だって、何も考えなかったわけじゃない。
何度も同じことが起これば、原因くらい考える。
自分が話した言葉を思い出し、相手が理解できなかった部分をノートに書き出してみた。
すると、気づいたことがあった。
(……あれ?)
俺が説明していたのは、最初の一と、最後の十だけだった。
途中の考え方を、ほとんど話していなかったのだ。
(……そっか)
ようやく分かった。
俺には当たり前でも、相手にはそうじゃない。
途中の九つも、ちゃんと言葉にしなければ伝わらない。
(……何だ。そんなことだったのか)
その時は、本当に嬉しかった。
原因が分かったのだから。
だったら、直せばいい。
これで、またみんなと話せる。
そう思った。
……思ってしまった。
『……あのさ』
翌日。
俺は、以前一緒に勉強していた同級生へ話しかけた。
『……何?』
『この前の問題なんだけど、俺、ちゃんと説明できてなかったみたいで……』
『……は?』
『今度は、分かるように順番に書いてきたんだ』
ノートを差し出す。
前の晩、何度も書き直したものだった。
どこから説明すれば伝わるのか。
相手が分からなかったところは、どこだったのか。
自分なりに、一生懸命考えた。
『だから、よかったら――』
『……もういいって』
『……え?』
『何? まだ俺のこと馬鹿にしたいわけ?』
『ち、違う! そうじゃなくて……』
『もうお前に教えてもらいたくないんだよ!』
『…………』
『お前と話してると、俺が馬鹿みたいになるんだもん』
その言葉に、何も返せなかった。
『……ごめん』
『だから、そういうのがウザいんだって』
同級生は、差し出したノートを押し返した。
『もう話しかけてこないで』
……あ。
そっか。
そう、なんだ。
それからも、何度か話しかけようとした。
けれど、俺が近づくだけで、みんな離れていった。
『お前、何でまだこっち来るの?』
『……え?』
『もう一緒に遊ばないって言ったじゃん』
『……でも』
『しつこいんだよ』
かつて一緒に遊んでいた子が、こちらを睨んだ。
『お前と一緒にいると、俺まで変なやつって言われるんだよ』
『…………』
『だから、もう友達じゃないから』
……その時。
何かが、音を立てて壊れた気がした。
俺が何を間違えていたのか。
どうすれば伝わるのか。
全部、分かったのに。
今度こそ、ちゃんと話せると思ったのに。
……遅かった。
もう、誰も俺の話を聞こうとはしてくれなかった。
(……もう、駄目なの?)
答えは、何も返ってこなかった。
それから、俺は学校でほとんど話さなくなった。
休み時間には、一人で本を読んだ。
昼休みも、一人だった。
班を作る授業では、最後まで残ることが増えた。
『……あいつ、一人でいいじゃん』
『頭いいんだし、全部できるだろ』
……そうだね。
俺、一人でもできるよ。
問題を解くことなら。
勉強することなら。
きっと、みんなより早く終わらせられる。
……でもさ。
(……誰かと、一緒にやりたかったな)
そんなことを思っていた。
◇
――場面が変わる。
夕暮れの、小さな食卓。
そこには、父さんと母さんがいた。
『……じゃあ、ここまでは分かる?』
『うん。そこまでは大丈夫だよ』
『じゃあ、次は?』
『……ごめんな。もう少し詳しく頼む』
『……うん』
俺がノートを指さしながら説明すると、父さんが頷く。
隣では、母さんがじっと話を聞いていた。
……ああ。
そうだったな。
二人は、俺の考えていることを全部理解できたわけじゃなかった。
でも、理解しようとしてくれた。
俺が一つしか説明していなくても。
途中で話が飛んでしまっても。
何度でも、聞き返してくれた。
『……もう一回、最初からいい?』
『うん』
『ありがとう。じゃあ、お願い』
どこまでなら一度に伝わるのか。
どこから説明すれば分かってもらえるのか。
一つずつ、二人と確かめていった。
……本当に、根気のいる作業だったと思う。
仕事で疲れている日だってあったはずなのに。
それでも、俺の話を聞いてくれた。
ある日。
『……父さん』
『ん?』
『……俺の話、面倒くさくない?』
そう聞いたことがあった。
父さんは、少し驚いた顔をした。
『……どうして?』
『だって、何回も説明しないと分かんないでしょ』
『……まあ、そうだな』
『…………』
『でも、お前が話してくれるの、父さんは嬉しいぞ』
『……え?』
『お前が何をそんなに楽しんでるのか、父さんも知りたいからな』
母さんも笑った。
『そうよ。分からないことがあったら、何度だって聞くわ』
『……本当に?』
『もちろん』
母さんは、俺の頭に手を置いた。
『だって、あなたの話だもの』
……ああ。
そうだった。
俺の話を理解できなくても。
俺自身を理解しようとしてくれる人は、いたんだ。
◇
そして、もう一人。
学校でのことを知り、俺を気にかけてくれた大人がいた。
『……どうした?』
夕暮れの静かな部屋。
俺は、その人の前で俯いていた。
『今日は、元気がないな』
『……別に』
『そうか』
その人は、無理に聞き出そうとはしなかった。
ただ、机の上に置かれたノートを手に取った。
『……これ、全部自分で考えたのか?』
『……うん』
『そうか。すごいな』
『…………』
『ここの説明、もう少し詳しく聞いてもいいか?』
『……いいけど』
俺は、ノートを開いた。
いつものように、途中を飛ばさないように気をつけながら説明する。
その人は、分からないところがあれば質問してくれた。
そして。
『……ああ、なるほど!』
その人が、嬉しそうに笑った。
『今の説明なら、俺にも分かったよ』
『……本当?』
『ああ。すごく分かりやすかった』
……嬉しかった。
でも。
『……ねえ』
『ん?』
『……俺、ちゃんと説明できるようになったんだよ』
『うん。そうだな』
『前は、全然駄目だったけど……』
『うん』
『今は、ちゃんと考えて話せるようになったんだ』
『……そうだな』
『……なのに』
声が、震えた。
『……誰も、聞いてくれないんだ』
『…………』
『もう間違えないようにしたのに』
言葉が、うまく出てこなくなる。
『ちゃんと分かるように書いて、何回も練習したのに……』
『……うん』
『……みんな、もう俺と話したくないって』
ぽたり。
ノートに、水滴が落ちた。
『……何で』
自分の声が、ひどく小さく聞こえた。
『俺、どうしたらよかったの……?』
……ああ。
そうだったな。
あの日の俺は。
初めて、誰かにそう聞いたんだった。
『……もっと早く気づいてたら、よかったのかな』
『…………』
『もっと普通だったら、みんなと仲良くできたのかな』
その人は、すぐには答えなかった。
しばらくして、静かに口を開いた。
『……分からないな』
『…………』
『どうすればよかったのか、俺にも全部は分からない』
『……そっか』
『でも、一つだけ分かることがある』
顔を上げる。
『君の説明が足りなかったことと、君がいじめられていいかどうかは、まったく別の話だよ』
『…………』
『伝え方は、これからも練習できる。君はもう、随分上手になった』
その人は、優しく笑った。
『でも、相手が聞こうとしてくれなければ、君一人ではどうにもできないことだってある』
『……じゃあ』
声が、震える。
『……もう、友達には戻れないの?』
その人は、少しだけ目を伏せた。
『……今すぐは、難しいかもしれないな』
『…………』
……そうだよな。
分かってた。
そんなこと。
俺が一番、よく分かってた。
だって、何度も話しかけたんだから。
何度も、何度も。
……それでも。
『……俺、友達が欲しかっただけなのに』
その言葉を口にした瞬間。
もう、我慢できなかった。
涙が、次々と零れ落ちた。
『……一緒に遊びたかっただけなのに……』
その人は、何も言わなかった。
ただ、俺の話を聞いてくれた。
そして。
ぽん。
頭に、温かい手が置かれた。
『……よく頑張ったな』
優しく、頭を撫でられる。
『もう、一人で全部何とかしようとしなくていいんだよ』
……ああ。
温かい。
『君には、ちゃんと味方がいるんだから』
その言葉が、どうしようもなく嬉しくて。
俺は――。
◇
「……っ」
目が覚めた。
見慣れた天井。
柔らかなベッド。
上品な家具の並ぶ、広い寝室。
(……夢、か)
ゆっくりと身体を起こし、頬に触れる。
……濡れていた。
(……はは)
まさか、今になってあんな夢を見るとはな。
もう何年も、思い出すことなんてなかったのに。
(……懐かしいなぁ)
あの頃は、本当に辛かった。
でも。
俺は、恵まれていたと思う。
父さんも母さんも、あの人も。
俺のことを理解しようとしてくれた。
あの人たちがいなければ、今の俺はいなかっただろう。
成長するにつれて、相手に合わせて説明することも自然にできるようになった。
大人になる頃には、昔の癖はすっかりなくなっていた。
……まあ、社会人になってからは別の失敗もしたけど。
(……報連相、か)
先生たちにも話した、あの失敗談を思い出す。
自分で解決できると思って報告を後回しにし、周囲に迷惑をかけたこと。
誰かに分かるように説明することと、必要な時に情報を共有すること。
その両方が大切なのだと、社会に出てから改めて学んだ。
(……本当に、色々な人に助けられてきたな)
ありがとう。
もう会えるか分からない、かつての家族や恩人たちへ、心の中で呟く。
……ちゃんと、伝えられていたかな。
そんなことを考えていると、ふと先日の出来事が頭をよぎった。
(……ハナコ、か)
あの子との会話は、本当に楽しかった。
一つ言えば、その先まで理解して返してくる。
こちらも負けじと考えて、また言葉を返す。
昔の俺が、ずっと求めていたような時間だった。
……ただ。
(……考えてみれば、俺とは正反対なんだよな)
俺は、頭が良いことを疎まれた。
ハナコは、頭が良いからこそ期待を押し付けられた。
俺は、才能を見せるなと遠ざけられた。
ハナコは、才能を見せろと求められた。
(……皮肉なもんだな)
正反対の経験をしてきたのに、どちらも本来の自分を隠すようになった。
……もっとも。
俺は、周りの人たちのおかげで、もう乗り越えられたけど。
ハナコには、ハナコの事情がある。
俺が勝手に何かを決めるつもりはない。
ただ。
(……あの子も、褒められたっていいよな)
先日、ハナコの頭を撫でたことを思い出す。
昔、あの人が俺にしてくれたように。
あの子の優しさを、ただ認めてあげたかった。
(……なんてな)
少し照れくさくなり、思わず笑った。
それにしても、あの時のハナコの顔。
いつもの余裕がなくなって、随分と驚いていたな。
(……また話したいな)
今度は、どんなやり取りになるだろう。
そんなことを考えていると、自然と気分が明るくなってきた。
「……さて!」
両手で軽く頬を叩く。
いつまでも昔のことを考えている場合じゃない。
今日は、重要な日なのだから。
(……補習授業部、いよいよ開始だ!)
◇
身支度を済ませ、朝食を取る。
今日の予定を確認すると、先生がトリニティを訪れるのは昼過ぎだった。
補習授業部の顧問を正式にお願いするためだ。
もっとも、先生にはすでに相談を済ませ、了承もいただいている。
俺の正体を含めて、事情もある程度は知っている。
今回は正式な手続きと、今後の予定を確認するだけで済むだろう。
(……問題は、ミカなんだよな)
先生とは今日が初対面。
原作では、ここでちょっとした騒動が起きるのだが……。
(……いや、今回は短い会談だし、大丈夫だろ)
そう自分に言い聞かせ、端末を手に取る。
画面には、先日のミレニアム訪問に関する連絡が残っていた。
(……あっちも色々あったなぁ)
ミレニアムでの出来事を思い返す。
まさか、アリスに会えるとは思わなかった。
ゲームの中で見ていたあの子と、実際に話せたのは素直に嬉しかったな。
……それに、リオにも会った。
(……まったく、予想外のことばかりだったな)
色々と思い出すことはあるが、今は今日の予定に集中しよう。
端末を閉じ、椅子から立ち上がる。
(……よし。行くか)
◇
ティーパーティーの会場へ向かうと、すでにミカが来ていた。
「あっ、ナギちゃん!」
「ごきげんよう、ミカさん」
「ごきげんよう!」
ミカが嬉しそうに手を振ってくる。
……うん。
今日も元気そうだ。
「ねえねえ、今日ってシャーレの先生が来る日だよね?」
「ええ。もうすぐいらっしゃる予定ですよ」
「そっかぁ!」
ミカは楽しそうに笑った。
「どんな人なんだろうね、先生って!」
「ミカさんは、まだお会いしたことがないんでしたね」
「うん! ナギちゃんはもう会ったんでしょ?」
「ええ。以前、シャーレを訪問した際に」
「いいなー!」
ミカが身を乗り出した。
「ねえ、どんな人だった? 怖い人? それとも優しい人?」
「……そうですね」
少し考える。
「とても優しい方でしたよ。生徒のことを第一に考えてくださる、信頼できる大人だと思います」
「へえー!」
ミカの顔が明るくなった。
「じゃあ、私も仲良くなれるかな?」
「ええ。きっと仲良くなれますよ」
「やった!」
ミカが嬉しそうに笑う。
(……本当に楽しみなんだな)
まだ会ったこともない先生に、随分と期待しているようだ。
まあ、気持ちは分かる。
俺だって、初めて先生と会った時は結構感動したしな。
「……でもさ、ナギちゃん」
「はい?」
「先生って、どんな生徒の話でも聞いてくれるのかな?」
「……どんな、と言いますと?」
「うーん……」
ミカは、少し考えるように首を傾げた。
「例えばさ、すっごく悪いことをした子とか?」
その言葉に、俺はミカを見た。
彼女は、いつもどおり笑っていた。
けれど、その声には先ほどまでの明るさがなかった。
(……なるほど)
……心当たりはある。
というか、心当たりしかない。
実はこの数日、俺はミカの動きをそれとなく探っていた。
確認できる範囲の公務記録や、警備報告。
その中には、彼女の行動と噛み合わない箇所がいくつかあった。
そして、セイアが襲撃された前後にも。
原作知識と照らし合わせれば、答えはほとんど出ている。
(……やっぱり、ミカは関わっているんだろうな)
今では、ほぼ確信している。
ただ、彼女が実際にどこまで関わり、何を知っているのか。
そこまでは、まだ確かめられていない。
(……さて)
目の前のミカは、こちらの返事を待っている。
なら、俺が伝えたいことを伝えよう。
「……先生でしたら、きっと救ってくださいますよ」
「……え?」
ミカが瞬きをした。
「救って、くれるの?」
「ええ」
俺は頷いた。
「過去にどれほど大きな間違いをしていたとしても、今、そのことを悔やんで助けを求めているのなら、先生はきっと手を差し伸べてくださると思います」
「…………」
ミカは、しばらく俺を見つめていた。
やがて、ぽつりと呟く。
「……でもさ、先生にだって、できないことはあるんじゃない?」
「もちろん、あると思います」
「……そうなんだ」
「ええ。先生も、お一人ですから」
俺は微笑んだ。
「ですから、もし先生お一人では手が足りないのなら、私たちも一緒に救えばいいんですよ」
「……私たち?」
「ええ」
ミカの目を見つめる。
「先生だけに、何もかも背負っていただく必要はありませんから」
「…………」
「助けを求めてくれる子がいるのなら、私はその手を取りたいと思っています」
ミカの目が、わずかに見開かれた。
「……ナギちゃん」
「はい?」
「……本当に、そう思ってる?」
「もちろんです」
迷わず答える。
それは、決して綺麗事だけではない。
アリウスの生徒たちを救うために、今まで準備を進めてきたのだから。
……もちろん、ミカだって例外じゃない。
「……そっか」
ミカが、小さく笑った。
「……ナギちゃんって、優しいね」
「そうでしょうか?」
「うん……」
その笑顔が、ほんの一瞬だけ曇る。
けれど、すぐにいつもの表情へ戻った。
「……ねえ、ナギちゃん」
「はい?」
「最近さ、ナギちゃんって、なんか変わったよね」
「……そうでしょうか?」
「うん。前はもっと慎重だったのに、今は何ていうか……」
ミカが、こちらの顔をじっと見つめる。
「思い切りが良くなったっていうか」
「…………」
「エデン条約を延期した時も驚いたけど、今だってそうだよ。悪いことをした子でも救うって、そんなに迷わず言っちゃうんだもん」
(……あ)
まずい。
少し、前のめりになりすぎたかもしれない。
俺の中では当然の選択でも、本物のナギサなら、もう少し慎重に言葉を選んでいたかもしれない。
「……ねえ、ナギちゃん」
「……何でしょう?」
ミカが、いたずらっぽく笑った。
「もしかして、影武者だったりして?」
(……っ!?)
心臓が跳ねた。
……いや、落ち着け。
冗談だ。
ミカの表情を見る限り、本気で疑っているわけじゃない。
……多分!
「……ふふっ。私が影武者なわけないじゃないですか、ミカさん」
できる限り、いつもどおりの声で答える。
「えへへっ、だよねー!」
ミカが笑った。
「ナギちゃんが別人なんて、そんなわけないもんね!」
「……もちろんです」
(……あっぶねぇぇぇ!!)
危なかった!
本当に危なかった!
いや、考えてみれば当然だ。
ミカは、本物のナギサと長い付き合いがある。
最近の俺の変化に、違和感を覚えていても不思議じゃない。
(……ちょっと、調子に乗りすぎたな)
それにしても、あっさり引き下がってくれて助かった。
今のミカは、セイアとアリウスの件で頭がいっぱいなのだろう。
だから、俺の変化に気づいても、深く考える余裕まではない。
(……もし、あの件がなかったら)
もっと詳しく追及されていたかもしれない。
そう考えると、背筋が冷たくなる。
……もちろん、こんな理由で助かったことを喜べるわけじゃないけど。
「……でもさ」
「……はい?」
ミカが、ぽつりと呟いた。
「……人って、変わるものだよね」
「…………」
先ほどまでの笑顔が、少しだけ曇っていた。
「……ミカさん?」
「……ううん。何でもない」
そう言って、ミカは視線を落とした。
その先には、誰も座っていない席があった。
「……セイアちゃんがいたら、今日のこと、どう思ったかな」
「…………」
「ふふっ。きっと、先生のことを色々聞きたがったよね」
「……そうですね」
俺は静かに答えた。
ミカは、空席を見つめたまま黙り込んでいる。
その横顔は、ひどく寂しそうだった。
(……ミカ)
セイアの話題になると、ミカは決まって表情を変える。
この数日、意識して様子を見ていたからだろうか。
今では、その小さな変化にも気づけるようになっていた。
(……後悔している、のかな)
そうであってほしい。
だが、本人から聞いたわけじゃない。
俺が望む答えを、勝手に当てはめるつもりはなかった。
「……ミカさん」
「……あっ」
声をかけると、ミカは慌てたように顔を上げた。
「ごめんごめん! ちょっと考え事しちゃった!」
「……いえ。お気になさらないでください」
「……うん」
ミカが笑う。
……今なら、何か聞けるかもしれない。
けれど。
(……いや、今はやめておこう)
無理に聞き出したところで、何も解決しない。
こちらも準備を進めながら、その時を待てばいい。
「それにしても、ミカさん」
「ん?」
「先生とお話ししたいお気持ちは分かりますが、まずは正式な会談がありますからね?」
「えー?」
「えー、ではありません」
「分かってるってば!」
ミカが笑いながら頷いた。
「私だって、ちゃんとできるもん!」
(……本当かぁ?)
その言葉には、少々不安が残る。
……まあ、今は信じるしかないか。
その時だった。
――ぶるっ。
小さな振動音が聞こえた。
「……あっ」
ミカが、テーブルに置いていた端末を手に取る。
画面を確認した瞬間。
その表情が、わずかに曇った。
……ほんの一瞬だった。
すぐに、いつもの笑顔へ戻る。
「……ミカさん?」
「ん? 何?」
「何かご連絡でも?」
「ああ、うん! ちょっとした用事だよ!」
そう言って、端末を伏せた。
「今は大丈夫!」
「……そうですか」
俺は、それ以上聞かなかった。
(……また、あの顔か)
差出人までは見えなかった。
だが、ミカが連絡を確認した直後、同じような表情を見せたことは以前にもあった。
(……おそらく、アリウスか)
断定はできない。
けれど、今まで調べたこととも辻褄が合う。
エデン条約は延期された。
だが、それで相手の計画まで止まったわけじゃない。
(……問題は、いつ動くかだな)
こちらも準備は進めている。
ただ、ミカにはできれば自分の意思で話してほしいと思っていた。
(……頼むぞ、ミカ)
全部、一人で抱え込まなくてもいいんだからな。
「……ナギちゃん?」
「はい?」
「何だか、難しい顔してるよ?」
「……そうですか?」
「うん!」
ミカは、くすくすと笑った。
「もう! 先生が来る前からそんな顔してたら、怖がられちゃうよ?」
「……先生は、そんなことで怖がる方ではありませんよ」
「そうなの?」
「ええ」
「へえー!」
ミカが嬉しそうに笑った。
「ますます楽しみになってきた!」
(……まったく)
さっきまでの暗い表情が嘘みたいだ。
……いや。
きっと、どちらも本当のミカなんだろう。
明るくて、騒がしくて。
その一方で、人には言えないものを抱えている。
(……いつか、ちゃんと話してくれよ)
そう思った時だった。
――コンコン。
会場の扉が、静かにノックされた。
◇
「シャーレの先生がお見えになりました」
係の生徒から報告が入った。
「ありがとうございます。こちらへご案内してください」
「承知しました」
生徒が一礼し、会場を出ていく。
俺は、姿勢を正した。
(……さて、仕事の時間だ)
ほどなくして、先生が姿を現した。
「先生、ごきげんよう」
「ごきげんよう、ナギサ」
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。招待してくれてありがとう」
そこで、ミカが立ち上がった。
「先生、初めまして!」
元気な声が響く。
「私は聖園ミカ! ティーパーティーの一員だよ!」
「初めまして、ミカ。シャーレの先生です」
先生が笑顔で答える。
「よろしくね」
「うん! よろしくね、先生!」
(……おお)
原作で知っていた二人が、今こうして目の前で初めて挨拶を交わしている。
何だか感慨深いな。
……いや、今は感動している場合じゃない。
「それでは先生、どうぞお掛けください」
「ありがとう」
先生が席に着く。
ミカも、自分の席へ戻った。
「ねえ、先生!」
「うん?」
「シャーレって、いつもどんなお仕事をしてるの?」
(……早い!)
もう始まった!?
「そうだね。いろんな学園から相談を受けたり、生徒たちの手伝いをしたりかな」
「へえー! じゃあ、いろんな学園に行くんだ!」
「うん」
「いいなぁ! 私、他の学園のことってあんまり知らないんだよね!」
先生も楽しそうに応じている。
(……まあ、挨拶くらいはいいか)
初対面なのだから、多少は話してもらおう。
……ただし。
「ミカさん」
「ん?」
「そろそろ、本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あっ、そうだね!」
ミカが笑って頷いた。
「ごめんね、ナギちゃん!」
「……いえ」
(……よし)
これなら大丈夫そうだな。
俺は先生へ向き直った。
「それでは先生。以前ご相談した補習授業部について、改めて正式なお願いをさせていただきます」
「うん」
用意していた資料を差し出す。
「本日より活動を開始するにあたり、先生には顧問として、部員四名の指導と支援をお願いしたいと考えております」
「分かったよ。前に話したとおり、喜んで協力するよ」
「ありがとうございます」
「それに、四人と会うのも楽しみだな」
先生が微笑んだ。
……うん。
やっぱり、お願いして良かった。
「では、活動日程について確認させていただきますね」
資料を一枚めくる。
……あと少しだ。
その時だった。
「……ねえ、先生」
(……ん?)
ミカが、ぽつりと呟いた。
「先生って、勉強を教えるのも得意なの?」
「どうだろう。でも、一緒に考えるのは好きだよ」
「へえー!」
ミカが身を乗り出した。
「じゃあ、私にも教えてくれる?」
「もちろん。何か困ってることがあるの?」
「うーん、今は特にないかな!」
(……ないのかよ!)
思わず突っ込みそうになった。
……まあ、まだ大丈夫だ。
「……こほん。それでは、今後の予定についてですが」
「あっ、先生!」
(……おい)
「先生って、普段はシャーレにいるの?」
「うん。そこにいることが多いかな」
「へえー! じゃあ、今度遊びに行ってもいい?」
……なるほど。
初めて会った先生に、色々聞きたいのは分かる。
だが。
「……ミカさん」
「ん?」
「少々、静かにしていただけますか?」
「あっ、ごめんごめん!」
ミカが笑った。
「つい気になっちゃって!」
「……そうですか」
(……落ち着け、俺)
あと少し確認すればいいだけだ。
それが終わったら、好きなだけ話してもらおう。
「……先生。失礼しました」
「ううん、大丈夫だよ」
先生は、どこか楽しそうに笑っていた。
「では、試験の日程について――」
「あっ、ナギちゃん!」
「…………」
「このロールケーキ、先生にも食べてもらおうよ!」
ミカが、皿を持ち上げた。
「ねえ先生! ここのロールケーキっておいしいんだよ!」
「そうなんだ。ありがとう、ミカ」
「うん! ナギちゃんもよく食べてるんだよ!」
(……ああ、もう)
まったく、ミカは。
初めて会った先生と話したい気持ちは分かるけど、今は正式な会談の途中だぞ。
……まあ、あと少しで終わるんだし。
軽く注意すればいいか。
そう考え、口を開こうとした時だった。
(……ん?)
胸の奥が、かっと熱くなった。
先ほどまでの呆れとは違う。
何度も注意しているのに聞いてもらえない苛立ち。
大切な会談を邪魔されていることへの怒り。
そんな感情が、突然込み上げてきた。
(……え?)
いや、確かに少しは腹が立っているけど。
ここまで怒るほどのことか?
……そう思ったのに。
「……ミカさん」
「ん?」
気づけば、口が動いていた。
「先ほどから、少々おしゃべりが過ぎるようですね」
「えー? そうかな?」
「……ええ」
「でも、私も先生とお話ししたいし……」
「……ミカさん」
「それに、ナギちゃんは先生ともういっぱい話したんでしょ?」
「…………」
「私だけ、まだ全然お話しできてないんだもん!」
その瞬間。
胸の奥で、何かが弾けた。
「…ええ、ですが今は私がしゃべっている途中ですよね?」
ミカの笑顔が、ぴたりと止まった。
「それなのにさっきからずっと!横でぶつぶつぶつぶつと……!どうしても黙れないのでしたら、その小さな口に……ロールケーキをぶち込みますよっ!?」
「……えっ?」
――沈黙。
ミカが目を丸くしている。
先生も、驚いたようにこちらを見ていた。
そして、当の俺は。
(…………は?)
……いや、待て。
(……俺、今、何て言った?)
ロールケーキをぶち込む?
……あ。
(……やっちまったぁぁぁ!?)
あの台詞だ!
原作で見た、あの有名な台詞!
まさか、自分で言うことになるなんて!
……いや、それよりも。
(……何だ、今の?)
確かにミカのおしゃべりには困っていた。
でも、別に本気で怒っていたわけじゃない。
それなのに、どうしてあんな言葉が出たんだ?
(……俺、こんなことであそこまで怒るか?)
いや、普通に注意すれば済む話だろ。
それに、さっき感じた怒りも。
今はもう、嘘みたいに収まっている。
(……疲れてるのかな)
そう考えていると。
「……ぷっ」
ミカの口元が緩んだ。
「……ミカさん?」
「……あはははっ!」
盛大な笑い声が響く。
「ナギちゃん! 何それ!?」
「……っ!」
「ロールケーキって! あははっ!」
「……そ、そんなに笑わなくても!」
「だ、だって! ナギちゃんがそんなこと言うなんて!」
ミカがお腹を抱えて笑っている。
……くっ。
確かに、笑いたくなる気持ちは分かる。
俺だって、原作で見た時は笑ったし。
……でも。
(……ちょっと待てよ)
これ、結局原作と同じことになってないか?
あれだけ色々変えてきたのに、こんなところだけ原作どおりなのかよ!
「……ふふっ」
今度は、隣から笑い声が聞こえた。
「……先生?」
「あ、ごめんね」
先生が口元を押さえている。
「いや、二人とも本当に仲がいいんだなと思って」
「……そう、でしょうか」
「うん。ナギサも、こんなふうに怒ることがあるんだね」
「…………」
(……先生ぇぇぇ!?)
そっちまで笑わないでくれ!
……まったく。
俺は、軽く咳払いをした。
「……失礼しました。少々、取り乱してしまいましたね」
ミカへ向き直る。
「ミカさんも、申し訳ありません」
「ううん! 全然いいよ!」
ミカは笑いながら首を振った。
「でも、ナギちゃんって昔からそういうところあるよね!」
「……そういうところ、ですか?」
「うん! 普段はすっごく真面目なのに、たまに急に怒っちゃうところ!」
「…………」
(……へえ)
……そうなのか。
ナギサにも、そんな一面があったんだな。
それなら、さっきの怒り方も、そんなに不自然じゃなかったのかもしれない。
……いや。
それはそれとして。
(……やっぱり、ちょっと変だったよな)
自分でも説明できない、あの一瞬の苛立ち。
今となっては、もう跡形もない。
……まあ、今気にしても仕方ないか。
ミカは楽しそうに笑っているし、先生も嫌な顔はしていない。
俺は、紅茶を一口飲んだ。
(……うん。落ち着くなぁ)
……本当に、今日は色々ある日だ。
◇
その後は、ようやく順調に話が進んだ。
……ミカが何度か口を開きかけていたけど、さすがに控えてくれたらしい。
活動日程と試験の準備を確認し、会談を終える。
「先生、本日はありがとうございました」
「ううん。こちらこそ」
先生は資料をまとめながら頷いた。
「それじゃあ、まずは四人に会ってくるよ」
「はい。皆さんには、先生がいらっしゃることをお伝えしてあります」
「ありがとう」
先生が席を立つ。
俺も立ち上がり、軽く頭を下げた。
「先生」
「ん?」
「……四人のこと、よろしくお願いします」
先生は俺を見た。
ほんの一瞬だけ、表情が変わる。
俺が何を心配しているのか、分かっているような顔だった。
「うん。任せて」
短い返事だった。
けれど、それで十分だった。
「……ありがとうございます」
微笑んで答える。
すると、先生は声を落とした。
「……ナギサも、無理しすぎないようにね」
「…………」
ああ。
そっちの心配もしてくれるのか。
(……本当に、いい人だな)
「……ええ。ありがとうございます」
そう答えると、先生は安心したように微笑んだ。
「それじゃあ、また」
「はい。お気をつけて」
「先生、またねー!」
ミカが大きく手を振った。
「今日はあんまりお話しできなかったけど、また色々聞かせてね!」
「うん。もちろん」
「やった!」
先生も手を振り返した。
そして、最後にもう一度こちらへ軽く会釈すると、会場を後にした。
扉が閉まる。
足音が、遠ざかっていった。
◇
「……ふぅ」
ようやく静かになった会場で、俺は息を吐いた。
(……とりあえず、第一段階は終わりか)
先生への正式な依頼は済んだ。
補習授業部も、いよいよ本格的に動き始める。
……もっとも、今後のことを考えると気を抜くわけにはいかない。
特別学力試験。
アズサのこと。
そして、エデン条約。
まだ、やるべきことは山ほどある。
そう考えて、残った紅茶に手を伸ばした。
「……ねえ、ナギちゃん」
「はい?」
ミカの声が聞こえた。
振り向くと、彼女は頬杖をつき、こちらを見つめていた。
「先生、行っちゃったね」
「……そうですね」
「うん」
ミカは、先生が出ていった扉を眺めていた。
「……いい人だったね」
「ええ。私も、そう思います」
「ふふっ。ナギちゃんが信頼してるのも、何となく分かったかも」
「……そうですか?」
「うん!」
ミカが笑った。
「今度会ったら、もっといっぱいお話ししたいな!」
「……その時は、ぜひ」
「えへへっ」
嬉しそうに笑うミカ。
その姿を見ながら、俺も微笑んだ。
……しかし。
(……さて)
先生が帰ったということは。
今、この会場に残っているのは。
俺と、ミカ。
ただ二人だけだった。
さっきまで賑やかだった会場が、嘘のように静かになっている。
テーブルの上には、飲みかけの紅茶と、手をつけられなかったロールケーキ。
ミカは、その一つを手に取った。
「……ナギちゃん」
「はい?」
「ロールケーキ、食べる?」
「…………」
(……お前なぁ)
思わず笑ってしまいそうになった。
……まあ、いいか。
「……いただきます」
「えへへっ。どうぞ!」
ミカが嬉しそうに皿を差し出す。
俺はそれを受け取り、改めて向かいの席を見た。
今は、二人きりだ。
ミカは、何事もなかったかのようにロールケーキを食べ始めている。
……けれど。
(……そろそろ、話しておきたいこともあるんだよな)
先生が来る前の会話。
セイアの席を見つめていた、あの表情。
そして、俺が調べたこと。
……もう、知らないふりを続けるだけでは済まないだろう。
ただ、焦るつもりはない。
ミカが何を思い、何を抱えているのか。
それを、ちゃんと聞きたい。
俺は、ティーカップを置いた。
目の前の少女は、まだこちらを見ていない。
先生との初対面を楽しみ、嬉しそうに笑っている。
……聖園ミカ。
俺が知っている原作では、多くのことを抱え込んでいた少女。
そして今も。
きっと、誰にも話していないことがある。
(……さて)
どう切り出したものかな。
そんなことを考えながら、俺は静かに紅茶を飲んだ。
ミカと二人きりの、午後のティーパーティー。
そこから、次の話が始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回は、ナギの過去を描いてみました。
幼い頃の経験や、支えてくれた人たちとの思い出が、今のナギにも影響しているようです。
そして、裏では補習授業部がいよいよ始動します。
ミレニアムでの出来事については、また別の機会に。
次回は、ミカとのお話です。
引き続き、よろしくお願いします!