今回は前回からの続きとなります!
今度はナギが、ミカに自身の秘密を打ち明けることに。
かなり重要なお話……のはずなのですが、どうしてこうなったのでしょうか
それではお楽しみください!
「先生、本当に申し訳ありません」
「大丈夫だよ。それより、大切な話があるんだよね?」
「ええ。ありがとうございます」
先生が席に着く。
向かいでは、ミカが興味津々といった様子でこちらを見つめていた。
「ねえねえ、ナギちゃん!」
「はい?」
「さっき言ってた秘密って、何なの?」
「……そうですね」
俺は、先生と顔を見合わせた。
先生は静かに頷く。
(……よし)
覚悟は決めた。
ミカが自分の秘密を話してくれたのだから、今度は俺が応える番だ。
「これからお話しすることは、とても信じがたい内容だと思います」
「……うん」
「ですが、どうか最後まで聞いてください」
ミカは、いつになく真剣な表情で頷いた。
「分かった。ちゃんと聞くよ」
「ありがとうございます」
俺は、一度深呼吸をした。
「……実は、私は――」
◇
――それから、しばらくの時間が流れた。
俺は、ミカに自分の正体を説明した。
元々は日本という国で暮らしていた、成人した男だったこと。
ある日突然、この世界で桐藤ナギサとして目覚めたこと。
そして、この世界の出来事を、物語として以前から知っていたこと。
……まあ、ただし今のミカにお辛い部分は省略した。
やっと自白してちょっと心が回復したのにナギサの自殺の経緯なんかは聞かせられない。
必要な部分を中心に説明し、分かりにくいところは先生にも補足してもらった。
(……ふぅ)
それにしても何度話しても、慣れないもんだな。
それに今回は、相手がミカだ。
本物のナギサと長い付き合いのある少女に、実は別人だと打ち明けたのだから。
さて。
肝心の反応はというと。
「…………」
……うん。
見事に固まっていた。
ミカは、口を半開きにしたままこちらを見つめている。
手に持っていたフォークも、空中で停止していた。
(……あちゃー)
これは予想以上だな。
「……ミカさん?」
「…………」
「……ミカさん?」
「…………」
返事がない。
ただ、ゆっくりと瞬きをした。
俺は先生を見た。
「……先生」
「うん?」
「……どうしましょう?」
「どうしましょうって言われても……」
先生も、少し困ったように笑っていた。
「ミカにとっては、それだけ大きな話だったんだよ」
「……そうですよね」
……まあ、当然か。
長年の友人が、実は異世界から来た成人男性でした。
なんて話を聞かされたら、俺だって固まる。
……ただ。
(……せっかくだし、ちょっと試してみるか)
俺は軽く息を吐き、ミカへ向き直った。
「……まあ、何だ」
「…………」
「いきなりこんな話をされても、信じられねえよな」
「…………」
「俺だって最初は訳が分からなかったし。朝起きたら知らない女の子になってたんだぞ?」
ミカの目が、ぴくりと動いた。
(……お?)
反応した?
「ま、こうして話してる俺自身、まだ分からないことも多いんだよな」
「…………」
「だから、信じられないなら無理に信じなくても――」
「……お」
「……ん?」
ミカが、小さく声を漏らした。
「……お、れ?」
「……ああ」
「……俺?」
ゆっくりと、俺を指さす。
「……ナギちゃんが?」
「そうだよ。元々男だったからな」
「…………」
ミカの目が大きく見開かれた。
「……ナギちゃん?」
「ん?」
「……ナギちゃん、だよね?」
「まあ、見た目はな」
「…………」
……あれ?
何だか、まずい予感がする。
「……ナギちゃんが」
「……おう」
「……男の人?」
「……ああ」
「……しゃべり方が」
「……うん?」
「……違う?」
「まあ、昔はこういう話し方だったからな」
そして。
「ええええええええええっ!?」
「うおっ!?」
突然の大声に、思わず身体が跳ねた。
「ナ、ナギちゃん!?」
「お、おう!?」
「な、な、何で!? どうして!?」
「いや、だから説明しただろ!?」
「説明は聞いたけど!!」
ミカが勢いよく立ち上がる。
「い、いきなりそんな喋り方になるなんて聞いてないよ!?」
「……あ」
……しまった。
それは言ってなかったな。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください、ミカさん!」
「…………っ!」
ミカが、ぴたりと止まった。
……ん?
「……あれ?」
「……どうしました?」
「……戻った」
「……はい?」
「ナギちゃんに戻った!」
(……ああ、そういうことか)
「……ええと、大丈夫ですか?」
「…………」
ミカは、俺を見つめた。
そして。
「……じゃあ」
「はい?」
「……もう一回やって!」
「……え?」
……おいおい。
「さっきの! 男の人みたいな喋り方!」
「……ミカさん?」
「お願い! もう一回!」
(……何だこれ)
まあ、いいか。
「……あー、こんな感じでいいか?」
「…………!」
「まあ、ずっとこの話し方を続けるのも、ちょっと疲れるんだけどな」
「……すごい!」
ミカが目を輝かせた。
「ナギちゃんが、男の人みたいに喋ってる!」
「いや、だから元々男だったんだって」
「分かってるけど! すごい変な感じ!」
「……変ってお前なぁ」
「だって、見た目も声もナギちゃんなんだもん!」
……ああ。
確かに、そうだろうな。
俺だって鏡を見れば、そこには美少女が映っている。
その本人が男の口調で喋っていたら、違和感はあるだろう。
「……先生!」
ミカが、突然先生へ振り向いた。
「先生は、これ知ってたの!?」
「うん、知ってたよ」
「ええっ!?」
ミカが、さらに驚いた。
「先生は知ってたんだ!?」
「まあね」
「ずるい!」
「……えっ?」
「私だけ知らなかったなんて、ずるいよ!」
……いやいや。
そこは先生に文句を言うところじゃないだろ。
「ミカ、落ち着けって」
「ほら! また!」
「……何が?」
「ナギちゃんが『ミカ』って!」
……あ。
そういえば、普段はミカさんだったな。
「……すみません。つい」
「戻ったーっ!?」
ミカが、両手で頭を抱えた。
「もう! どっちなのー!?」
……おいおい。
忙しいな、この子。
すると。
「……ナギ」
「はい?」
先生が、苦笑しながら声をかけてきた。
「そろそろ、その実演はやめた方がいいんじゃないかな」
「……どうしてですか?」
「ミカの頭が追いついてないから!」
……確かに。
目の前では、ミカが何やら一人でぶつぶつ呟いていた。
「ナギちゃんが男の人で……でも女の子で……喋り方も変わって……」
(……大丈夫か、これ)
少し心配になってきた。
「……ミカさん?」
「…………」
「大丈夫ですか?」
「…………」
……返事がない。
仕方ないな。
「……おーい、ミカ。生きてるかー?」
「ひゃあっ!?」
ミカが、飛び上がった。
「ま、また変わった!?」
「いや、だから――」
「ちょっと、ナギ!」
先生が、思わず声を上げた。
「面白がって切り替えないの!」
「……あっ」
……ばれたか。
「……いや、ちょっと反応が面白くて」
「面白がってたんだ!?」
先生が、呆れたように額を押さえた。
「ミカが大混乱してるんだから、もう少し加減してあげよう」
「……申し訳ありません」
「ほら! また戻ってる!」
「……あはは」
……いやぁ。
確かに、ちょっと遊びすぎたな。
◇
「……はぁ」
しばらくして。
ようやく落ち着いたミカが、椅子に座り直した。
「……もう、ナギちゃんってば」
「……すみません」
「ほんとだよぉ……」
ミカが、恨めしそうにこちらを見る。
……うん。
これは俺が悪いな。
だが。
「……あれ?」
ミカが、何かに気づいたように首を傾げた。
「……どうしました?」
「……ねえ、ナギちゃん」
「はい?」
「……ナギちゃんって、ナギちゃんじゃないんだよね?」
「……そうですね」
「…………」
ミカが考え込む。
そして。
「……じゃあ、私、何て呼べばいいの?」
(……あ)
……なるほど。
そういう問題もあるのか。
「今までどおりで構いませんよ?」
「ええっ!?」
ミカが、勢いよく顔を上げた。
「だ、だって!」
「はい?」
「ナギちゃんって、私がナギちゃんを呼ぶ時の名前だよ!?」
「……ええ」
「でも、今のナギちゃんはナギちゃんじゃないんでしょ!?」
「……そうですね」
「じゃあ、ナギちゃんって呼んだら、ナギちゃんじゃないナギちゃんをナギちゃんって呼ぶことになるじゃん!!」
「……ん?」
先生が、首を傾げた。
「……ああ、なるほど」
「えっ!?」
今度は先生が驚いた顔でこちらを見る。
「ちょっと待って、ナギ。今ので分かったの?」
「ええ。ミカさんのおっしゃりたいことは分かりましたよ」
「それっ! さすがナギちゃん!」
ミカが嬉しそうに笑う。
……まあ、確かに少々ややこしい言い方ではあったけど。
意味はすぐに理解できた。
「……ごめん、ナギ。ちょっと説明してもらってもいい?」
「もちろんです」
俺は頷いた。
「まず、ミカさんが昔から『ナギちゃん』と呼んでいたのは、桐藤ナギサさんですよね?」
「うん」
「そして、私の名前は『ナギ』です」
「……うん」
「では先生。私の名前に『ちゃん』を付けてみてください」
「……ナギちゃん?」
「ええ。つまり、本物のナギサさんと私では名前が違うのに、どちらも『ナギちゃん』という愛称が成立してしまうんです」
「……あっ!」
先生が、目を見開いた。
「なるほど! どっちもナギちゃんになるのか!」
「ええ。だから、ミカさんが今までどおり『ナギちゃん』と呼んでも、それがナギサさんを指しているのか、私を指しているのか、呼び方だけでは区別できません」
「……ああ、そっか!」
「しかも、今はナギサさんの姿を私が借りている状態ですから、なおさらややこしいんですよ」
「そうそう! それなの!」
ミカが勢いよく頷いた。
「だって、ナギちゃんもナギちゃんだし、ナギちゃんもナギちゃんなんだもん!」
「……ミカ」
「ん?」
「せっかく分かったのに、また分からなくなりそうだから!」
「ええーっ!?」
ミカが不満そうに頬を膨らませる。
「でも、ちゃんと合ってるよね!?」
「ふふっ。ええ、間違っていませんよ」
「ほらー!」
「いや、間違ってないのは分かるんだけどね!?」
先生が苦笑する。
「それにしても、ナギは理解するのが早いね」
「そうでしょうか?」
「うん。しかも、説明も分かりやすかったよ」
「ふふっ。ありがとうございます」
……そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいな。
昔は、こうして自分の説明を褒めてもらえることなんて、ほとんどなかったから。
「えへへっ! ナギちゃんは頭いいね!」
「ありがとうございます。ですが、肝心の呼び方はまだ決まっていませんね」
「あっ、そうだった!」
ミカが、ぽんと手を叩いた。
「……では、ミカさん」
「……何?」
「ナギ、と呼んでいただくのはいかがでしょう?」
「……ナギ?」
「ええ」
悪くない案だと思う。
だが。
「…………」
ミカは、何とも言えない顔をした。
「……何か、変」
「……そうですか?」
「ナギちゃんから『ちゃん』を取っただけじゃん!」
「……それはそうですが」
「それに、ナギって呼び捨てにするの、何だか落ち着かないよ!」
……うーん。
それもそうか。
長年の習慣は、簡単には変えられないよな。
「……じゃあ」
ミカが、真剣な顔をした。
「……ナギくん?」
「……今の姿ですと、少々違和感がありますね」
「……ナギさん?」
「……急に他人行儀になりましたね」
「……ナギお兄ちゃん?」
「却下です」
即答した。
……いや、待て。
それは色々と複雑すぎる。
「えーっ!?」
ミカが頬を膨らませる。
「じゃあ、どうすればいいの!?」
「……私に聞かれましても」
……本当に、困ったな。
今までどおりでいいと思うんだけど。
「……あっ!」
突然、ミカが手を叩いた。
「思いついた!」
「……何でしょう?」
何だ?
今度こそ、いい案が浮かんだのか?
「……ナギちゃん二号!」
「……却下です」
「ええっ!?」
「二号というのは、さすがに……」
「だって、一号じゃないんでしょ!?」
……いや。
その理屈はおかしいだろ。
「……じゃあ」
ミカが、再び考え込む。
「……ナギちゃん(仮)!」
「……なぜ仮を付けるのですか!?」
「だって、まだ正式に決まってないもん!」
(……そういう問題か!?)
……駄目だ。
何だか、変な方向へ進んでいる。
「……先生」
「……うん?」
「何とか言っていただけませんか?」
「……うーん」
先生が、腕を組んだ。
そして。
「……ナギちゃん二号は、ちょっと面白いかもしれないね」
「先生!?」
おい!
そっちに乗るのかよ!?
「ほら! 先生もそう言ってる!」
「……いえ、ですから!」
「……じゃあ、ナギちゃん二号くん!」
「増やさないでください!!」
……もう駄目だ。
完全に遊ばれている。
俺は、頭を抱えた。
(……何だこれ)
別世界から来た成人男性だと打ち明けた結果。
なぜか、三人で呼び名について議論している。
……しかも、当の本人である俺の意見が、まったく通らない。
「……ミカさん」
「ん?」
「ひとまず、今までどおりで構いませんから」
「……でも」
ミカは、少しだけ考え込んだ。
「……ナギちゃんって、私にとっては特別な呼び方なんだよ?」
「……ええ。分かっていますよ」
だからこそ、無理に決めることでもない。
「呼び方なんて、後でゆっくり考えればいいでしょう?」
「……そう?」
「ええ。今すぐ決める必要はありませんから」
「…………」
ミカは、少し考えた。
そして。
「……そっか」
小さく頷く。
「……そうだね」
……よし。
ようやく落ち着いたか。
これなら、次の話へ――
「……じゃあ、とりあえず!」
「……はい?」
ミカが、にっこりと笑った。
「ナギちゃん(仮)で!」
「だから何でそうなるんですか!?」
俺の声が、ティーパーティーの会場に響いた。
隣では、先生が盛大に笑っている。
「……あははっ! ご、ごめん、ナギサ……!」
「笑ってないで助けてください、先生!」
「いや、だって……ナギちゃん(仮)って……!」
……くそっ。
完全にツボに入ってやがる。
ミカも楽しそうに笑っているし。
(……まあ、いいか)
今は、こうして笑ってくれている。
さっきまで涙を流していたことを思えば、それだけでも嬉しい。
……とはいえ。
呼び名については、後でちゃんと話し合おう。
さすがに(仮)のままでは、色々と困るからな。
……そんなことを考えていると。
「……あっ、そうだ!」
ミカが、何かを思い出したように顔を上げた。
「ねえ、ナギちゃん(仮)!」
「……もう、好きに呼んでください」
「えへへっ!」
……まったく。
「……ところでさ」
「はい?」
「元々男の人だったってことは、今、何歳なの?」
「…………」
……あ。
(……しまった)
そこ、聞いちゃう?
……いや。
そりゃ、気になるよな。
当然だよな。
……でも。
何だか嫌な予感がする。
「……そうですね」
俺は、少し考える。
「少なくとも、ミカさんよりは随分年上でしたよ」
「…………」
ミカが、固まった。
……あ。
またか。
「……年上?」
「ええ」
「……大人?」
「……そうですね」
ミカは、俺の顔をじっと見つめた。
そして。
「…………」
ゆっくりと口を開く。
「……じゃあ」
「……はい?」
「……ナギおじちゃん?」
「絶対にやめてくださいっ!!」
再び、俺の叫び声が響いた。
「……あははははっ!」
ミカは、お腹を抱えて笑い始めた。
先生まで、机に突っ伏して笑っている。
「……せ、先生! 笑いすぎですよ!」
「ご、ごめん……! で、でも……!」
「……もう!」
……まったく。
大人として、頼れるところを見せるつもりだったのに。
何で、こんなことになってるんだよ!
俺は、天井を仰いだ。
(……はぁ)
……まあ。
楽しそうだから、いいか。
……でも。
(……ナギおじちゃんだけは、絶対に阻止してやる……!)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回、ついにナギの新しい呼び名が決まります!
そして、ミカが気になっていた「本物のナギサ」の行方についても触れていきます。
次回もお楽しみいただければ幸いです!