今回は前回から引き続き、ナギとミカ、そして先生のお話です!
前回はナギの正体が明らかになりましたが、今回はその続きとなります。
そして、何やら新しい呼び名まで決まりそうな予感が……。
今回は少し短めですが、三人のやり取りを楽しんでいただければ嬉しいです!
それでは、第22話をお楽しみください!
数分後。
「それじゃあ、ナギおじさんで決定ね!」
ミカが、満面の笑みでそう宣言した。
「……結局、それなんですか?」
「うん!」
即答だった。
……まったく。
この数分間、いったい何のために話し合っていたんだ。
(……お兄さんと呼ばれるのも嫌だったけど、おじさんよりはまだ……)
……いや。
そもそも、どうしてその二択なんだよ。
隣を見れば、先生が必死に笑いを堪えている。
「……先生」
「……な、何かな?」
「笑いたければ、笑っていただいて構いませんよ」
「……ぷっ」
……おい。
せめて、もう少し我慢しろよ。
「あはははっ! ご、ごめん、ナギ……!」
「……もう」
まったく。
こんなことなら、元の年齢なんて教えるんじゃなかった。
(……まあ、いいか)
ミカも楽しそうだし。
何より、本物のナギサと俺を区別するために、本人なりに考えてくれた呼び名なんだろう。
……それにしても。
(……やっぱり、おじさんはないだろ)
そんなことを考えていると、ミカの笑顔が少しずつ薄れていった。
「……ねえ、ナギおじさん」
「はい?」
「一つ、聞いてもいい?」
先ほどまでとは違う、静かな声。
その表情を見た瞬間、何を尋ねたいのか察した。
「ええ。何でしょう?」
ミカは、膝の上で手を握り締めた。
「……本物のナギちゃんは?」
「…………」
「……今、どこにいるの?」
……やっぱり、そこか。
当然、聞かれると思っていた。
先ほどミカには、気がついた時には俺がナギサの身体を動かしていたこと、そして、ナギサは仕事のしすぎで疲れて休んでいるのかもしれないと説明した。
……ただ、実際に何が起きたのか、その経緯までは話していない。
今のミカに、あの出来事まで伝えるつもりはなかった。
セイアの件で、あれほど自分を責めているんだ。
ナギサのことまで自分のせいだと思い込ませるわけにはいかない。
それに、俺にはナギサの意識が今も残っていると考えるだけの根拠がある。
(……まずは、そちらを伝えよう)
「……ミカさん」
「……うん」
「私は、ナギサさんの意識が今もこの身体に残っていると考えています」
「……えっ!?」
ミカが、勢いよく顔を上げた。
「ほ、本当に!?」
「ええ。そう考えるだけの理由があります」
「……っ!」
ミカが身を乗り出す。
「教えて! どうしてそう思うの!?」
「理由は二つあります」
俺は、自分の頭上へ視線を向けた。
「まず、一つ目はヘイローです」
「……ヘイロー?」
「ええ」
この身体には、今もナギサのヘイローが存在している。
元々ヘイローを持っていなかった俺が、ナギサの身体に入ったことで、彼女と同じヘイローを持つようになった。
もちろん、ヘイローが身体に付随しているだけという可能性もある。
だから、これだけではナギサの意識が残っている証拠にはならない。
「先生にも、以前確認していただきましたよね?」
「うん。茨の冠みたいな形だったね」
「ええ」
俺は頷いた。
「ですが、今日になって、もう一つの手がかりが見つかったんです」
「……今日?」
「ええ。先ほどの会談中に起きたことです」
「……あっ!」
ミカが、何かを思い出したように手を叩いた。
「ロールケーキ!?」
「……ええ」
俺は苦笑した。
「正確には、ロールケーキをぶち込むなどと口走ってしまった時のことです」
「ああ! あれね!」
ミカが、楽しそうに笑う。
「びっくりしたよー! 急に怒り出すんだもん!」
「……そうですね」
……本当に。
あれは俺自身が一番驚いた。
「実は、あの時の怒りは、私自身のものではなかったように思うんです」
「……え?」
「ミカさんの態度を注意するつもりはありました。ですが、あそこまで怒ってはいませんでした」
それなのに。
突然、胸の奥から強い怒りが込み上げてきた。
まるで、自分ではない誰かの感情が流れ込んできたかのように。
「これまでも、ナギサさんの記憶を思い出した時に、当時の感情まで一緒に浮かぶことはありました」
「……うん」
「ですが、今回は違うんです」
俺は、自分の胸に手を当てた。
「過去の記憶ではなく、今この瞬間に起きている出来事に対して、私の知らない感情が生まれたんです」
「…………」
「それも、私自身が感じていたものとは、明らかに異なる怒りでした」
ミカが息を呑む。
先生も、真剣な表情で聞いていた。
「……つまり」
先生が口を開く。
「ナギ以外の誰かが、あの時のミカに怒っていたってこと?」
「ええ」
俺は頷いた。
「そして、この身体でそんな感情を抱く人物に、心当たりが一人しかありません」
「…………!」
ミカの目が、大きく見開かれた。
「……ナギちゃん?」
「はい」
俺は、静かに微笑んだ。
「本物のナギサさんです」
「…………」
ミカは、しばらく言葉を失っていた。
そして、恐る恐る口を開く。
「……じゃあ、ナギちゃんは今もここにいるの?」
「その可能性は、非常に高いと考えています」
「……っ!」
「特に、今回の感情の変化は重要です。単にナギサさんの記憶が残っているだけなら、今起きている出来事に対して、新しい感情が生まれる理由を説明しにくいですから」
……そう。
過去の記憶と一緒に感情が浮かぶだけなら、まだ分かる。
だが、今回の怒りは違った。
今、目の前で起きている出来事に対する反応だったんだ。
つまり、ナギサは今も周囲の出来事を認識し、何かを感じている可能性がある。
(……やっぱり、いるんだよな)
この身体の、どこかに。
俺とは別の、彼女自身が。
「……でも、ナギおじさん」
「はい?」
「ナギちゃんが今もいるなら、どうして出てきてくれないの?」
「……それについては、私にも分かりません」
「……分からないの?」
「ええ。実は、これまで何度か、ナギサさんと入れ替われないか試してみたんです」
「……えっ!?」
ミカが驚いたように顔を上げる。
「そんなことできるの!?」
「……残念ながら、できませんでした」
俺は、苦笑した。
「心の中で呼びかけたり、身体を動かすのをやめて、ナギサさんに主導権を譲ろうとしたり……思いつく限りの方法を試したんですが、何の反応もありませんでした」
「……そっか」
ミカが、少し残念そうに俯いた。
「ですが、今回の出来事で状況が変わりました」
「……え?」
「今までは、こちらから何をしても反応がありませんでした。ですが、今日初めて、ナギサさん自身の感情と思われるものが表に現れたんです」
「……あっ!」
「ええ。まだ意識が残っているのなら、何らかの方法で意思を交わせる可能性があります」
……もちろん、簡単なことではないだろう。
そもそも、ナギサが今どのような状態にあるのかさえ分かっていない。
こちらの呼びかけが届いているのか。
自分の意思で反応できるのか。
それとも、強い感情が生まれた時だけ、無意識に表へ出てしまうのか。
……まだ、判断するには情報が足りない。
それに、俺がこの身体で目覚めた時の状況が、現在の状態に関係している可能性もある。
だが、今はその経緯をミカに伝える必要はないだろう。
「ですから、まずは今回の出来事を手がかりに、ナギサさんと意思を交わす方法を探してみようと思っています」
「……うん!」
ミカが、ぱっと顔を上げた。
「私にも何かできることがあったら言ってね!」
「ええ。その時は、よろしくお願いいたします」
「……えへへっ!」
ミカが、嬉しそうに笑った。
「そっかぁ……ナギちゃん、ちゃんと聞いてくれてたのかな」
「……ミカさん?」
「だって、さっき私に怒ったんでしょ?」
「……ええ。恐らくは」
「じゃあ、私たちの声も聞こえてるのかもしれないよね!」
ミカは、自分の胸の前で両手を握った。
「だったら、いつかまたお話しできるかもしれないんだ!」
その声は、弾んでいた。
「また一緒にお茶を飲んだり、ロールケーキを食べたり……!」
そこまで言って、少しだけ目を伏せる。
「……それに、ちゃんと謝りたいこともあるから」
「……ミカさん」
「ナギちゃん、きっとすごく怒ってると思うけど……それでも、ちゃんと謝りたいんだ」
……ああ。
そうだよな。
ミカには、ナギサに直接伝えたいことが山ほどあるんだろう。
そして、それは俺も同じだ。
「……その機会を作れるよう、私も頑張りますよ」
「……本当?」
「ええ。もちろんです」
「えへへっ! じゃあ、私も手伝う!」
「……ありがとうございます」
俺は、微笑んだ。
……それにしても。
これまで、何度もナギサに呼びかけてきた。
身体を返す方法だって、思いつく限り試した。
それでも、何一つ反応はなかった。
だが、今日になって初めて、俺以外の意思が表に現れた可能性がある。
(……ようやく、手がかりが見つかったな)
これまでは、こちらから何をしても反応がなかった。
だが、今回は違う。
俺が何かをしたわけでもないのに、ナギサの感情が表に現れたんだ。
……ということは。
(……案外、何かの拍子にあっさり入れ替わったりするのかもな)
例えば、ナギサがものすごく怒った時とか。
……いや。
それだと、次にミカが何かやらかした瞬間、突然ナギサに入れ替わる可能性があるのか?
(……あり得なくもないのが怖いな)
想像してみる。
ミカがいつもの調子でふざけて、俺が注意しようとした瞬間。
突然、本物のナギサが飛び出してくる。
そして、何も知らないミカが驚いている間に、俺は身体の主導権を失う。
……うん。
(……それはそれで、面白そうだな)
いや、面白がっている場合じゃないか。
だが、今までどれだけ試しても駄目だったんだ。
案外、そんな予想外のきっかけで、あっさり解決するのかもしれない。
(……まあ、その時はよろしく頼むよ、ナギサ)
できれば、突然入れ替わって俺を困らせるのだけは勘弁してほしいけどな。
俺は、思わず小さく笑った。
「……あれ? ナギおじさん、どうしたの?」
「……いえ。少し面白いことを考えていただけですよ」
「えー! 何それ、教えてよ!」
「ふふっ。秘密です」
「むーっ! また秘密なのー!?」
ミカが、頬を膨らませた。
……いや、だってな。
くしゃみ一つで入れ替わるかもしれない、なんて話をしたら、絶対に試そうとするだろ。
……主に俺に向かって。
「……まあ、いいや!」
ミカは、すぐに機嫌を直した。
「それより、ナギちゃんとまたお話しできるようになったら、みんなでお茶会しようね!」
「……お茶会、ですか?」
「うん! ナギちゃんと私と先生と……もちろん、ナギおじさんも!」
ミカが、嬉しそうに指を折って数えていく。
「えへへっ! 四人でロールケーキを食べるの!」
「……ふふっ。それは楽しそうですね」
「でしょー!?」
……四人で、お茶会か。
今は俺とナギサで、一つの身体を使っているんだけどな。
……まあ、そこは深く考えないでおこう。
いつか、そんな日が来ればいい。
そう思っていると、先生がこちらを見つめていることに気づいた。
先ほどまで笑っていた先生が、何かを考えるような表情を浮かべている。
……ああ。
なるほど。
何が気になったのかは、察しがついた。
やがて、先生が静かに口を開いた。
「……ナギ」
先生が、静かに声をかけてきた。
「一つ、聞いてもいいかな?」
「ええ。何でしょう?」
「もし本物のナギサが戻ってきたら、君はどうなるの?」
……当然、そこも気になるよな。
「……分かりません」
俺は、正直に答えた。
「ただ、二人とも存在できる方法があるのなら、それが一番良いと思っています」
「……うん」
「まだ何も分かっていない段階で、どちらかが消えると決めつける必要もありませんから」
先生は、少し考えてから頷いた。
「……そうだね」
……そう。
せっかく生きている可能性が見えてきたんだ。
だったら、諦める理由なんてない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
というわけで、ナギおじさんに決定しました!(笑)
そして、ナギサの意識が残っているかもしれないという、新たな希望も見えてきましたね。
今回は予定していた内容が長くなりすぎたため、二話に分割しました。
次回はミカの今後についてのお話です。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです!