前回、思わぬ形でミネさんの「救護」を受けてしまったナギサ様。
今回は、その続きからとなります!
それでは、お楽しみください!
……痛い。
お腹を押さえたまま、俺は床にうずくまっていた。
「……うぅ……」
息を吸うたびに、じんじんと痛みが響く。
(……いや、分かってるんだよ)
ミネは、俺を侵入者だと思ったんだ。
実際、今の俺はアリウス生の格好をしている。
髪型も変えたし、化粧もしている。
しかも、よりにもよってナギサの私室にいた。
……うん。
怪しい。
ものすごく怪しい。
(……だから、ミネが勘違いしたのも分かるんだけどさぁ……)
ぽろっ。
また、涙がこぼれた。
(……それとこれとは別なんだよなぁ……)
……そう。
俺には、一つ、大きな弱点がある。
それは。
(……痛いの、本当に苦手なんだよなぁ……)
別に、覚悟が足りないわけじゃない。
危険な場所に行く覚悟もあるし、必要なら自分が前に出るつもりだ。
……でも。
痛いものは痛い。
こればっかりは、どうしようもない。
(……スミレとの筋トレでも、ここまでは鍛えられなかったなぁ……)
いや、そもそも痛みに耐える訓練なんてしてないけど。
……というか、したくない。
「……っ、まずはお怪我の確認を……」
ミネが、心配そうにこちらを見ている。
…………。
(……その前に、ちゃんと正体を伝えないとなぁ……)
そろそろ、ちゃんと説明しないと。
俺は、目元を拭い、ぐっと涙を堪えた。
「……あの……」
「……?」
ミネが、こちらを振り返る。
「……何でしょう?」
「……私が……ナギサです……」
「…………はい?」
…………。
(……うん。そうなるよな)
俺は、一度息を整えながら、もう一度口を開いた。
「……桐藤ナギサ……です……」
「…………」
ミネが、じっとこちらを見つめる。
俺の顔。
制服。
そして、もう一度顔。
「……まさか」
「……はい……」
「……ナギサ、様……?」
俺は、こくりと頷いた。
「……そうです……」
痛みで声が震える。
それでも、何とか言葉をつないだ。
「……私です……」
「…………っ!?」
ミネの目が、大きく見開かれた。
「ナ、ナギサ様!?」
「……はい……」
……ああ。
ようやく、伝わった。
(……よかっ……)
その瞬間だった。
ぐらりと、視界が揺れた。
(……あ、れ……?)
張り詰めていた気力が途切れたのか、身体から力が抜けていく。
……まずい。
意識が……。
「ナギサ様!? しっかりしてください!!」
ミネの焦った声が聞こえた。
そして。
俺の意識は、そこで途切れた。
◇
――どれくらい経ったのだろう。
「……ん……」
ゆっくりと目を開ける。
見慣れた天井。
……あれ?
(……ここ、ナギサの部屋……?)
どうやら、ベッドに寝かされているらしい。
お腹には、きちんと手当てが施されていた。
(……俺、たしか……)
「……ナギサ様!?」
すぐそばから声がした。
視線を向けると、ミネが椅子から立ち上がるところだった。
「……よかった……本当に……」
その表情には、心底ほっとしたような色が浮かんでいる。
「……ミネさん……?」
「はい。私です」
「……あの……私……」
「……意識を失われていたのです」
「…………」
……ああ。
そうだった。
(……俺、気絶したのか……)
……うん。
まあ、あれだけ痛かったんだ。
仕方ないよな。
「……ナギサ様」
「……はい?」
ミネが、深く頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでした」
「……いえ……」
「侵入者と誤認したとはいえ、私の早とちりで、このようなことに……」
その声には、深い後悔が滲んでいた。
「意識を失われてから、すぐに治療を行いました。現在は処置も終わっています」
「……そうですか……」
「幸い、現時点では大きな異常は見られません。ただし、痛みが続くようでしたら、改めて詳しく診察する必要があります」
「……分かりました」
「……本当に、申し訳ありません」
再び、深く頭を下げるミネ。
……うん。
悪気がなかったことは分かってる。
分かってるんだけど。
(……まさか、実際に殴られるとはなぁ……)
いや。
変装が成功した証拠ではあるんだけど。
……こんな証明の仕方、求めてないんだよ。
「……ミネさん」
「……はい」
「……もう、大丈夫ですよ」
「…………」
「……少し、痛みは残っていますけど……」
……うぅ。
痛い。
さっきよりは随分ましになったけど、まだじんじんする。
……それにしても。
(……まさか、ミネに治療されることになるとはなぁ)
しかも、原因はその本人だ。
……何とも言えない気分である。
「……それにしても……」
「……はい?」
ミネが、少し感心したような表情を浮かべた。
「私の一撃を受けながら、意識を失う直前まで、ご自身のことを伝えようとされていたのですね」
「…………」
……え?
「相当な衝撃だったはずです。日頃から身体を鍛えていらっしゃるのですか?」
「……あ、はい。最近、筋力トレーニングを……」
「なるほど。やはり鍛錬は大切ですね」
ミネは、静かに頷いた。
「ですが、意識を失われるほどの怪我を負わせてしまったことに変わりはありません」
「……あ、はい……」
…………。
(……心配されてるんだよな?)
……いや。
心配されてるんだろうけど。
「……もっとも、私がそれを確かめるような事態を招いてしまったことは、深く反省しています」
「……そうですね……」
思わず、本音が出た。
…………。
(……スミレ)
どうやら、あの時の筋トレは本当に役立ったみたいだぞ。
……まあ。
役立ち方は、まったく想定していなかったけど。
「……それで、ナギサ様」
「はい?」
ミネの表情が、真剣なものに変わった。
「一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「……ええ」
「なぜ、あのような格好をされていたのですか?」
…………。
(……ああ、やっぱりそこだよな)
当然の質問だ。
ティーパーティーのホストが、自分の部屋でアリウス生の格好をしていたんだから。
説明しない方がおかしい。
……それに。
(……ミネには、いずれすべて話すつもりだったからな)
俺は、一度深呼吸した。
「……ミネさん」
「はい」
「これからお話しすることは、少々長くなります」
「……構いません」
「それに、非常に信じがたい内容も含まれています。それでも、最後まで聞いていただけますか?」
「……もちろんです」
ミネは、真剣な表情で頷いた。
「私には、ナギサ様のお話を聞く責任があります」
「……ありがとうございます」
……よし。
それなら。
「……その前に、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょう?」
「……窓を閉めていただけますか?」
「…………」
ミネが、ゆっくりと窓へ視線を向けた。
「……失礼しました」
そう言って立ち上がり、窓を閉めて鍵をかける。
……それにしても。
(……俺も、迂闊だったなぁ)
いくら周囲に警備の生徒たちがいるとはいえ、夜間に窓を開けっぱなしにするのは危険だ。
ましてや、今はアリウスの襲撃に備えている最中なんだから。
……まあ。
(……ミネさんなら、警備の子たちも通すか)
救護騎士団の団長だし、ティーパーティーとも関係が深い。
……いや。
それでも、普通は正面から来るよな?
だが、ミネが窓から来た理由については、何となく察しがついていた。
(……手紙、読んだんだろうな)
以前、セリナに預けた手紙。
あれを読めば、ミネは俺がセイアの事情を知っている可能性に気づくだろう。
そして、ミネからすれば。
今の桐藤ナギサは、セイアを襲わせた犯人かもしれない相手だ。
そんな相手から、事情を知っていると匂わせる手紙が届けばどう思うか。
(……まあ、直接確かめに来るよな)
警戒されることも、ある程度は予想していた。
……ただ。
(……だからって、窓から来るとは思わなかったなぁ)
しかも。
…………。
(……いや、ここ三階だぞ?)
俺は、窓を閉め終えたミネを見つめた。
……すごいな。
救護騎士団の団長って、三階の窓から普通に入ってこられるんだ。
(……まあ、ミネさんだしなぁ)
……うん。
納得してしまった。
「……ナギサ様?」
「……あっ、はい」
……いけない。
変なことを考えていた。
「失礼しました。それでは、お話ししましょう」
俺は、姿勢を正した。
……少し、お腹が痛んだ。
(……うぅ……)
……まあ。
これくらいは我慢しよう。
「……まず、確認させてください」
「はい」
「以前、救護騎士団を通じてお送りした手紙は、お読みいただけましたか?」
「…………」
ミネの表情が、わずかに変わった。
「……ええ。拝見しました」
「そうですか」
「……ナギサ様。私も、あの手紙の意味については詳しくお尋ねしたいと思っています」
「ええ。そのことも含めて、すべてお話しします」
俺は、小さく頷いた。
「ですが、その前に、どうしても知っていただきたいことがあるんです」
「……何でしょうか?」
……さて。
どう説明したものかな。
先生たちに話した時も、随分と驚かれたんだよなぁ。
ミネなら、なおさらだろう。
……だが。
もう、隠すつもりはない。
◇
「……つまり、ナギサ様は、ナギサ様ではない……ということですか?」
「……ええ。正確には、身体はナギサのものですが、中身は別人ということになります」
「…………」
ミネは、難しい表情で考え込んでいた。
……まあ、そうなるよな。
別の世界から来た人間が、ナギサの身体に入り込んだ。
しかも、その世界にはキヴォトスの出来事を描いた物語が存在していて、これから起こる事件まで知っている。
……うん。
(……改めて考えると、とんでもない話だな)
俺だって、逆の立場なら信じられるか怪しい。
「……正直に申し上げます」
「はい」
「にわかには信じがたいお話です」
「……そうですよね」
「ですが……」
ミネは、俺の顔をじっと見つめた。
「先生やツルギさんも、事情をご存じなのですね?」
「ええ。既にお話ししています」
「……そうですか」
ミネは、小さく頷いた。
「……すぐにすべてを信じられるとは申し上げられません。ですが、少なくとも、真剣にお話しされていることは伝わりました」
「……ありがとうございます」
「……それにしても」
ミネは、少しだけ表情を曇らせた。
「本来のナギサ様が、そのような状態にまで追い詰められていたとは……」
「…………」
「救護騎士団の団長として、気づくことができなかったのは悔やまれます」
……ああ。
やっぱり、そこが気になるよな。
「……ミネさん」
「はい」
「それについて、ご自身を責める必要はありませんよ」
「……ですが」
「ナギサは、誰にも弱音を吐けずにいたんです。私自身、日記を読まなければ気づけなかったと思います」
「…………」
「それに、私はまだ諦めていません」
俺は、自分の胸元に手を当てた。
「いつか必ず、本物のナギサを取り戻すつもりです」
「……そうですか」
ミネは、しばらく俺を見つめていた。
そして、静かに頷いた。
「……そのお言葉は、覚えておきます」
「……はい」
……まだ完全に信用されたわけではない。
だが、それでいい。
今すぐすべてを信じてもらおうなんて、最初から思っていない。
……さて。
そろそろ、本題に入ろう。
「……それで、ミネさん」
「はい」
「以前お送りした手紙についてなのですが……」
「…………」
ミネの表情が、わずかに強張った。
……やっぱり。
(……あの手紙、相当気になってたんだろうな)
まあ、無理もない。
セイアを襲わせた犯人かもしれない相手から、あんな手紙が届いたんだから。
「……ナギサ様」
「はい」
「私も、あの手紙については詳しくお尋ねしたいと思っていました」
「……でしょうね」
ミネは、真剣な表情で俺を見つめた。
「なぜ、あのような内容を?」
「……そうですね」
俺は、一度息を整えた。
「先ほど、私にはこの世界の出来事について、ある程度の知識があるとお話ししましたよね?」
「……ええ」
「実は、その中にセイアさんに関する情報も含まれているんです」
「…………」
ミネの表情が変わった。
「……セイア様、ですか?」
「ええ」
先ほどまでとは違う、張り詰めた空気が流れる。
……ああ。
ここからは、慎重に話さないとな。
「……ミネさん」
「はい」
「私は、原作の知識から、セイアさんが襲撃されたことも、その後のことも知っています」
「…………」
「ですが、こちらの世界でも同じとは限りません。ですので、一つだけ確認させてください」
俺は、ミネを真っ直ぐに見つめた。
「……セイアさんは、今もちゃんと生きていますよね?」
「…………っ!」
ミネの表情が、一瞬で険しくなった。
「……ナギサ様。それは……」
「あっ、いえ! 居場所は教えていただかなくて結構です!」
「……え?」
「むしろ、知りたくありません」
…………。
ミネが、不思議そうに俺を見つめた。
「……理由を、お聞きしても?」
「ええ。実は、私は近いうちにアリウス自治区へ潜入する予定なんです」
「……アリウスに、ですか?」
「はい」
ミネの眉間に、深い皺が寄った。
「……それは、あまりにも危険です」
「ええ。承知しています。ですので、先生にもご相談し、専門的な訓練を受けた方々への協力依頼も進めています」
「……ですが、なぜナギサ様ご自身が?」
「その理由についても、後ほど詳しく説明します。ただ、今は一つだけ」
俺は、真剣な表情で続けた。
「万が一、潜入に失敗して捕まってしまった場合……拷問を受ける可能性もあります」
「…………!」
「もし私がセイアさんの居場所を知っていたら、どれほど隠そうとしても、口を割ってしまうかもしれません」
……というか。
(……俺、痛みに弱いしなぁ……)
つい先ほど、身をもって思い知ったばかりだ。
……いや、あれは拷問じゃないけど。
とにかく、痛みに耐えられる自信なんてない。
「ですが、最初から知らなければ、どれだけ問い詰められても答えようがありません」
「…………」
「ですので、居場所については絶対に教えないでください」
俺は、そう言って微笑んだ。
「……ただ」
少しだけ、声が小さくなる。
「……生きているかどうかだけは、知りたいんです」
…………。
ミネは、すぐには答えなかった。
その瞳が、俺の顔をじっと見つめている。
「……ナギサ様」
「はい」
「一つ、確認させてください」
「……何でしょうか?」
「あなたは、先ほどからご自身の知識についてお話しされています。ですが、その知識が本当のものなのか、私にはまだ判断できません」
「……ええ」
「それに、セイア様の件は、決して軽々しく口にできるものではありません」
……ああ。
当然だよな。
ミネは、セイアを守る立場にいる。
もし俺が本当に犯人だったら。
あるいは、アリウスとつながっている人間だったら。
ここで情報を与えることは、セイアを危険にさらすことになるかもしれない。
「……おっしゃるとおりです」
俺は、静かに頷いた。
「ですので、答えられないのであれば、それでも構いません」
「……よろしいのですか?」
「ええ」
……もちろん。
本当は知りたい。
できることなら、今すぐにでも確認したい。
でも。
「セイアさんの安全が最優先ですから」
「…………」
「それに、私がお話ししたことも、先生やツルギさんに確認していただいて構いません」
俺は、微笑んだ。
「そのうえで、信用できないと判断されたのであれば、無理にお答えいただく必要はありません」
…………。
ミネは、しばらく考え込んでいた。
……さて。
どうなるかな。
正直、ここまで話しても信用してもらえない可能性はある。
だが、それならそれで仕方ない。
俺だって、セイアを危険にさらしてまで情報が欲しいわけじゃないんだから。
「……不思議ですね」
「……はい?」
ミネが、静かに口を開いた。
「あなたは、セイア様の居場所を知ることができるかもしれないというのに、それを拒んでいる」
「……ええ」
「それどころか、私が答えないことさえ受け入れようとしている」
「……そうですね」
ミネは、俺の顔をじっと見つめた。
「……本当に、セイア様のことを案じていらっしゃるのですね」
「……もちろんです」
俺は、迷わず答えた。
「セイアさんには、生きていてほしいですから」
「…………」
「居場所なんて、今は知らなくても構いません。いつか、本人と直接お会いできれば、それで十分です」
……そう。
俺が望んでいるのは、セイアの居場所を知ることじゃない。
セイアが無事に生きていること。
そして、いつか皆で笑い合える未来を迎えることだ。
それだけなんだ。
「…………」
ミネは、静かに目を伏せた。
そして、しばらくしてから顔を上げる。
「……分かりました」
「……!」
「ですが、一つだけお約束ください」
「……何でしょうか?」
「ここでお伝えすることは、決して他言しないでください」
「……ええ。お約束します」
「それと、今回のお話をすべて信じたわけではありません。その点については、ご理解ください」
「……もちろんです」
……うん。
それでいい。
むしろ、簡単に信用される方が心配になるくらいだ。
ミネは、一度小さく息を吐いた。
そして。
「……はい」
静かに、しかしはっきりと告げた。
「セイア様は、生きていらっしゃいます」
「…………」
……え?
……今。
何て言った?
(……生きてる?)
セイアが。
本当に。
(……生きてる……!)
…………。
……ああ。
……ああ!!
「……っ、よっしゃああああ!!」
「ナ、ナギサ様!?」
思わず、その場で立ち上がった。
「やった!! よかった!! 本当によかった!!」
……っ!!
「いっ……たぁ……!」
勢いよく立ち上がったせいで、お腹に痛みが走った。
(……い、痛い!!)
……うぅ。
調子に乗った。
……でも。
それよりも!!
(……セイアが生きてる!!)
原作どおり、ちゃんと生きているんだ!!
「ははっ……! やった……! やったぞ……!!」
思わず、両手を握りしめた。
……ああ。
何だよ。
さっきまで痛くて泣いてたのに。
今度は嬉しくて涙が出てきたじゃないか。
「……よかった……本当に……!」
ずっと、不安だった。
原作知識があるとはいえ、この世界でも同じことが起きているとは限らない。
俺が知らないところで、何かが変わっている可能性だってあった。
……特に、セイアについてはそうだった。
原作では生きている。
それは分かっていた。
だが、今の世界でも必ず生きているという保証はなかった。
だからこそ、ずっと気になっていたんだ。
……でも。
これで、ようやく確信できた。
(……セイアは、生きてる)
なら。
まだ、間に合う。
ミカも。
補習授業部の子たちも。
アリウスの生徒たちも。
そして、セイアも。
誰一人、諦めなくていい。
(……いける)
もちろん、まだ何も終わっていない。
アリウスへの潜入も、ベアトリーチェとの交渉も、これからだ。
準備だって、すべて完了したわけじゃない。
……でも。
俺が考えてきた全員救済の計画には、どうしても確認しておきたいことがあった。
それが、セイアの生存だ。
もし、既に手遅れだったら。
どれだけ準備を重ねても、取り戻せないものがある。
……だけど。
セイアは、生きていた。
それなら、まだすべてを救える可能性が残っている。
俺が目指してきた未来へ、進むことができる。
「……ははっ」
自然と、笑みがこぼれる。
「これで……!」
俺は、ぐっと拳を握りしめた。
「これで、全部のピースが揃った……!!」
……ああ。
長かった。
本当に、長かったなぁ。
目覚めたあの日から、ずっと考えてきた。
どうすれば、みんなを救えるのか。
どうすれば、あの悲劇を回避できるのか。
原作では失われてしまったものを、どうすれば守れるのか。
できることを、一つずつ積み重ねてきた。
そして、今。
俺が描こうとしている未来に必要な、最後の希望が確認できた。
(……ようやく、ここまで来たんだ)
「……よしっ!!」
俺は、満面の笑みを浮かべた。
「待ってろよ、みんな……! 絶対に助けてやるからな!!」
「…………」
…………。
(……ん?)
ふと、視線を感じた。
顔を上げると、ミネがぽかんとした表情でこちらを見つめていた。
「……あの、ナギサ様?」
「……ん?」
「……随分と、その……」
「……あっ」
…………。
(……やっべ)
完全に素が出てた。
しかも、思いっきり。
「……こほん」
俺は、慌てて姿勢を正した。
「……失礼しました。少々、嬉しくなってしまいまして」
「……少々、ですか?」
「…………」
……うん。
少々ではなかったな。
というか。
(……もう手遅れか)
そもそも、さっき自分が男だったことまで説明したんだ。
今さら取り繕う必要もないか。
「……まあ、そういうことです」
俺は、少し照れくさくなりながら笑った。
「本当に、嬉しかったんですよ」
「…………」
ミネは、そんな俺をしばらく見つめていた。
そして、ふっと表情を和らげた。
「……そうですか」
「……はい」
「そこまで喜んでいただけるのであれば、お伝えした甲斐がありました」
「……ありがとうございます」
……ああ。
本当に、ありがたいな。
ミネが慎重になる理由も分かる。
それでも、最後には俺の願いを聞き入れてくれた。
……その信頼を、裏切るわけにはいかない。
(……よし)
ここからだ。
ここから、絶対に。
(……みんなで、ハッピーエンドを迎えてやる!!)
俺は、改めて決意を固めた。
……ちなみに。
この時の俺は、喜びのあまり一つだけ忘れていた。
さっきから、お腹を押さえたまま立っていたことを。
「……ナギサ様」
「……はい?」
「まずは、お座りください。治療は終わっていますが、まだ安静が必要ですので」
「…………」
……あっ。
(……そうだった)
……うん。
とりあえず。
今は、大人しく座っておこう。
……せっかく治療してもらったんだし、無理は禁物だ。
…………。
(……またあの痛みで気絶するのだけは、ごめんだからな)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回はミネさんとのお話でした!
前半は少し賑やかな展開となりましたが、ナギにとって非常に大切な確認ができました。
そして、嬉しさのあまり、すっかり素が出てしまったナギサ様。
ここから、いよいよ計画も本格的に動き始めます!
それと、ヒフミのレース衣装、すごくよかったですね!
あの姿を見たら、ナギサ様もきっと大喜びでしょう(笑)
引き続きよろしくお願いします!