前回からの続きとなります!
先生には見えないナギが、何やらいたずらを思いついたようですが……。
そして、先生が連れてきた四人の生徒たちも、いよいよ登場します!
それでは、お楽しみください!
……さて。
二人の会話を眺めていた俺は、ふと思いついた。
(……ちょっと、いたずらしてみるか)
俺は、両手を頭の上へ伸ばした。
そして、指を立てる。
ぴょこん。
……ウサギの耳。
…………。
(……うん。我ながら何をやってるんだろうな)
ナギサが、こちらへ視線を向けた。
『……ナギさん?』
(……しーっ)
俺は、人差し指を口元へ当てた。
そして、今度は先生の真似をしてみる。
胸を張り。
やたらと優しそうな表情を作り。
大げさに頷く。
(……大丈夫だよ。先生に任せて!)
……もちろん。
声は出していない。
口の動きと身振りだけだ。
…………。
「……っ」
ナギサが、思わず口元を押さえた。
「……ナギサ?」
先生が、不思議そうに首を傾げた。
「……どうかした?」
「……い、いえ……」
ナギサが、必死に笑いを堪えている。
……おっ。
効いてるな。
(……それなら、もう一つ)
俺は、先生の背後で大げさに頭を下げた。
そして、顔を上げる。
満面の笑み。
大きく親指を立てる。
(……全部、僕に任せて!)
…………。
「……ふっ」
ナギサの肩が、震えた。
「……ナギサ?」
「……す、すみません……!」
ナギサは、口元を押さえながら答えた。
「……ナギさんが、先生の後ろで……!」
「……ナギ?」
先生が、ゆっくりと振り返った。
……当然、そこには誰もいない。
「…………」
先生は、何もない空間を見つめた。
そして。
「……ナギ?」
恐る恐る、そう呼びかけた。
…………。
(……ぶっ!!)
……あはははっ!!
やばい。
何だ、この状況!!
先生が何も見えない空間へ向かって話しかけてる!!
「……ふふっ、あははっ!」
ナギサも、とうとう堪えきれずに笑い出した。
「……ナギサ!?」
先生が、困惑したようにナギサを見つめた。
「いったい何が……?」
「……す、すみません……!」
ナギサは、笑いながら答えた。
「……ナギさんが、先生の真似を……!」
「……僕の真似?」
「……はい……!」
先生が、もう一度後ろを見た。
……当然、何も見えない。
「……ナギ!?」
先生は、苦笑した。
「そういうの、ずるくない!?」
(……あははっ! ごめんごめん!)
「……もう、お兄さんったら……!」
ナギサが、笑いながらこちらを見つめた。
「先生を、あまりからかわないでください」
『……悪かったって』
「……お兄さん?」
先生が、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……今、ナギのことをそう呼んだ?」
「……あっ」
ナギサが、少し恥ずかしそうに頷いた。
「……はい。時々、そう呼ばせていただいているんです」
「……へぇ」
先生が、嬉しそうに微笑んだ。
「何だか、兄妹みたいだね」
「……ふふっ」
ナギサも、笑った。
「ええ。私も、そう思っています」
…………。
(……兄妹、か)
昨日も、そんな話をしたんだったな。
……うん。
何度聞いても、悪くない響きだ。
「……それにしても」
先生が、少し笑った。
「ナギって、こんなにいたずら好きだったんだね」
「……ふふっ」
ナギサが、楽しそうに微笑んだ。
「ええ。とても元気な方なんですよ」
…………。
(……元気、か)
……まあ。
否定はしないけどさ。
「……でも」
ナギサは、少しだけ表情を和らげた。
「こうして一緒に過ごせるのが、とても楽しいんです」
…………。
……ああ。
そうか。
『……これからも、いっぱい楽しもうな』
俺は、笑って答えた。
ナギサも、嬉しそうに頷いた。
「……はい!」
……うん。
いいな。
こういう時間を、もっと増やしていきたいものだ。
◇
――しばらくして。
「……ふぅ」
身体の主導権が、再び俺へ戻ってきた。
「……先生」
「……うん?」
「先ほどは、ありがとうございました」
「こちらこそ。ナギサと話せて嬉しかったよ」
先生は、穏やかに微笑んだ。
……さて。
そろそろ、本題だな。
「……それで、SRTの件なのですが」
「ああ、そうだったね」
先生が、頷いた。
「四人とも、話を聞くことには同意してくれたよ。ただ、任務に参加するかどうかは、まだ決めていないみたい」
「……そうですか」
……まあ、当然だろう。
今のSRTの状況を考えれば、簡単には決められないはずだ。
「……ちなみに、どなたがいらっしゃっているのでしょうか?」
「FOX小隊の四人だよ」
…………。
(……FOX小隊!?)
……おいおい。
まさか、あの四人が来るとは。
「……七度ユキノさんたち、ですか?」
「うん。知ってるんだね」
「……ええ。お名前は」
……いや。
名前どころか、かなり詳しく知ってるけど。
(……これは、予想以上だな)
SRTの中でも、特に高い実力を持つ精鋭部隊。
潜入任務の護衛としては、申し分ない。
……まあ。
(……どの部隊が来ても対応できるようにはしていたけどな)
今回、先生にはSRTから協力してくれる生徒を探してもらっていた。
だが、どの部隊が来るのかまでは分からなかったんだ。
だから、一応。
FOX小隊とRABBIT小隊。
それに、その他の部隊が来た場合も想定して、それぞれの資料を用意しておいた。
実際、机の引き出しには、各部隊に合わせた資料や、様々な状況に対応できる汎用的な資料が入っている。
任務の概要や目的は共通だが、各部隊に提示する条件や、事前に確認しておきたい事項は少しずつ違う。
FOX小隊なら、その高い潜入能力を踏まえた内容を。
RABBIT小隊なら、彼女たちの能力や装備に合わせた内容を。
それ以外の部隊なら、実際の能力や編成に応じて柔軟に対応できる内容を。
もちろん、これらはあくまで交渉のために用意した資料だ。
実際に話を聞いてから、進め方を調整するつもりだった。
(……まさか、本当にFOX小隊が来るとは思わなかったけどな)
……うん。
準備しておいてよかった。
これなら、改めて資料を作り直す必要もない。
あとは、彼女たちの反応を見ながら、交渉を進めていけばいいだろう。
……ただ。
(……問題は、カヤとの関係か)
原作では、彼女たちは不知火カヤに利用され、連邦生徒会への襲撃に関わることになる。
幸い、今はまだ、その事件が起きていない。
……なら。
今のうちに、何か手を打っておきたいところだ。
「……それで、先生」
「……うん?」
「カヤさんとの交渉は、大変ではありませんでしたか?」
「……まあ、少しね」
先生が、苦笑した。
…………。
(……ん?)
何だか、妙に歯切れが悪いな。
「……何か、ありましたか?」
「……いや、その」
先生は、少し考え込んだ。
そして。
「最初は、ほとんど取り合ってもらえなかったんだ」
「……そうでしょうね」
SRTの閉鎖問題がある以上、簡単に部隊を貸し出せるわけがない。
「それで、何とか協力してほしいってお願いしていたら……」
「……はい」
「……そこまで言うなら、足でも舐めてみたらどうですかって言われてね」
…………。
(……あっ)
……ちょっと待て。
俺は、数日前の話し合いを思い出した。
『頭を下げてでも、必要なら足を舐めてでも、協力をお願いしてくるよ』
…………。
(……おい)
……先生。
まさか。
「……それで?」
俺は、恐る恐る尋ねた。
先生は、少しだけ視線を逸らした。
そして。
「……舐めた」
「……本当に舐めたんですか!?」
「……うん」
…………。
(……マジかぁぁぁ!!)
……いや。
本当にやるとは思わなかったぞ!?
『……あの、ナギさん』
隣にいたナギサが、困惑したように口を開いた。
『先生は、本当にそのようなことを……?』
(……らしいな)
……流石に、これは予想外だ。
「……それで、カヤさんは?」
「……すごく驚いてた」
「……でしょうね」
……そりゃ驚くだろう。
普通は、冗談だと思うからな。
「……でもね」
先生が、少し表情を和らげた。
「そこから、ちゃんと話を聞いてくれるようになったんだ」
「……ほう?」
「今回の任務がSRTの実績にもなることを説明したら、前向きに検討してくれてね」
……なるほど。
もちろん、カヤ自身にも何か思惑はあるんだろう。
あの女が、単純に感動して協力したとは思えない。
だが、交渉の流れを変えたのは事実らしい。
「それで、最終的には期間限定で協力を認めてもらえたよ」
「……ちなみに、何か条件はありましたか?」
「うん。派遣は今回の任務に限ること。それから、任務終了後には防衛室にも正式な報告書を提出してほしいって」
「……なるほど」
……まあ、当然の条件か。
SRTの精鋭部隊を、他学園の任務へ派遣するんだからな。
……ただし。
(……報告書か。アリウスに関する機密情報まで渡すわけにはいかないな)
その辺りは、先生と事前に相談しておく必要がありそうだ。
……それにしても。
(……カヤが、そこまでしてFOX小隊を貸してくれるとはな)
先生が本当に足を舐めたことも、多少は影響しているのだろう。
……だが。
俺の知ってるカヤなら、それだけで判断を変えるとも思えない。
(……先生がそこまでして必要としている任務なら、何か利用価値があると考えたのか?)
FOX小隊を通して、先生やトリニティの動向を把握する。
あるいは、貸しを作っておく。
……そんなところかもしれないな。
それに、今回の派遣は期間限定だ。
一度の任務だけで、SRTの閉鎖案が取り下げられるとも限らない。
(……あいつにとっては、大した損失じゃないと判断したのかもな)
……もちろん、全部推測だけど。
ただ、一つだけ気になることがある。
(……カヤは、FOX小隊を完全に手放したつもりはないだろうな)
原作では、あいつはSRTの存続を願う彼女たちを利用していた。
今も既に接触している可能性はある。
……なら。
(……今回の機会は、絶対に無駄にできないな)
「……なるほど」
俺は、頷いた。
……つまり、連邦生徒会側の許可は得られたわけか。
あとは、FOX小隊自身の判断だな。
(……それにしても、さすが先生だな)
自分が恥をかくことより、生徒たちのために必要な協力を得ることを優先したんだ。
……本当に、行動力がある。
「……先生」
「……うん?」
「……ナイスです!」
「……えっ?」
先生が、目を丸くした。
「……ナギ?」
「ふふっ。もちろん、足を舐めることを推奨しているわけではありませんよ?」
俺は、苦笑した。
「ですが、そこまでしてくださったおかげで、話が進んだのでしょう?」
「……うん」
「……ありがとうございます」
俺は、丁寧に頭を下げた。
「とても助かりました」
「気にしないで。まだ、みんなが協力してくれると決まったわけじゃないからね」
「……ええ」
俺は、微笑んだ。
「そこから先は、私の仕事ですね」
……さて。
FOX小隊。
自分たちの学園を守ろうとしている四人。
どうやって、交渉を進めようか。
……もちろん。
使える材料は既に用意してある。
だが、今の彼女たちに対して、ただ魅力的な条件を提示するだけでは足りない。
(……原作では、そこを利用されたんだよな)
SRTを守りたい。
その気持ちにつけ込まれた結果、彼女たちはカヤの計画に関わることになる。
……同じ未来を繰り返す必要はない。
ならば。
(……予定どおり、少し厳しくいかせてもらうか)
……うん。
覚悟は、決まったな。
「……先生」
「……うん?」
「今回の交渉について、一つお願いがあります」
「……お願い?」
「ええ。基本的には、私に任せていただけませんか?」
「……うん。いいよ」
先生が、頷いた。
「ただし、何か問題があったら、僕も口を挟むからね?」
「もちろんです」
……うん。
それで十分だ。
「……それと、事前にお伝えしておきたいことがありまして」
「……何かな?」
「今回、かなり攻めた交渉をするつもりです」
「……攻めた交渉?」
「ええ。場合によっては、皆さんを相当怒らせてしまうかもしれません」
先生は、少し考え込んだ。
「……何か、理由があるんだね?」
「……はい」
俺は、小さく頷いた。
「先生もご存じのとおり、私はこの先に起こり得る出来事を、ある程度知っています」
「……うん」
「その中には、FOX小隊の皆さんが、ある人物に利用されてしまう未来もあるんです」
「…………」
先生の表情が、真剣になった。
「……利用される?」
「ええ。SRTを存続させたいという願いにつけ込まれ、結果として、取り返しのつかない行動に加担してしまう可能性があります」
「……そっか」
先生は、少しだけ表情を曇らせた。
「……それで、今回の交渉を?」
「……はい」
俺は、頷いた。
「一度、悪意ある人物がどのように人を誘導するのか、実際に経験していただこうと思っています」
……そう。
FOX小隊の実力は、本物だ。
だからこそ、悪意ある人間に利用されれば、その被害も大きくなる。
……そして。
「……ですが、先生」
「……うん?」
「実は、今回の交渉には、もう一つ目的があります」
「……もう一つ?」
「ええ。アリウス自治区への潜入作戦に、皆さんを同行させても問題がないか。その確認も兼ねているんです」
先生の表情が、少し変わった。
「……どういうこと?」
「今回、私たちが相手にするのは、ベアトリーチェという大人です」
「……うん」
「彼女は、相手の弱みや願いにつけ込んで利用することに長けています」
……そう。
あいつは、ただ強いだけの敵じゃない。
子供たちの心を利用し、自分に都合のよいように動かす。
そんな相手なんだ。
「ですので、今のうちに皆さんの判断力も確認しておきたいんです」
「……なるほど」
「もちろん、私に怒ること自体は問題ありません。むしろ、今回の交渉では怒って当然だと思います」
……何しろ。
最初から、そうなるように仕向けるつもりだからな。
「ですが、怒りに任せて目的を見失い、後先考えずに行動してしまうのであれば、話は別です」
「…………」
「そのような状態でベアトリーチェと対峙すれば、相手の思うつぼになってしまうでしょう」
俺は、少しだけ表情を引き締めた。
「ですので、もし今回の交渉で、その危険性が高いと判断した場合は、潜入作戦への同行を諦めるつもりです」
「……そこまで考えているんだね」
「……ええ」
俺は、頷いた。
「ただし、皆さんが私を信用できないと判断して協力を断るのであれば、それは尊重します」
……そう。
交渉を断ること自体は、悪い判断じゃない。
むしろ、自分たちで考えた結果なら、それでいい。
「大切なのは、冷静に判断できるかどうかですから」
「……そっか」
先生は、静かに頷いた。
「……でも、ナギ」
「……はい?」
「それだと、今まで準備してきた潜入作戦が難しくなるかもしれないよ?」
「……ええ。承知しています」
俺は、微笑んだ。
「ですが、作戦よりも皆さんの命の方が大切ですから」
「…………」
「無理に同行していただくつもりはありません」
……うん。
そこだけは、譲れないな。
先生は、しばらく俺を見つめていた。
そして。
「……分かった」
穏やかに微笑んだ。
「ナギが何を考えているのか、ちゃんと分かったよ」
「……ありがとうございます」
「でも、ナギはそれでいいの?」
「……何がでしょうか?」
「嫌われちゃうかもしれないんでしょう?」
…………。
……ああ。
そこか。
「……構いませんよ」
俺は、微笑んだ。
「皆さんに嫌われることと、皆さんが取り返しのつかない過ちを犯してしまうこと」
俺は、首を傾げた。
「……比べるまでもないでしょう?」
「…………」
先生が、少しだけ目を見開いた。
そして。
「……そっか」
静かに頷いた。
「うん。僕も協力するよ」
「……ありがとうございます」
……よし。
これで、先生にも伝わったな。
「……それで、お願いなのですが」
「……うん?」
「交渉が終わった後のフォローを、先生にお願いできませんか?」
「……フォロー?」
「ええ」
俺は、少しだけ苦笑した。
「私から説明した直後では、皆さんも冷静に話を聞く気にはなれないかもしれませんので」
先生が、少し目を瞬かせた。
そして。
「……あはは」
笑った。
「相当なことをするつもりなんだね」
「……まあ、否定はしません」
……うん。
実際、かなり嫌な役回りになると思う。
「ですが、先生。今回の交渉は、最終的に皆さん自身に考えていただくためのものです」
「……うん」
「私の用意した条件を、そのまま受け入れていただくことが目的ではありません」
……そう。
むしろ、その逆だ。
誰かの言葉を鵜呑みにせず、自分たちで考えて判断する。
それを覚えてもらいたい。
「ですので、最後は先生に相談相手になっていただきたいんです」
「……分かった」
先生は、穏やかに頷いた。
「任せて。ちゃんとみんなの話を聞くよ」
「……ありがとうございます」
「……ただし、ナギ」
「……はい?」
「もし、あの子たちが本当に傷つきすぎていると思ったら、途中でも止めるからね」
「……ええ。もちろんです」
俺は、頷いた。
「その時は、遠慮なく止めてください」
先生には、生徒たちを守る責任がある。
それは、俺への協力よりも優先されるべきだろう。
「……うん。分かったよ」
先生も、笑った。
「……それと、先生」
「……うん?」
「今回の交渉では、私の考え方も見ていただけると思います」
「……ナギの考え方?」
「ええ。相手の心理を読み、何を求めているのかを見極め、それに応じて交渉を進める方法です」
「……なるほど」
「今後、ベアトリーチェと対峙する際にも、こうした考え方を使うことになると思います」
……ただし。
(……相手が違えば、手加減も変わるけどな)
FOX小隊は、守るべき生徒たちだ。
一方、ベアトリーチェは違う。
子供たちを利用するあいつにまで、遠慮してやるつもりはない。
「……でも、ナギ」
「……はい?」
「今回の交渉は、あくまでもあの子たちのためなんだよね?」
「……ええ」
俺は、頷いた。
「皆さんに、危険な交渉への対処法を知っていただくためです」
「……そっか」
先生は、静かに頷いた。
「じゃあ、僕もよく見ておくね」
「……ええ。お願いします」
……うん。
先生にも俺のやり方を知ってもらえるなら、今後の相談もしやすくなるだろう。
「……ただし、ナギ」
「……はい?」
「前に約束したことは、忘れないでね」
……ああ。
アリウス潜入の件か。
「……もちろんです」
俺は、頷いた。
「先生が危険だと判断した場合は、任務を中止する。現地での判断については、SRTの皆さんの意見も尊重します」
「……うん」
「それに、自分の命を軽く扱わないことも」
先生は、安心したように微笑んだ。
「……覚えていてくれたんだね」
「ええ。大切なお約束ですから」
……さて。
これで、話すべきことは話したな。
『……ナギさん』
隣にいたナギサが、小さく声をかけてきた。
(……ん?)
『……少し、心配です』
(……ああ。まあ、そうだよな)
俺は、苦笑した。
(……でも、必要なことだと思ってる)
『……それは、分かっています』
ナギサは、静かに頷いた。
そして。
『……ですが、あまり皆さんを怒らせすぎないでくださいね?』
…………。
(……うっ)
……やっぱり、そこを心配するか。
(……まあ、善処するよ)
『……ふふっ』
ナギサが、小さく笑った。
『先ほども、同じことをおっしゃっていましたね』
…………。
(……聞かれてたか)
……まったく。
この子にも、随分と見透かされるようになったな。
◇
「……それでは、先生」
「……うん?」
「そろそろ、皆さんをお呼びしましょうか」
「……そうだね」
先生が、頷いた。
俺は、護衛へ連絡を入れた。
……さて。
FOX小隊。
原作では、カヤに利用されることになる四人。
その彼女たちが、今ここにいる。
……必要なのは、今回の任務への協力。
そして、もう一つ。
(……自分たちの意思で、ちゃんと選べるようになってもらわないとな)
……うん。
少しばかり厳しいやり方になるが。
彼女たちの実力を考えれば、決して無意味な経験にはならないはずだ。
……ただ。
(……嫌われるだろうなぁ)
…………。
……まあ。
その時は、その時だ。
……と。
コンコン。
「……失礼します」
扉が開いた。
四人の少女が、順番に姿を現す。
……おお。
(……本当にFOX小隊だ)
見覚えのある制服。
特徴的な装備。
そして、先頭に立つ少女の姿。
「SRT特殊学園、FOX小隊」
先頭の少女が、一歩前へ出た。
「隊長、七度ユキノです」
「副隊長、吉野ニコです。よろしくお願いします」
「高倉クルミです。よろしくお願いします」
「天神山オトギです。よろしくお願いしまーす」
……うん。
四人とも揃っている。
原作でも高い実力を見せていた、SRTの精鋭部隊。
潜入任務の護衛として、これほど心強い戦力はそういないだろう。
……ただ。
(……やっぱり、警戒されてるな)
ユキノは、こちらを真っ直ぐに見つめている。
その視線には、明らかな警戒心があった。
ニコも、柔らかな表情を保っているが、どこか慎重だ。
クルミは、少し不満そうにこちらを見ている。
オトギも、周囲の様子を観察しているようだった。
……なるほど。
まあ、当然か。
学園がなくなるかもしれない状況で、他学園から依頼を受けたんだからな。
「……初めまして」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「ティーパーティーの桐藤ナギサです」
四人へ向き直り、丁寧に微笑む。
「本日は、お越しいただきありがとうございます」
「……いえ」
ユキノが、静かに答えた。
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」
……うん。
受け答えは丁寧だが、表情は硬い。
……さて。
まずは、彼女たちの話を聞いてみようか。
何を求めているのか。
何に不安を感じているのか。
それを知らなければ、交渉は始まらない。
俺は、先生へちらりと視線を向けた。
先生は、静かに頷いている。
……うん。
準備はできたな。
隣にいたナギサも、こちらを見つめていた。
『……ナギさん』
(……ん?)
『……頑張ってくださいね』
(……ああ。任せてくれ)
俺は、小さく笑った。
……さて。
四人の狐たち。
彼女たちがどんな未来を選ぶのか。
その答えを聞くためにも。
まずは、こちらから手を差し伸べる必要がある。
……ただし。
(……少しばかり、厳しいやり方になるけどな)
俺は、四人へ席を勧めた。
「どうぞ、お掛けください」
……それじゃあ。
交渉を始めようか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ナギのいたずら好きな一面と、先生とのやり取りを描いてみました!
そして、ついにFOX小隊が登場しました!
ナギは何やら考えがあるようですが、果たして四人との交渉はどうなるのでしょうか?
次回もよろしくお願いします!