お労しいナギサ様へ   作:ムテケル

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第36話です!

前回からの続きとなります!

先生には見えないナギが、何やらいたずらを思いついたようですが……。

そして、先生が連れてきた四人の生徒たちも、いよいよ登場します!

それでは、お楽しみください!


四匹の狐

 ……さて。

 

 二人の会話を眺めていた俺は、ふと思いついた。

 

(……ちょっと、いたずらしてみるか)

 

 俺は、両手を頭の上へ伸ばした。

 

 そして、指を立てる。

 

 ぴょこん。

 

 ……ウサギの耳。

 

 …………。

 

(……うん。我ながら何をやってるんだろうな)

 

 ナギサが、こちらへ視線を向けた。

 

『……ナギさん?』

 

(……しーっ)

 

 俺は、人差し指を口元へ当てた。

 

 そして、今度は先生の真似をしてみる。

 

 胸を張り。

 

 やたらと優しそうな表情を作り。

 

 大げさに頷く。

 

(……大丈夫だよ。先生に任せて!)

 

 ……もちろん。

 

 声は出していない。

 

 口の動きと身振りだけだ。

 

 …………。

 

「……っ」

 

 ナギサが、思わず口元を押さえた。

 

「……ナギサ?」

 

 先生が、不思議そうに首を傾げた。

 

「……どうかした?」

 

「……い、いえ……」

 

 ナギサが、必死に笑いを堪えている。

 

 ……おっ。

 

 効いてるな。

 

(……それなら、もう一つ)

 

 俺は、先生の背後で大げさに頭を下げた。

 

 そして、顔を上げる。

 

 満面の笑み。

 

 大きく親指を立てる。

 

(……全部、僕に任せて!)

 

 …………。

 

「……ふっ」

 

 ナギサの肩が、震えた。

 

「……ナギサ?」

 

「……す、すみません……!」

 

 ナギサは、口元を押さえながら答えた。

 

「……ナギさんが、先生の後ろで……!」

 

「……ナギ?」

 

 先生が、ゆっくりと振り返った。

 

 ……当然、そこには誰もいない。

 

「…………」

 

 先生は、何もない空間を見つめた。

 

 そして。

 

「……ナギ?」

 

 恐る恐る、そう呼びかけた。

 

 …………。

 

(……ぶっ!!)

 

 ……あはははっ!!

 

 やばい。

 

 何だ、この状況!!

 

 先生が何も見えない空間へ向かって話しかけてる!!

 

「……ふふっ、あははっ!」

 

 ナギサも、とうとう堪えきれずに笑い出した。

 

「……ナギサ!?」

 

 先生が、困惑したようにナギサを見つめた。

 

「いったい何が……?」

 

「……す、すみません……!」

 

 ナギサは、笑いながら答えた。

 

「……ナギさんが、先生の真似を……!」

 

「……僕の真似?」

 

「……はい……!」

 

 先生が、もう一度後ろを見た。

 

 ……当然、何も見えない。

 

「……ナギ!?」

 

 先生は、苦笑した。

 

「そういうの、ずるくない!?」

 

(……あははっ! ごめんごめん!)

 

「……もう、お兄さんったら……!」

 

 ナギサが、笑いながらこちらを見つめた。

 

「先生を、あまりからかわないでください」

 

『……悪かったって』

 

「……お兄さん?」

 

 先生が、少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「……今、ナギのことをそう呼んだ?」

 

「……あっ」

 

 ナギサが、少し恥ずかしそうに頷いた。

 

「……はい。時々、そう呼ばせていただいているんです」

 

「……へぇ」

 

 先生が、嬉しそうに微笑んだ。

 

「何だか、兄妹みたいだね」

 

「……ふふっ」

 

 ナギサも、笑った。

 

「ええ。私も、そう思っています」

 

 …………。

 

(……兄妹、か)

 

 昨日も、そんな話をしたんだったな。

 

 ……うん。

 

 何度聞いても、悪くない響きだ。

 

「……それにしても」

 

 先生が、少し笑った。

 

「ナギって、こんなにいたずら好きだったんだね」

 

「……ふふっ」

 

 ナギサが、楽しそうに微笑んだ。

 

「ええ。とても元気な方なんですよ」

 

 …………。

 

(……元気、か)

 

 ……まあ。

 

 否定はしないけどさ。

 

「……でも」

 

 ナギサは、少しだけ表情を和らげた。

 

「こうして一緒に過ごせるのが、とても楽しいんです」

 

 …………。

 

 ……ああ。

 

 そうか。

 

『……これからも、いっぱい楽しもうな』

 

 俺は、笑って答えた。

 

 ナギサも、嬉しそうに頷いた。

 

「……はい!」

 

 ……うん。

 

 いいな。

 

 こういう時間を、もっと増やしていきたいものだ。

 

 

     ◇

 

 

 ――しばらくして。

 

「……ふぅ」

 

 身体の主導権が、再び俺へ戻ってきた。

 

「……先生」

 

「……うん?」

 

「先ほどは、ありがとうございました」

 

「こちらこそ。ナギサと話せて嬉しかったよ」

 

 先生は、穏やかに微笑んだ。

 

 ……さて。

 

 そろそろ、本題だな。

 

「……それで、SRTの件なのですが」

 

「ああ、そうだったね」

 

 先生が、頷いた。

 

「四人とも、話を聞くことには同意してくれたよ。ただ、任務に参加するかどうかは、まだ決めていないみたい」

 

「……そうですか」

 

 ……まあ、当然だろう。

 

 今のSRTの状況を考えれば、簡単には決められないはずだ。

 

「……ちなみに、どなたがいらっしゃっているのでしょうか?」

 

「FOX小隊の四人だよ」

 

 …………。

 

(……FOX小隊!?)

 

 ……おいおい。

 

 まさか、あの四人が来るとは。

 

「……七度ユキノさんたち、ですか?」

 

「うん。知ってるんだね」

 

「……ええ。お名前は」

 

 ……いや。

 

 名前どころか、かなり詳しく知ってるけど。

 

(……これは、予想以上だな)

 

 SRTの中でも、特に高い実力を持つ精鋭部隊。

 

 潜入任務の護衛としては、申し分ない。

 

 ……まあ。

 

(……どの部隊が来ても対応できるようにはしていたけどな)

 

 今回、先生にはSRTから協力してくれる生徒を探してもらっていた。

 

 だが、どの部隊が来るのかまでは分からなかったんだ。

 

 だから、一応。

 

 FOX小隊とRABBIT小隊。

 

 それに、その他の部隊が来た場合も想定して、それぞれの資料を用意しておいた。

 

 実際、机の引き出しには、各部隊に合わせた資料や、様々な状況に対応できる汎用的な資料が入っている。

 

 任務の概要や目的は共通だが、各部隊に提示する条件や、事前に確認しておきたい事項は少しずつ違う。

 

 FOX小隊なら、その高い潜入能力を踏まえた内容を。

 

 RABBIT小隊なら、彼女たちの能力や装備に合わせた内容を。

 

 それ以外の部隊なら、実際の能力や編成に応じて柔軟に対応できる内容を。

 

 もちろん、これらはあくまで交渉のために用意した資料だ。

 

 実際に話を聞いてから、進め方を調整するつもりだった。

 

(……まさか、本当にFOX小隊が来るとは思わなかったけどな)

 

 ……うん。

 

 準備しておいてよかった。

 

 これなら、改めて資料を作り直す必要もない。

 

 あとは、彼女たちの反応を見ながら、交渉を進めていけばいいだろう。

 

 ……ただ。

 

(……問題は、カヤとの関係か)

 

 原作では、彼女たちは不知火カヤに利用され、連邦生徒会への襲撃に関わることになる。

 

 幸い、今はまだ、その事件が起きていない。

 

 ……なら。

 

 今のうちに、何か手を打っておきたいところだ。

 

「……それで、先生」

 

「……うん?」

 

「カヤさんとの交渉は、大変ではありませんでしたか?」

 

「……まあ、少しね」

 

 先生が、苦笑した。

 

 …………。

 

(……ん?)

 

 何だか、妙に歯切れが悪いな。

 

「……何か、ありましたか?」

 

「……いや、その」

 

 先生は、少し考え込んだ。

 

 そして。

 

「最初は、ほとんど取り合ってもらえなかったんだ」

 

「……そうでしょうね」

 

 SRTの閉鎖問題がある以上、簡単に部隊を貸し出せるわけがない。

 

「それで、何とか協力してほしいってお願いしていたら……」

 

「……はい」

 

「……そこまで言うなら、足でも舐めてみたらどうですかって言われてね」

 

 …………。

 

(……あっ)

 

 ……ちょっと待て。

 

 俺は、数日前の話し合いを思い出した。

 

『頭を下げてでも、必要なら足を舐めてでも、協力をお願いしてくるよ』

 

 …………。

 

(……おい)

 

 ……先生。

 

 まさか。

 

「……それで?」

 

 俺は、恐る恐る尋ねた。

 

 先生は、少しだけ視線を逸らした。

 

 そして。

 

「……舐めた」

 

「……本当に舐めたんですか!?」

 

「……うん」

 

 …………。

 

(……マジかぁぁぁ!!)

 

 ……いや。

 

 本当にやるとは思わなかったぞ!?

 

『……あの、ナギさん』

 

 隣にいたナギサが、困惑したように口を開いた。

 

『先生は、本当にそのようなことを……?』

 

(……らしいな)

 

 ……流石に、これは予想外だ。

 

「……それで、カヤさんは?」

 

「……すごく驚いてた」

 

「……でしょうね」

 

 ……そりゃ驚くだろう。

 

 普通は、冗談だと思うからな。

 

「……でもね」

 

 先生が、少し表情を和らげた。

 

「そこから、ちゃんと話を聞いてくれるようになったんだ」

 

「……ほう?」

 

「今回の任務がSRTの実績にもなることを説明したら、前向きに検討してくれてね」

 

 ……なるほど。

 

 もちろん、カヤ自身にも何か思惑はあるんだろう。

 

 あの女が、単純に感動して協力したとは思えない。

 

 だが、交渉の流れを変えたのは事実らしい。

 

「それで、最終的には期間限定で協力を認めてもらえたよ」

 

「……ちなみに、何か条件はありましたか?」

 

「うん。派遣は今回の任務に限ること。それから、任務終了後には防衛室にも正式な報告書を提出してほしいって」

 

「……なるほど」

 

 ……まあ、当然の条件か。

 

 SRTの精鋭部隊を、他学園の任務へ派遣するんだからな。

 

 ……ただし。

 

(……報告書か。アリウスに関する機密情報まで渡すわけにはいかないな)

 

 その辺りは、先生と事前に相談しておく必要がありそうだ。

 

 ……それにしても。

 

(……カヤが、そこまでしてFOX小隊を貸してくれるとはな)

 

 先生が本当に足を舐めたことも、多少は影響しているのだろう。

 

 ……だが。

 

 俺の知ってるカヤなら、それだけで判断を変えるとも思えない。

 

(……先生がそこまでして必要としている任務なら、何か利用価値があると考えたのか?)

 

 FOX小隊を通して、先生やトリニティの動向を把握する。

 

 あるいは、貸しを作っておく。

 

 ……そんなところかもしれないな。

 

 それに、今回の派遣は期間限定だ。

 

 一度の任務だけで、SRTの閉鎖案が取り下げられるとも限らない。

 

(……あいつにとっては、大した損失じゃないと判断したのかもな)

 

 ……もちろん、全部推測だけど。

 

 ただ、一つだけ気になることがある。

 

(……カヤは、FOX小隊を完全に手放したつもりはないだろうな)

 

 原作では、あいつはSRTの存続を願う彼女たちを利用していた。

 

 今も既に接触している可能性はある。

 

 ……なら。

 

(……今回の機会は、絶対に無駄にできないな)

 

「……なるほど」

 

 俺は、頷いた。

 

 ……つまり、連邦生徒会側の許可は得られたわけか。

 

 あとは、FOX小隊自身の判断だな。

 

(……それにしても、さすが先生だな)

 

 自分が恥をかくことより、生徒たちのために必要な協力を得ることを優先したんだ。

 

 ……本当に、行動力がある。

 

「……先生」

 

「……うん?」

 

「……ナイスです!」

 

「……えっ?」

 

 先生が、目を丸くした。

 

「……ナギ?」

 

「ふふっ。もちろん、足を舐めることを推奨しているわけではありませんよ?」

 

 俺は、苦笑した。

 

「ですが、そこまでしてくださったおかげで、話が進んだのでしょう?」

 

「……うん」

 

「……ありがとうございます」

 

 俺は、丁寧に頭を下げた。

 

「とても助かりました」

 

「気にしないで。まだ、みんなが協力してくれると決まったわけじゃないからね」

 

「……ええ」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「そこから先は、私の仕事ですね」

 

 ……さて。

 

 FOX小隊。

 

 自分たちの学園を守ろうとしている四人。

 

 どうやって、交渉を進めようか。

 

 ……もちろん。

 

 使える材料は既に用意してある。

 

 だが、今の彼女たちに対して、ただ魅力的な条件を提示するだけでは足りない。

 

(……原作では、そこを利用されたんだよな)

 

 SRTを守りたい。

 

 その気持ちにつけ込まれた結果、彼女たちはカヤの計画に関わることになる。

 

 ……同じ未来を繰り返す必要はない。

 

 ならば。

 

(……予定どおり、少し厳しくいかせてもらうか)

 

 ……うん。

 

 覚悟は、決まったな。

 

「……先生」

 

「……うん?」

 

「今回の交渉について、一つお願いがあります」

 

「……お願い?」

 

「ええ。基本的には、私に任せていただけませんか?」

 

「……うん。いいよ」

 

 先生が、頷いた。

 

「ただし、何か問題があったら、僕も口を挟むからね?」

 

「もちろんです」

 

 ……うん。

 

 それで十分だ。

 

「……それと、事前にお伝えしておきたいことがありまして」

 

「……何かな?」

 

「今回、かなり攻めた交渉をするつもりです」

 

「……攻めた交渉?」

 

「ええ。場合によっては、皆さんを相当怒らせてしまうかもしれません」

 

 先生は、少し考え込んだ。

 

「……何か、理由があるんだね?」

 

「……はい」

 

 俺は、小さく頷いた。

 

「先生もご存じのとおり、私はこの先に起こり得る出来事を、ある程度知っています」

 

「……うん」

 

「その中には、FOX小隊の皆さんが、ある人物に利用されてしまう未来もあるんです」

 

「…………」

 

 先生の表情が、真剣になった。

 

「……利用される?」

 

「ええ。SRTを存続させたいという願いにつけ込まれ、結果として、取り返しのつかない行動に加担してしまう可能性があります」

 

「……そっか」

 

 先生は、少しだけ表情を曇らせた。

 

「……それで、今回の交渉を?」

 

「……はい」

 

 俺は、頷いた。

 

「一度、悪意ある人物がどのように人を誘導するのか、実際に経験していただこうと思っています」

 

 ……そう。

 

 FOX小隊の実力は、本物だ。

 

 だからこそ、悪意ある人間に利用されれば、その被害も大きくなる。

 

 ……そして。

 

「……ですが、先生」

 

「……うん?」

 

「実は、今回の交渉には、もう一つ目的があります」

 

「……もう一つ?」

 

「ええ。アリウス自治区への潜入作戦に、皆さんを同行させても問題がないか。その確認も兼ねているんです」

 

 先生の表情が、少し変わった。

 

「……どういうこと?」

 

「今回、私たちが相手にするのは、ベアトリーチェという大人です」

 

「……うん」

 

「彼女は、相手の弱みや願いにつけ込んで利用することに長けています」

 

 ……そう。

 

 あいつは、ただ強いだけの敵じゃない。

 

 子供たちの心を利用し、自分に都合のよいように動かす。

 

 そんな相手なんだ。

 

「ですので、今のうちに皆さんの判断力も確認しておきたいんです」

 

「……なるほど」

 

「もちろん、私に怒ること自体は問題ありません。むしろ、今回の交渉では怒って当然だと思います」

 

 ……何しろ。

 

 最初から、そうなるように仕向けるつもりだからな。

 

「ですが、怒りに任せて目的を見失い、後先考えずに行動してしまうのであれば、話は別です」

 

「…………」

 

「そのような状態でベアトリーチェと対峙すれば、相手の思うつぼになってしまうでしょう」

 

 俺は、少しだけ表情を引き締めた。

 

「ですので、もし今回の交渉で、その危険性が高いと判断した場合は、潜入作戦への同行を諦めるつもりです」

 

「……そこまで考えているんだね」

 

「……ええ」

 

 俺は、頷いた。

 

「ただし、皆さんが私を信用できないと判断して協力を断るのであれば、それは尊重します」

 

 ……そう。

 

 交渉を断ること自体は、悪い判断じゃない。

 

 むしろ、自分たちで考えた結果なら、それでいい。

 

「大切なのは、冷静に判断できるかどうかですから」

 

「……そっか」

 

 先生は、静かに頷いた。

 

「……でも、ナギ」

 

「……はい?」

 

「それだと、今まで準備してきた潜入作戦が難しくなるかもしれないよ?」

 

「……ええ。承知しています」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「ですが、作戦よりも皆さんの命の方が大切ですから」

 

「…………」

 

「無理に同行していただくつもりはありません」

 

 ……うん。

 

 そこだけは、譲れないな。

 

 先生は、しばらく俺を見つめていた。

 

 そして。

 

「……分かった」

 

 穏やかに微笑んだ。

 

「ナギが何を考えているのか、ちゃんと分かったよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「でも、ナギはそれでいいの?」

 

「……何がでしょうか?」

 

「嫌われちゃうかもしれないんでしょう?」

 

 …………。

 

 ……ああ。

 

 そこか。

 

「……構いませんよ」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「皆さんに嫌われることと、皆さんが取り返しのつかない過ちを犯してしまうこと」

 

 俺は、首を傾げた。

 

「……比べるまでもないでしょう?」

 

「…………」

 

 先生が、少しだけ目を見開いた。

 

 そして。

 

「……そっか」

 

 静かに頷いた。

 

「うん。僕も協力するよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 ……よし。

 

 これで、先生にも伝わったな。

 

「……それで、お願いなのですが」

 

「……うん?」

 

「交渉が終わった後のフォローを、先生にお願いできませんか?」

 

「……フォロー?」

 

「ええ」

 

 俺は、少しだけ苦笑した。

 

「私から説明した直後では、皆さんも冷静に話を聞く気にはなれないかもしれませんので」

 

 先生が、少し目を瞬かせた。

 

 そして。

 

「……あはは」

 

 笑った。

 

「相当なことをするつもりなんだね」

 

「……まあ、否定はしません」

 

 ……うん。

 

 実際、かなり嫌な役回りになると思う。

 

「ですが、先生。今回の交渉は、最終的に皆さん自身に考えていただくためのものです」

 

「……うん」

 

「私の用意した条件を、そのまま受け入れていただくことが目的ではありません」

 

 ……そう。

 

 むしろ、その逆だ。

 

 誰かの言葉を鵜呑みにせず、自分たちで考えて判断する。

 

 それを覚えてもらいたい。

 

「ですので、最後は先生に相談相手になっていただきたいんです」

 

「……分かった」

 

 先生は、穏やかに頷いた。

 

「任せて。ちゃんとみんなの話を聞くよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「……ただし、ナギ」

 

「……はい?」

 

「もし、あの子たちが本当に傷つきすぎていると思ったら、途中でも止めるからね」

 

「……ええ。もちろんです」

 

 俺は、頷いた。

 

「その時は、遠慮なく止めてください」

 

 先生には、生徒たちを守る責任がある。

 

 それは、俺への協力よりも優先されるべきだろう。

 

「……うん。分かったよ」

 

 先生も、笑った。

 

「……それと、先生」

 

「……うん?」

 

「今回の交渉では、私の考え方も見ていただけると思います」

 

「……ナギの考え方?」

 

「ええ。相手の心理を読み、何を求めているのかを見極め、それに応じて交渉を進める方法です」

 

「……なるほど」

 

「今後、ベアトリーチェと対峙する際にも、こうした考え方を使うことになると思います」

 

 ……ただし。

 

(……相手が違えば、手加減も変わるけどな)

 

 FOX小隊は、守るべき生徒たちだ。

 

 一方、ベアトリーチェは違う。

 

 子供たちを利用するあいつにまで、遠慮してやるつもりはない。

 

「……でも、ナギ」

 

「……はい?」

 

「今回の交渉は、あくまでもあの子たちのためなんだよね?」

 

「……ええ」

 

 俺は、頷いた。

 

「皆さんに、危険な交渉への対処法を知っていただくためです」

 

「……そっか」

 

 先生は、静かに頷いた。

 

「じゃあ、僕もよく見ておくね」

 

「……ええ。お願いします」

 

 ……うん。

 

 先生にも俺のやり方を知ってもらえるなら、今後の相談もしやすくなるだろう。

 

「……ただし、ナギ」

 

「……はい?」

 

「前に約束したことは、忘れないでね」

 

 ……ああ。

 

 アリウス潜入の件か。

 

「……もちろんです」

 

 俺は、頷いた。

 

「先生が危険だと判断した場合は、任務を中止する。現地での判断については、SRTの皆さんの意見も尊重します」

 

「……うん」

 

「それに、自分の命を軽く扱わないことも」

 

 先生は、安心したように微笑んだ。

 

「……覚えていてくれたんだね」

 

「ええ。大切なお約束ですから」

 

 ……さて。

 

 これで、話すべきことは話したな。

 

『……ナギさん』

 

 隣にいたナギサが、小さく声をかけてきた。

 

(……ん?)

 

『……少し、心配です』

 

(……ああ。まあ、そうだよな)

 

 俺は、苦笑した。

 

(……でも、必要なことだと思ってる)

 

『……それは、分かっています』

 

 ナギサは、静かに頷いた。

 

 そして。

 

『……ですが、あまり皆さんを怒らせすぎないでくださいね?』

 

 …………。

 

(……うっ)

 

 ……やっぱり、そこを心配するか。

 

(……まあ、善処するよ)

 

『……ふふっ』

 

 ナギサが、小さく笑った。

 

『先ほども、同じことをおっしゃっていましたね』

 

 …………。

 

(……聞かれてたか)

 

 ……まったく。

 

 この子にも、随分と見透かされるようになったな。

 

 

     ◇

 

 

「……それでは、先生」

 

「……うん?」

 

「そろそろ、皆さんをお呼びしましょうか」

 

「……そうだね」

 

 先生が、頷いた。

 

 俺は、護衛へ連絡を入れた。

 

 ……さて。

 

 FOX小隊。

 

 原作では、カヤに利用されることになる四人。

 

 その彼女たちが、今ここにいる。

 

 ……必要なのは、今回の任務への協力。

 

 そして、もう一つ。

 

(……自分たちの意思で、ちゃんと選べるようになってもらわないとな)

 

 ……うん。

 

 少しばかり厳しいやり方になるが。

 

 彼女たちの実力を考えれば、決して無意味な経験にはならないはずだ。

 

 ……ただ。

 

(……嫌われるだろうなぁ)

 

 …………。

 

 ……まあ。

 

 その時は、その時だ。

 

 ……と。

 

 コンコン。

 

「……失礼します」

 

 扉が開いた。

 

 四人の少女が、順番に姿を現す。

 

 ……おお。

 

(……本当にFOX小隊だ)

 

 見覚えのある制服。

 

 特徴的な装備。

 

 そして、先頭に立つ少女の姿。

 

「SRT特殊学園、FOX小隊」

 

 先頭の少女が、一歩前へ出た。

 

「隊長、七度ユキノです」

 

「副隊長、吉野ニコです。よろしくお願いします」

 

「高倉クルミです。よろしくお願いします」

 

「天神山オトギです。よろしくお願いしまーす」

 

 ……うん。

 

 四人とも揃っている。

 

 原作でも高い実力を見せていた、SRTの精鋭部隊。

 

 潜入任務の護衛として、これほど心強い戦力はそういないだろう。

 

 ……ただ。

 

(……やっぱり、警戒されてるな)

 

 ユキノは、こちらを真っ直ぐに見つめている。

 

 その視線には、明らかな警戒心があった。

 

 ニコも、柔らかな表情を保っているが、どこか慎重だ。

 

 クルミは、少し不満そうにこちらを見ている。

 

 オトギも、周囲の様子を観察しているようだった。

 

 ……なるほど。

 

 まあ、当然か。

 

 学園がなくなるかもしれない状況で、他学園から依頼を受けたんだからな。

 

「……初めまして」

 

 俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ティーパーティーの桐藤ナギサです」

 

 四人へ向き直り、丁寧に微笑む。

 

「本日は、お越しいただきありがとうございます」

 

「……いえ」

 

 ユキノが、静かに答えた。

 

「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」

 

 ……うん。

 

 受け答えは丁寧だが、表情は硬い。

 

 ……さて。

 

 まずは、彼女たちの話を聞いてみようか。

 

 何を求めているのか。

 

 何に不安を感じているのか。

 

 それを知らなければ、交渉は始まらない。

 

 俺は、先生へちらりと視線を向けた。

 

 先生は、静かに頷いている。

 

 ……うん。

 

 準備はできたな。

 

 隣にいたナギサも、こちらを見つめていた。

 

『……ナギさん』

 

(……ん?)

 

『……頑張ってくださいね』

 

(……ああ。任せてくれ)

 

 俺は、小さく笑った。

 

 ……さて。

 

 四人の狐たち。

 

 彼女たちがどんな未来を選ぶのか。

 

 その答えを聞くためにも。

 

 まずは、こちらから手を差し伸べる必要がある。

 

 ……ただし。

 

(……少しばかり、厳しいやり方になるけどな)

 

 俺は、四人へ席を勧めた。

 

「どうぞ、お掛けください」

 

 ……それじゃあ。

 

 交渉を始めようか。




最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は、ナギのいたずら好きな一面と、先生とのやり取りを描いてみました!

そして、ついにFOX小隊が登場しました!

ナギは何やら考えがあるようですが、果たして四人との交渉はどうなるのでしょうか?

次回もよろしくお願いします!
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総合評価:1055/評価:7.83/連載:9話/更新日時:2026年09月23日(水) 08:03 小説情報

ブルーアーカイブ ゲヘナ食堂いらっしゃいませ! 〜人型パンちゃんに転生した私、ゲヘナ給食部でパンちゃんたちを従えて無双…?〜(作者:Di Gi O)(原作:ブルーアーカイブ)

ブラック企業で過労死…でもなく。▼夜道で不幸にも暴走トラックに轢かれた…訳でもなく。▼大好きなパンケーキを自宅でたらふく食べていたら喉に詰まって窒息死したアホな現代女性。▼転生したのはキャラクターとシナリオが人気、しかし鬼畜な世界観が目立つ作品、ブルーアーカイブの世界だった。▼ただの生徒ではなく、牛牧ジュリの生み出す怪物『パンちゃん』の突然変異体、人型パンち…


総合評価:1367/評価:8.5/連載:14話/更新日時:2026年10月20日(火) 23:05 小説情報

月白玲は、今日も意味深である。(作者:モレ(一般人?))(原作:ブルーアーカイブ)

 気がつけば、憧れのキヴォトスで銀髪の美少女・月白玲に転生していた。せっかく美少女になったのだから、少しくらい謎めいた存在を演じてみたい。そんな軽い気持ちで意味深な言葉を口にしていたら、なぜか周囲が勝手に深読みを始めてしまい……。▼ これは、謎の美少女を気取りたいだけの能天気な少女が、知らぬ間にキヴォトス中から注目されていく、勘違いの物語。


総合評価:1735/評価:8.38/連載:13話/更新日時:2026年10月25日(日) 21:10 小説情報

転生者共の学園生活(作者:矢守龍)(原作:ブルーアーカイブ)

ある日、俺は転生してしまった………ブルーアーカイブの世界で頑張って生きていこう考えていたが………▼だが、自分一人だけじゃなくて他に一人、二人、三人………いやおおくね!?▼転生者共が自分たちで学園を立ち上げてこのブルアカ世界を生きてくしかねえ!!!▼


総合評価:1465/評価:7.27/連載:91話/更新日時:2026年10月28日(水) 07:00 小説情報

『ミレニアム治安維持局局長』、空崎ヒナ(作者:無名のカヤ推し)(原作:ブルーアーカイブ)

 ゲヘナでの日々の業務や重責で限界が来てしまった空崎ヒナ。▼ そんな彼女がある出来事がキッカケで、ミレニアム(超ホワイト)へと転校するお話。▼


総合評価:2725/評価:8.47/連載:39話/更新日時:2026年10月26日(月) 20:17 小説情報


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