今回は、FOX小隊との訓練が続きます!
そして、久しぶりにミカも登場。
ついに本物のナギサと再会することになりますが、果たしてどんな反応を見せるのでしょうか?
それでは、お楽しみください!
――翌朝、午前六時。
コンコンコンッ!!
「……んん……」
……何だ?
まだ眠いんだけど……。
「ナギサ様! お時間です!」
…………。
(……お時間?)
何の?
俺は、眠い目をこすりながら身体を起こした。
「……っ!?」
その瞬間。
全身に、鈍い痛みが走った。
「……いったぁ……」
…………。
……ああ。
そうだった。
昨日、FOX小隊の訓練を受けたんだったな。
……しかも。
(……二回も)
…………。
そう。
実は昨日、最初の訓練を終えた後、ちょっと不思議なことがあったんだ。
残っていた仕事を片づけているうちに、あれだけひどかった疲労が、いつの間にか消えていた。
……いや。
本当に、びっくりしたぞ?
(……わー、身体軽ーい!)
なんて。
嬉しくなって、腕を回したり、足踏みしたりしていたんだ。
…………。
ところが。
その様子を、よりにもよってクルミに見られてしまった。
「ナギサ様! もう疲れは取れたんですか!?」
「ええ。不思議なことに、すっかり元気になりまして」
「それなら、もう少し訓練できそうですね!」
…………。
(……え?)
そして、ユキノへの確認を経て。
体調に問題がなさそうだということで、軽い追加訓練が決定。
…………。
(……余計なことするんじゃなかったぁぁ!!)
……結局。
夜も訓練を受ける羽目になり。
部屋に戻った俺は、そのままベッドへ倒れ込んだ。
……ああ。
あの時は、早く寝れば疲れも取れると思っていたんだけどなぁ。
…………。
なのに。
「……いてて……」
……うん。
全身、痛い。
(……何で、ちゃんと寝たのにこんなに痛いんだよぉ……)
…………。
「ナギサ様! 起きていらっしゃいますか!」
「……は、はい!」
「朝の訓練のお時間です!」
…………。
(……またかぁ……)
……いや。
分かってる。
強くなる必要があるのは、俺自身が一番分かってるんだ。
……でもさ。
(……せめて、もう少し寝かせてくれよぉ……)
『……おはようございます、ナギさん』
(……ああ。おはよう、ナギサ)
隣では、ナギサがこちらを見つめていた。
『……随分と、お辛そうですね』
(……まあな)
……とはいえ。
昨日より身体の使い方は分かってきたし、少しずつ慣れるしかないだろう。
(……よし)
俺は、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
「……いてて……」
…………。
……うん。
今日も、大変な一日になりそうだなぁ。
◇
――午前六時十五分。
「……おはようございます、ナギサ様」
ユキノが、丁寧に頭を下げた。
「……おはようございます」
「昨夜の訓練後、体調はいかがでしょうか?」
「……そうですね。少々、筋肉痛が残っています」
「……なるほど」
ユキノが、静かに頷いた。
「では、今日は負荷を抑えて、昨日の復習を中心に行いましょう。痛みが強くなるようでしたら教えてください」
「……ありがとうございます」
……おお。
よかった。
ちゃんと気遣ってくれるんだな。
「まずは、準備運動から始めます」
「……はい」
「その後、姿勢と足運びを確認しましょう」
「……ええ」
「最後に、重心移動の練習も行います」
「……はい」
…………。
(……結構あるなぁ)
……いや。
これでも、負荷を抑えてくれているんだろうけどさ。
「……それでは、始めましょう」
…………。
そして。
「……いち、に……」
俺は、ゆっくりと身体を動かし始めた。
……ああ。
痛い。
……でも。
(……あれ?)
昨日より、少し動きやすい気がする。
足の運び方。
身体の向き。
重心の移動。
……昨日は、何度も注意されていたはずなのに。
今は、少しだけ自然にできるようになっている。
「……いいですね、ナギサ様」
ニコが、柔らかく微笑んだ。
「昨日より、随分と動きが良くなっていますよ」
「……ほ、本当ですか……?」
「はい」
…………。
……おお。
褒められた。
ちょっと嬉しい。
「では、もう一度お願いします」
「……はい!」
…………。
……うん。
頑張ろう。
…………。
……頑張ろうとは思うんだけど。
(……あと何回あるんだろうなぁ)
…………。
そんなことを考えながら。
俺は、朝の訓練を何とか乗り切った。
◇
――午前七時十五分。
「……本日の朝の訓練は、以上です」
「……はぁっ……はぁっ……!」
……ああ。
終わった。
やっと終わった。
「お疲れさまでした、ナギサ様」
ユキノが、静かに告げた。
「……ありがとうございます……」
「昨日より動きは改善されています。午後も、今日の内容を中心に進めましょう」
「……はい」
……うん。
少しずつでも成長しているのなら、頑張った甲斐はあるな。
…………。
さて。
(……仕事に戻るか)
……朝から訓練して、その後は仕事。
(……健康的すぎる生活だなぁ)
……もう少し、不健康でもよかったんだけどさ。
…………。
まあ。
今日は、ちょっと楽しみな予定もあるしな。
それを励みに頑張るとしよう。
◇
――午前十時十五分。
「……さて」
俺は、机の上の書類を確認していた。
……うん。
急ぎの仕事は、あと少しだな。
今日は、ミカに会ってもらう予定がある。
もちろん、俺ではなく。
本物のナギサと、だ。
身体の主導権を交代できるようになったんだから、せっかくなら二人を直接会わせてあげたい。
……だから。
今日は、ちゃんと時間を空けられるように仕事を調整しておいたんだ。
(……よし。もう少し頑張るか)
俺は、ペンを手に取った。
…………。
と。
「……あれ?」
ふと、違和感を覚えた。
俺は、そっと腕を動かした。
…………。
普通に動く。
今度は、足。
…………。
こちらも、問題ない。
(……ん?)
……ちょっと待て。
朝は、あんなに痛かったよな?
訓練が終わった時も、かなり疲れていたはずだぞ?
……それなのに。
「……おお」
俺は、椅子から立ち上がった。
軽く身体を伸ばしてみる。
…………。
……痛くない。
それどころか。
(……身体、軽っ!)
…………。
……いや。
昨日も同じようなことがあったけどさ。
改めて考えると、ちょっとおかしくないか?
俺は、時計を確認した。
午前十時十五分。
…………。
朝の訓練が終わったのは、七時十五分。
(……ちょうど三時間か)
…………。
……待てよ。
昨日の夕方も、訓練を終えてしばらくしたら疲れが消えていた。
それで、夜に追加の訓練を受けて。
帰ってすぐ、寝たんだよな。
……なのに。
今朝は、身体が痛かった。
…………。
(……あれ?)
俺は、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
(……もしかして、寝ている時より起きている時の方が回復してないか?)
…………。
……いやいやいや。
そんな馬鹿な。
普通、逆だろ?
寝ている間にも回復しているはずだし。
……でも。
昨日も今日も、起きている間に急に身体が楽になったんだ。
(……何なんだ、これ?)
『……ナギさん?』
(……ん?)
ナギサが、不思議そうにこちらを見つめていた。
『……どうかなさいましたか?』
(……いや、ちょっとな)
俺は、腕を動かしてみせた。
(……朝の筋肉痛が、もう全部なくなってるんだよ)
『……まあ』
ナギサが、少し驚いたように目を瞬かせた。
『それは、よかったですね』
(……ああ。まあな)
…………。
傷が早く治ること自体は、そこまで珍しくない。
この世界には、ツルギみたいに信じられないほど頑丈な生徒だっているんだからな。
……ただ。
(……疲労まで、こんなに早く消えるものなのか?)
…………。
(……ナギサ、何か心当たりあるか?)
『……いえ』
ナギサは、困ったように眉を下げた。
『申し訳ありません。私にも、まったく分からないんです』
(……そっか)
……うん。
身体の持ち主にも分からない。
借りている俺にも分からない。
……これは、お手上げだな。
…………。
ただ。
(……もしかして、ナギサの意識が前より近くなったからなのか?)
ナギサが目を覚まして。
身体の主導権まで交代できるようになった。
……その変化と、何か関係があるのかもしれない。
…………。
(……いや、分からんな)
根拠なんてないし。
……まあ。
今度、救護騎士団にでも相談してみよう。
…………。
……それにしても。
(……これ、下手したら……)
俺は、少し考えた。
……もし。
もしもだぞ?
寝なくても、起きているだけで疲れが取れるんだとしたら。
(……二十四時間、働けるんじゃないか?)
…………。
…………。
(……いやいやいや!!)
待て待て待て!
それは、絶対に嫌だ!
そもそも、身体の疲れが取れたからといって、睡眠が不要になるわけじゃないだろ!
記憶の整理や定着だってあるんだぞ!?
……そう。
訓練で覚えたことを身につけるためにも、睡眠は必要なんだ。
(……うん。絶対そうだ)
…………。
……よし。
このことは、あまり大っぴらにしないでおこう。
これ以上、訓練が増えたらたまらないからな。
『……ナギさん』
(……ん?)
『……何だか、随分と真剣なお顔をされていますね』
(……ああ)
俺は、心の中で深く頷いた。
(……睡眠の大切さについて、考えていたんだ)
『……睡眠、ですか?』
(……そう)
…………。
『……ふふっ』
ナギサが、小さく笑った。
『それでしたら、今夜は早めにお休みになってくださいね』
(……ああ。そうする)
…………。
……うん。
睡眠は大切だ。
ものすごく大切だぞ。
…………。
さて。
(……そろそろ、仕事を終わらせないとな)
今日は、ミカと会う約束をしている。
ナギサも、きっと楽しみにしているだろうし。
……よし。
俺は、再びペンを手に取った。
残りの書類を、片づけてしまおう。
◇
――午前十一時三十分。
「……よし」
俺は、最後の書類に署名を終えた。
……うん。
終わった。
これで、今日中に片づける必要がある仕事は、ひとまず完了だ。
(……ふぅ)
……いやぁ。
頑張ったなぁ。
朝早くから訓練して。
その後、ずっと仕事して。
……うん。
今日は、もう十分働いた気がする。
…………。
まあ。
午後も訓練があるんだけどさ。
(……考えるのはやめよう)
……よし。
それより。
(……ナギサ)
『……はい?』
(……そろそろ、ミカが来るぞ)
『……ええ』
ナギサが、少し緊張したように頷いた。
『……本当に、会えるんですね』
(……ああ)
俺は、微笑んだ。
(……約束しただろ?)
『……はい』
ナギサが、嬉しそうに微笑んだ。
『ありがとうございます、ナギさん』
(……いいって)
……まったく。
そんなに嬉しそうにされると、こっちまで嬉しくなるじゃないか。
…………。
と。
コンコン。
「……はい?」
「ナギちゃーん! 入っていい?」
…………。
(……おっ)
来たな。
「……ええ。どうぞ」
扉が開く。
「やっほー!」
満面の笑みを浮かべて入ってきたのは、ミカだった。
「ミカさん。ごきげんよう」
「ごきげんよー!」
……うん。
相変わらず元気だなぁ。
ミカは、俺の向かいに座ると、机の上を見渡した。
「……あれ?」
「……はい?」
「お仕事、終わったの?」
「……ええ」
俺は、微笑んだ。
「今日は、ミカさんとゆっくりお話しできるように、先に片づけておきました」
「……えっ!?」
ミカが、目を丸くした。
「……本当!?」
「ええ」
「……やったーっ!」
ミカが、嬉しそうに両手を上げた。
……おお。
そんなに喜んでもらえるとは。
「今日は、ナギおじさんといっぱい遊べるね!」
「……ふふっ」
俺は、小さく笑った。
「……その前に、一つご報告がありまして」
「……報告?」
「ええ」
俺は、少しだけ姿勢を正した。
「実は、ナギサが目を覚ましたんです」
…………。
「…………え?」
ミカが、固まった。
……まあ。
そうなるよな。
「……ナギちゃんが?」
「ええ」
「……本当に?」
「はい」
俺は、頷いた。
「今では、現実でもお話しできるようになりました」
「…………」
「それだけではありません」
俺は、少し微笑んだ。
「身体の主導権を交代することもできるようになったんです」
…………。
ミカが、ぽかんと口を開けた。
……うん。
まあ。
驚くよなぁ。
「……じゃあ」
「……はい?」
「……じゃあさ!」
ミカが、勢いよく立ち上がった。
「ナギちゃんと、お話しできるの!?」
「……ええ」
「……本当に!?」
「もちろんです」
…………。
その瞬間。
「……っ!」
ミカの表情が、くしゃりと歪んだ。
「……ミカさん?」
「……う、ううん!」
ミカは、慌てて首を振った。
「……ごめん。ちょっと、びっくりしちゃって……」
…………。
……ああ。
そうか。
ミカにとって、ナギサは大切な幼なじみなんだ。
ずっと、会いたかったんだよな。
「……少々、お待ちくださいね」
「……うん」
俺は、一度目を閉じた。
(……ナギサ)
『……はい』
(……交代するか?)
『…………』
少しの沈黙。
そして。
『……はい』
ナギサが、小さく頷いた。
『……お願いします、お兄さん』
(……ああ)
俺は、ゆっくりと椅子に背中を預けた。
身体を動かそうとする意識を緩める。
そして、ナギサに主導権を渡した。
…………。
「……ミカさん」
静かな声が、部屋に響いた。
…………。
ミカが、目を見開いた。
「…………」
「……お久しぶりです」
ナギサが、少し緊張したように微笑む。
「……ミカさん」
…………。
「……ナギちゃん?」
「……はい」
ナギサが、静かに頷いた。
「……私です」
…………。
次の瞬間。
「ナギちゃぁぁん!!」
「……きゃっ!?」
ミカが、勢いよく抱きついた。
…………。
……おお。
ミカらしいなぁ。
「……よかったぁ……!」
ミカの声が、震えていた。
「……本当に、よかった……!」
…………。
ナギサは、しばらく驚いたように固まっていた。
だが。
やがて、ゆっくりと腕を回した。
「……ご心配をおかけしました」
「……うぅ……」
「……ミカさん」
ナギサが、優しく背中を撫でた。
「……私は、ここにいますよ」
…………。
ミカは、何も答えなかった。
ただ、ナギサを抱きしめたまま、小さく肩を震わせていた。
……ああ。
よかったなぁ。
…………。
しばらくして。
「……ねえ、ナギちゃん」
「……はい?」
「……ごめんね」
…………。
ミカが、小さく呟いた。
「……私、ナギちゃんを……」
そこで、言葉が途切れた。
…………。
ナギサは、すぐには答えなかった。
だが。
「……ミカさん」
静かに、口を開いた。
「……今は、少しだけ」
そして。
「こうして、またお会いできたことを喜ばせてください」
「…………」
ミカが、顔を上げた。
「……ナギちゃん……」
「……私も、まだ話したいことがたくさんあります」
ナギサは、少しだけ目を伏せた。
「ですが、今は……その、何からお話しすればよいのか、分からなくて」
「…………」
「……それでも」
ナギサが、ゆっくりと微笑んだ。
「ミカさんに、またお会いできて嬉しいです」
…………。
「……うん」
ミカが、小さく頷いた。
そして。
「……私も!」
涙を拭いながら、笑った。
「……私も、すっごく嬉しいよ!」
…………。
……ああ。
よかった。
まだ、話し合わなければならないことはたくさんある。
それでも。
二人が、こうして笑い合えている。
今は、それだけで十分だろう。
◇
――しばらくして。
「……それでね!」
「……はい」
「今度は、一緒にロールケーキを食べようよ!」
「……ふふっ。そうですね」
「あと、お買い物も!」
「……ええ」
「それから、それから……!」
…………。
俺は、二人のやり取りを眺めていた。
……うん。
いい光景だなぁ。
ミカは、嬉しそうに次々と予定を並べている。
ナギサも、それを楽しそうに聞いていた。
……ああ。
何だか、こっちまで嬉しくなってくる。
…………。
……ただ。
(……そろそろ時間なんだよなぁ)
俺は、時計を確認した。
午後一時前。
……ああ。
そろそろ、午後の訓練に向かわないと。
『……ナギサ』
「……はい?」
『そろそろ、交代しようか』
「……あっ」
ナギサが、時計へ視線を向けた。
「……もう、こんな時間なのですね」
『……ああ』
……残念だけど。
そろそろ、訓練に向かわないとな。
「……ミカさん」
「ん?」
「申し訳ありませんが、そろそろ交代しなければなりません」
「……あっ」
ミカが、少しだけ寂しそうな顔をした。
「……そっかぁ」
「……ですが」
ナギサは、柔らかく微笑んだ。
「また、いつでもお話しできますから」
「……本当?」
「ええ」
「……約束だよ?」
「……はい。約束です」
…………。
ミカが、嬉しそうに笑った。
……うん。
それでは。
再び、身体の主導権を交代する。
…………。
「……ふぅ」
俺は、小さく息を吐いた。
「……ナギおじさん?」
「……はい」
「……えへへっ!」
ミカが、嬉しそうに笑った。
「ありがとう!」
「……いえ」
俺は、微笑んだ。
「ナギサも、喜んでいましたから」
「……うん!」
ミカは、何度も頷いた。
「……ねえ、ナギおじさん」
「……はい?」
「また、ナギちゃんとお話ししてもいいんだよね?」
「……もちろんです」
「……そっか!」
ミカが、ほっとしたように笑った。
「……よかったぁ」
…………。
……ああ。
本当に。
よかったなぁ。
「……それでは、ミカさん」
「ん?」
「私は、そろそろ訓練へ向かいますので」
「……訓練?」
「ええ」
…………。
ミカが、目を瞬かせた。
「……ナギおじさんが?」
「……そうですが」
「……運動するの?」
「……ええ」
…………。
「……ぷっ」
…………。
(……おい)
「……ミカさん?」
「……あははっ! ご、ごめん!」
ミカが、慌てて口元を押さえた。
「だって、ナギおじさんが運動って、なんか意外で!」
「……失礼ではありませんか?」
「えへへっ! ごめんごめん!」
……まったく。
…………。
まあ。
元の世界では、あまり運動していなかったのも事実だけどさ。
「……ちなみに、どんな訓練なの?」
「走ったり、障害物を越えたり、身体の使い方を教えていただいたりしています。主に体力づくりですね」
「……へえ!」
ミカが、目を輝かせた。
「楽しそう!」
…………。
(……楽しい?)
……いや。
ミカにとってはそうかもしれないけどさ。
こっちは、毎回死ぬほど疲れてるんだぞ?
「……でも」
ミカが、にっこり笑った。
「ナギおじさんが頑張ってるなら、私も応援するよ!」
「……ありがとうございます」
「えへへっ!」
…………。
……うん。
ありがたいな。
……本当に。
「じゃあ、またね!」
「ええ。またお会いしましょう」
ミカは、何度も振り返りながら部屋を出ていった。
…………。
扉が閉まる。
「……ふぅ」
俺は、小さく息を吐いた。
(……よかったな、ナギサ)
『……はい』
ナギサが、柔らかく微笑んだ。
『本当に、嬉しかったです』
(……ああ)
……うん。
ナギサが、こんなに嬉しそうにしている。
それだけで、今日の仕事を頑張った甲斐があったというものだ。
…………。
と。
『……ナギさん』
(……ん?)
『……あの』
ナギサは、少しだけ俯いた。
『……また、会えるんですよね』
…………。
(……ああ)
俺は、即座に答えた。
(もちろんだよ。さっき、約束しただろ?)
『……はい』
ナギサが、ゆっくりと顔を上げた。
『……そう、ですね』
…………。
……ああ。
そうか。
ずっと会いたかった相手と再会できたんだ。
嬉しい反面、まだ少し信じられないのかもしれないな。
『……ふふっ』
ナギサが、小さく笑った。
……うん。
いい笑顔だ。
(……今度は、みんなでお茶会しような)
『……はい!』
今度は、はっきりと嬉しそうな声が返ってきた。
…………。
……ああ。
本当に、よかった。
……さて。
(……それじゃあ、俺も頑張るか)
午後の訓練だ。
……まあ。
今日は、いいこともあったしな。
もうひと頑張りするとしよう。
◇
――午後二時。
「……はぁっ……はぁっ……!」
俺は、訓練施設の床に膝をついていた。
……ああ。
疲れた。
……もう、本当に疲れた。
「……ナギサ様」
ユキノが、俺の前に立った。
「少し休憩しましょう」
「……は、はい……」
……うん。
ありがたい。
本当に、ありがたい。
…………。
「……それにしても」
ニコが、少し不思議そうに首を傾げた。
「今朝は、随分と筋肉痛が残っていらっしゃいましたよね?」
「……ええ」
「ですが、午後は随分と動けるようになっていますね」
…………。
(……あっ)
……そういえば。
そのこと、まだFOX小隊には話していなかったな。
「……実は、午前十時頃には痛みも疲労も、ほとんどなくなっていたんです」
「……午前十時、ですか?」
「ええ」
ユキノが、少しだけ眉を寄せた。
「朝の訓練が終わってから、三時間ほどですね」
「……そうですね」
「……昨日の夕方と同じような状態でしょうか」
「ええ。ただ、夜に訓練した後は、朝まで痛みが残っていたんです」
「……なるほど」
ユキノが、静かに頷いた。
「回復の仕方に、何か特徴があるのかもしれませんね」
「……ええ。私も、そう考えています」
……うん。
原因は分からないけどな。
…………。
「……それにしても」
ニコが、少し感心したように微笑んだ。
「朝の訓練に加えて午後もこれだけ動けるとなると、訓練の幅も広がりそうですね」
「……そうでしょうか?」
「はい」
…………。
……おお。
そうか。
これなら、少しは早く強くなれるかもしれないな。
…………。
と。
「……ナギサ様」
ユキノが、口を開いた。
「もし今後も同じように回復するのであれば、夜間の訓練も定期的に取り入れられるかもしれませんね」
…………。
(……え?)
…………。
「……て、定期的に、ですか?」
「はい」
ユキノが、頷いた。
「昨日は臨時の訓練でしたが、今後はもう少し計画的に取り入れられると思います」
…………。
……いや。
ちょっと待て。
…………。
(……夜も、ですか?)
……あれ?
おかしいな。
俺、さっきまで。
回復が早いことを、少し嬉しく思っていたはずなんだけど。
…………。
「……あっ!」
クルミが、嬉しそうに声を上げた。
「それ、いいですね!」
…………。
(……よくない!!)
「ナギサ様も、もっと早く上達できそうです!」
「……そ、そうですね……」
…………。
……ああ。
何だろう。
ものすごく、嫌な予感がする。
…………。
……いや。
分かる。
分かるんだよ。
強くなるためには、訓練が必要だ。
そのために、FOX小隊にも協力してもらっている。
……だから。
頑張らなきゃいけないのは、分かってる。
…………。
でもさ。
(……夜くらい、ゆっくり休みたいんだよぉ……)
…………。
『……ナギさん』
(……ん?)
ナギサが、心配そうにこちらを見つめていた。
『……あまり、無理はなさらないでくださいね』
(……ああ。分かってるよ)
……うん。
無理はよくない。
でも、強くなる必要があるのも事実なんだよな。
…………。
そんな俺を見て、ナギサが何やら考え込んだ。
そして。
『……お兄さん、頑張ってください!』
…………。
(…………え?)
そこには、頬を真っ赤に染めながら、両手を胸の前で握りしめ、一生懸命こちらを応援するナギサの姿があった。
…………。
(……おお?)
何だろう。
何だか、少し元気が出てきたぞ。
……いや。
(……おおおっ!?)
これは、思っていた以上に効くな!?
何だか、どんどんやる気が……!
(……うおおおおおっ!!)
何だこれ!?
ものすごくやる気が出てきたぞ!?
(……ありがとう、ナギサ!!)
よぉぉし!
こうなったら、どこまでも頑張ってやる!!
『……えっ!?』
「……ユキノさん!」
「はい?」
「休憩は十分です! 訓練を続けましょう!」
『……ナ、ナギさん!?』
ユキノが、少し驚いたように目を瞬かせた。
そして。
「……素晴らしい意欲ですね」
嬉しそうに微笑んだ。
「では、私たちも全力でお応えしましょう」
「はい!」
「私も頑張ります!」
クルミも、元気よく拳を握りしめた。
「ふふっ。ナギサ様がそこまで意欲的なら、私たちも負けていられませんね」
ニコも、楽しそうに笑っている。
……おお!
何だか、みんなもやる気になってきたな!
『……ナギさん! ちょっと張り切りすぎではありませんか!?』
(……大丈夫だよ、ナギサ!)
……うん!
こんなに応援してもらったんだ!
俺だって、いいところを見せないとな!
『……そ、そういう意味で言ったのでは……!』
「それでは、ナギサ様」
「はい!」
「次は、昨日も練習した受け身の確認をしましょう」
「分かりました!」
……よし!
望むところだ!
「では、私が相手を務めます」
「よろしくお願いします!」
ユキノが、俺の腕を取った。
「準備はよろしいですか?」
「はいっ!」
『……ナギさん、少し落ち着いてくださ――』
「それでは、いきます!」
……よぉぉし!!
(……頑張るぞぉぉぉ!!)
次の瞬間。
ぐるんっ!!
…………。
視界が、一気に反転した。
(……あっ)
どさぁんっ!!
…………。
……なお。
この後、俺は何度もマットの上を転がされ、たっぷり痛い目を見ることになった。
(……ナギサの忠告、ちゃんと聞いておけばよかったなぁ……)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ナギの訓練と、本物のナギサとミカの再会を描きました!
ようやく再会できた二人。これから少しずつ、以前のような時間を取り戻してほしいですね。
そして、何やら不思議な回復力を見せ始めたナギ。
……なお、本人にとっては訓練が増える原因になってしまいました。
ちなみに、この回復現象にはちゃんと理由があります。
今はまだ詳しくお話しできませんが、ぜひ頭の片隅に置いていただければ嬉しいです!
引き続きよろしくお願いします!