お労しいナギサ様へ   作:ムテケル

5 / 11
5話目です!

今回はミカとの久しぶりのお茶会です。

楽しんでもらえたら嬉しいです!


久しぶりのお茶会

(……まさか、もう何か変わったのか?)

 

 そんな考えが頭をよぎる。

 

 しかし、すぐに首を振った。

 

(……落ち着け。ミカとナギサは幼なじみだ。突然会いに来たって、おかしくない)

 

 そうだ。

 

 彼女たちは長い付き合いなのだから。

 

 いちいち疑っていては、何も始まらない。

 

「……お通ししてください」

 

「承知いたしました」

 

 足音が遠ざかる。

 

 俺は慌てて姿勢を正した。

 

(……ミカか)

 

 聖園ミカ。

 

 ティーパーティーのホストの一人。

 

 桐藤ナギサの幼なじみ。

 

 そして、原作ではエデン条約編の悲劇に深く関わることになる少女。

 

(……本当に、原作通りなのかな)

 

 今日の四人との面談では、大きな違いは見つからなかった。

 

 しかし、ミカについてはまだ何も確認していない。

 

 原作では、既にアリウスとの繋がりを持っていたはずだ。

 

 だが、この世界でも同じなのか。

 

 それは、実際に話してみなければ分からない。

 

(……まずは、普通に接しよう)

 

 原作を知っているからといって、最初から裏切り者として扱うつもりはない。

 

 それに、本来のナギサはミカを信頼していた。

 

 セイアが襲撃され、学園内に裏切り者がいるかもしれないという状況でも、ミカだけは守りたいと考えていたのだ。

 

(……その相手が裏切り者だったなんて、知ったらどう思うんだろうな)

 

 胸が痛む。

 

 俺自身は、ゲームの物語としてミカの行動を知っている。

 

 けれど、ナギサにとってはそんな簡単な話ではない。

 

 長い時間を共に過ごしてきた、かけがえのない友人なのだから。

 

(……できれば、ナギサにあんな思いはさせたくない)

 

 そう考えていた、その時だった。

 

「ナギちゃーん!」

 

 扉の向こうから、明るい声が響いた。

 

 次の瞬間、扉が勢いよく開かれる。

 

「やっほー! 遊びに来ちゃった☆」

 

 そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 

 美しい桃色の長い髪。

 

 頭上に浮かぶ、特徴的なヘイロー。

 

 そして、太陽のように明るい笑顔。

 

(……聖園ミカ)

 

 画面越しに何度も見た少女が、今、目の前にいる。

 

 その姿を見た瞬間、胸の奥から強烈な感情が込み上げてきた。

 

 懐かしい。

 

 嬉しい。

 

 会いたかった。

 

 そして、少しだけ怖い。

 

(……ナギサの感情、か)

 

 俺自身の感情とは、少し違う。

 

 きっと、本来のナギサにとって、ミカはそれほど大切な存在なのだろう。

 

「……ナギちゃん?」

 

 ミカが首を傾げる。

 

「どうしたの? なんか、ぼーっとしてるけど」

 

「……いえ、何でもありません」

 

 俺は、できる限り自然に微笑んだ。

 

「いらっしゃい、ミカさん」

 

「えへへ。やっぱりナギちゃんのところが一番落ち着くなぁ☆」

 

「……そうですか」

 

「うん!」

 

 ミカは嬉しそうに笑った。

 

 その表情だけを見れば、ただ幼なじみに会いに来た普通の少女だ。

 

 とても、アリウスとの陰謀に関わっているようには見えない。

 

(……だからこそ、厄介なんだよな)

 

 知識だけで相手のすべてを判断するわけにはいかない。

 

 けれど、何も知らないふりをして危険を見過ごすこともできない。

 

 難しいところだった。

 

「……ねえ、ナギちゃん」

 

「はい?」

 

 ミカが、こちらの顔を覗き込んでくる。

 

「……なんか、顔色悪くない?」

 

「……っ」

 

 思わず身体が強張った。

 

「少し疲れているだけですので」

 

「……ほんと?」

 

「ええ」

 

 ミカはしばらく俺の顔を見つめていた。

 

 そして、小さく息を吐く。

 

「……もー。ちゃんと休まないと駄目だよ?」

 

「ふふっ。お気遣いありがとうございます」

 

「もう! そういうことじゃなくて!」

 

 少し不満そうに頬を膨らませる。

 

「最近のナギちゃん、ずっとお仕事ばっかりじゃん!」

 

「……そうですね」

 

「だからさ!」

 

 ミカはぱっと笑顔になった。

 

「今日は一緒にお茶しよ!」

 

「……お茶、ですか?」

 

「うん! 久しぶりに、ゆっくりお話ししたいなって!」

 

「…………」

 

 俺は、少し考えた。

 

 机には、まだ大量の書類が残っている。

 

 午後の仕事も終わっていない。

 

 しかし、この機会を逃すのは惜しかった。

 

 それに。

 

(……ナギサも、本当はミカとお茶したかったんだろうな)

 

 日記には、仕事に追われる日々の苦しさが綴られていた。

 

 セイアを失ったと思い込み、次は自分かミカが狙われるかもしれないという恐怖。

 

 それなのに、ミカとゆっくり過ごす時間さえ取れなくなっていた。

 

(……少しくらい、いいよな)

 

 俺は静かに微笑んだ。

 

「……ええ、もちろんです」

 

「……えっ?」

 

 ミカが目を丸くした。

 

「……いいの!?」

 

「はい。せっかくですから、ゆっくりお話ししましょう」

 

「……ほんとに!?」

 

「ええ」

 

 その瞬間。

 

「やったー! ナギちゃん大好き!」

 

 ミカが満面の笑みを浮かべた。

 

「最近、お茶に誘っても全然付き合ってくれなかったからさ!」

 

「……申し訳ありません」

 

「もう、いいって! 今日は一緒にお茶できるんだから!」

 

 ミカは嬉しそうに笑った。

 

 その姿を見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

(……よかったな、ナギサ)

 

 心の中で、そう呟いた。

 

     ◇

 

 ――午後四時十五分。

 

「それでね、ナギちゃん! この前すっごく面白いことがあったんだよ!」

 

「ふふっ。何があったのですか?」

 

「購買部で限定のケーキが売られてたんだけど、最後の一個を巡ってちょっとした騒ぎになっちゃって!」

 

「……また食べ物のお話ですか?」

 

「えー! だって大事なことじゃん!」

 

 ミカは頬を膨らませ、不満そうにこちらを見つめてきた。

 

 その様子があまりにも子供っぽくて、思わず笑ってしまう。

 

「ふふっ。そうですね。ミカさんにとっては大切なことでしたね」

 

「もう! ナギちゃん、絶対に馬鹿にしてるでしょ!」

 

「そんなことありませんよ?」

 

「うそだー!」

 

 そう言いながらも、ミカは楽しそうに笑っていた。

 

(……ああ、いいなぁ)

 

 目の前にいるのは、聖園ミカ。

 

 ティーパーティーのホストの一人であり、原作ではエデン条約編の悲劇に深く関わる少女。

 

 けれど、今の彼女はただの明るい女の子だった。

 

 ケーキが好きで、友達とおしゃべりするのが好きで、時々わがままを言う。

 

 そんな、ごく普通の少女。

 

「……ナギちゃん?」

 

「……あっ、はい?」

 

「またぼーっとしてる!」

 

「申し訳ありません。少し考え事をしていました」

 

「もー! せっかく久しぶりにお茶できたんだから、私の話もちゃんと聞いてよね!」

 

「ふふっ。分かりました」

 

 俺は紅茶を一口飲んだ。

 

 ほのかな甘みと、華やかな香りが口の中に広がる。

 

(……おいしい)

 

 原作でも、ナギサは紅茶を好んでいた。

 

 その記憶が残っているせいなのか、俺自身も不思議と紅茶の味が分かるようになっている。

 

「……ところで、ミカさん」

 

「んー?」

 

「先ほどのケーキのお話ですが、結局最後の一個は誰が買われたのですか?」

 

「……あっ!」

 

 ミカは思い出したように手を叩いた。

 

「そうそう! 結局ね、私が買えたんだよ!」

 

「まあ。それは良かったですね」

 

「でしょ! でもね、その後が大変だったんだよ!」

 

「……と言いますと?」

 

「買った後にね、ずっと後ろで並んでた子がすっごく悲しそうな顔してて……」

 

「……あら」

 

「なんか申し訳なくなっちゃって、結局半分あげちゃった!」

 

「ふふっ。ミカさんらしいですね」

 

「えへへ。そうかな?」

 

 ミカは照れくさそうに笑った。

 

 その笑顔を見て、俺も自然と笑みがこぼれる。

 

(……やっぱり、優しいところもあるんだよな)

 

 原作での行動を知っているからこそ、余計にそう思う。

 

 あの事件を起こした少女と、目の前の少女。

 

 どちらも、間違いなく聖園ミカなのだ。

 

「……ねえ、ナギちゃん」

 

「はい?」

 

「今日、なんか機嫌いい?」

 

「……そうでしょうか?」

 

「うん! なんか、久しぶりにいっぱい笑ってくれてる気がする!」

 

「…………」

 

 その言葉に、少し胸が痛んだ。

 

 きっと、今のミカにとっては、こうして一緒に笑うことすら久しぶりなのだろう。

 

「……最近は、少し余裕がありませんでしたからね」

 

「でしょー? 私、ずっと心配してたんだよ?」

 

「……申し訳ありません」

 

「もう、謝らなくていいって!」

 

 ミカは軽く手を振った。

 

「こうしてお茶できたんだから、それでいいの!」

 

「……そうですね」

 

 それからも、他愛のない話が続いた。

 

 最近流行しているお菓子のこと。

 

 購買部で起きた小さな騒動。

 

 ミカが授業中に居眠りしてしまい、先生に注意されたこと。

 

 そして、昔三人でお茶を飲んでいた頃の思い出。

 

「そういえばさ、ナギちゃん覚えてる? 昔、セイアちゃんがお茶会で寝ちゃったこと!」

 

「……ええ」

 

 その瞬間、胸の奥が少しだけ締め付けられた。

 

 ナギサの記憶が浮かぶ。

 

 暖かな日差し。

 

 庭園に設けられたテーブル。

 

 静かに目を閉じるセイア。

 

 そして、その顔を覗き込んで悪戯をしようとするミカ。

 

「ミカさんがセイアさんの髪に花を飾ろうとして、私に止められた時のことですね」

 

「そうそう! でも、あれ絶対かわいかったと思うんだよね!」

 

「寝ている方に悪戯をするのは感心しません」

 

「えー! ナギちゃんだって、ちょっと笑ってたじゃん!」

 

「……気のせいでは?」

 

「絶対笑ってたよ!」

 

 ミカは楽しそうに笑った。

 

 俺も、つられて笑う。

 

 けれど、その笑い声が途切れた後、ほんの少しだけ沈黙が訪れた。

 

「……また、三人でお茶したいね」

 

 ミカがぽつりと呟いた。

 

「…………」

 

 俺は、すぐに返事ができなかった。

 

 セイアは生きている。

 

 原作の知識が正しければ、今もどこかで保護されているはずだ。

 

 しかし、ミカはそのことを知らない。

 

 そして、ナギサも知らなかった。

 

(……絶対に、また三人でお茶させてやる)

 

 俺は静かに頷いた。

 

「……ええ。そうですね」

 

 ミカは少し寂しそうに笑った。

 

 けれど、すぐにいつもの明るい表情に戻る。

 

「まっ、暗い話はここまで!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

「せっかくのお茶会なんだし、楽しまなきゃ損だよね!」

 

 そう言って、ミカは残りのケーキを口に運んだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回は久しぶりにミカとゆっくりお茶をするお話でした。

次回はエデン条約について、少し真面目なお話になります。

よかったら評価やコメントをいただけると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。