お労しいナギサ様へ   作:ムテケル

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第44話です!

前回、補習授業部の第一次試験が終わり、いよいよ強化合宿が始まります!

そして、持ち物一覧に書かれていた「水着」の文字。

それを見たハナコは、何やら思いついたようで……。

今回は、ハナコ視点から始まります!


先手必勝……のはずでした

 ――前日の夜。

 

「……あら?」

 

 机の上に広げた一枚のプリント。

 

 そこに書かれていた持ち物を見て、私は思わず首を傾げました。

 

「……水着?」

 

 明日から始まる、補習授業部の強化合宿。

 

 その持ち物一覧に、確かにそう書かれています。

 

「……ふふっ」

 

 なるほど。

 

 どうやら、明日は思っていた以上に楽しい一日になりそうですね。

 

 ……それにしても。

 

(……今日は、本当に嬉しかったですね)

 

 第一次試験。

 

 私の結果は、100点。

 

 満点でした。

 

 ……まあ。

 

 点数そのものは、それほど重要ではありません。

 

 ですが、今回はどうしても満点を取りたかったんです。

 

 ……だって。

 

(……ナギサさんに、褒めていただきたかったですから)

 

 ふふっ。

 

 以前の私なら、こんなことを考えるなんて、思いもしなかったでしょうね。

 

 でも、今は。

 

 誰かに褒めてもらうために努力するのも、悪くないと思えるんです。

 

 ……そして。

 

 実際に、褒めていただけました。

 

 ただ。

 

(……あれは、少し反則ですよね)

 

「ご自分で目標を決めて、そのために努力されたことが、私は何より嬉しいです」

 

 …………。

 

「…………」

 

 ……ああ。

 

 思い出しただけで、頬が熱くなってきました。

 

 もう。

 

 あんなふうに、まっすぐ目を見つめられて。

 

 あんなに優しく褒められてしまったら。

 

(……照れてしまうに決まっているじゃありませんか)

 

 しかも。

 

 私が照れていることに気づいた途端、今度は楽しそうにからかってくるんです。

 

 ……本当に。

 

(……いじわるな方ですね)

 

 ですが。

 

 そんなところも、嫌いではありません。

 

 むしろ。

 

 もっと色々なお顔を見てみたいと思ってしまうんです。

 

 ……ふふっ。

 

(……明日は、少しくらいお返しをしたいですね♡)

 

 私は、もう一度プリントへ視線を落としました。

 

 そこには、明日の集合時間と場所。

 

 そして。

 

 水着の文字。

 

「……ふふっ」

 

 そういえば。

 

 以前も、ナギサさんの前に水着姿で現れたことがありましたね。

 

 あの時は、シスターフッドからお帰りになるところでしたっけ。

 

「今日は、ずいぶん涼しげな格好ですね」

 

 …………。

 

 ふふっ。

 

 あの時の、少し困ったようなお顔。

 

 今思い出しても、可愛らしかったですね。

 

 最後には、何か羽織ってくるように言われてしまいましたけれど。

 

 ……でも。

 

(……今回は、どうでしょう?♡)

 

 以前とは違って、私たちは随分と仲良くなれたと思っています。

 

 それに、今回はちゃんと水着が必要な場所。

 

 これなら、ナギサさんも文句はおっしゃれませんよね?

 

 ……ふふっ。

 

 でしたら。

 

(……最初から、水着で集合してしまいましょうか♡)

 

 普通なら、持っていって現地で着替えるところですが。

 

 それでは、少々面白みに欠けます。

 

 以前と同じように困ったお顔をされるのでしょうか。

 

 それとも、今度は平然と受け止められてしまうのでしょうか。

 

 どちらでも、楽しそうですね。

 

 それに。

 

 コハルちゃんも、きっと素敵な反応をしてくださるでしょう。

 

(……ふふっ。これは楽しみですね♡)

 

 よし。

 

 決めました。

 

 明日は、こちらから仕掛けてみましょう。

 

「……ふふっ。覚悟してくださいね、ナギサさん♡」

 

 

     ◇

 

 

 ――翌日、午前九時五十分。

 

「……ふふっ」

 

 私は、軽い足取りで合宿所へと向かっていました。

 

 準備は万全です。

 

 持ち物も、すべて確認しました。

 

 そして、もちろん。

 

(……水着も、ばっちりです♡)

 

 選んだのは、以前と同じスクール水着。

 

 今は上から羽織り物を着ていますが、集合場所に着いたら脱ぐつもりです。

 

 ……さて。

 

 ナギサさんは、どんな反応をしてくださるのでしょうか。

 

「……ハナコさん。またその格好ですか?」

 

 ……ふふっ。

 

 そんなふうに、少し呆れたお顔をされるのでしょうか。

 

 それとも、以前とは違って、余裕たっぷりに微笑まれるのでしょうか。

 

 どちらでも構いません。

 

 ナギサさんの反応を見られるだけで、十分楽しいですから。

 

 そんなことを考えているうちに、集合場所が見えてきました。

 

「……あっ! ハナコちゃん!」

 

 ヒフミさんの声です。

 

 どうやら、皆さんは既に到着しているようですね。

 

「おはようございます、皆さん♡」

 

「おはようございます!」

 

「……おはよう、ハナコ」

 

 アズサさんも、軽く手を上げてくれました。

 

「おはよう。……って、ハナコ?」

 

 コハルちゃんが、こちらをじっと見つめています。

 

「……何、その格好?」

 

「……あら?」

 

 ふふっ。

 

 どうやら、気づいてくださったようですね。

 

「実は、少し早めに準備してきたんです♡」

 

 私は、羽織り物を脱ぎました。

 

「…………」

 

「……は?」

 

 コハルちゃんが、目を丸くしました。

 

「……な、な、な……!」

 

「……ふふっ。どうでしょう、コハルちゃん?」

 

 私は、その場でくるりと一回転しました。

 

「似合っていますか?♡」

 

「……エ」

 

 …………。

 

「エッチなのはダメ! 死刑!!」

 

 ……あらあら。

 

 予想どおりの反応ですね。

 

「……ふふっ。困りましたね。まだ何もしていないのですが♡」

 

「してるでしょ!? 何で最初から水着なのよ!!」

 

「だって、持ち物に書いてありましたから」

 

「だからって、普通は現地で着替えるでしょ!?」

 

「……あら。そうでしょうか?」

 

 私は、少し首を傾げました。

 

「それでしたら、コハルちゃんも今から着替えてみませんか?♡」

 

「な、何で私まで!?」

 

「……ふふっ。きっと、とても可愛らしいと思いますよ?」

 

「なっ……!?」

 

 コハルちゃんの顔が、真っ赤になりました。

 

「そ、そういう問題じゃないでしょ!!」

 

 ……ふふっ。

 

 相変わらず、可愛らしいですね。

 

「……ハナコちゃん」

 

 ヒフミさんが、困ったように微笑みました。

 

「さすがに、少し早すぎませんか?」

 

「……あら。そうでしょうか?」

 

「え、えっと……水着を使うのは、もう少し後かもしれませんし……」

 

「……ふふっ。大丈夫ですよ」

 

 私は、微笑みました。

 

「準備が早くて困ることはありませんから♡」

 

「……合理的だと思う」

 

 すると、アズサさんが静かに頷きました。

 

「……え?」

 

 コハルちゃんが、驚いたように振り向きます。

 

「アズサ!? あなたまで何言ってるの!?」

 

「……持ち物に水着があるなら、いずれ使うはずだ」

 

「そ、それはそうだけど!」

 

「……先に着替えておけば、その時間を節約できる」

 

「ち、違うの! そういうことじゃないのよ!」

 

 ……ああ。

 

 何だか、いつもの補習授業部という感じですね。

 

 ふふっ。

 

 楽しいです。

 

「……それにしても」

 

 私は、周囲を見渡しました。

 

「ナギサさんは、まだいらしていないんですね?」

 

「……そうですね」

 

 ヒフミさんが、時計に目を向けました。

 

「そろそろ集合時間ですけど……」

 

 それでしたら、好都合ですね。

 

(……ナギサさんがいらしたら、最初にお出迎えしましょうか♡)

 

「……ハナコ」

 

「……はい?」

 

 アズサさんが、私を見つめていました。

 

「……どうして、そんなに嬉しそうなんだ?」

 

「……あら」

 

 ふふっ。

 

 鋭いですね。

 

「……そうですねぇ」

 

 私は、少し考えるふりをしました。

 

「今日は、楽しいことが起こりそうな気がするんです♡」

 

「……そうか」

 

 アズサさんが、真剣な表情で頷きました。

 

「……それなら、いいことだな」

 

 ……ふふっ。

 

 やっぱり、アズサさんも可愛らしいですね。

 

 と。

 

「……あっ!」

 

 ヒフミさんが、何かに気づいたように顔を上げました。

 

「皆さん! ナギサ様がいらっしゃいました!」

 

 ……ついに、ですね。

 

 私は、自然と笑みを浮かべました。

 

(……ふふっ。さあ、ナギサさん。今日はどんなお顔を見せてくださるのでしょうか?♡)

 

 あとは、ナギサさんの反応を楽しむだけ。

 

 ……そう思っていたのですが。

 

「……皆さん! 申し訳ありません!」

 

 聞き慣れた声が、少し離れたところから聞こえてきました。

 

「少々、用事が長引いてしまいまして……!」

 

 ……あら。

 

 何かあったのでしょうか。

 

 私は、期待を込めて振り向きました。

 

 そして。

 

「…………」

 

 …………。

 

(…………はい?)

 

 そこにいたのは。

 

「……ふぅ。何とか間に合いましたね……」

 

 濡れた髪。

 

 肩に掛けられたタオル。

 

 そして。

 

 ……水着。

 

 …………。

 

(…………え?)

 

 ……水着?

 

 ええ。

 

 水着ですね。

 

 しかも、まだ髪から水滴が落ちています。

 

 …………。

 

(……あ、あれ?)

 

 おかしいですね。

 

 今日は、私がナギサさんをからかう予定だったはずです。

 

 それなのに。

 

(……な、何なんですか、そのお姿は……!)

 

 ……いえ。

 

 水着自体は、別に珍しいものではありません。

 

 私だって、今まさに着ているわけですし。

 

 ですが。

 

 濡れた髪を指先で軽く払って。

 

 肩に掛けたタオルで、首元の水滴を拭いながら。

 

 いつもと変わらない、あの柔らかな笑顔を浮かべているナギサさん。

 

 …………。

 

(……っ!)

 

 思わず、目を逸らしてしまいました。

 

 ……いえ。

 

 別に、恥ずかしいわけではありません。

 

 ただ、少し予想外だっただけです。

 

 ……そのはずなのに。

 

(……どうして、こんなにドキドキしているんでしょう……)

 

「……ナ、ナギサ様!?」

 

 ヒフミさんが、驚いた声を上げました。

 

「……あら、皆さん」

 

 ナギサさんが、私たちを見つけて微笑みます。

 

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 

「い、いえ! それは大丈夫ですけど……!」

 

 ヒフミさんが、視線を泳がせました。

 

「そ、その格好は……!?」

 

「ああ、こちらですか?」

 

 ナギサさんが、ご自分の水着を見下ろしました。

 

「すみません。着替える時間がなくなってしまいまして……」

 

 そして、少し困ったように笑います。

 

「仕方なく、このまま来てしまいました」

 

 …………。

 

(……仕方なく、ですか)

 

 なるほど。

 

 つまり、私を驚かせるつもりは、まったくなかったんですね。

 

 ……それなのに。

 

(……もう。本当に、ずるい方です……)

 

「……な」

 

 すると、コハルちゃんが震え始めました。

 

「……な、な、ナギサ様……!?」

 

「……はい?」

 

「そ、その……! み、水着……!」

 

「……ええ?」

 

 ナギサさんが、不思議そうに首を傾げました。

 

 …………。

 

 あっ。

 

 これは。

 

「エッチなのはダメ! 死刑!!」

 

 …………。

 

「……えっ!?」

 

 ナギサさんが、目を丸くしました。

 

「わ、私がですか!?」

 

 ……あらあら。

 

 本日二度目の死刑宣告ですね。

 

 しかも、今度の相手はティーパーティーのホストですよ?

 

「……っ!?」

 

 コハルちゃんが、はっと口元を押さえました。

 

「……あっ!?」

 

「ち、違うんです、ナギサ様!!」

 

「……え?」

 

「い、今のは、その……!」

 

 コハルちゃんが、必死に両手を振ります。

 

「条件反射なんです!!」

 

「……条件反射、ですか?」

 

「は、はい!!」

 

 ……あらあら。

 

 随分と恐ろしい条件反射ですね。

 

「……コハルちゃん!」

 

 ヒフミさんが、慌てて声を上げました。

 

「ナギサ様に死刑だなんて、何を言ってるんですか!?」

 

「わ、分かってるわよ!!」

 

 コハルちゃんの顔が、真っ赤になりました。

 

「わざとじゃないの!!」

 

「もう、コハルちゃん。落ち着いてください!」

 

 ヒフミさんが、コハルちゃんの肩にそっと手を置きました。

 

「ナギサ様も驚いていらっしゃいますから……」

 

「……は、はい……!」

 

「……なるほど」

 

 アズサさんが、静かに頷きました。

 

「……コハルは、相手によって判断を変えないんだな」

 

「変えていいのよ、こういう時は!!」

 

 …………。

 

 ……ふふっ。

 

 いつもなら、ここで私も加わっていたでしょう。

 

 コハルちゃんをからかって。

 

 ナギサさんの困ったお顔を楽しんで。

 

 そして、また少しだけ大胆なことを言ってみたりして。

 

 ……ですが。

 

(……今日は、ちょっと無理かもしれません……)

 

 どうしても、視線がナギサさんへ向いてしまうんです。

 

 濡れた髪。

 

 いつもより少しだけ無防備に見える仕草。

 

 そして、変わらない優しい笑顔。

 

 …………。

 

(……ああ、もう……!)

 

 以前は、あんなに困っていらっしゃったのに。

 

 今度は、ご自分が水着姿で登場されるなんて。

 

 ……本当に。

 

 何を考えていらっしゃるんでしょう。

 

 …………。

 

「……あっ、ハナコさん」

 

「……っ!?」

 

 突然名前を呼ばれ、思わず肩が跳ねました。

 

「も、もう……ナギサさん♡」

 

 私は、何とかいつもの笑みを浮かべます。

 

「随分と大胆なお姿ですね?♡」

 

「ふふっ。着替える時間がなくなってしまいまして」

 

 ナギサさんが、少し困ったように笑いました。

 

 …………。

 

 ……ああ。

 

 そんなふうに笑わないでください。

 

「それにしても、ハナコさん」

 

「……は、はい?」

 

「以前も、その水着をお召しになっていましたよね」

 

 …………。

 

(……え?)

 

「……覚えていてくださったんですか?」

 

「ええ。もちろんですよ」

 

 ナギサさんが、微笑みました。

 

「以前は、場所が場所でしたから、ついあんな言い方をしてしまいましたが……」

 

 そして。

 

「とてもよくお似合いでしたからね」

 

 …………。

 

 …………。

 

(…………え?)

 

 …………。

 

 ……ちょっと。

 

 待ってください。

 

 以前の、あの水着姿を。

 

 覚えていてくださって。

 

 それで。

 

(……に、似合っていたって……!)

 

 …………。

 

「……ハナコさん?」

 

「……あ、あの……」

 

 何か。

 

 何か返さないと。

 

 いつものように、少しからかって。

 

 ナギサさんの困ったお顔を……。

 

 …………。

 

(……無理です……!)

 

 だって。

 

 あんなに自然に。

 

 まるで、当たり前のことのように。

 

 そんな言葉を向けられてしまったら。

 

 …………。

 

「……あ、ありがとう……ございます……」

 

 …………。

 

 ああ。

 

 駄目です。

 

 これでは、まるで。

 

 ……まるで、本当に照れているみたいじゃありませんか。

 

 …………。

 

(……いえ、実際に照れているんですけど……!)

 

 もう。

 

 本当に。

 

(……反則じゃありませんか……!)

 

 私は、思わず両手で顔を覆いました。

 

「……えっ!? ハナコちゃん!?」

 

 ヒフミさんが、驚いた声を上げました。

 

「ど、どうしたんですか!? 顔が赤いですよ!?」

 

「……ハナコ?」

 

 アズサさんも、不思議そうに首を傾げました。

 

「……体調が悪いのか?」

 

「ちょ、ちょっと! 今度は何なのよ!?」

 

 コハルちゃんの声も聞こえてきます。

 

 …………。

 

 ……ああ。

 

 皆さん、心配してくださっているんですね。

 

 普段なら、ここで少しからかってみるところですが。

 

 今は。

 

 今だけは。

 

 …………。

 

 へなへなへな……。

 

 膝から力が抜けていきました。

 

「……ハナコさん!?」

 

 ナギサさんが、慌てて近づいてきます。

 

「だ、大丈夫ですか!? 気分でも悪くなりましたか!?」

 

 …………。

 

 ……もう。

 

 そんなに心配そうなお顔までされてしまったら。

 

 これ以上、どうしたらいいんですか。

 

 私は、床に両手をついたまま。

 

 静かに項垂れました。

 

 …………。

 

「……負けました」

 

 

     ◇

 

 

(……負けました、か)

 

 俺は、目の前で崩れ落ちているハナコを見つめた。

 

 そして、彼女の格好に目を向ける。

 

 ……水着。

 

 …………。

 

 ああ。

 

(……そういうことか)

 

 ハナコのことだ。

 

 きっと、最初から水着で現れて、みんなを驚かせるつもりだったんだろう。

 

 それなのに、俺がこの格好で来てしまった。

 

(……ごめんな、ハナコ)

 

 まさか、こんなところで出番を奪ってしまうとは。

 

 しかも、今回は以前よりも手の込んだことを考えていたのかもしれない。

 

 ……いやぁ。

 

 悪いことしたなぁ。

 

「……ハナコさん?」

 

 俺は、そっと声をかけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「…………」

 

 ハナコが、ゆっくりと顔を上げた。

 

 そして。

 

「……ふふっ」

 

 いつもの笑みを浮かべた。

 

「……ええ。大丈夫ですよ、ナギサさん♡」

 

 ……よかった。

 

 元気そうだな。

 

 ……ただ。

 

 何だか、まだ少し顔が赤い気もする。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「……ふふっ。もちろんです♡」

 

 ハナコが、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ただ、少しだけ自信を失ってしまいまして……」

 

「……自信、ですか?」

 

「はい♡」

 

 ハナコが、少し寂しそうな表情を作った。

 

「私、まだまだ修行が足りなかったみたいです……」

 

(……何の修行だよ)

 

 ……まあ。

 

 言いたいことは分かるけどさ。

 

「せっかく、皆さんを驚かせようと思っていたのに……」

 

 ハナコは、ちらりと俺の格好を見つめた。

 

「まさか、ナギサさんがこんなに大胆なお姿で登場されるなんて……♡」

 

 ……ふふっ。

 

 すっかり、いつものハナコだな。

 

「もう、一本取られてしまいました♡」

 

「……あはは。それは、申し訳ありませんでした」

 

「……ふふっ。いいんですよ?」

 

 ハナコが、にっこりと微笑んだ。

 

「むしろ、勉強になりました。私も、まだまだですね♡」

 

 ……うん。

 

 なかなか前向きだなぁ。

 

「それにしても……」

 

「……はい?」

 

 ハナコが、楽しそうに目を細めた。

 

「濡れた髪も、水着も、とてもよくお似合いですよ♡」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「ですが、ハナコさん」

 

「……はい?♡」

 

「そんなに驚かれるとは思いませんでした」

 

「……あら」

 

 ハナコが、少しだけ目を瞬かせた。

 

「ふふっ。以前は、ナギサさんの方が驚いていらっしゃったじゃありませんか♡」

 

「……ああ、あの時ですか」

 

 シスターフッドの帰り道で、ハナコと出会った時のことだな。

 

 ……いやぁ。

 

 懐かしいなぁ。

 

「あの時は、プールでもない場所を水着で歩いていらっしゃいましたからね」

 

「……ふふっ。そうでしたね♡」

 

「ですが、今回は持ち物に水着と書いてありましたから」

 

 俺は、自分の格好を見下ろした。

 

「ふふっ。案外、平気なものですね」

 

「……あら♡」

 

 ハナコが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ナギサさんにも、ようやく良さが分かっていただけたんですね♡」

 

「……あはは。少しだけですけどね」

 

 ……まあ。

 

 着替える時間がなかっただけなんだけどさ。

 

「それに、ハナコさんは普段から堂々としていらっしゃいますからね」

 

「……あら?」

 

「私も、ハナコさんのそういうところは素敵だと思っていますよ」

 

「…………っ」

 

 ハナコが、一瞬だけ黙った。

 

 そして、わずかに視線を逸らす。

 

「……ふふっ」

 

 いつもの笑みを浮かべたけれど。

 

 その頬は、また少し赤くなっていた。

 

「……もう。ナギサさんったら♡」

 

「……はい?」

 

「そんなふうに褒められてしまったら、ますます調子に乗ってしまいますよ?♡」

 

「ふふっ。それは楽しみですね」

 

 ……うん。

 

 やっぱり、ハナコとの会話は楽しいな。

 

「……ちょっと、ハナコ!」

 

 すると、コハルが顔を赤くして声を上げた。

 

「ナギサ様に、何を言ってるのよ!」

 

「……あら、コハルちゃん」

 

 ハナコが、楽しそうに振り向いた。

 

「でも、先ほどナギサさんにも死刑を宣告していましたよね?♡」

 

「……っ!?」

 

「そ、それは……!」

 

「……ふふっ。私とナギサさん、二人揃って死刑だなんて……」

 

 ハナコが、嬉しそうに手を合わせた。

 

「まるでカップル……いえ、夫婦みたいですね♡」

 

「なっ……!?」

 

「二人仲良く、獄中生活……ふふっ♡」

 

「ご、獄中で二人きりで何するつもりよ!?」

 

 コハルが、顔を真っ赤にした。

 

「……あら?」

 

 ハナコが、不思議そうに首を傾げた。

 

「コハルちゃんは、何を想像したんですか?♡」

 

「……え?」

 

「私たち、ただ一緒に服役するだけですよ?♡」

 

「なっ……!?」

 

「べ、別に変なことなんて想像してないわよ!!」

 

「……ふふっ。そうなんですか?♡」

 

 …………。

 

(……いや、水着で服役って何だよ)

 

 ……ふふっ。

 

 相変わらず面白いなぁ。

 

「……それにしても、ナギサさん♡」

 

「……はい?」

 

「ナギサさんと同じ判決を受けられるなんて、私、とっても嬉しいです♡」

 

「ふふっ。それは光栄ですね」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「ですが、できれば無罪の方が嬉しいですね」

 

「……あら。それは残念です♡」

 

 ハナコが、少しだけ首を傾げた。

 

「では、二人で無罪を勝ち取って、一緒に帰りましょうか?♡」

 

「ふふっ。それはいいですね」

 

「……もう!!」

 

 コハルが、頭を抱えた。

 

「二人とも、何なんですかぁ!!」

 

 …………。

 

(……完全復活したな、ハナコ)

 

 ……よかった、よかった。

 

 まあ、今度はコハルが大変そうだけどさ。

 

「……あ、あの!」

 

 すると、ヒフミが、おずおずと手を上げた。

 

「そ、そろそろ、合宿を始めませんか……?」

 

 ……あっ。

 

 そうだった。

 

(……すっかり話し込んじゃったな)

 

「……そうですね」

 

 俺は、軽く咳払いをした。

 

「では、皆さん。そろそろ始めましょうか」

 

「……はい!」

 

 ヒフミが、元気よく頷いた。

 

「……分かりました!」

 

 コハルも、ようやく落ち着いたようだ。

 

「……了解した」

 

 アズサが、静かに頷く。

 

「……ふふっ。楽しみですね♡」

 

 ハナコも、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。

 

 ……よし。

 

 それじゃあ。

 

 そろそろ、ご褒美の時間といこうか。

 

 

     ◇

 

 

「……さて、皆さん」

 

 俺は、四人を見渡した。

 

「昨日、お約束したご褒美についてですが……」

 

「……あっ!」

 

 ヒフミが、ぱっと顔を上げた。

 

「そうでした! ナギサ様、ご褒美って何なんですか?」

 

「ふふっ。気になりますか?」

 

「……はい!」

 

「……私も気になっていました」

 

 コハルも、期待するような目を向けてきた。

 

「……何をするんだ?」

 

 アズサが、首を傾げる。

 

「……ふふっ」

 

 ハナコも、楽しそうに微笑んだ。

 

「私も、昨日から楽しみにしていたんですよ?♡」

 

 ……うん。

 

 みんな、期待してくれているみたいだな。

 

「それでは、発表しますね」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「本日の合宿ですが……」

 

 …………。

 

「勉強は、しません」

 

 …………。

 

「…………え?」

 

 ヒフミが、目を瞬かせた。

 

「……べ、勉強をしないんですか?」

 

「ええ」

 

 俺は、頷いた。

 

「今日は一日、皆さんで遊びましょう!」

 

 …………。

 

「……ええええっ!?」

 

 ……うん。

 

 いい反応だなぁ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、ナギサ様!」

 

 コハルが、慌てて声を上げた。

 

「わ、私たちは試験に落ちてしまったんですよ!?」

 

「ええ。もちろん、分かっていますよ」

 

「で、でしたら、勉強しなくてよろしいのでしょうか……?」

 

 ……うん。

 

 コハルらしいなぁ。

 

 でも。

 

(……十分、頑張ってるんだよな)

 

 ヒフミも、コハルも、アズサも。

 

 今回は、原作より早い段階から勉強を始めている。

 

 その成果も、ちゃんと点数に表れていた。

 

 ……そして。

 

(……ハナコも、100点だったしな)

 

 みんな、本当によく頑張ってる。

 

 だったら。

 

(……一日くらい、思いっきり遊んでもいいだろ)

 

「もちろん、明日からはしっかり勉強していただきますよ?」

 

「……あ、明日から……?」

 

「ええ」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「先生にも相談して、今日の予定は調整してあります」

 

「これまで、皆さんは一生懸命勉強してきましたから」

 

 俺は、四人を見渡した。

 

「今日は、少しだけお勉強のことを忘れて、楽しんでいただきたいんです」

 

「……ナギサ様……!」

 

 ヒフミが、目を輝かせた。

 

「そ、それじゃあ、本当に今日は遊んでもいいんですか!?」

 

「もちろんです」

 

「……や、やったぁ!」

 

 ……うん。

 

 喜んでくれているみたいだな。

 

「……遊ぶ、か」

 

 アズサが、小さく呟いた。

 

 そして、少し考え込む。

 

「……何をするんだ?」

 

「ふふっ。それも、今からご案内しますね」

 

「……あら」

 

 ハナコが、楽しそうに微笑んだ。

 

「では、これがナギサさんからのご褒美なんですね?♡」

 

「ええ」

 

 俺は、頷いた。

 

「実は、以前から準備していたんです」

 

「……まあ。そうだったんですね♡」

 

「皆さん、これまで本当によく頑張っていらっしゃいましたから」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「今日くらいは、思いっきり楽しんでいただきたくて」

 

「……ふふっ」

 

 ハナコが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます、ナギサさん♡」

 

 ……うん。

 

 喜んでもらえてよかった。

 

「さて。それでは、皆さん」

 

 俺は、扉の方へ視線を向けた。

 

「昨日のプリントに、水着を持ってくるよう書いてありましたよね?」

 

「……あっ!」

 

 ヒフミが、声を上げた。

 

「も、もしかして……!」

 

「ふふっ」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「はい。今日は、皆さんでプールを楽しみましょう!」

 

 …………。

 

「……プール!?」

 

 コハルが、目を丸くした。

 

「……なるほど」

 

 アズサが、納得したように頷く。

 

「……だから、水着が必要だったのか」

 

「……えっ!?」

 

 ヒフミが、驚いたように声を上げた。

 

「で、でも、プールの準備は……?」

 

「ふふっ。ご安心ください」

 

 俺は、微笑んだ。

 

「既にお掃除も終わっていますし、すぐに遊べるようになっていますよ」

 

「……わぁ!」

 

 ヒフミが、嬉しそうに手を合わせた。

 

「ありがとうございます、ナギサ様!」

 

「ふふっ。どういたしまして」

 

 ……うん。

 

 喜んでくれてよかった。

 

(……昨日、頑張った甲斐があったな)

 

 それにしても。

 

 原作では、みんなでプールを掃除していたんだよな。

 

 だから、今回もそうしてもよかったんだけど。

 

(……いやいや。勉強を頑張ってる子たちに、あの広いプールまで掃除させるとか、ないわ~)

 

 ……うん。

 

 やっぱり、遊んでもらう方がいいよな。

 

 そのために、昨日は色々と頑張ったわけだし。

 

(……まさか、あんなことになるとは思わなかったけどな)

 

 昨日のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれる。

 

 ……まあ。

 

 その話は、また別として。

 

「それでは、皆さん!」

 

 俺は、四人を見渡した。

 

「今日は勉強のことを忘れて、思いっきり楽しみましょう!」

 

「……はいっ!」

 

 ヒフミが、元気よく答えた。

 

「……分かりました!」

 

 コハルも、嬉しそうに頷く。

 

「……ああ」

 

 アズサが、静かに頷いた。

 

「……楽しみにしている」

 

「……ふふっ」

 

 ハナコが、こちらを見つめた。

 

「ナギサさんからのご褒美……存分に楽しませていただきますね♡」

 

「ええ。もちろんですよ」

 

 ……よし。

 

 せっかくの合宿初日。

 

 勉強も大事だけど、楽しい思い出だって同じくらい大切だ。

 

 ……だから。

 

(……今日は、みんなで思いっきり遊ぼう!)




最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は、ハナコの水着作戦がまさかの逆転劇に!

以前は水着姿でナギを困らせていたハナコですが、今回は逆に、自分が困ってしまうことになりました。

しかも、ナギ本人にはまったくその自覚がありません。

果たして、ハナコは次こそナギをからかうことができるのでしょうか……?

ちなみに、今回ナギが着ているのはスクール水着です!

原作でナギサが着ていた水着も考えたのですが、ナギ本人が恥ずかしがって断固拒否しました。

……ハナコが知ったら、どんな反応をするんでしょうね。

そして、いよいよ強化合宿が始まります!

まさかの初日は勉強なし。

次回は、プールを準備した裏側と、補習授業部の水遊びをお届けする予定です!

引き続きよろしくお願いします!
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