前回、補習授業部の第一次試験が終わり、いよいよ強化合宿が始まります!
そして、持ち物一覧に書かれていた「水着」の文字。
それを見たハナコは、何やら思いついたようで……。
今回は、ハナコ視点から始まります!
――前日の夜。
「……あら?」
机の上に広げた一枚のプリント。
そこに書かれていた持ち物を見て、私は思わず首を傾げました。
「……水着?」
明日から始まる、補習授業部の強化合宿。
その持ち物一覧に、確かにそう書かれています。
「……ふふっ」
なるほど。
どうやら、明日は思っていた以上に楽しい一日になりそうですね。
……それにしても。
(……今日は、本当に嬉しかったですね)
第一次試験。
私の結果は、100点。
満点でした。
……まあ。
点数そのものは、それほど重要ではありません。
ですが、今回はどうしても満点を取りたかったんです。
……だって。
(……ナギサさんに、褒めていただきたかったですから)
ふふっ。
以前の私なら、こんなことを考えるなんて、思いもしなかったでしょうね。
でも、今は。
誰かに褒めてもらうために努力するのも、悪くないと思えるんです。
……そして。
実際に、褒めていただけました。
ただ。
(……あれは、少し反則ですよね)
「ご自分で目標を決めて、そのために努力されたことが、私は何より嬉しいです」
…………。
「…………」
……ああ。
思い出しただけで、頬が熱くなってきました。
もう。
あんなふうに、まっすぐ目を見つめられて。
あんなに優しく褒められてしまったら。
(……照れてしまうに決まっているじゃありませんか)
しかも。
私が照れていることに気づいた途端、今度は楽しそうにからかってくるんです。
……本当に。
(……いじわるな方ですね)
ですが。
そんなところも、嫌いではありません。
むしろ。
もっと色々なお顔を見てみたいと思ってしまうんです。
……ふふっ。
(……明日は、少しくらいお返しをしたいですね♡)
私は、もう一度プリントへ視線を落としました。
そこには、明日の集合時間と場所。
そして。
水着の文字。
「……ふふっ」
そういえば。
以前も、ナギサさんの前に水着姿で現れたことがありましたね。
あの時は、シスターフッドからお帰りになるところでしたっけ。
「今日は、ずいぶん涼しげな格好ですね」
…………。
ふふっ。
あの時の、少し困ったようなお顔。
今思い出しても、可愛らしかったですね。
最後には、何か羽織ってくるように言われてしまいましたけれど。
……でも。
(……今回は、どうでしょう?♡)
以前とは違って、私たちは随分と仲良くなれたと思っています。
それに、今回はちゃんと水着が必要な場所。
これなら、ナギサさんも文句はおっしゃれませんよね?
……ふふっ。
でしたら。
(……最初から、水着で集合してしまいましょうか♡)
普通なら、持っていって現地で着替えるところですが。
それでは、少々面白みに欠けます。
以前と同じように困ったお顔をされるのでしょうか。
それとも、今度は平然と受け止められてしまうのでしょうか。
どちらでも、楽しそうですね。
それに。
コハルちゃんも、きっと素敵な反応をしてくださるでしょう。
(……ふふっ。これは楽しみですね♡)
よし。
決めました。
明日は、こちらから仕掛けてみましょう。
「……ふふっ。覚悟してくださいね、ナギサさん♡」
◇
――翌日、午前九時五十分。
「……ふふっ」
私は、軽い足取りで合宿所へと向かっていました。
準備は万全です。
持ち物も、すべて確認しました。
そして、もちろん。
(……水着も、ばっちりです♡)
選んだのは、以前と同じスクール水着。
今は上から羽織り物を着ていますが、集合場所に着いたら脱ぐつもりです。
……さて。
ナギサさんは、どんな反応をしてくださるのでしょうか。
「……ハナコさん。またその格好ですか?」
……ふふっ。
そんなふうに、少し呆れたお顔をされるのでしょうか。
それとも、以前とは違って、余裕たっぷりに微笑まれるのでしょうか。
どちらでも構いません。
ナギサさんの反応を見られるだけで、十分楽しいですから。
そんなことを考えているうちに、集合場所が見えてきました。
「……あっ! ハナコちゃん!」
ヒフミさんの声です。
どうやら、皆さんは既に到着しているようですね。
「おはようございます、皆さん♡」
「おはようございます!」
「……おはよう、ハナコ」
アズサさんも、軽く手を上げてくれました。
「おはよう。……って、ハナコ?」
コハルちゃんが、こちらをじっと見つめています。
「……何、その格好?」
「……あら?」
ふふっ。
どうやら、気づいてくださったようですね。
「実は、少し早めに準備してきたんです♡」
私は、羽織り物を脱ぎました。
「…………」
「……は?」
コハルちゃんが、目を丸くしました。
「……な、な、な……!」
「……ふふっ。どうでしょう、コハルちゃん?」
私は、その場でくるりと一回転しました。
「似合っていますか?♡」
「……エ」
…………。
「エッチなのはダメ! 死刑!!」
……あらあら。
予想どおりの反応ですね。
「……ふふっ。困りましたね。まだ何もしていないのですが♡」
「してるでしょ!? 何で最初から水着なのよ!!」
「だって、持ち物に書いてありましたから」
「だからって、普通は現地で着替えるでしょ!?」
「……あら。そうでしょうか?」
私は、少し首を傾げました。
「それでしたら、コハルちゃんも今から着替えてみませんか?♡」
「な、何で私まで!?」
「……ふふっ。きっと、とても可愛らしいと思いますよ?」
「なっ……!?」
コハルちゃんの顔が、真っ赤になりました。
「そ、そういう問題じゃないでしょ!!」
……ふふっ。
相変わらず、可愛らしいですね。
「……ハナコちゃん」
ヒフミさんが、困ったように微笑みました。
「さすがに、少し早すぎませんか?」
「……あら。そうでしょうか?」
「え、えっと……水着を使うのは、もう少し後かもしれませんし……」
「……ふふっ。大丈夫ですよ」
私は、微笑みました。
「準備が早くて困ることはありませんから♡」
「……合理的だと思う」
すると、アズサさんが静かに頷きました。
「……え?」
コハルちゃんが、驚いたように振り向きます。
「アズサ!? あなたまで何言ってるの!?」
「……持ち物に水着があるなら、いずれ使うはずだ」
「そ、それはそうだけど!」
「……先に着替えておけば、その時間を節約できる」
「ち、違うの! そういうことじゃないのよ!」
……ああ。
何だか、いつもの補習授業部という感じですね。
ふふっ。
楽しいです。
「……それにしても」
私は、周囲を見渡しました。
「ナギサさんは、まだいらしていないんですね?」
「……そうですね」
ヒフミさんが、時計に目を向けました。
「そろそろ集合時間ですけど……」
それでしたら、好都合ですね。
(……ナギサさんがいらしたら、最初にお出迎えしましょうか♡)
「……ハナコ」
「……はい?」
アズサさんが、私を見つめていました。
「……どうして、そんなに嬉しそうなんだ?」
「……あら」
ふふっ。
鋭いですね。
「……そうですねぇ」
私は、少し考えるふりをしました。
「今日は、楽しいことが起こりそうな気がするんです♡」
「……そうか」
アズサさんが、真剣な表情で頷きました。
「……それなら、いいことだな」
……ふふっ。
やっぱり、アズサさんも可愛らしいですね。
と。
「……あっ!」
ヒフミさんが、何かに気づいたように顔を上げました。
「皆さん! ナギサ様がいらっしゃいました!」
……ついに、ですね。
私は、自然と笑みを浮かべました。
(……ふふっ。さあ、ナギサさん。今日はどんなお顔を見せてくださるのでしょうか?♡)
あとは、ナギサさんの反応を楽しむだけ。
……そう思っていたのですが。
「……皆さん! 申し訳ありません!」
聞き慣れた声が、少し離れたところから聞こえてきました。
「少々、用事が長引いてしまいまして……!」
……あら。
何かあったのでしょうか。
私は、期待を込めて振り向きました。
そして。
「…………」
…………。
(…………はい?)
そこにいたのは。
「……ふぅ。何とか間に合いましたね……」
濡れた髪。
肩に掛けられたタオル。
そして。
……水着。
…………。
(…………え?)
……水着?
ええ。
水着ですね。
しかも、まだ髪から水滴が落ちています。
…………。
(……あ、あれ?)
おかしいですね。
今日は、私がナギサさんをからかう予定だったはずです。
それなのに。
(……な、何なんですか、そのお姿は……!)
……いえ。
水着自体は、別に珍しいものではありません。
私だって、今まさに着ているわけですし。
ですが。
濡れた髪を指先で軽く払って。
肩に掛けたタオルで、首元の水滴を拭いながら。
いつもと変わらない、あの柔らかな笑顔を浮かべているナギサさん。
…………。
(……っ!)
思わず、目を逸らしてしまいました。
……いえ。
別に、恥ずかしいわけではありません。
ただ、少し予想外だっただけです。
……そのはずなのに。
(……どうして、こんなにドキドキしているんでしょう……)
「……ナ、ナギサ様!?」
ヒフミさんが、驚いた声を上げました。
「……あら、皆さん」
ナギサさんが、私たちを見つけて微笑みます。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「い、いえ! それは大丈夫ですけど……!」
ヒフミさんが、視線を泳がせました。
「そ、その格好は……!?」
「ああ、こちらですか?」
ナギサさんが、ご自分の水着を見下ろしました。
「すみません。着替える時間がなくなってしまいまして……」
そして、少し困ったように笑います。
「仕方なく、このまま来てしまいました」
…………。
(……仕方なく、ですか)
なるほど。
つまり、私を驚かせるつもりは、まったくなかったんですね。
……それなのに。
(……もう。本当に、ずるい方です……)
「……な」
すると、コハルちゃんが震え始めました。
「……な、な、ナギサ様……!?」
「……はい?」
「そ、その……! み、水着……!」
「……ええ?」
ナギサさんが、不思議そうに首を傾げました。
…………。
あっ。
これは。
「エッチなのはダメ! 死刑!!」
…………。
「……えっ!?」
ナギサさんが、目を丸くしました。
「わ、私がですか!?」
……あらあら。
本日二度目の死刑宣告ですね。
しかも、今度の相手はティーパーティーのホストですよ?
「……っ!?」
コハルちゃんが、はっと口元を押さえました。
「……あっ!?」
「ち、違うんです、ナギサ様!!」
「……え?」
「い、今のは、その……!」
コハルちゃんが、必死に両手を振ります。
「条件反射なんです!!」
「……条件反射、ですか?」
「は、はい!!」
……あらあら。
随分と恐ろしい条件反射ですね。
「……コハルちゃん!」
ヒフミさんが、慌てて声を上げました。
「ナギサ様に死刑だなんて、何を言ってるんですか!?」
「わ、分かってるわよ!!」
コハルちゃんの顔が、真っ赤になりました。
「わざとじゃないの!!」
「もう、コハルちゃん。落ち着いてください!」
ヒフミさんが、コハルちゃんの肩にそっと手を置きました。
「ナギサ様も驚いていらっしゃいますから……」
「……は、はい……!」
「……なるほど」
アズサさんが、静かに頷きました。
「……コハルは、相手によって判断を変えないんだな」
「変えていいのよ、こういう時は!!」
…………。
……ふふっ。
いつもなら、ここで私も加わっていたでしょう。
コハルちゃんをからかって。
ナギサさんの困ったお顔を楽しんで。
そして、また少しだけ大胆なことを言ってみたりして。
……ですが。
(……今日は、ちょっと無理かもしれません……)
どうしても、視線がナギサさんへ向いてしまうんです。
濡れた髪。
いつもより少しだけ無防備に見える仕草。
そして、変わらない優しい笑顔。
…………。
(……ああ、もう……!)
以前は、あんなに困っていらっしゃったのに。
今度は、ご自分が水着姿で登場されるなんて。
……本当に。
何を考えていらっしゃるんでしょう。
…………。
「……あっ、ハナコさん」
「……っ!?」
突然名前を呼ばれ、思わず肩が跳ねました。
「も、もう……ナギサさん♡」
私は、何とかいつもの笑みを浮かべます。
「随分と大胆なお姿ですね?♡」
「ふふっ。着替える時間がなくなってしまいまして」
ナギサさんが、少し困ったように笑いました。
…………。
……ああ。
そんなふうに笑わないでください。
「それにしても、ハナコさん」
「……は、はい?」
「以前も、その水着をお召しになっていましたよね」
…………。
(……え?)
「……覚えていてくださったんですか?」
「ええ。もちろんですよ」
ナギサさんが、微笑みました。
「以前は、場所が場所でしたから、ついあんな言い方をしてしまいましたが……」
そして。
「とてもよくお似合いでしたからね」
…………。
…………。
(…………え?)
…………。
……ちょっと。
待ってください。
以前の、あの水着姿を。
覚えていてくださって。
それで。
(……に、似合っていたって……!)
…………。
「……ハナコさん?」
「……あ、あの……」
何か。
何か返さないと。
いつものように、少しからかって。
ナギサさんの困ったお顔を……。
…………。
(……無理です……!)
だって。
あんなに自然に。
まるで、当たり前のことのように。
そんな言葉を向けられてしまったら。
…………。
「……あ、ありがとう……ございます……」
…………。
ああ。
駄目です。
これでは、まるで。
……まるで、本当に照れているみたいじゃありませんか。
…………。
(……いえ、実際に照れているんですけど……!)
もう。
本当に。
(……反則じゃありませんか……!)
私は、思わず両手で顔を覆いました。
「……えっ!? ハナコちゃん!?」
ヒフミさんが、驚いた声を上げました。
「ど、どうしたんですか!? 顔が赤いですよ!?」
「……ハナコ?」
アズサさんも、不思議そうに首を傾げました。
「……体調が悪いのか?」
「ちょ、ちょっと! 今度は何なのよ!?」
コハルちゃんの声も聞こえてきます。
…………。
……ああ。
皆さん、心配してくださっているんですね。
普段なら、ここで少しからかってみるところですが。
今は。
今だけは。
…………。
へなへなへな……。
膝から力が抜けていきました。
「……ハナコさん!?」
ナギサさんが、慌てて近づいてきます。
「だ、大丈夫ですか!? 気分でも悪くなりましたか!?」
…………。
……もう。
そんなに心配そうなお顔までされてしまったら。
これ以上、どうしたらいいんですか。
私は、床に両手をついたまま。
静かに項垂れました。
…………。
「……負けました」
◇
(……負けました、か)
俺は、目の前で崩れ落ちているハナコを見つめた。
そして、彼女の格好に目を向ける。
……水着。
…………。
ああ。
(……そういうことか)
ハナコのことだ。
きっと、最初から水着で現れて、みんなを驚かせるつもりだったんだろう。
それなのに、俺がこの格好で来てしまった。
(……ごめんな、ハナコ)
まさか、こんなところで出番を奪ってしまうとは。
しかも、今回は以前よりも手の込んだことを考えていたのかもしれない。
……いやぁ。
悪いことしたなぁ。
「……ハナコさん?」
俺は、そっと声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「…………」
ハナコが、ゆっくりと顔を上げた。
そして。
「……ふふっ」
いつもの笑みを浮かべた。
「……ええ。大丈夫ですよ、ナギサさん♡」
……よかった。
元気そうだな。
……ただ。
何だか、まだ少し顔が赤い気もする。
「本当に大丈夫ですか?」
「……ふふっ。もちろんです♡」
ハナコが、ゆっくりと立ち上がった。
「ただ、少しだけ自信を失ってしまいまして……」
「……自信、ですか?」
「はい♡」
ハナコが、少し寂しそうな表情を作った。
「私、まだまだ修行が足りなかったみたいです……」
(……何の修行だよ)
……まあ。
言いたいことは分かるけどさ。
「せっかく、皆さんを驚かせようと思っていたのに……」
ハナコは、ちらりと俺の格好を見つめた。
「まさか、ナギサさんがこんなに大胆なお姿で登場されるなんて……♡」
……ふふっ。
すっかり、いつものハナコだな。
「もう、一本取られてしまいました♡」
「……あはは。それは、申し訳ありませんでした」
「……ふふっ。いいんですよ?」
ハナコが、にっこりと微笑んだ。
「むしろ、勉強になりました。私も、まだまだですね♡」
……うん。
なかなか前向きだなぁ。
「それにしても……」
「……はい?」
ハナコが、楽しそうに目を細めた。
「濡れた髪も、水着も、とてもよくお似合いですよ♡」
「ふふっ。ありがとうございます」
俺は、微笑んだ。
「ですが、ハナコさん」
「……はい?♡」
「そんなに驚かれるとは思いませんでした」
「……あら」
ハナコが、少しだけ目を瞬かせた。
「ふふっ。以前は、ナギサさんの方が驚いていらっしゃったじゃありませんか♡」
「……ああ、あの時ですか」
シスターフッドの帰り道で、ハナコと出会った時のことだな。
……いやぁ。
懐かしいなぁ。
「あの時は、プールでもない場所を水着で歩いていらっしゃいましたからね」
「……ふふっ。そうでしたね♡」
「ですが、今回は持ち物に水着と書いてありましたから」
俺は、自分の格好を見下ろした。
「ふふっ。案外、平気なものですね」
「……あら♡」
ハナコが、嬉しそうに微笑んだ。
「ナギサさんにも、ようやく良さが分かっていただけたんですね♡」
「……あはは。少しだけですけどね」
……まあ。
着替える時間がなかっただけなんだけどさ。
「それに、ハナコさんは普段から堂々としていらっしゃいますからね」
「……あら?」
「私も、ハナコさんのそういうところは素敵だと思っていますよ」
「…………っ」
ハナコが、一瞬だけ黙った。
そして、わずかに視線を逸らす。
「……ふふっ」
いつもの笑みを浮かべたけれど。
その頬は、また少し赤くなっていた。
「……もう。ナギサさんったら♡」
「……はい?」
「そんなふうに褒められてしまったら、ますます調子に乗ってしまいますよ?♡」
「ふふっ。それは楽しみですね」
……うん。
やっぱり、ハナコとの会話は楽しいな。
「……ちょっと、ハナコ!」
すると、コハルが顔を赤くして声を上げた。
「ナギサ様に、何を言ってるのよ!」
「……あら、コハルちゃん」
ハナコが、楽しそうに振り向いた。
「でも、先ほどナギサさんにも死刑を宣告していましたよね?♡」
「……っ!?」
「そ、それは……!」
「……ふふっ。私とナギサさん、二人揃って死刑だなんて……」
ハナコが、嬉しそうに手を合わせた。
「まるでカップル……いえ、夫婦みたいですね♡」
「なっ……!?」
「二人仲良く、獄中生活……ふふっ♡」
「ご、獄中で二人きりで何するつもりよ!?」
コハルが、顔を真っ赤にした。
「……あら?」
ハナコが、不思議そうに首を傾げた。
「コハルちゃんは、何を想像したんですか?♡」
「……え?」
「私たち、ただ一緒に服役するだけですよ?♡」
「なっ……!?」
「べ、別に変なことなんて想像してないわよ!!」
「……ふふっ。そうなんですか?♡」
…………。
(……いや、水着で服役って何だよ)
……ふふっ。
相変わらず面白いなぁ。
「……それにしても、ナギサさん♡」
「……はい?」
「ナギサさんと同じ判決を受けられるなんて、私、とっても嬉しいです♡」
「ふふっ。それは光栄ですね」
俺は、微笑んだ。
「ですが、できれば無罪の方が嬉しいですね」
「……あら。それは残念です♡」
ハナコが、少しだけ首を傾げた。
「では、二人で無罪を勝ち取って、一緒に帰りましょうか?♡」
「ふふっ。それはいいですね」
「……もう!!」
コハルが、頭を抱えた。
「二人とも、何なんですかぁ!!」
…………。
(……完全復活したな、ハナコ)
……よかった、よかった。
まあ、今度はコハルが大変そうだけどさ。
「……あ、あの!」
すると、ヒフミが、おずおずと手を上げた。
「そ、そろそろ、合宿を始めませんか……?」
……あっ。
そうだった。
(……すっかり話し込んじゃったな)
「……そうですね」
俺は、軽く咳払いをした。
「では、皆さん。そろそろ始めましょうか」
「……はい!」
ヒフミが、元気よく頷いた。
「……分かりました!」
コハルも、ようやく落ち着いたようだ。
「……了解した」
アズサが、静かに頷く。
「……ふふっ。楽しみですね♡」
ハナコも、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。
……よし。
それじゃあ。
そろそろ、ご褒美の時間といこうか。
◇
「……さて、皆さん」
俺は、四人を見渡した。
「昨日、お約束したご褒美についてですが……」
「……あっ!」
ヒフミが、ぱっと顔を上げた。
「そうでした! ナギサ様、ご褒美って何なんですか?」
「ふふっ。気になりますか?」
「……はい!」
「……私も気になっていました」
コハルも、期待するような目を向けてきた。
「……何をするんだ?」
アズサが、首を傾げる。
「……ふふっ」
ハナコも、楽しそうに微笑んだ。
「私も、昨日から楽しみにしていたんですよ?♡」
……うん。
みんな、期待してくれているみたいだな。
「それでは、発表しますね」
俺は、微笑んだ。
「本日の合宿ですが……」
…………。
「勉強は、しません」
…………。
「…………え?」
ヒフミが、目を瞬かせた。
「……べ、勉強をしないんですか?」
「ええ」
俺は、頷いた。
「今日は一日、皆さんで遊びましょう!」
…………。
「……ええええっ!?」
……うん。
いい反応だなぁ。
「ちょ、ちょっと待ってください、ナギサ様!」
コハルが、慌てて声を上げた。
「わ、私たちは試験に落ちてしまったんですよ!?」
「ええ。もちろん、分かっていますよ」
「で、でしたら、勉強しなくてよろしいのでしょうか……?」
……うん。
コハルらしいなぁ。
でも。
(……十分、頑張ってるんだよな)
ヒフミも、コハルも、アズサも。
今回は、原作より早い段階から勉強を始めている。
その成果も、ちゃんと点数に表れていた。
……そして。
(……ハナコも、100点だったしな)
みんな、本当によく頑張ってる。
だったら。
(……一日くらい、思いっきり遊んでもいいだろ)
「もちろん、明日からはしっかり勉強していただきますよ?」
「……あ、明日から……?」
「ええ」
俺は、微笑んだ。
「先生にも相談して、今日の予定は調整してあります」
「これまで、皆さんは一生懸命勉強してきましたから」
俺は、四人を見渡した。
「今日は、少しだけお勉強のことを忘れて、楽しんでいただきたいんです」
「……ナギサ様……!」
ヒフミが、目を輝かせた。
「そ、それじゃあ、本当に今日は遊んでもいいんですか!?」
「もちろんです」
「……や、やったぁ!」
……うん。
喜んでくれているみたいだな。
「……遊ぶ、か」
アズサが、小さく呟いた。
そして、少し考え込む。
「……何をするんだ?」
「ふふっ。それも、今からご案内しますね」
「……あら」
ハナコが、楽しそうに微笑んだ。
「では、これがナギサさんからのご褒美なんですね?♡」
「ええ」
俺は、頷いた。
「実は、以前から準備していたんです」
「……まあ。そうだったんですね♡」
「皆さん、これまで本当によく頑張っていらっしゃいましたから」
俺は、微笑んだ。
「今日くらいは、思いっきり楽しんでいただきたくて」
「……ふふっ」
ハナコが、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます、ナギサさん♡」
……うん。
喜んでもらえてよかった。
「さて。それでは、皆さん」
俺は、扉の方へ視線を向けた。
「昨日のプリントに、水着を持ってくるよう書いてありましたよね?」
「……あっ!」
ヒフミが、声を上げた。
「も、もしかして……!」
「ふふっ」
俺は、微笑んだ。
「はい。今日は、皆さんでプールを楽しみましょう!」
…………。
「……プール!?」
コハルが、目を丸くした。
「……なるほど」
アズサが、納得したように頷く。
「……だから、水着が必要だったのか」
「……えっ!?」
ヒフミが、驚いたように声を上げた。
「で、でも、プールの準備は……?」
「ふふっ。ご安心ください」
俺は、微笑んだ。
「既にお掃除も終わっていますし、すぐに遊べるようになっていますよ」
「……わぁ!」
ヒフミが、嬉しそうに手を合わせた。
「ありがとうございます、ナギサ様!」
「ふふっ。どういたしまして」
……うん。
喜んでくれてよかった。
(……昨日、頑張った甲斐があったな)
それにしても。
原作では、みんなでプールを掃除していたんだよな。
だから、今回もそうしてもよかったんだけど。
(……いやいや。勉強を頑張ってる子たちに、あの広いプールまで掃除させるとか、ないわ~)
……うん。
やっぱり、遊んでもらう方がいいよな。
そのために、昨日は色々と頑張ったわけだし。
(……まさか、あんなことになるとは思わなかったけどな)
昨日のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれる。
……まあ。
その話は、また別として。
「それでは、皆さん!」
俺は、四人を見渡した。
「今日は勉強のことを忘れて、思いっきり楽しみましょう!」
「……はいっ!」
ヒフミが、元気よく答えた。
「……分かりました!」
コハルも、嬉しそうに頷く。
「……ああ」
アズサが、静かに頷いた。
「……楽しみにしている」
「……ふふっ」
ハナコが、こちらを見つめた。
「ナギサさんからのご褒美……存分に楽しませていただきますね♡」
「ええ。もちろんですよ」
……よし。
せっかくの合宿初日。
勉強も大事だけど、楽しい思い出だって同じくらい大切だ。
……だから。
(……今日は、みんなで思いっきり遊ぼう!)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ハナコの水着作戦がまさかの逆転劇に!
以前は水着姿でナギを困らせていたハナコですが、今回は逆に、自分が困ってしまうことになりました。
しかも、ナギ本人にはまったくその自覚がありません。
果たして、ハナコは次こそナギをからかうことができるのでしょうか……?
ちなみに、今回ナギが着ているのはスクール水着です!
原作でナギサが着ていた水着も考えたのですが、ナギ本人が恥ずかしがって断固拒否しました。
……ハナコが知ったら、どんな反応をするんでしょうね。
そして、いよいよ強化合宿が始まります!
まさかの初日は勉強なし。
次回は、プールを準備した裏側と、補習授業部の水遊びをお届けする予定です!
引き続きよろしくお願いします!