前回、ハナコの水着作戦は、まさかのナギの登場によって失敗に終わりました!
そして、いよいよ補習授業部のプール遊びが始まります!
今回は、プールを準備した裏側と、FOX小隊とのお話から始まります。
――話は、前日の夕方に遡る。
「……さて、どうしたものかな」
俺は、合宿所のプールを眺めながら、小さく呟いた。
…………。
広い。
ものすごく広い。
(……これ、掃除するの結構大変そうだなぁ)
実は、このプール。
原作でも、補習授業部のみんなが掃除するイベントがあった場所なんだ。
だから、今回も原作どおりに進めるという選択肢はあった。
……ただ。
(……いやいや。勉強を頑張ってる子たちに、あの広いプールまで掃除させるとか、ないわ~)
ただでさえ、試験に合格するために大変な思いをしているんだ。
そんな子たちに、わざわざ肉体労働までさせる必要はないだろう。
少なくとも、俺はそう思う。
ちなみに、合宿所の他の場所については、既に部下たちにお願いして掃除を終わらせてもらっている。
もちろん、頑張ってくれた部下たちには、ご褒美もちゃんと渡してある。
……ただ。
プールだけは、まだ手をつけていなかったんだ。
というのも。
今回の合宿は、あくまで勉強が目的。
だから部下たちも、プールを使う予定はないだろうと判断して、掃除の対象から外していたらしい。
……まあ。
(……普通、そう考えるよな)
俺だって、特に何も言っていなかったわけだし。
責めるようなことじゃない。
むしろ、必要な場所を優先して掃除してくれたんだから、十分ありがたい話だ。
……で。
以前から考えていた、合宿初日のプール遊び。
昨日、ハナコからご褒美の話が出たことで、ちょうどいい機会だと思ったんだ。
(……せっかくだし、みんなに思いっきり遊んでもらおう!)
先生とも相談して、初日は勉強をお休みにすることにした。
……となれば。
残る問題は、このプール。
(……掃除しないとなぁ)
というわけで。
今日は、FOX小隊にお願いして、夜の特訓をお休みにしてもらった。
その時間を使って、俺がプールを掃除することにしたんだ。
……うん。
まあ、何とかなるだろ。
「……ナギサ様」
すると、背後から声がかかった。
「……はい?」
振り向くと、そこにはユキノが立っていた。
その後ろには、ニコ、クルミ、オトギの三人もいる。
「本日の訓練は中止と伺いましたが」
「ええ。申し訳ありません。少し準備したいことがありまして」
俺は、手に持っていたブラシを軽く持ち上げた。
「今日は、こちらのお掃除をしようかと思っているんです」
「…………」
ユキノが、俺の手元を見つめた。
そして、プールへ視線を向ける。
「……お一人で、ですか?」
「ええ。そのつもりです」
「…………」
……あれ?
何だか、妙な沈黙が。
「ナギサ様」
「……はい?」
「この広さを、お一人で掃除されるおつもりですか?」
「……ええ」
俺は、頷いた。
「時間はかかるかもしれませんが、何とかなると思いますよ」
…………。
すると。
「……隊長」
ニコが、ユキノへ視線を向けた。
「これ、手伝った方がいいんじゃないかな?」
「……そうだな」
ユキノが、小さく頷いた。
「ナギサ様。私たちも手伝います」
「……えっ?」
いやいや。
それは、さすがに申し訳ないだろ。
「ですが、皆さんには、既に色々とお願いしていますし……」
「……ナギサ様」
ニコが、柔らかく微笑んだ。
「私たちも、何もせずに見ているだけというのは落ち着きませんから」
「そうそう!」
クルミも、腕を組んで頷いた。
「こんな広い場所、一人で掃除してたら夜が明けちゃうわよ!」
…………。
……いや。
それは、ちょっと大げさじゃないか?
……多分。
「プール掃除の任務だねぇ」
オトギが、楽しそうに笑った。
「たまには、こういうのもいいんじゃない?」
…………。
……ああ。
なんていい子たちなんだ。
「……ありがとうございます」
俺は、四人へ頭を下げた。
「では、お言葉に甘えさせていただきますね」
「承知しました」
ユキノが、頷いた。
そして。
「では、作業を分担します」
…………。
……うん。
さすが隊長。
掃除でも指揮を執るんだな。
◇
――それから、しばらくして。
ゴシゴシゴシッ!
「よーし! こっちはもう少し!」
クルミが、勢いよくブラシを動かしていた。
……いやぁ。
すごいなぁ。
俺も結構頑張ってるつもりなんだけど。
あの子、まったく疲れた様子がないぞ。
しかも、ただ力任せに磨いているわけじゃない。
汚れの残っている場所を見つけては、手際よく片づけている。
(……掃除、得意なんだなぁ)
「……クルミちゃん」
すると、ニコが声をかけた。
「……何?」
「そっち、もうほとんど終わってるんじゃないかな?」
「そうよ。だから、最後にもう一回磨いてるの!」
「……なるほどね」
ニコが、感心したように頷いた。
「本当に綺麗になってる」
「当然でしょ!」
クルミが、得意そうに胸を張った。
「やるからには、徹底的にやらないと!」
…………。
……うん。
頼もしいなぁ。
「クルミさん、すごいですね」
俺が声をかけると、クルミがこちらを向いた。
「……え?」
「私が磨いたところより、ずっと綺麗になっています」
「そ、そんなこと……」
クルミが、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
そして。
「ま、まあ! これくらい当然よ!」
…………。
「……あはは!」
オトギが、楽しそうに笑った。
「クルミ、褒められて嬉しそうだねぇ」
「べ、別に普通でしょ!」
「そうかなぁ?」
「そうよ!!」
…………。
……ふふっ。
何だか、随分と賑やかになったなぁ。
普段の特訓では、こんな雰囲気になることは少ない。
……いや。
そもそも、特訓中の俺には雑談する余裕なんてないんだけどさ。
「……ナギサ様」
「……はい?」
ユキノが、こちらへ歩いてきた。
「そちらは終わりましたか?」
「ええ。こちらの範囲は、ひとまず終わりました」
「確認します」
ユキノが、床をじっと見つめる。
そして。
「……問題ありません」
「……よかったです」
…………。
……あれ?
何だか、訓練の採点を受けている気分だな。
「では、次はこちらをお願いします」
「……はい!」
…………。
(……完全に指揮下に入ってるな、俺)
まあ、いいか。
ユキノの指示は分かりやすいしな。
そんな調子で。
俺たちは、黙々と掃除を続けた。
……時々、クルミとオトギが騒いでいたけど。
そして。
ようやく、半分ほどが終わった頃。
「……ふぅ」
俺は、ブラシを手に腰を伸ばした。
「……なかなか大変ですね」
「まだ半分ほどです」
ユキノが、淡々と答えた。
「……そ、そうですか……」
…………。
……うん。
分かってるんだけどさ。
改めて言われると、ちょっと疲れが増す気がするなぁ。
「……ナギサ様」
すると、ニコが声をかけてきた。
「少し休憩されてはいかがですか?」
「……そうですね」
俺は、周囲を見渡した。
「では、皆さんも一度休憩しましょうか」
「……いえ、私たちはまだ大丈夫ですが」
「せっかくですから、一緒に休みましょう」
そう言うと、ニコは少し驚いたように目を瞬かせた。
そして。
「……そうですね」
柔らかく微笑んだ。
それから、五人でプールサイドに腰を下ろした。
俺が用意していた飲み物を配ると、クルミが勢いよく飲み干す。
「……ぷはっ! 生き返ったぁ!」
「クルミ。もう少し落ち着いて飲みなさい」
「分かってるって、隊長!」
ニコが、小さく笑った。
オトギも、楽しそうに足を揺らしている。
…………。
……うん。
何だか、いいなぁ。
普段は、訓練する側とされる側。
それに、そもそも彼女たちは俺の護衛として派遣されてきた子たちだ。
……でも。
こうして一緒に掃除して、休憩して、何でもない話をしていると。
(……少しは、仲良くなれた気がするな)
「……ところで、ナギサ様」
ニコが、こちらへ視線を向けた。
「明日は、このプールを使うんですよね?」
「ええ」
俺は、頷いた。
「補習授業部の皆さんに、遊んでいただこうと思っているんです」
「……遊ぶ?」
クルミが、首を傾げた。
「訓練じゃなくて?」
「はい。普通の水遊びですよ」
「……へぇ」
クルミが、少し意外そうに目を瞬かせた。
「合宿って、勉強するんじゃなかったっけ?」
「もちろん、勉強もしていただきますよ」
俺は、微笑んだ。
「ですが、皆さんは既に頑張っていらっしゃいますから」
「一日くらい、ご褒美があってもいいと思いまして」
「…………」
ユキノが、静かにこちらを見つめた。
「そのために、訓練を休まれたのですか?」
「……ええ」
俺は、頷いた。
「せっかくなら、皆さんに思いっきり楽しんでいただきたいですから」
少しだけ、沈黙が流れた。
そして。
「……そうですか」
ユキノが、小さく頷いた。
……あれ?
何だか、少しだけ表情が柔らかくなったような。
「……あはは」
オトギが、楽しそうに笑った。
「ナギサ様って、面白い人だねぇ」
「……え?」
「だって、普通は自分でプール掃除なんてしないでしょ?」
……まあ。
それは、そうかもしれないけどさ。
「たまには、こういうこともいいものですよ」
「……そう?」
「ええ」
俺は、微笑んだ。
「それに、皆さんと一緒にお掃除できて、楽しいですから」
「…………」
……あれ?
何だか、四人とも黙ってしまったぞ。
最初に笑ったのは、ニコだった。
「……そうですね。私も、悪くないと思います」
「……まあ、たまにはいいんじゃない?」
クルミが、少し照れくさそうに視線を逸らした。
「……あはは。クルミ、照れてる?」
「照れてないわよ!!」
…………。
……うん。
相変わらずだなぁ。
そして。
「……ナギサ様」
ユキノが、静かに口を開いた。
「……はい?」
「休憩は、あと五分とします」
「……あ、はい」
…………。
……うん。
やっぱり、ユキノはユキノだな。
……でも。
その声は、少しだけ優しく聞こえた。
◇
――数時間後。
「……終わったぁ!」
クルミが、大きく伸びをした。
……ああ。
やっと終わった。
俺は、綺麗になったプールを見渡した。
……うん。
素晴らしい。
見違えるほど綺麗になったな。
……あとは、水を張るだけだ。
その辺りは、設備担当の人たちにお願いしてある。
水質の確認も含めて、明日の朝には使えるようにしてもらう予定だ。
「……皆さん、本当にありがとうございました」
俺は、四人へ頭を下げた。
「皆さんがいなければ、こんなに早く終わらなかったと思います」
「……いえ」
ユキノが、静かに首を振った。
「必要な作業を行っただけです」
「それでも、助かりました」
俺は、微笑んだ。
「本当に、ありがとうございます」
「……それじゃあ、ナギサ様」
オトギが、楽しそうに笑った。
「明日、みんなが喜んでくれるといいねぇ」
「……ええ。本当に」
俺は、頷いた。
…………。
それにしても。
(……これ、原作のプール掃除イベントをFOX小隊とやっちゃったようなものだよな)
いやぁ。
何とも不思議な気分だ。
本来なら、補習授業部のみんなと掃除するはずだった場所。
それを、今はFOX小隊と一緒に綺麗にしている。
……でも。
(……こういう変化なら、悪くないよな)
むしろ、よかったと思う。
補習授業部のみんなには、ご褒美を用意できたし。
FOX小隊とも、少し仲良くなれた気がする。
……うん。
いい一日だったな。
「……では、ナギサ様」
ユキノが、こちらへ向き直った。
「……はい?」
「本日中止した分の訓練ですが……」
…………。
……あっ。
「明朝、予定に上乗せする形でよろしいでしょうか?」
…………。
……うん。
そうなるよな。
「……ええ。もちろんです」
俺は、頷いた。
「よろしくお願いします」
「承知しました」
…………。
……まあ。
これくらいは、覚悟しておこう。
きっと、少し大変になるだけだ。
…………。
……うん。
……少し、だよな?
◇
――そして、翌朝。
(……全然、少しじゃなかった……!)
ざばっ!
「……ぷはっ!」
俺は、水面から顔を上げた。
…………。
……きっつ!
いや、マジできつい!
昨日の夜の訓練をお休みにした分、今朝はいつも以上に厳しい内容になっていた。
泳いで。
泳いで。
ひたすら泳いで。
休憩を挟んでは、また泳ぐ。
(……いやぁ。水泳って、こんなに疲れるものだったんだな……)
もっとも、最近は体力の伸び方がおかしい。
何しろ、どれだけ疲れても、三時間ほどでほとんど回復してしまうんだ。
おかげで、走り込みも繰り返せるし、以前とは比べものにならないほど体力がついてきた。
……ただ。
(……それでも、FOX小隊には全然追いつけないんだよなぁ)
いや、本当に不思議なんだよ。
俺なんて、こんな異常な回復力を持っているのに。
あの子たちは、俺より重い装備を背負って。
俺より速く。
俺より長く走って。
それでも、まだ余裕があるんだから。
(……一体、どういう鍛え方をしたら、あんな体力が身につくんだ?)
……まあ。
その答えを知るために、今こうして特訓してるんだけどさ。
「……ナギサ様」
「……は、はい!」
プールサイドから、ユキノの声が聞こえた。
「そろそろ、時間です」
「……え?」
俺は、壁に掛けられた時計へ視線を向けた。
…………。
(……あっ)
……やばい。
集合時間まで、ほとんど余裕がない。
「……す、すみません!」
俺は、慌ててプールから上がった。
「もう、こんな時間だったんですね……!」
「……ええ」
ユキノが、頷いた。
「予定より長引いてしまいました」
……うん。
もう少し早く気づくべきだったなぁ。
「……ナギサ様」
すると、ニコが近づいてきた。
「こちら、タオルです」
「……ありがとうございます!」
俺は、受け取ったタオルで髪を拭いた。
……よし。
とりあえず、これで。
…………。
(……着替える時間、ないな……)
……うん。
仕方ない。
このまま行くか。
そんなことを考えていた時だった。
ユキノの端末が、小さく音を立てた。
「……失礼します」
ユキノが、端末を確認する。
そして。
「カヤから連絡が入りました」
「……カヤさんから、ですか?」
「ええ」
ユキノが、頷いた。
「私たちは、一時的にDUへ戻ることになりました」
「……そうですか」
…………。
……カヤ、か。
(……少し、気になるな)
何の用事なのかは分からない。
ただ、あの子たちには以前、色々と忠告したばかりだ。
……まあ。
今は事情も分からないし、むやみに疑っても仕方ないか。
「……承知しました」
俺は、頷いた。
「皆さん、昨日から本当にありがとうございました」
「いえ」
ユキノが、静かに首を振った。
「また、訓練の続きを行いましょう」
「……はい!」
「それじゃあ、ナギサ様!」
クルミが、元気よく手を振った。
「楽しんできてくださいね!」
「ありがとうございます」
「頑張って掃除したんだから、みんな喜んでくれるといいねぇ」
オトギが、楽しそうに笑った。
「……ええ。本当に」
俺は、微笑んだ。
「また、皆さんにもお礼をさせてくださいね」
「……楽しみにしています」
ニコが、柔らかく微笑んだ。
…………。
……うん。
やっぱり、いい子たちだなぁ。
さて。
それじゃあ。
(……急がないと!)
そして、俺は。
水着姿のまま、集合場所へ向かうことになった。
……うん。
まさか、あんなことになるとは思わなかったけどな。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ナギが水着姿で登場した理由と、その前日に行われたプール掃除のお話でした!
原作では補習授業部が行うプール掃除ですが、今回はFOX小隊と一緒に行うことに。
普段は厳しい特訓ばかりのナギですが、こうした交流を通じて、少しずつFOX小隊とも仲良くなっているようですね!
もっとも、夜の特訓をお休みにした分、翌朝は大変なことになってしまいましたが……。
そして、FOX小隊はカヤからの連絡を受け、一時的にDUへ。
次回は、いよいよ補習授業部のみんなでプール遊びです!
引き続きよろしくお願いします!