今回は、いよいよ不知火カヤとの初対面!
これまでSRTの存続に向けて動いてきたナギですが、果たしてカヤとはどのような話になるのでしょうか?
それでは、お楽しみください!
――前日、午後五時。
「……さて」
俺は、机の上に置かれた予定表へ視線を落とした。
明日は、不知火カヤ防衛室長との面会だ。
それも、向こうからの申し出。
(……まさか、直接会いに来るとはなぁ)
相手は、連邦生徒会の防衛室長。
政治的な立場も、扱っている権限も、決して軽いものではない。
しかも、頭の切れる人物だ。
こちらが勝手に相手の目的を決めつければ、その思い込みにつけ込まれかねない。
……まあ。
相手の目的を、今から決めつけても仕方ないか。
まずは、こちらで確認できることを整理しておこう。
『……ナギさん』
(……ん?)
ナギサが、こちらを覗き込んでいた。
『……明日の面会について、何か準備されるのですか?』
(……ああ。FOX小隊に少し話を聞いておこうと思ってる)
『……カヤさんについて、ですか?』
(……それもあるけど、まずは何を報告したのか確認したいんだ)
今回の面会が決まったのは、FOX小隊がカヤと話した後だ。
彼女たちが何を伝えたのか。
そこは、きちんと把握しておきたい。
『……では、早速ご連絡を?』
(……いや、夜にしようと思ってる)
向こうにも仕事があるだろうし、今すぐ確認しなければならないほど急ぎでもない。
『……そうですね。それでは、それまでお仕事ですね』
(……ああ)
俺は、机に積まれた書類へ目を向けた。
…………。
(……最近、交渉ばっかりだなぁ)
FOX小隊との交渉が終わったと思ったら、今度はカヤ。
もちろん、嫌いなわけじゃない。
むしろ、色々な人と話せるのは楽しいんだけどさ。
(……たまには、何も考えずにお茶でも飲みたいな)
『……ふふっ』
(……ん?)
『……明日の面会も、お茶を飲むところから始めてみてはいかがですか?』
…………。
(……ああ。それはいいかもな)
俺は、思わず笑った。
……もっとも。
お茶だけで終わるとは、思えないけどな。
◇
――午後八時。
「……よし」
夕食を終え、今やっておく仕事も一段落した。
俺は端末を手に取り、ユキノへ短い連絡を送った。
今から少し話せるか、と。
ほどなくして、返信が届いた。
『問題ありません』
それでは、お言葉に甘えるとしよう。
俺は、通話を開始した。
…………。
「ナギサ様。お疲れ様です」
「お疲れ様です、ユキノさん」
画面に映ったのは、七度ユキノ。
その後ろには、ニコ、クルミ、オトギの三人もいる。
「皆さんも、お疲れ様です」
「こんばんは、ナギサ様」
ニコが、柔らかく挨拶を返してくれた。
「……こんばんは」
クルミが、小さく頭を下げる。
「こんばんはー。今日は全員そろってますよー」
オトギが、画面の端からひょいと顔を出した。
「ふふっ。皆さんのお顔が見られて嬉しいです」
「こちらこそ。ちょうど小隊内で打ち合わせをしていたところです」
ユキノが答えた。
「お時間は大丈夫でしょうか?」
「はい。問題ありません」
「ありがとうございます。では、早速ですが……」
俺は、少し姿勢を正した。
「カヤさんには、どのようなお話をされたのでしょうか?」
「今回の協力に関する報告です。それから、SRTの閉鎖方針についても話しました」
「私との話し合いについても?」
「はい。ナギサ様が、トリニティの名で正式に再考を求めてくださっていることも伝えています」
ユキノは、続けた。
「SRTを存続させる必要性について、ご説明いただいた内容も報告しました」
エデン条約によって、トリニティとゲヘナの関係が変化した場合の勢力均衡。
その中で、連邦生徒会が独自に運用できる精鋭部隊を持つ必要性。
そして、今回の任務が、適切な指揮と監督の下でSRTを運用する一つの実例になり得ること。
伝えてほしかった点は、きちんと伝わっているようだ。
「カヤさんは、何とおっしゃっていましたか?」
「特に、トリニティがSRTの問題に関与している理由について、詳しく確認されました」
「そうですか」
連邦生徒会直属の組織の問題に、トリニティが正式に関与しているんだ。
気になるのも当然だろう。
「それと、ナギサ様」
今度は、ニコが口を開いた。
「私たちがナギサ様をどう評価しているのかも、聞かれましたよ」
…………。
……それは、ちょっと気になるな。
「何と答えられたのでしょうか?」
「ふふっ。気になりますか?」
「ええ。自分がいないところで、どんな話をされていたのかは気になりますから」
「それでしたら、安心してください」
ニコは、楽しそうに言った。
「ナギサ様は、私たちの話を真剣に聞いてくださった方だとお伝えしました」
「ありがとうございます」
「それに、SRTの存続についても、ただ同情しているだけではありませんよね?」
「ええ。必要な組織だと考えていますから」
「そうですよね」
すると、ユキノが口を開いた。
「……もちろん、必ず存続できると考えているわけではありません」
「ええ」
「ですが、私たちだけでは変えられなかった状況を、変えられるかもしれない方だと思っています」
…………。
そこまで期待してくれているのか。
「……ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」
「いえ。私たちが、そう判断しただけです」
ユキノは、真面目な表情のまま答えた。
……相変わらずだなぁ。
「……でも」
クルミが、少しだけ身を乗り出した。
「本当に、何とかなるんですか?」
「……クルミ」
ユキノが、静かに名前を呼ぶ。
「だって、気になるじゃないですか」
……そりゃそうだよな。
自分たちの学園が、これからどうなるのか分からないんだ。
「まだ、お約束はできません」
俺は、正直に答えた。
「ですが、諦めるつもりもありませんよ」
クルミが、画面越しにこちらを見つめる。
「……本当ですね?」
「ええ。ただし、皆さんにも頑張っていただきますけどね」
「それは、もちろんです!」
クルミが、勢いよく答えた。
「自分たちの学園なんですから!」
「ふふっ。いい返事ですね」
少なくとも、俺一人だけが頑張る話にはならない。
そういう気持ちがあるなら、こちらも遠慮なく協力をお願いできる。
「クルミちゃん、気合いが入ってますねぇ」
ニコが、楽しそうに笑った。
「当たり前じゃないですか!」
「ふふっ。そうでしたね」
そんな二人を見て、ユキノが小さく息をついた。
……まったく。
見ていて飽きないな、この子たちは。
できれば、これからもこうして笑っていてほしい。
「……ところで、皆さん」
「はい?」
「もう少し、カヤさんについて教えていただけますか?」
ユキノが、首を傾げた。
「どのようなことでしょうか?」
「好きなものや、普段のご様子などですね」
「……明日の接遇のためですか?」
「ええ。せっかくお越しいただくのですから、気持ちよく過ごしていただきたいと思いまして」
ユキノは、少し考えてから答えた。
「それでしたら、コーヒーでしょうか」
「コーヒーですか」
「はい。よく飲まれています」
……よし。
飲み物は決まったな。
「ほかには、何かありますか?」
「チェスですねー」
オトギが、のんびりと口を開いた。
「カヤ室長、チェスがお好きなんですよ」
「そうなのですか」
「はい。結構お強いみたいですよー」
(……チェスかぁ)
……実を言うと、俺は将棋の方が慣れているんだよな。
チェスも指せるけど、得意かと言われると微妙なところだ。
……まあ。
相手が好きなら、話のきっかけにはなるだろう。
「ありがとうございます。参考になります」
「いえいえー」
オトギが、軽く手を振った。
「ちなみに、皆さんから見て、カヤさんは普段どのような方でしょうか?」
ユキノが、少し考え込んだ。
「……仕事に対して、強い責任感を持っていらっしゃる方です」
「そうなのですね」
「特に、連邦生徒会長が不在の現状については、以前から問題意識を持っていらっしゃいました」
……まあ、会長がいない状況では、色々と大変だろうな。
俺もティーパーティーの仕事をしているから、責任ある立場の苦労は多少分かる。
「ほかには……」
ユキノが言葉を探していると、ニコが口を開いた。
「ご自分のお考えを、しっかり持っていらっしゃる方ですね」
「……ええ。それは、私もそう思います」
ユキノが同意する。
「ありがとうございます。大変参考になりました」
実際に一緒に仕事をしてきた彼女たちの言葉だ。
参考にさせてもらおう。
もっとも、俺自身がどう感じるかは、明日会ってからだな。
「お役に立てたのでしたら、何よりです」
すると。
「……あの、ナギサ様」
オトギが、画面の端から声をかけてきた。
「はい?」
「カヤ室長と、仲良くなれるといいですねー」
「ふふっ。そうですね。私も、そうなれればと思っています」
「きっと大丈夫ですよー」
オトギが、にこりと笑った。
「……オトギ。あまり無責任なことを言うな」
ユキノが、少し困ったように注意する。
「えー。でも、仲良くなるのはいいことじゃないですかー」
「それは、そうだが……」
「ふふっ。オトギさんのお気持ち、嬉しいですよ」
俺がそう言うと、オトギは満足そうに笑った。
……うん。
政治的な事情がどうであれ、最初から敵対する必要なんてない。
「それでは、そろそろ失礼しますね」
「承知しました」
「皆さんも、ゆっくり休んでください」
「ありがとうございます。ナギサ様も、お身体にはお気をつけて」
ユキノが、丁寧に頭を下げた。
「おやすみなさい、ナギサ様」
「おやすみなさーい」
「……おやすみなさい」
俺も挨拶を返し、通話を終えた。
…………。
画面が暗くなる。
俺は、端末を机へ置いた。
(……いい子たちだなぁ)
ユキノも、ニコも、クルミも、オトギも。
それぞれ性格は違うけど、自分たちの学園を大切に思っている。
……よし。
明日の面会でも、できることはきちんとやろう。
彼女たちの期待に応えるためにも、最初から諦めるわけにはいかないからな。
◇
――午後八時三十分。
「……よし」
俺は、明日の飲み物をコーヒーに決め、二人分の準備をお願いした。
それから、チェス盤も部屋に用意しておく。
……まあ。
使うかどうかは、明日の流れ次第だけどな。
『……ナギさん?』
(……ん?)
ナギサが、不思議そうにこちらを見ていた。
『……お二人とも、コーヒーになさるのですか?』
(……ああ。そのつもりだよ)
『……?』
ナギサが、小さく首を傾げた。
(……今回、随分と急な面会だっただろ?)
『……ええ』
(……準備する時間を与えないため、って可能性もあるからな)
もちろん、単なる予定の都合かもしれない。
(……だから、カヤの好みくらい把握していますよって、示しておきたいんだ)
『……牽制ですね』
(……そう。でも、それだけだと威圧的だからな)
俺は、明日の予定表へ視線を向けた。
(……同じコーヒーを飲むことで、友好的に接したいって気持ちも伝えるつもりだよ)
『……ふふっ。そういうことでしたか』
ナギサが、納得したように笑った。
『……では、明日は美味しいコーヒーを用意していただきましょう』
(……ああ。そうしよう)
これなら、最初から堅苦しくならずに済むだろう。
『……それにしても』
(……ん?)
『……カヤさんとは、どのようなお話になるのでしょうね』
(……それは俺も知りたいな)
ナギサが、少しだけ笑った。
『……ナギさんにも、分からないのですね』
(……そりゃそうだろ)
相手が何を考えているかなんて、会ってもいないのに分かるわけがない。
下手に決めつけるより、話しながら確かめた方がいい。
『……そうですね』
ナギサは、少し考えてから言った。
『……では、明日は私も一緒に考えますね』
(……おう。頼んだ)
……ありがたいな。
ナギサ自身も、ティーパーティーのホストとして様々な交渉を経験している。
俺とは違う視点から、何かに気づくこともあるだろう。
……さて。
明日の準備は、こんなところかな。
俺は、机に積まれた書類を見た。
(……嫌だ。仕事したくない)
『……ナギさん、頑張ってください』
(……ナギサ、代わってくれない?)
『……ふふっ。駄目です』
(……ちくしょう)
……だが、明日はカヤが来る。
何があるか分からないから、今日中に片づけられる仕事は終わらせておきたい。
俺は、渋々ペンを手に取った。
…………。
そして、気づけば空が白み始めていた。
(……終わったぁ……)
……しかし。
(……徹夜したのに、なんでこんなに元気なんだよ!?)
身体の調子は、むしろ昨日よりいい。
……いや。
(……本当に、起きてる方が回復するのかよ……)
…………。
(……まあ、仕事はもうしたくないけどな!)
◇
――翌朝。
「……よし」
俺は、身だしなみを整えた。
資料は、一通り準備してある。
コーヒーの手配も問題ない。
チェス盤は、部屋の一角に置いてある。
『……ナギさん』
(……ん?)
『……頑張ってくださいね』
(……ああ。ありがとう)
――コンコン。
「失礼いたします」
扉の向こうから、職員の声が聞こえた。
「不知火カヤ防衛室長がお見えになりました」
「分かりました。こちらへご案内してください」
「承知しました」
俺は、席を立った。
……さて。
どんな人なんだろうな。
◇
――数分後。
「失礼いたします」
扉が開いた。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
整えられた身なり。
落ち着いた表情。
そして、こちらを静かに観察するような眼差し。
(……不知火カヤ)
連邦生徒会防衛室長。
原作で見慣れた姿だ。
……だが、実際に会うのは初めて。
「初めまして。桐藤ナギサさんですね」
「ええ。初めまして」
俺は、軽く会釈して彼女を迎えた。
「不知火カヤ防衛室長。本日はお越しいただき、ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、急なお願いにもかかわらず、お時間をいただき感謝いたします」
カヤが、丁寧に頭を下げた。
「どうぞ、お掛けください」
「ありがとうございます」
互いに席に着く。
まずは、予定していたとおり。
「コーヒーをご用意しておりますが、いかがでしょうか?」
カヤの視線が、わずかに動いた。
「……コーヒー、ですか?」
「ええ。お好きだと伺いましたので」
「私の好みをご存じでしたか」
「せっかくお越しいただくのですから」
カヤは、一度こちらを見た。
「……昨日の今日で、随分とご準備がよろしいのですね」
「お客様をお迎えするのですから、当然ですよ」
「……そうですか。では、お言葉に甘えて」
「ええ。もちろんです」
俺は、職員へ合図を送った。
ほどなくして、二人分のコーヒーが運ばれてくる。
カヤは、自分の前に置かれたカップを見た後、俺の方へ視線を移した。
「……ナギサさんも、コーヒーを?」
「ええ。私も好きですので」
「トリニティといえば、紅茶の印象が強かったものですから」
「ふふっ。そうですね。もちろん、紅茶も好きですよ」
俺は、自分のカップを手に取った。
「ですが、今日はカヤさんと同じものをいただきたいと思ったんです」
カヤは、俺の言葉を聞いてから、静かにコーヒーへ手を伸ばした。
「では、私も次にナギサさんをお招きする際は、お好みを調べておかなければなりませんね」
「ふふっ。それは楽しみですね」
「ええ。期待していただいて構いませんよ」
……この人、面白いな。
しかも、次に会う機会まで話に織り込んでくれた。
悪くない出だしだ。
「……美味しいですね」
カヤが、コーヒーを一口飲んで言った。
「ありがとうございます。お気に召したようで何よりです」
「それにしても、少々意外でした」
「何がでしょうか?」
「桐藤ナギサさんは、もっと慎重な方だと伺っていましたので」
……それは、どういう意味だろう。
「……そうでしょうか?」
「ええ。今回の件でも、トリニティの名で正式な要請を出されるほどですから」
カヤは、カップを置いた。
「もう少し、堅苦しい方なのかと思っていました」
「ふふっ。それは少し残念ですね」
「……残念、ですか?」
「ええ。私としては、できるだけ親しみやすい人物でありたいと思っていますので」
カヤが、小さく笑った。
「……そうでしたか。では、私の思い違いだったようですね」
「いえ。そうした印象を持たれることも、少なくありませんから」
……まあ。
実際、仕事の場では慎重に振る舞うことが多い。
ただ、それと普段の性格は別だろう。
常に堅苦しくしていたら、こっちが疲れてしまう。
「……ですが」
カヤが、言葉を続けた。
「こうしてお話ししていると、確かに印象が変わりますね」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「ええ。お話ししやすい方で、助かります」
「ふふっ。それはこちらも同じですよ」
……まあ。
向こうも、こちらの人柄を確かめているのだろう。
なら、俺も普通に話していればいい。
無理に取り繕う必要はないんだからな。
「……ところで、カヤさん」
「はい?」
「防衛室のお仕事は、最近いかがでしょうか?」
「正直に申し上げれば、忙しい日々が続いています」
「会長が不在ですから、色々と大変なのでしょうね」
「……ええ。ですが、必要な仕事ですから」
カヤは、そう答えてから、こちらに問い返した。
「ナギサさんも、ティーパーティーのホストとして、お忙しいのではありませんか?」
「ええ。おかげさまで、毎日色々なことがあります」
俺は、苦笑した。
「最近は、特に予定が増えてしまいまして」
「それは、大変ですね」
「ふふっ。ですが、退屈する暇がないのは悪いことではありませんよ」
「……随分と前向きでいらっしゃるのですね」
「そうでしょうか?」
「ええ。私でしたら、少しくらい休みたくなってしまいます」
…………。
……おいおい。
そんなこと言われたら、俺だって休みたいぞ。
「実は、私も同じですよ」
「……そうなのですか?」
「ええ。できることなら、たまには何も考えずに過ごしたいものです」
カヤが、少しだけ意外そうな顔をした。
「……それは、同感ですね」
「ふふっ。ですよね」
「……では、ナギサさん」
「はい?」
「もし、明日から一日だけお休みが増えたとしたら、何をなさいますか?」
…………。
休みが一日増える、か。
「……そうですね」
俺は、少し考えた。
「まず、本当に休んでいい日なのか確認すると思います」
カヤが、一瞬きょとんとした。
そして、口元を押さえて笑った。
「……ふふっ。それでは、せっかくのお休みが勿体ないですね」
「ええ。自分でも、そう思います」
「……では、確認が終わった後は?」
「そうですね……」
…………。
改めて聞かれると、迷うな。
「……何も予定を決めずに、一日過ごしてみたいですね」
「……何も、ですか?」
「ええ。好きな時間に起きて、好きなことをして、疲れたら休む」
俺は、笑った。
「……贅沢でしょう?」
カヤは、少し考えてから答えた。
「……ええ。とても贅沢ですね」
その言い方が、妙に真面目だったので。
俺は、思わず笑ってしまった。
「ふふっ。カヤさんも、機会があればいかがですか?」
「……そうですね。機会があれば、考えてみます」
……ああ。
この人も、なかなか休めていないんだろうな。
まあ、連邦生徒会の防衛室長だもんな。
そりゃ、暇なわけがない。
「……それにしても」
カヤが、改めてこちらを見た。
「ナギサさんは、思っていたよりも随分と気さくな方なのですね」
「ふふっ。そうでしょうか?」
「ええ。少なくとも、今日お会いする前の印象とは違いました」
「それは、よかったです」
俺は、カップを置いた。
「できれば、今後も気軽にお話しできればと思っていますので」
カヤは、すぐには答えなかった。
そして。
「……そうですね。私も、良い関係を築ければと思っています」
穏やかな口調だった。
ただ、その視線はどこか慎重で。
こちらの言葉を、一つひとつ確かめているようにも見えた。
……うん。
まあ、当然だよな。
初対面の相手を、簡単に信用できるわけがない。
それは、俺だって同じだ。
…………。
それから、しばらくの間。
俺たちは、コーヒーを飲みながら他愛のない話を続けた。
トリニティのこと。
連邦生徒会の近況。
それぞれの仕事の忙しさについて。
話題は自然に移り変わり、会話が途切れることもなかった。
カヤは、こちらの話を受け止めるのが上手い。
それでいて、自分の話をする時は、必要以上のことを口にしない。
……うん。
やっぱり、頭の回転が速いんだろうな。
すると。
「……ところで、ナギサさん」
カヤが、ふと部屋の一角へ視線を向けた。
「あちらにあるのは、チェス盤でしょうか?」
「ええ。そうですよ」
「……チェスがお好きなのですか?」
「ええ。まだまだ勉強中ですが」
カヤの表情が、わずかに明るくなった。
「私も、チェスは好きですよ」
「それは、よかったです」
「……よく指されるのですか?」
「いえ。それほど頻繁には」
俺は、苦笑した。
「実は、将棋の方が慣れているんです」
「……将棋、ですか」
「ええ。チェスも面白いのですが、まだ考え方の違いに慣れなくて」
「……確かに、似ているようで違うところも多いですからね」
「そうなんです」
駒の動かし方が似ているからといって、同じ感覚で指せるわけじゃない。
……それにしても。
カヤ、チェスの話になった途端、少し楽しそうだな。
「チェスは、考えることが多い競技ですから」
カヤが、チェス盤へ視線を向けた。
「一手の選択で、その後の展開が大きく変わることもあります」
「ええ。だからこそ、面白いのでしょうね」
「……ですが、先を読みすぎても、目の前の手を見落とすことがあります」
「そうですね。まずは、盤面を正しく見ることが大切ですから」
カヤが、こちらを見た。
「……ナギサさんとは、一度対局してみたいですね」
「私も、ぜひお願いしたいです」
「……それでしたら」
彼女は、少しだけ首を傾げた。
「よろしければ、今から一局いかがでしょうか?」
…………。
ありがたいお誘いだな。
正直、俺も指してみたい。
……ただ。
せっかく、こうして直接会えたんだ。
まずは、話しておきたいことがある。
「ぜひ、お相手させていただきたいのですが」
俺は、微笑んだ。
「チェスは、後ほどにいたしませんか?」
カヤが、少しだけ首を傾げた。
「……後ほど、ですか?」
「ええ。せっかくお越しいただいたのですから、まずはお話を伺いたいと思いまして」
カヤは、少しだけ俺を見つめた。
そして、静かに微笑んだ。
「……そうですね。私も、ナギサさんにお聞きしたいことがありましたので」
「ええ。実は、私もなんです」
「……ふふっ。それは、楽しみですね」
「ええ」
俺も、微笑み返した。
…………。
カヤが、コーヒーカップを置いた。
俺も、それに続く。
ここまでの会話は、なかなか楽しかった。
できれば、これからもそうであってほしい。
……もっとも。
(……それは、これからの話次第かな)
「……それでは、ナギサさん」
カヤが、静かに口を開いた。
「少し、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ。もちろんです」
…………。
まずは、彼女の話を聞かせてもらおう。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ナギとカヤの初対面を描きました!
まずはFOX小隊から情報収集。そして、カヤを迎えるために用意したのは、トリニティらしい紅茶ではなくコーヒーでした。
一見すると何気ないおもてなしですが、そこにはナギなりの考えがあったようです。
そして、そんなナギの意図を察して返してくるカヤ。
今回は穏やかな顔合わせとなりましたが、次回はいよいよ本題へ。
二人がどのような話をするのか、ぜひお楽しみに!
引き続きよろしくお願いします!