前回、SRTを存続させるための暫定運用案を説明したナギ。
ですが、カヤからは「実際に連邦生徒会を動かすのは誰なのか」という質問が投げかけられました。
制度だけでは解決できない、連邦生徒会内部の問題。
今回は、そこからもう一歩踏み込んだお話になります。
それでは、どうぞ!
「候補は、二つあると思っています」
俺は、そう答えた。
カヤが、わずかに眉を上げる。
「……二つ、ですか?」
「ええ。まず一つ目は、連邦生徒会長代行の方ですね」
「……リン代行、ですか」
「はい。現在の連邦生徒会を運営されている立場ですから、こうした問題の解決に取り組むには、最も自然な候補でしょう」
もちろん、リンがどこまで権限を行使できるかは別の話だ。
だが、少なくとも議論を進め、関係者をまとめる立場としては申し分ない。
「……では、もう一つは?」
「今の連邦生徒会を変えたいと考えている方です」
カヤが、こちらを見た。
「……変えたい、ですか?」
「ええ。現在の体制に問題を感じ、新しい連邦生徒会の在り方を目指している方ですね」
「……なるほど」
「そうした方にとって、今回のSRTの問題は、決して無関係ではないと思うんです」
「……なぜでしょうか?」
「連邦生徒会長が不在になったことで、機能しなくなった組織がある。それを立て直すことができれば、新しい体制の必要性を示す実績になるでしょう?」
カヤは、静かに話を聞いていた。
「しかも、SRTほどの精鋭部隊を存続させ、適切な管理体制まで整えられれば、その方への信頼にもつながると思います」
「……信頼、ですか」
「ええ。組織を変えたいと主張するだけでなく、実際に問題を解決できると証明するわけですから」
……まあ。
言うほど簡単なことではないけどな。
「……それは」
カヤは、少し考えてから口を開いた。
「随分と政治的なお考えですね」
「ふふっ。そうでしょうか?」
「ええ。SRTの存続を、連邦生徒会の改革と結びつけるわけですから」
「ですが、実際に関係している問題だと思いますよ」
俺は、続けた。
「もちろん、改革を目指しているからといって、その方が勝手に指揮権を与えられるわけではありません」
「……はい」
「正式な承認は必要です。ですが、その承認を得るために議論を進め、関係者をまとめる役割なら担えるでしょう」
カヤは、静かに頷いた。
「……確かに、そうですね」
……さて。
ここまでは、あくまで一般論だ。
だが、実際に連邦生徒会を動かすとなれば、もっと厄介な問題が待っている。
「……ただし」
俺は、少しだけ苦笑した。
「それを実現するのは、相当難しいと思っています」
「……と、おっしゃいますと?」
「現在、SRTの存続に向けた議論が進まない理由について、私なりに考えてみたんです」
カヤが、こちらへ視線を向けた。
「理由、ですか?」
「ええ。大きく分けて、四つほどあるのではないかと」
「……四つ、ですか」
「もちろん、外部から見た推測ですが」
俺は、指を一本立てた。
「まず、一つ目です」
……さて。
ここからは、少し慎重に言葉を選ぼう。
「連邦生徒会長への忠誠心から、会長以外がSRTを指揮することに反対している方々です」
カヤは、静かに頷いた。
「……なるほど」
「SRTは会長直属の組織です。会長が不在だからといって、ほかの方が指揮権を引き継ぐことに抵抗を感じる方もいるでしょう」
『……ナギさん』
(……ん?)
『会長を大切に思っているからこそ、SRTを残したいと考える方もいらっしゃるのではありませんか?』
(……ああ。俺もそう思う)
会長が作った組織だからこそ、守りたい。
そう考える人がいても不思議じゃない。
……それに。
(……目の前のカヤも、そうなのかもしれないな)
わざわざトリニティまで足を運んで、SRTの存続について話をしに来たんだ。
会長が残した組織を守りたいという気持ちも、多少はあるのかもしれない。
……もっとも。
(……それだけが目的ってわけでもないだろうけどな)
カヤが本当は何を考えているのか。
それは、まだ分からない。
(……同じ気持ちでも、結論が逆になることはあるからな)
『……難しいですね』
(……ああ。だからこそ、個別に話を聞く必要があるんだよ)
……うん。
ナギサの言うとおりだ。
そこは、きちんと補足しておこう。
「……もちろん、同じ理由から存続を望む方もいらっしゃるでしょう」
「……確かに、そうですね」
「大切なのは、会長への忠誠心そのものではなく、その方が何を守ろうとしているのか、ということですね」
カヤは、少し考えるように頷いた。
「では、その方々を説得するには?」
「会長の権限を奪うわけではないことを説明する必要があるでしょうね」
俺は、続けた。
「会長が戻られるまで、組織を適切に維持するための措置だと理解していただくことが重要だと思います」
「……なるほど」
……とはいえ。
それだけで全員が納得するとは限らない。
むしろ、会長の帰還まで何も変えるべきではないと考える人もいるだろう。
……難しいところだな。
「では、二つ目です」
俺は、指をもう一本立てた。
「SRTのような強力な武力組織そのものを危険視している方々です」
「……武力組織への反対、ですか」
「ええ。いくらSRTが優秀でも、強大な戦力を一つの組織が保有することに不安を感じる方はいるでしょう」
……まあ。
その心配は、決して間違っていない。
武力の集中には、それだけの危険が伴う。
「この方々には、SRTの優秀さを説明するだけでは不十分です」
「では、どうなさるおつもりですか?」
「先ほどの運用制限や監督体制を示します」
俺は、資料の一部を指し示した。
「誰が指揮できるのか。どのような場合に出動できるのか。権限を持つ人物が暴走した場合、どう止めるのか」
「……なるほど」
「そうした仕組みを明確にすれば、少なくとも懸念を減らすことはできるでしょう」
もちろん、それでも反対する人はいるだろう。
だが、全員を無理に賛成させる必要はない。
十分な議論を経て、必要な合意が得られればいい。
「……そして、三つ目です」
俺は、指をもう一本立てた。
「SRTの指揮に伴う責任を引き受けたくない方々ですね」
「……随分とはっきりおっしゃるのですね」
「ふふっ。少々、言葉が悪かったでしょうか」
俺は、苦笑した。
「ですが、責任者になるということは、権限だけでなく、失敗した時の責任も引き受けるということですから」
人員を動かせる。
予算を使える。
必要な命令を出せる。
それは大きな権限だ。
だが、その判断によって問題が起きれば、当然説明を求められる。
「もちろん、引き受けたくても必要な権限や人員が足りない場合もあるでしょう。そうした事情も含めて考える必要があります」
「……確かに、そうですね」
「この方々に対しては、権限と責任の範囲を明確にし、必要な支援を用意することが重要でしょうね」
……まあ。
それでも嫌だと言う人に、無理やり押しつけるのは違うけどな。
「そして、四つ目です」
俺は、最後の指を立てた。
「ほかの仕事を優先せざるを得ない方々です」
「……ほかの仕事、ですか?」
「ええ。現在の連邦生徒会には、SRT以外にも重要な問題が山ほどあるでしょう」
何より、連邦生徒会長が行方不明になっている。
これは、SRTの存続どころではない大問題だ。
「会長の捜索を優先したい方もいるでしょうし、通常の行政業務を進めたい方もいるでしょう」
「……そうですね」
「そうした状況で、SRTの新しい運用体制を一から考え、調整し、責任者まで決める」
俺は、少しだけ苦笑した。
「正直、後回しにしたいと思われても不思議ではありません」
……まあ。
俺だって、仕事が山積みの時に新しい問題を持ち込まれたら、少し嫌になるしな。
「……ですが、ナギサさん」
「はい?」
「実際には、その四つの立場が明確に分かれているわけではありませんよ?」
「ええ。おっしゃるとおりです」
俺は、頷いた。
「会長への忠誠心が強く、同時に武力組織を危険視している方もいるでしょう」
「はい」
「SRTの必要性を理解していても、責任を負う余裕がない方もいるはずです」
カヤは、少し考えてから口を開いた。
「……つまり、同じ方法ですべての方を説得することは難しい、と」
「ええ」
必要性を理解していない人には、必要性を説明する。
責任を負うことに不安がある人には、権限と責任の範囲を示す。
時間がない人には、具体的な案を用意して負担を減らす。
……それぞれ、対応は違ってくる。
「そして、そうした方々の事情を踏まえながら、最終的には一つの結論にまとめなければなりません」
カヤは、静かに頷いた。
「……なかなか難しいお話ですね」
「ええ。ですから、今の連邦生徒会をまとめ上げるのは、相当難しいと思っています」
……というか。
連邦生徒会長が不在になったことで、ただでさえ複雑な利害関係が、さらにややこしくなっているはずだ。
それを整理して、全員とは言わないまでも、必要な合意を作る。
……うん。
簡単にできることじゃない。
「もし、それを成し遂げられる方がいらっしゃるなら……」
俺は、少しだけ笑った。
「ある意味、超人と呼んでもいいかもしれませんね」
「……超人、ですか?」
「ええ。異なる立場の方々をまとめ、必要な改革を実現できる。それほどの人物ということです」
カヤは、しばらく考え込んでいた。
そして。
「……ナギサさん」
「はい?」
「仮に、そのような人物が現れたとして……」
カヤが、こちらを見つめた。
「ナギサさんは、その方に協力されるおつもりなのでしょうか?」
「ええ。そのつもりですよ」
俺は、頷いた。
「今の連邦生徒会をまとめ上げ、必要な改革を実現できる方であれば、私も協力を惜しむ理由はありませんから」
「……随分と、積極的なのですね」
「ふふっ。ですが、実現できる方がいらっしゃれば、の話ですよ?」
……これは、本心だ。
ただ理想を掲げるだけではなく、異なる立場の人々をまとめ、実際に行政を動かせる。
そんな人物がいるなら、協力する価値は十分にある。
……それに。
原作のカヤは、連邦生徒会の現状に不満を抱き、やがてクーデターを起こした人物だ。
だが、今も同じことを考えているとは限らない。
FOX小隊の状況だって変わっている。
……だからこそ。
(……少し、確かめておきたいんだよな)
改革を望むこと自体は、何も悪くない。
問題は、そのためにどんな方法を取ろうとしているかだ。
「……ですが」
俺は、言葉を続けた。
「そんな方が現れるのを、ただ待っているわけにもいきません」
「……と、おっしゃいますと?」
「ですから、まずはリン代行に、今回の案をお伝えしたいと思っています」
カヤが、こちらを見た。
「……リン代行に、ですか?」
「ええ。現在の連邦生徒会を運営されている立場ですから、まずはご相談するのが自然でしょう?」
俺は、穏やかに微笑んだ。
「それに、リン代行が今回の問題を解決してくださるのであれば、それが一番望ましいですからね」
……さて。
(……どう出る?)
俺は、コーヒーカップに手を伸ばした。
もちろん、リンへ相談するつもりは本当にある。
現在の連邦生徒会をまとめている人物なんだ。
まず話を通す相手として、これほど自然な候補もいないだろう。
……ただし。
今この場で名前を出したのには、もう一つ理由がある。
もしカヤが、原作と同じような野心を持っているなら。
リンが主導してSRTの問題を解決するという話を、どう受け取るだろうか。
「……ですが、ナギサさん」
「はい?」
「リン代行への提案は、少々難しいかもしれませんね」
「……そうなのですか?」
「ええ。先ほど挙げられた四つの理由ですが……」
カヤは、資料へ視線を落とした。
「リン代行は、一つ目と四つ目に当てはまる方だと思います」
「……会長への忠誠心と、ほかの業務の優先ですね」
「はい」
カヤが、頷いた。
「リン代行は、連邦生徒会長を非常に尊敬していらっしゃいます。会長直属だったSRTの指揮権を、ほかの人物に移すことには慎重でしょう」
「……そうなのですね」
「それに、現在は会長の捜索に加え、連邦生徒会の通常業務にも追われています」
カヤは、続けた。
「SRTの新しい管理体制を整える余裕があるとは、思えません」
「……なるほど」
「少なくとも現時点では、リン代行はSRTの存続に反対する立場だと考えています」
…………。
(……引っ掛かったな)
俺は、表情を変えずにコーヒーを一口飲んだ。
こちらが提示した四つの理由を使って、リンが難しい理由を説明してきた。
しかも、最後には存続への反対まで明言した。
もちろん、それが事実なのか、カヤ自身の評価なのかは、改めて確認する必要がある。
……だが。
(……少なくとも、リンを候補から外したい理由はあるみたいだな)
これだけでクーデターを企んでいるとは言えない。
けれど、原作のカヤを知っている俺としては、無視できない反応だ。
……なら。
もう少し、話を進めてみよう。
「……それは困りましたね」
俺は、少し考えるように視線を落とした。
「リン代行であれば、今回の問題に取り組んでいただけると思っていたのですが」
「……難しいでしょうね」
「そうですか……」
「ですが、そうなると、ほかにどなたが引き受けてくださるのでしょうね」
カヤは、すぐには答えなかった。
俺は、そのまま続ける。
「もちろん、私としてはどなたでも構わないのですが」
「……どなたでも、ですか?」
「ええ。必要な改革を実現できるのであれば、協力を惜しむつもりはありませんから」
俺は、微笑んだ。
「ですが、そんな方が簡単に見つかるとも思えませんし……」
……さて。
(……どうする、カヤ?)
ここで、リンへの相談を勧めるのか。
それとも、別の人物を探すべきだと言うのか。
あるいは、自分に何か考えがあると示してくるのか。
……いずれにしても。
どのような答えを選ぶのか、聞いてみたい。
「……ナギサさん」
「はい?」
カヤが、静かに口を開いた。
「仮に、リン代行以外に、そのような人物がいたとしたら……」
彼女は、こちらをまっすぐ見つめた。
「本当に、その方に協力されるおつもりなのでしょうか?」
…………。
(……来たな)
俺は、カップを置いた。
リン以外の候補に、話を進めてきた。
……となれば。
(……少なくとも、トップの座には興味があるんだろうな)
もちろん、まだ仮定の話だ。
これだけで、彼女が何かを計画していると断定するつもりはない。
ただ、今までの質問を振り返れば、気になる点はある。
シャーレへの戦力集中。
SRTの指揮権限。
正式な責任者。
連邦生徒会内での合意形成。
……そして、リン以外の候補。
どの質問も、防衛室長として自然な内容ではある。
だが、並べてみれば、権限とその行き先について強い関心があるようにも見える。
……ふむ。
(……だったら、ここからはこっちから聞いてみるか)
俺は、穏やかな表情を保ったまま口を開いた。
「ええ。もちろんです」
「……そうですか」
「ただし、どのような改革を目指していらっしゃるのか、お話を伺ってからになりますけどね」
「……随分と慎重なのですね」
「ふふっ。大きな権限を持つ方に協力するのですから、当然ですよ」
カヤは、静かにこちらを見つめた。
「……では、ナギサさん」
「はい?」
「仮に、その人物が現在の連邦生徒会を大きく変えたいと考えていたとしても、同じでしょうか?」
「ええ。変えること自体には、何も問題はないと思っています」
俺は、頷いた。
「現在の制度に問題があるなら、改善すればいい。新しい体制が必要なら、正式な手続きを経て整えればいいんです」
「……なるほど」
「ただ、何を目指しているのかは、きちんと確認させていただきたいですね」
……そう。
権力を求めること自体は、悪いことじゃない。
責任ある立場に就きたい。
自分の考える理想の組織を作りたい。
そのために努力する。
……いいじゃないか。
問題なのは、そのために何をするかだ。
「……ところで、カヤさん」
「はい?」
「少し、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「……ええ。何でしょう?」
「カヤさんご自身は、現在の連邦生徒会について、どのようにお考えですか?」
…………。
カヤは、すぐには答えなかった。
「……随分と、広いご質問ですね」
「ふふっ。そうですね。では、もう少し具体的にしましょうか」
俺は、資料へ視線を落とした。
「今回のSRTの問題について、カヤさんは非常に的確なご質問をしてくださいました」
「……ありがとうございます」
「ですが、少し気になったんです」
「……何がでしょうか?」
「私の案を初めて聞いたにしては、その後に起こり得る問題を随分と具体的に把握されているようでしたので」
カヤが、静かにこちらを見た。
「……私は防衛室長です。SRTの問題について考えていても、不思議ではありませんよね?」
「ええ。もちろんです」
俺は、すぐに頷いた。
……そのとおりだ。
むしろ、考えていなかった方が不思議なくらいだろう。
だが、それだけでは説明できないこともある。
「……カヤさん」
「はい?」
「カヤさんは、SRTの存続を望んでいらっしゃいますよね?」
…………。
カヤは、しばらく俺を見つめていた。
「……どうして、そう思われるのですか?」
「理由はいくつかあります」
俺は、微笑んだ。
「まず、カヤさんは本日、わざわざトリニティまで足を運んでくださいました」
「……ええ」
「防衛室長として、SRTの問題を確認する必要があった。それは理解しています」
だが。
それだけなら、FOX小隊からの報告を受けたり、書面で問い合わせたりする方法だってあったはずだ。
「それに、先ほどからのご質問も気になっていたんです」
「……質問、ですか?」
「ええ。指揮権の範囲、派遣の承認、シャーレへの戦力集中、責任の所在……」
俺は、一つずつ挙げていった。
「どれも、SRTを存続させた後に問題となる事柄ばかりでした」
「……それは、案の実現可能性を確認するためですよ」
「もちろんです。ですが、もしカヤさんが廃校を望んでいらっしゃるのであれば、もっと根本的な反論があってもおかしくありません」
「……例えば?」
「そもそもSRTを残す必要はない、というご意見ですね」
強力な武力組織を維持する必要性。
そのために予算を割く価値。
そうした点から、存続そのものに反対することもできたはずだ。
「ですが、カヤさんは存続させることを前提に、その運用方法について質問されていました」
…………。
カヤは、静かにこちらを見つめていた。
「……それだけで、私が存続派だと?」
「いいえ。ですから、直接お聞きしているんです」
俺は、彼女の目を見た。
「カヤさんは、SRTを残したいとお考えなのではありませんか?」
…………。
少しの沈黙。
そして。
「……ええ」
カヤが、静かに頷いた。
「その点については、否定しません」
……おお。
思ったより、はっきり認めてくれたな。
「私は、SRTのような優秀な組織を、このまま失うべきではないと考えています」
「……そうですか」
「もちろん、現在のまま運用できるとは思っていません。ですが、だからといって廃校にする必要があるのかと問われれば……」
カヤは、小さく首を横に振った。
「私は、そうは思いません」
…………。
なるほど。
SRTの存続を望んでいることは、認めてくれたわけだ。
……そして。
それなら、もう一つ分かることがある。
「……カヤさん」
「はい?」
「それなら、もう一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
「……何でしょう?」
「カヤさんは、SRTの存続を望むだけでなく、その後の運用についても、かなり具体的に考えていらっしゃるのではありませんか?」
カヤが、こちらを見た。
「……どうして、そう思われるのですか?」
「先ほどから、指揮権や管理体制、責任の所在について、随分と具体的なご質問をされていましたから」
「……それは、防衛室長として当然のことですよ」
「ええ。もちろんです」
俺は、頷いた。
……そのとおりだ。
むしろ、考えていなかった方が不思議なくらいだろう。
……ただ。
それだけでは、少し説明がつかないこともある。
「ですが、カヤさんはSRTの存続を望んでいらっしゃる。そして、そのために何が必要なのかも、よく理解されている」
「……ええ」
「でしたら、実際に誰がそれを進めるのかについても、何かお考えがあるのではないかと思いまして」
…………。
カヤは、静かにこちらを見つめていた。
……さて。
ここまで来たら、聞いてみるか。
「……もしかして、カヤさん」
「はい?」
「必要であれば、ご自身が責任を引き受けてでも、SRTを存続させたいと考えていらっしゃるのではありませんか?」
…………。
カヤは、しばらく俺を見つめていた。
そして。
「……そこまでお分かりでしたか」
小さく、息を吐いた。
「ええ。否定するつもりはありません」
「SRTを存続させるのであれば、誰かが責任を引き受けなければなりません」
「……ええ」
「そして、私自身も、その役割を担うことを考えています」
…………。
(……やっぱりな)
ここまで、はっきり認めるか。
もちろん、これだけで何もかも信用できるわけじゃない。
……だが。
少なくとも、SRTを存続させたいという目的は同じらしい。
しかも、必要であれば責任を負う覚悟まである。
……それなら。
「……ふふっ」
俺は、思わず笑みをこぼした。
「それでしたら、話は早いですね」
「……はい?」
「リン代行が難しいとおっしゃるのであれば、私はカヤさんがいいと思いますよ」
…………。
「……私、ですか?」
「ええ」
俺は、頷いた。
「SRTの問題について深く考えていらっしゃいますし、連邦生徒会の内部事情にも詳しい」
「……それは、防衛室長ですから」
「ふふっ。もちろん、それもあります」
俺は、続けた。
「ですが、何よりご自身で責任を引き受けてでも、SRTを存続させたいと考えていらっしゃるのでしょう?」
「……ええ」
「でしたら、SRTの存続に向けた調整を進める方として、十分に適任だと思います」
……本心だ。
リンが難しいのであれば、別の人物が動く必要がある。
そして、カヤには知識も関心もある。
そのうえ、責任を引き受ける意思まで示してくれた。
なら、協力する理由は十分だろう。
「……でしたら」
俺は、微笑んだ。
「私たち、協力できそうですね」
「……協力、ですか?」
「ええ。私もSRTを存続させたいと思っていますから」
カヤが、少しだけ目を見開いた。
「……本当に、よろしいのですか?」
「もちろんです」
俺は、頷いた。
「先ほども申し上げたでしょう? 必要な改革を実現できる方がいらっしゃるなら、協力を惜しむつもりはないと」
「……ええ」
「それに、こうして直接お話しできたのも、何かのご縁でしょうし」
俺は、少しだけ笑った。
「せっかくですから、一緒にSRTを残す方法を考えてみませんか?」
…………。
カヤは、しばらくこちらを見つめていた。
そして。
「……ふふっ」
小さく笑った。
「随分と、前向きなお返事ですね」
「そうでしょうか?」
「ええ。もう少し慎重に判断されるものと思っていました」
「ふふっ。慎重に考えることと、協力することは両立できますから」
俺は、続けた。
「もちろん、正式な手続きは必要ですし、私がトリニティ全体の協力を勝手に決めるわけにもいきません」
「……そうですね」
「ですが、資料の提供や関係者との調整など、私にもお手伝いできることはあると思います」
カヤは、静かに頷いた。
「……それは、心強いお話ですね」
「ふふっ。そう言っていただけると嬉しいです」
……うん。
少し、空気が和らいだな。
ここまで、互いの考えを探るような話が続いていた。
だが、こうして共通の目的を確認できたんだ。
協力できる部分については、素直に協力したい。
……ただし。
(……ここからが本題だ)
俺は、カヤを見つめた。
SRTを存続させたい。
そのために、責任を引き受ける覚悟もある。
……そこまでは分かった。
だが、原作のカヤを知っている以上、もう一つだけ確認しておきたいことがある。
……もっとも。
ここで急に真剣な顔をして問い詰めても、警戒されるだけだろう。
せっかく、こうして話しやすい雰囲気になったんだ。
なら。
(……このまま聞いてみるか)
「……あっ、そうでした。カヤさん」
「はい?」
「一つ、聞いてみたいことがあるんです」
「……何でしょうか?」
「先ほどお話しした、四つの立場についてなのですが」
「ああ。会長への忠誠心、武力組織への懸念、責任の問題、そしてほかの業務との優先順位ですね」
「ええ。それです」
俺は、笑顔で頷いた。
「カヤさんがSRTの存続に向けて動かれるのであれば、そうした方々とも話し合う必要がありますよね?」
「……そうですね」
「ですが、当然ながら、全員が賛成してくださるとは限りません」
「ええ。それは理解しています」
「ふふっ。ですよね」
……さて。
ここまで来れば、もう遠回しに聞く必要もない。
権力を欲すること自体は、何も悪くない。
責任を引き受ける覚悟があるなら、なおさらだ。
だが。
自分の考えに反対する人間が現れた時。
それをどう扱うのか。
……俺が本当に知りたいのは、そこなんだよな。
「では、カヤさん」
「はい?」
俺は、にっこりと笑った。
「ちょっと、カヤさんのお考えを聞かせてください」
そして、何気ない世間話でもするように問いかけた。
「もし、SRTの存続を含め、カヤさんが必要だと思う改革に反対する方々がいらっしゃったら、どのようになさいますか?」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、連邦生徒会内部の問題と、ナギとカヤの政治的な駆け引きを描きました!
会長への忠誠心、武力組織への懸念、責任の問題、そしてほかの業務との優先順位。
様々な立場が存在する組織をまとめるのは、簡単なことではありません。
そして今回、SRTの存続を望んでいることを認めたカヤ。
ナギも協力に前向きな姿勢を見せ、ようやく二人の間に共通の目的が見えてきました。
ですが、最後にナギが投げかけた質問。
果たして、カヤはどのように答えるのでしょうか?
次回も引き続き、二人の会談が続きます!
引き続きよろしくお願いします!