今回も引き続き、カヤ視点でのお話となります!
ナギとの会談もいよいよ終盤。
自らを超人と信じるカヤは、今回の会談で何を見つけるのでしょうか。
それでは、お楽しみください!
(……さて、次はどんなお話が出てくるのでしょうね)
そう考えていると、ナギサさんが再び口を開いた。
「今回のお話には、まだ続きがあるんです」
「続き、ですか?」
「ええ。今回の運用案が、実際に採用された場合のお話です」
どうやら、先ほど説得を後回しにした人々についてらしい。
会長以外がSRTを指揮することに反対している者たち。
彼らをどう説得するのかという問題ですね。
「会長以外がSRTを指揮することに反対している方々ですか?」
「ええ。その方々も、将来的には考えを変えてくださるかもしれません」
「なぜでしょう?」
ナギサさんは、反対する理由が必ずしも会長個人への忠誠心だけではないと説明した。
会長ほどの能力を持たない人物には、SRTを任せられない。
そう考えている者もいるのではないか、と。
(……能力への不安、ですか)
確かに、そういう者もいるでしょう。
SRTは強大な武力を持つ組織です。それを十分な能力のない人物に任せることには、私だって反対します。
ですが、それなら話は簡単です。
実際に能力を示せばいい。
「つまり、その方々が求めているのは、会長という肩書そのものではなく、会長に匹敵する政治的な能力や信頼なのかもしれません」
「……なるほど」
「でしたら、実際に結果を出して証明すればいいんです」
私は、ナギサさんを見つめた。
(……結果を出して、証明する)
その考えには賛成です。
そもそも、私がこれまで不満に思っていたことの一つが、それなのですから。
十分な能力がない人物が重要な立場に就き、決断すべきことを先延ばしにしている。
それでは、組織がまともに動くはずもありません。
優秀な人物が上に立てば、多くの問題は解決する。
私は、そう考えていました。
そして、その役割を果たせる人物が誰なのかについても、疑っていません。
(……私なら、できるはずです)
少なくとも、現在の連邦生徒会をこのまま放置するより、よほど良い結果を出せる自信があります。
……しかし。
ナギサさんが続けた説明を聞いて、少し気になることができました。
今回のSRTの問題を、武力に頼らず解決する。
対立する者たちの意見を調整し、必要な賛成を集め、正式な手続きで存続を実現する。
それができれば、相当な実績になるという。
「……ですが、それだけの調整を行うとなれば、相当な労力が必要になるでしょうね」
「ええ。それはもう、大変だと思います」
ナギサさんは、あっさり認めた。
「ですが、その苦労に見合うだけのものは、得られると思いますよ?」
「と、おっしゃいますと?」
ナギサさんは、今回の問題を解決した人物が、連邦生徒会内でどのように評価されるのかを説明した。
会長がいなくても、組織をまとめられる。
その能力を実績として示せるのだと。
(……組織を、まとめる)
私は、少し考えた。
確かに、難しいことではあります。
ですが、そこまで特別な能力が必要なのでしょうか。
組織を率いる人物が正しい判断を下し、部下がそれに従う。
必要な時には、適切な指示を出す。
少なくとも、会長はそれを当然のように行っていました。
……ああ。
(……そういえば)
私は、ふと昔のことを思い出した。
会長がいた頃の連邦生徒会。
あの頃も、意見の対立がなかったわけではありません。
各部署には、それぞれの事情があった。
優先したい仕事も、譲れない部分も違っていたでしょう。
それでも、大きな混乱が起きることは少なかった。
それぞれが自分の仕事に集中し、必要な時には会長が判断を下す。
そして、いつの間にか問題は片づいていた。
(……あれ?)
私は、少しだけ眉をひそめた。
今になって考えてみれば、不思議な話です。
会長がいなくなった途端、なぜこれほど多くの問題が表面化したのでしょうか。
リンが無能になったわけではありません。
各部署の責任者が、突然仕事をできなくなったわけでもない。
それぞれの能力は、以前と大きく変わっていないはずです。
……それなのに。
(……組織全体では、以前のように動けていない)
私は、静かに息を吐いた。
もしかすると。
会長は、私たちが考えていた以上に、多くの調整を行っていたのでしょうか。
それも、部下たちには負担だと感じさせないほど、自然に。
だからこそ、私たちはそれぞれの仕事に集中できていた。
会長が全体を見てくれる。
意見が食い違っても、最後にはまとめてくれる。
そうした安心感があったから、各部署はのびのびと仕事を進められたのかもしれません。
……ですが。
その状態が続いた結果、組織全体を調整する役割については、誰も十分に経験を積めなかった。
少なくとも、会長が突然いなくなった時、同じ役割を引き継げる人物はいなかった。
(……なるほど)
私は、手元の資料を見つめた。
会長がやっていたことは、簡単だったのではない。
簡単に見えていただけなのですね。
……ふふっ。
(……そういうことですか)
正直、少し悔しい。
私は、会長のように組織を率いることなど、自分にもできると考えていました。
もちろん、今でもその自信がなくなったわけではありません。
ですが、会長が具体的に何をしていたのか、私はすべてを理解していたのでしょうか。
各部署の意見を聞く。
対立する要求を整理する。
必要な妥協を引き出し、組織として一つの方針にまとめる。
そして、部下たちがそれぞれの仕事に集中できる環境を整える。
……なるほど。
ただ優秀なだけでは、足りないのですね。
◇
「……会長に、匹敵するほどの?」
私は、思わず聞き返した。
ナギサさんは、実績を積み重ねることで、会長に匹敵するほどの信任を集められる可能性があると説明していた。
もちろん、正式な権限や地位とは別の話らしい。
しかし、実際に組織を動かせる人物として認められることには、大きな意味があるという。
……確かに。
(……それなら、話は変わってきますね)
会長のような権限がなければ、組織を動かせない。
私は、そう考えていた部分もありました。
ですが、そもそも組織をまとめる能力があれば、強大な権限に頼らなくても、一定の改革は進められるのではないでしょうか。
今回のSRTの問題は、まさにその試験になる。
会長の権限を持たない人物が、会長不在の組織を動かしてみせる。
それは、簡単なことではないでしょう。
……しかし。
(……だからこそ、価値がある)
私は、思わず微笑んだ。
会長があれほど自然に行っていたこと。
部下たちが、その難しさに気づかないほど当たり前に成立していた組織運営。
それを、私自身の力で再現する。
……いえ。
再現するだけでは、足りませんね。
会長がいなくなっただけで機能しなくなるような組織では、また同じ問題が起きてしまう。
ならば、会長が不在でも動く仕組みまで整えればいい。
(……それができたなら)
私は、静かに笑みを浮かべた。
誰もが認めるでしょう。
私が、連邦生徒会を率いるにふさわしい人物であると。
ナギサさんは、その後も実績を積み重ねれば、将来的に正式な連邦生徒会長の候補となる可能性もあると説明した。
……なるほど。
今すぐ会長の座を手に入れる必要はないわけですか。
私は、現在の防衛室長という立場でも、できることがあります。
今回の問題を解決する。
協力者を増やす。
そして、次の改革に取り組む。
その実績を積み重ねれば、周囲の評価も変わっていくでしょう。
(……悪くありませんね)
強引に権限を手に入れるより、時間はかかるかもしれません。
ですが、その分、私自身の能力を証明できる。
しかも、結果として手に入れた信任は、単に権限を奪った場合よりも強固なものになるでしょう。
……ふふっ。
なかなか魅力的なお話ではありませんか。
「それは、随分と大きなお話ではありませんか?」
私は、そう尋ねた。
ナギサさんは、相応の成果を出せば評価されても不思議ではないと答えた。
もちろん、必ず会長になれるという保証ではない。
それは、私も理解しています。
ですが。
(……挑戦する価値は、十分にありますね)
私は、改めてナギサさんを見つめた。
どうやら、この方は私に思いもよらない道を示してくださったようです。
◇
ただし、ナギサさんは一つだけ、厳しい条件を付けてきた。
「ただし、会長になるためにSRTを利用していただいては困ります」
私は、わずかに目を細めた。
(……なるほど。そこは譲れないのですね)
政治的な実績を得るためにSRTを利用してはいけない。
SRTを守るために尽力した結果、信任を得るのであれば構わない。
ですが、その順番を逆にしてはいけないという。
……随分と厳しいお考えです。
そもそも政治の世界では、成果が評価につながることなど珍しくありません。
結果として支持が増えるなら、それを計算に入れることの何が悪いのでしょうか。
……ですが。
今回については、それほど難しく考える必要もないのかもしれません。
私は、もともとSRTの存続を望んでいた。
あれほど優秀な組織を廃校にしてしまうのは、あまりにも惜しい。
その考えまで、嘘というわけではありません。
ならば、まずSRTを守る。
そして、その過程で私自身の能力を証明する。
(……それなら、問題はないのでしょう?)
もちろん、SRTの生徒たちを使い捨てにするつもりはありません。
存続を実現できたなら、彼女たちにも利益がある。
私にも利益がある。
そして、連邦生徒会にとっても利益がある。
……むしろ。
(……理想的ではありませんか)
私は、静かに頷いた。
「なるほど」
すると、ナギサさんは少しだけ笑った。
「せっかくですから、カヤさんも目指してみませんか?」
「何を、でしょうか?」
「先ほどお話しした、超人というものを」
……。
(……超人を、ですか)
思わず、目を瞬かせてしまった。
まさか、この方からそのような言葉を向けられるとは。
「……それを、私に目指せと?」
「ええ。簡単ではないでしょうけど、挑戦する価値はあると思います」
「随分と大きな期待を寄せてくださるのですね」
私は、微笑みながら答えた。
……ですが、ナギサさん。
少しだけ、認識が違いますね。
(……私は、すでに超人であると自負していますよ)
少なくとも、そこらの役員たちと同列に扱われるつもりはありません。
判断力も、知識も、行動力も。
私には、十分なものが備わっている。
そして、誰よりも組織を良くできるという自信があります。
……ただし。
それを、他人にも認めさせられるだけの実績があるか。
そう問われると、話は別です。
会長のように異なる立場の者たちをまとめ、誰も解決できなかった問題を解決する。
その能力については、まだ十分に証明できていない。
……ならば。
(……証明すればいいだけのことですね)
私は、ナギサさんを見つめた。
これまでの私は、超人にふさわしい権限を手に入れようとしていた。
ですが、順番を変えてもよいのかもしれません。
まず、自分が超人であることを実績で示す。
そして、その能力にふさわしい地位を得る。
……ふふっ。
(……確かに、それなら名実ともに超人ですね)
それも、今まで誰も成し遂げられなかったことを、自分の力で実現した超人。
……悪くありません。
むしろ、少し楽しみになってきました。
「もちろん、私もできる範囲で協力しますよ」
ナギサさんが、そう付け加えた。
私は、思わず彼女を見つめた。
自分と考え方の違う人物に対し、ここまで積極的に協力を申し出る。
しかも、私が正式に会長を目指す可能性まで示してくるとは。
(……本当に、変わった方ですね)
私は、思わず呟いていた。
「……初めてお会いした時から、相当な能力をお持ちだとは感じていましたが……」
「……はい?」
「……ある意味、会長とはまったく違う方向の超人ですね……」
「カヤさん?」
「ああ、いえ。何でもありません」
私は、いつもの笑みを浮かべた。
「ただ、少し考えを改める必要がありそうだと思いまして」
「考えを、ですか?」
「ええ。ナギサさんについて、です」
ナギサさんは、少し不思議そうな表情を浮かべた。
……ふふっ。
(……なかなか、面白い方ですね)
会長は、周囲に難しさを感じさせないほど自然に組織を動かしていた。
一方、この方は、その難しさを言葉にして説明し、私自身に考えさせてくる。
そして、実現するかどうかは本人に任せる。
……なるほど。
確かに、違う方向の超人です。
◇
その後、私はFOX小隊についても尋ねてみた。
ユキノたちから交渉の報告は受けています。
ですが、ナギサさん自身がどう考えていたのかも、確認しておきたかった。
彼女は、FOX小隊が優秀だからこそ、自分たちで判断できるようであってほしいと説明した。
任務の内容に疑問があれば確認し、必要なら断る。
……なるほど。
私としては少々扱いにくくなりましたが、彼女たちの能力を考えれば、必ずしも悪い変化ではありません。
しかし、それなら一つ気になることがあります。
部下が、自分の意図と違う判断をした場合はどうするのか。
私は、その考えを確かめるように、話を続けた。
ナギサさんは、相手が望まない選択をした場合には、その時改めて考えるという。
(……簡単におっしゃいますね)
こちらが望まない選択をされれば、計画を変更しなければならない。
そのために、時間も労力も必要になる。
ですが、この方はそれを当然のこととして受け入れているようです。
私は、改めてナギサさんを見つめた。
確かに、敵に回すのは得策ではありませんね。
何しろ、この方は相手を無理に従わせるのではなく、別の協力者を探すことができる。
そして、相手に自分で判断することまで勧めてしまう。
(……本当に、厄介な方です)
ですが。
協力者として考えれば、これほど心強い人物も少ないでしょう。
私は、今後の方針を一度考え直してみると伝えた。
ただし、ナギサさんの考えがすべて正しいと認めたわけではありません。
その点についても、きちんと伝えておきます。
ナギサさんは、それで構わないという。
むしろ、問題があれば指摘してほしいらしい。
(……反対意見を歓迎する、ですか)
ふふっ。
それなら、今後も遠慮なく申し上げることにしましょう。
……さて。
随分と長い会談になってしまいましたね。
私は、部屋の一角に置かれたチェス盤へ視線を向けた。
そういえば、先ほど雑談でチェスの話もしていました。
せっかくの機会です。
少しくらい、仕事を離れて楽しむのも悪くないでしょう。
◇
――しばらく後。
「カヤさん。どちらの色になさいますか?」
「そうですね。では、黒をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ。もちろんです」
ナギサさんが白のポーンを動かし、私も黒のポーンで応じる。
「ふふっ。随分と真剣ですね」
「ええ。せっかくですから、負けたくありませんので」
「それはこちらも同じですよ」
私は、小さく笑った。
どうやら、ナギサさんも勝負事は嫌いではないらしい。
しばらく駒を動かしていると、ふと先ほどの会談を思い出した。
「ところで、ナギサさん」
「はい?」
「将棋の方がお得意だとおっしゃっていましたよね?」
「ええ。チェスも面白いですが、将棋の方が慣れていますね」
「何となく、その理由が分かった気がします」
「理由、ですか?」
「ええ。将棋では、相手から取った駒を自分の駒として使えますよね?」
「そうですね」
「先ほど、反対する方々を協力者に変えるとおっしゃっていたので。そういう考え方がお好きなのかと思いまして」
ナギサさんは、少し笑った。
「ふふっ。そういう見方もできますね」
「違いましたか?」
「いえ。面白い例えだと思いますよ」
ナギサさんは、盤面を見つめた。
「ただ、現実では将棋のように簡単にはいきませんからね」
「確かに、そうですね」
「将棋の駒は、こちらが動かしたとおりに動いてくれます。でも、人間はそうはいきません」
私は、軽く頷いた。
「それは、私もよく理解していますよ」
「ふふっ。そうですよね」
「ええ。特に、部下が思っていたのとは違う行動をした時などは、困ることもありますから」
「そうですね。こちらの指示が、相手には違う意味で伝わっていることもありますし」
……ああ。
(……昨日のユキノも、そうでしたね)
私は、思わず苦笑しそうになった。
ナギサさんと、できれば早めに会いたい。
そう頼んだところ、本当に翌朝の予定を取ってきたのです。
あれには驚かされました。
ですが、ユキノは何も間違えていない。
私が早めにと頼んだから、可能な限り早い日程を提案した。
しかも、先方の了承まで得ています。
(……私の指示が曖昧だっただけですね)
本当は、準備の時間も確保できる範囲で早めにしてほしかった。
ですが、そこまでは伝えていません。
ユキノが私の意図を理解できなかったのではなく、私が伝えきれていなかった。
……なるほど。
小さなことではありますが、確かに考えさせられますね。
「カヤさん?」
「ああ、失礼しました」
「何か考え事ですか?」
「ええ。少し、昨日のことを思い出しまして」
「昨日、ですか?」
「ふふっ。大したことではありませんよ」
私は、笑みを浮かべた。
「ただ、上司の指示が曖昧だと、部下も困ることがあるのだと思いまして」
「そうですね。お互いに分かっているつもりでも、伝わっていないことはありますから」
ナギサさんは、少し考えた。
「それに、仮に指導者が超人と呼べるほど優秀だったとしても、その部下の方々まで全員が超人というわけではありませんから」
……なるほど。
「では、能力が足りない部下については、どう対応するべきだとお考えですか?」
「そうですね。まずは、その方の考えを聞くことからでしょうか」
「考え、ですか?」
「ええ。何が得意で、どのような仕事をしたいのか。それを聞いて、できる限り任せたいと思っています」
「ですが、それで失敗することもあるでしょう?」
「もちろんです」
ナギサさんは頷いた。
「ただ、任せた以上は、その結果についても上司が責任を持つべきだと思うんです」
「上司が、ですか?」
「ええ。失敗したからといって、すべてを部下の責任にするわけにはいきませんから」
私は、少し考えた。
「では、上司はどこまで責任を負うべきなのでしょう?」
「そうですね。まず、自分の説明が悪かったのかもしれない。仕事の任せ方を間違えたのかもしれない。そう考えることは大切だと思います」
「なるほど」
「そして、失敗した時は仕事を立て直す。必要なら、部下の方を守ることも上司の役目でしょう?」
(……部下を、守る)
私は、盤面へ視線を落とした。
確かに、仕事を任せたのは上司自身だ。
ですが、本人の能力や判断に問題がある場合だってあるでしょう。
「ナギサさん。それでは、部下が裏切った場合も同じように考えられるのですか?」
「もちろん、裏切ったご本人の責任がなくなるわけではありませんよ」
「それなら……」
「ですが、その方を信用して仕事を任せたのは自分ですから」
ナギサさんは、こちらを見た。
「少なくとも、その判断については自分にも責任があると考えます」
「裏切られた側なのに、ですか?」
「ええ。部下を御しきれなかったのであれば、自分の力が足りなかったとも考えられるでしょう?」
(……自分の、力が)
「でしたら、次はもっと上手くできるように、自分を鍛えればいいんです」
私は、思わず黙り込んだ。
随分と、厳しい考え方ですね。
部下に対してではない。
指導者自身に対して、だ。
……ですが。
(……それも、超人の条件なのでしょうか)
私は、盤面へ視線を戻した。
会長は、部下たちに仕事の難しさを感じさせないほど、自然に組織を動かしていた。
しかし、会長自身がすべての仕事をしていたわけではない。
各部署の者たちは、それぞれの仕事をこなしていた。
つまり、会長は彼女たちが能力を発揮できる環境を整えていたのだ。
そして、自分が不在になった場合に何が起こるのかまで考えれば。
(……それを、私が引き継げばよいのですね)
各部署をまとめ、必要な判断を下す。
さらに、部下たちにも組織全体を見る能力を身につけてもらう。
そうすれば、私が不在になったとしても、連邦生徒会は機能し続けるでしょう。
……なるほど。
これは、随分と面白い課題です。
「カヤさん?」
「ふふっ。失礼しました」
「また考え事ですか?」
「ええ。少し、目標が増えてしまいまして」
「目標、ですか?」
「はい。ですが、まだ秘密です」
ナギサさんが、少し不思議そうに笑った。
「そうでしたか」
「ふふっ。いつか、結果をお見せできればと思います」
「それは楽しみですね」
私は、ナギサさんを見つめた。
……ええ。
楽しみにしていてください。
私が、本当に超人であることを。
必ず、証明してみせますから。
◇
それから、私たちはしばらくチェスを楽しんだ。
「……あっ」
ナギサさんが、小さく声を上げた。
「どうされました?」
「いえ。少し考えていた手があったのですが……」
視線の先には、先ほど私が動かしたナイト。
どうやら、予定していた展開とは違ってしまったらしい。
「ふふっ。それは残念でしたね」
「ええ。でも、まだこれからですよ」
「それはこちらも同じです」
私は、少し笑った。
ナギサさんは、次の手を考えている。
あれほど大きな政治の話をした後だというのに、今は目の前の一手を楽しんでいる。
……本当に、不思議な方ですね。
しばらくして、今度は私の方が考え込むことになった。
「……なるほど」
「ふふっ。どうでしょう?」
「なかなか面白い手ですね」
「ありがとうございます」
私は、盤面を見つめた。
さて、どうしましょうか。
今すぐ駒を取れば、有利になるかもしれない。
ですが、その後に別の駒を失う可能性がある。
……なるほど。
(……まるで、先ほどの話ですね)
目の前の利益だけを追いかけていては、後で困ることになる。
もちろん、チェスと政治は違いますが。
私は、少し考えてから駒を動かした。
「……あっ」
ナギサさんが、再び小さく声を上げた。
「ふふっ。どうされました?」
「いえ。上手く避けられてしまいました」
「それはよかったです」
二人で笑った。
……まったく。
最近は、仕事ばかりでこういう時間も少なかった。
ですが、たまには悪くありませんね。
その後も何度か形勢が変わり、最後には私が勝つことができた。
「……参りました」
「ふふっ。ありがとうございました」
「こちらこそ。なかなか難しいですね、チェスは」
「いえ、途中では私も随分と考えさせられましたよ」
それは本当だった。
将棋の方が慣れていると聞いていたので、もう少し簡単に勝てるかと思っていたのですが。
予想外の手もあり、なかなか楽しい対局だった。
「また機会があれば、ぜひ」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」
私は、ナギサさんと笑顔を交わした。
……さて。
そろそろ戻らなければなりませんね。
随分と長い会談になってしまいましたが、無駄な時間ではありませんでした。
むしろ。
(……得られたものは、想像以上でしたね)
◇
――トリニティからの帰路。
私は、車窓の外を眺めていた。
今日の会談は、予想していたものとは随分違った。
SRTの存続について確認するつもりが、連邦生徒会の改革や、私自身が会長を目指す可能性まで話が広がってしまったのだから。
(……連邦生徒会長、ですか)
私は、手元の資料へ視線を落とした。
SRTの暫定運用案。
もちろん、まだ何も決まっていない。
リンが簡単に賛成するとも思えませんし、正式な承認を得るには相応の手続きが必要でしょう。
ですが、何もできないわけではありません。
私は端末を取り出し、防衛室へ連絡を送った。
まず、暫定運用案を正式な協議にかけるために必要な手続きの確認。
次に、廃校方針の再考に向けた資料の準備。
そして、連邦生徒会内部で協力してくれそうな人物の調査。
最後に、各部署が抱えている問題についても、整理してもらうことにした。
(……まずは、これからですね)
私は、端末を置いた。
連邦生徒会長がいなくなったことで、組織が上手く動かなくなっている。
それは、単に会長が不在だからではない。
会長が引き受けていた役割を、誰も十分に代行できていないからだ。
そして、各部署もまた、会長がいた頃と同じように仕事を進めようとしている。
それでは、上手くいかないのも当然でしょう。
(……なるほど。確かに、難しい仕事ですね)
私は、静かに笑った。
ですが、難しいからといって諦める理由にはなりません。
むしろ、やりがいがあるというものです。
私は、自分が超人であると信じています。
その自信は、今も変わりません。
ですが、他人に認めてもらうには、実績が必要なのでしょう。
そして、今回の問題を解決できれば。
会長が簡単にこなしているように見えた仕事を、私自身の力で成し遂げられれば。
それは、誰にでも分かる証明になるはずです。
(……名実ともに、超人ですか)
ふふっ。
悪くありませんね。
それに、もし会長が戻ってきたとしても。
以前のように、すべてを会長一人に頼る必要はなくなるでしょう。
会長がいなくても機能する組織を作る。
そして、いつか正式に会長を目指す機会が訪れた時。
私は、自分がその地位にふさわしい人物であることを証明できる。
……いいでしょう。
今は、ナギサさんの提案に乗って差し上げます。
ですが、ナギサさん。
(……私も、あなたを利用させていただきますよ)
もちろん、あなたの思いどおりに動くとは限りません。
私には、私の考えがあるのですから。
私は、もう一度手元の資料を確認した。
まずは、目の前の問題から片づけましょう。
何しろ。
超人への道は、まだ始まったばかりなのですから。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回はカヤ視点の後編でした!
自らを超人と信じるカヤですが、どうやら新しい課題が見つかったようです。
そして、当初の予定ではカルバノグ編になるはずが、いつの間にか連邦生徒会改革編になってしまいました!
……だいぶ正史から変わってきていますね。
ちなみに、本格的に描くなら、今回以上の政治劇や『半沢直樹』のような権力争いも考えています。
……私に書ききれるかなぁ?
次回からは、再びナギ視点に戻る予定です!
引き続きよろしくお願いします!