おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

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《深海の夜明け》④

 

「少し、食べすぎですわね。大きなお魚さんには、ご退場いただきましょう! 1コスト、《星光の裁定》!」

「対応なし。解決していいよ」

「では、大きいほうの深海魚を除外。シオンさんは、ライフを三点回復ですわ!」

 

 水中を泳ぐ青白い灯へ、頭上から光が落ちた。

 丸々と育った魚が、その柱へ吸い込まれて消える。

 シオンのライフは、17から20へ上がった。

 

「回復までつけてくれるんだね」

「お土産ですわ。あれだけ育ったお魚さんにご退場いただけるなら、三点くらいは差し上げましてよ」

 

 だが、その隣には二匹目が残っている。

 一匹を除外しただけで、シオンの攻めが途切れるわけではない。

 向こうはいくらでも大きくなるし、一手間違えてエラを失えばそのまま大きく踏み込まれる。

 だからこそ、一匹は退場してもらえて楽になった。

 

 そして、運良く引くことが出来た本命の方をプレイする。

 

「続いて、《カボチャの馬車》ですわ。今度こそ、お迎えに参りましてよ!」

「《封印の否定》。それは、通せない」

 

 金色の車輪が形になる前に、青い水の中へほどけた。

 シオンが止めたのは、今度もそちらだった。

 

(打点は増やしていい。手札も増やしていい。クロックだって差し出す。ただし、安全には殴らせないってか)

 

 追加でエラに《硝子の靴》を履かせてターンを終えると、レッカがもどかしそうに両腕を組んだ。

 気持ちは分かる。

 パワー30のユニットが立ち、相手のライフは20。あと一回、まともに殴ればライフは0を割る。

 その一回が遠い。

 

「バトル。巫女、それから《深海に潜むもの》二体でアタック」

 

 7/7の巨体が、先頭に立って水を掻いた。

 俺はウツボの前へ猫を差し出し、エラをもう一体へ向ける。

 エラの三十点でウツボを殴り返せば、倒したうえにライフも戻る。

 当然、何かある。

 

「ダメージの前に、1コスト。《深海への退去》。エラにブロックされた《深海に潜むもの》を、手札へ戻すよ」

 

 エラの箒が、空を切った。

 目の前にいた巨体が水へ溶け、その影さえ消える。

 回復は、ない。

 巫女の三点だけが通り、こちらは85になった。

 

「まあ。お代わりどころか、お皿ごと下げてしまいますの?」

「エラに食べさせるには、少し大きすぎるからね」

 

 第二ビルドで、そいつがまた出てきた。

 裏向きのファクターは七枚以上。必要ファクターも支払うコストも、0まで下がっている。

 1コストで回収して、無料で出し直す。

 俺の三十点ぶんの回復を、たったそれだけでなかったことにしやがった。

 

(自分の札を戻すときだけ、やけに足取りが軽いじゃねえか)

 

 次の俺のターン、二枚引いて見えた顔に目を止める。

 《姫を探す王子》。万が一、エラが潮流に流されたときに復帰出来る札だ。

 今なら山札から《硝子の靴》を探すことで、下に行ってしまった妨害札をリフレッシュすることも出来る。

 

 俺は見えている《浮上の否定》の枚数をカウントする。ファクターには埋められていない。一枚は抱えている可能性が高い。

 執行者が下に行った以上、対象にされそうなのは、このカードだけ。無策で吐き出したくはない。

 プレイせず、エラも攻撃しないままターンを返した。

 

 返しの攻撃も、同じ形になった。魚をエラの前には出さず、巫女と二体のウツボを走らせる。

 エラを一体へ向かわせ、もう一体を受けるため、俺は魔法使いに指を置いた。

 

 攻撃している三体のうち、一番大きいのは二体の7/7だ。一体はエラが受ける。もう一体を止めれば、通るのは巫女の三点だけになる。

 丸い帽子の下から、小さな顔がこちらを見上げている。

 こいつを残せば、次のリンクでも引ける。

 

 あと一枚引ければ、違う展開ができるかもしれない。

 そう考えかけて、前の試合の盤面が頭をよぎった。

 

(……次の仕事のために、今の仕事をさせないのは違うだろ)

 

 もう充分、引かせてもらった。

 いま守ってもらうのは、次のドローじゃない。次のターンそのものだ。

 

「魔法使い、《深海に潜むもの》をブロックですわ!」

 

 帽子の魔法使いが、杖を両手で構えた。

 ダメージの前に、シオンは二枚目の《深海への退去》を使う。エラが受け止めた7/7だけが手札へ戻り、もう一体は進み続けた。

 ウツボの大きな口が、魔法使いの姿を覆う。

 光が散り、手元の墓地に一枚が加わった。

 

 今回も、エラの回復はない。巫女の三点で、俺のライフは82になる。

 第二ビルドに巨体が出直してくるころには、エラの周りが随分と寂しくなっていた。

 あれだけ賑やかだった衣装係も、盾に立った小動物も、もういない。

 華やかなドレスの少女だけが、静かな海を睨んでいる。

 

 俺は薄くなりつつある山札から、今度も二枚を引いた。

 墓地からリンクを回収できる《願いを紡ぐ糸》と、三つ目の《星屑のティアラ》。糸は手元へ残し、冠はファクターへ置く。

 

 墓地の衣装を拾う札は来た。だが、潮流を突破するための札は、まだ揃わない。

 エンドの手札調整で、余分な《舞踏会のアンクレット》を捨てる。

 

 俺のターンが空振りに終わった返し、シオンは攻撃しなかった。

 《深海への退去》は、これで二枚が墓地だ。戻す札がなければ、エラが受けた一体は倒れ、俺は三十点回復する。

 残りの攻撃を通しても、増やすぶんのほうが大きい。

 

 シオンは二枚引いたが、戦闘では動かなかった。エンドに王国でもう一枚引き、手札を一枚、海底へ預ける。

 水の下には、合計十九枚のファクター。うち十五枚が裏向きで、起きているのは十枚だ。

 王国に加え、門番や静寂、探査でも魚は育っていた。残った一匹は、15/17になっている。

 

 こちらのファクターは十二枚。起きているのは三枚。

 数だけ比べれば、笑いたくなるほど負けている。

 

「わたくしのターン、二枚ドロー!」

 

 《真夜中のヴェール》。そして、《舞踏会の静寂》。

 ようやく、潮流を突破する札が揃った。それも二枚

 

「ファクターへ一枚置いて、1コスト、《真夜中のヴェール》をエラに!」

 

 起きている一枚を横に倒す。

 シオンは手札を確かめたが、何も差し出さなかった。

 

「通すよ」

 

 薄い布がエラの肩へ掛かる。

 エラがフィールドを離れるとき、代わりに壊れてくれる衣装だ。潮流を踏んでも、一度は残れる。

 少女の表示は31/36。リンクは十二枚になった。

 シオンの手札が尽きたようには見えない。こちらは攻めるための一枚を揃えた。何を返すつもりなのか。

 

「続けて1コスト、《夜会の世話役》ですわ! お支度を整えてちょうだい!」

「……うん。登場していいよ」

「では、世話役の出番ですわ。ファクター十三枚、すべてアクティブに!」

 

 白い手袋の男が、銀の盆を差し出す。

 シオンは、ファクターが戻るところまで通した。

 リンクは十二枚。眠っているファクターは十一枚だから、すべて起こせる。

 盆から零れた光が横向きの札を撫で、俺の前の十三枚が、すべて縦に揃った。

 レッカが身を乗り出した。

 

「よし、通った! 十三枚、全部起きたぞ!」

 

 そう、通る。

 だが、シオンが何も持っていないとは思わない。

 ヴェールを通し、ファクターまで、全部起こさせた。

 その先で俺がどう動くかを、待っている。

 

 これで手札は六枚。

 《舞踏会の静寂》。二枚の《仕立ての魔法》。王子、コサージュ、《願いを紡ぐ糸》。

 手元を確かめ、俺は息をひとつ吐いた。

 

「バトルフェイズ! エラ、道を開きなさい!」

 

 31/36の少女が、水面を蹴った。

 十二枚の衣装。その腰からリボンが長く尾を引く。シオンは三体を前へ出した。

 

「深海魚と、《深海に潜むもの》二体。三体でブロック」

 

 15/17の魚と、7/7の巨体が二体。

 タフネスは合計31。

 魚へ十七点、ウツボへ七点ずつ。三体を倒せば、三十一点をすべて使い切る。

 貫通はあっても、シオンのライフ20には届かない。

 俺には、まだエクシードがある。

 

 《リミットレス・シンデレラ》。

 

 エラの専用エクシード。

 それ自身も衣装になるから、リンクは十三枚。パワーは26増えて、57になる。

 三体へ三十一点を割り振っても、貫通で二十六点。ヴェールを剥がされても、パワー54から二十三点が通る。

 シオンのライフ20を、削り切れる。

 再誕を使われても、三体を落として相手のエクシードまで消費させられる。その先は、大きくこちらへ傾くはずだ。

 

 視線が、目の前の本を模したホログラムに移る。

 シオンは何も言わない。

 彼女の手札は五枚。その中身を、こちらへ見せるつもりはないらしい。

 

(使わせたいよなあ。そりゃあ、使わせたいだろうよ)

 

 ダメージを消すだけでもいい。エラごと流してもいい。

 たった一度の切り札をここで使い、攻撃が空振りしたら、その後に残るのは大きく空いた穴だけだ。

 まずは、この三体を片づけられればいい。

 そう思わせるには、心臓の音が少しうるさかった。

 

「こちらからは、これで。さあ、ダメージへ進んでよろしくて?」

 

 まだ、ダメージは出ていない。

 俺が渡したのは、その前に何かを使う権利だ。

 シオンの指が動く。

 

「その前に、《深海への退去》。エラについているヴェールを、手札へ戻す」

 

 三枚目の退去。自分のユニットではなく、俺の衣装を選んできた。

 エラ本人は選べなくても、ヴェールは選べる。

 

「通しますわ」

 

 肩から布が抜け、手札へ戻る。

 ヴェール自体の修整と、記載コストによる+1/+1が失われ、エラは30/33へ下がった。

 シオンは、その処理が終わるのを確かめてから、次の一枚を差し出す。

 

「2コスト。《ネレヴァスの潮流》」

 

 来た。

 エラの足元で、水が渦を巻き始める。

 

「その上に、1コスト! 《舞踏会の静寂》ですわ。少し、お静かになさい!」

 

 静寂は自分のターン限定で使える<クイック>アクション。通れば、このターン、相手はカードをプレイできなくなる。

 既に使われた潮流が消えるわけではないが、上に被せることで、《仕立ての魔法》が妨害されなくなる。

 クイックタイミングでヴェールをつけることで、潮流は突破出来る。そしてヴェールは、戻されて手札にある。

 

「《封印の否定》。静寂を打ち消すよ」

 

 裏向きのファクターが表へ返る。

 俺の招待状は、また受け取ってもらえなかった。

 だが、まだ下で潮流が待っている。

 

「まだですわ! 0コスト、《仕立ての魔法》!」

「2コスト。《深淵への沈没》で打ち消す」

 

 ヴェールを縫い留めるはずの光の糸が、途中で千切れた。

 また一枚、裏向きの札が海へ沈み、深海魚の灯りが増える。

 シオンには、まだ起きたファクターが四枚ある。

 だが、手札は残り一枚だ。

 

「ならば、もう一度! 《仕立ての魔法》ですわ!」

 

 同じカードを、重ねる。

 俺の手元には、王子、コサージュ、糸、戻されたヴェール。

 ファクターは十三枚中、十二枚が起きている。だが、手元の四枚を今この応酬へ割り込ませることはできない。二枚目の仕立てが、最後の返し札だ。

 

 シオンは伏せ札の並びを見た。

 彼女の手が止まる。

 俺はその指先から目を離さなかった。

 

 割って払えるファクターはある。

 残る一枚では、返せないのかもしれない。だが、エクシードは残っている。

 ここでヴェールがつけば、潮流は身代わりの布を剥がすだけで終わる。

 エラは残る。戦闘も続く。

 

「メイ」

 

 シオンが、ふっと息を漏らした。

 

「やっぱり、簡単にはやらせてくれないね」

「そちらこそ。ようやく本気のお返事を頂けますのね?」

「うん。エクシード、ディサイド」

 

 シオンの長い指が、海の底から浮かび上がった一枚を掴む。

 

「黎明の光は、海底に。眠れる記憶は、私のもとに」

 

 シオンが、静かにその一枚を掲げた。

 

「目覚めの時は、今ここに。リベレーション――《深海の夜明け》」

 

 暗い水底に並んでいた札が、青白く光り始めた。

 

---

 

 《深海に潜むもの》青・7F/7C

 ネレヴァス/ユニット

 "守護(3)"(対戦相手がこのカードを対象にしたとき、対戦相手は3Cを支払ってもよい。そうしなかったら、そのソースかアビリティを打ち消す)

 このカードをプレイするとき、このカードの必要FとCをそれぞれX少なくする。Xはあなたの裏向きのファクターの枚数に等しい。

 7/7

 ―

 沈めた記憶を数えていた。ひとつ多いと気づくまでは。

 

---

 

 《舞踏会の静寂》白・2F/1C

 フェイブルーン/アクション

 <クイック>

 このカードは、あなたのターン中にしかプレイできない。

 このターン、相手はカードをプレイできない。

 ―

 誰も彼女の名を知らなかった。それでも、その姿を見れば、誰もが言葉を失った。

 

---

 

 《ネレヴァスの潮流》青・5F/2C

 ネレヴァス/アクション

 <クイック>

 あなたの裏向きのファクターを好きな枚数選び、表向きにする。相手は、この効果で表向きにしたファクターの枚数に等しい数の、自分の攻撃ユニットを選び、持ち主の手札に戻す。

 ―

 沈めたはずの過去が、押し寄せるすべてを押し返す。

 

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