おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
海の底から、七枚の札が浮かび上がった。
シオンの指は、選ぶ場所を迷わない。自分の手札から沈めていた位置を、順に拾っていく。
裏向きの中身を覗いているわけではない。
知っている札を、回収している。
「七枚を手札へ。残る八枚を、すべてアクティブにするよ」
さっきまで横を向いていた札が、次々に起きた。
水面のずっと下に、青い光が筋を引く。
残っていた一枚に、海底から七枚が加わった。手札は八枚、アクティブのファクターも八枚になった。
(……手札補充して、アクティブをまとめて取り戻す。コントロールデッキはこれだからよぉ!)
俺は十二枚のファクターを起こしたまま、手札を見た。
王子、コサージュ、糸、戻されたヴェール。
今の応酬に使える札は、もうない。
対してシオンは、拾ったばかりの一枚をそのまま差し出した。
「2コスト。二枚目の《ネレヴァスの潮流》を、仕立ての上に」
レッカが息を呑んだ。
ヴェールは、まだ手札にある。
今のエラには、身代わりになる衣装がない。
「……通しますわ」
シオンが、起きている裏向きファクター一枚を表へ返した。
海面が持ち上がった。
エラの硝子の靴が、一度だけ水を踏みしめる。箒を握り直した少女の背後で、波が高い壁になった。
対象にならない。そういう能力があっても、彼女だけが波の中へ残れるわけではなかった。
「主人公の移動を置き換えますわ。エラは、除外領域へ」
俺が告げると、少女の姿が光へほどけた。
胸元の薔薇が散る。
三つのブローチが、腰のリボンが、星を織った白いドレスが、順に輝きを失っていく。
残っていたリンク十一枚が、墓地へ落ちた。
盤面から消えたのは、ユニット一体だ。
だが、俺はそれを一枚分の損失とは、とても数えられなかった。
魔法使いに引かせた服。世話役に用意させた支払い。小さな連中が身体を張って守ったターン。
全部を着込んでいた少女が、今は山札の隣に小さく浮いている。
最初と同じ、煤けた服と古い箒で。
「では、《仕立ての魔法》を解決いたしますわ。一枚、ドロー」
声は、ちゃんと出た。
引いたのは、レッカとの戦いでは引き込めなかった《妖精の帳》。
仕立ては1枚引いたあと、手札のリンクをつけてもよい。今は衣装を出さず、そのまま解決を終える。
シオンはさらに下で待っていた、一枚目の潮流を解決した。
ファクターは一枚も表に返さなかった。
戻すべき攻撃ユニットも、もういなかった。
戦闘ダメージはない。
回復もない。
俺のライフは82のままだった。
手札の五枚を、扇の形に広げる。
王子。コサージュ。糸。ヴェール。そして、妖精の帳。
エクシードはまだ使わない。
「第二ビルドは何もせず。ターンエンドですわ」
シオンが、ゆっくり頷く。
その顔には、攻撃をしのいだ安堵より、次の手順を確かめるような静けさがあった。
「あれ、まだ出し直せるんだろ? エラなら、もう一度やれんじゃねえか!」
横からレッカの声がする。
出せる。
除外からの追加コストを払っても、今のファクターなら足りる。王子を出すことだってできる。
「いや、今エラを出し直しても、シオンさんは七枚、必要なカードを手札に加えている。仕掛けるのは、今じゃない。それに手札じゃなくて除外に戻した。この意味をシオンさんは当然理解しているはず」
そう、シオンは手札もアクティブなファクターも取り戻した。
その上、シオンまだは本命のユニットを見せていない。
ターンを迎えて、二枚を引いたシオンは、ファクターを一枚置き、巨獣の札を抜いた。これで足場は十四枚。大きく使ったあとに残すぶんまで、数えている。
「軽減して0コスト。《封海の巨獣、ネヴロス》。そして三枚目の《深海に潜むもの》」
厚い甲殻が水を割り、パワー7の獣が這い出した。
裏向きのファクターが6枚以上あれば、支払いは0。相手のユニットをデッキの底へ送る能力まで抱えた7/7だ。
ウツボのほうも、7枚の裏向きファクターがあれば無料で出てくる。
それでも、シオンの手は止まらない。
「続けて4コスト」
シオンの宣言に、水面そのものが白く凍った。
「波は眠り、潮は止まり、海は永遠の静寂に沈む。その吐息に命は凍てつき、その羽ばたきに時すら凍る」
氷の輪郭へ、海底から青い灯が吸い上げられていく。
「今ここに、冬が来る——《永久凍土、グラシエル》」
薄氷に亀裂が走り、その向こうから巨大な影が立ち上がった。
白き竜が吠え、フィールドを吹雪が覆う。
「グラシエルが登場するに際し、裏向きのファクター、七枚をすべて破棄する」
「七枚、全部かよ!? 海の底が空っぽになっちまうぞ!」
レッカの声が裏返った。
海を埋めていた札が、束になって墓地へ送られる。
裏向きは、一枚も残らない。
表向きのファクター七枚だけを残し、氷の巨体に13/15の表示が浮かんだ。
「メイは自分のユニットを七体選んで。スリープさせて、次のスタートでも起きなくするよ」
「世話役を選びますわ。今のわたくしのユニットは、この一体だけですもの」
盆を持つ男の足元が凍りつき、その場に縫い留められた。
グラシエルの能力は、こちらが選ぶ。潮流と同様、エラの対象耐性で防ぐことはできない。
だから、前のターンには出し直さなかった。
シオンが視線を上げた。
「バトルフェイズ。攻撃できる四体でアタック」
十六点の深海魚。七点の《深海に潜むもの》が二体に、三点の巫女。
今出たネヴロス、三体目のウツボ、グラシエルはまだ攻撃できない。それでも、合計三十三点だ。
こちらの世話役は、氷の中にいる。
「……対応はありません。そのまま受けますわ!」
巨体が、青い灯が、槍が、次々と俺の前を突き抜けた。
82あったライフが、49へ落ちる。
一度に減った数字を見て、遅れて息が詰まった。
まだ49。開始時より九点も多い。
なのに、手札の縁を押さえる指が冷たかった。
エンドフェイズ。シオンは《ネレヴァス》で眠った表向きの一枚を破棄し、引いた札を確かめてから手札を海底へ沈めた。王国でも一枚引き、もう一枚を伏せる。
巫女が眠った一枚を起こした。
裏向きは二枚。魚のパワーが18になる。
ファクターは八枚、そのうち四枚が起きている。山札には五枚が残った。
「確かにグラシエルはでけえけど、メイのターンが回ってくりゃ――」
「そうだね。回ってくれば、だけど」
「でも、シオンさんはもうターンを終えましたよね?」
「そうだよ。でも、シオンさんには
コハルへ答えたリツの視線は、シオンの場から動かなかった。
「グラシエルの登場時に、裏向きのファクターを七枚以上破棄したので追加効果が発動」
シオンが静かに告げる。
吹雪が一段と強くなり、その姿さえも白く霞んだ。
「白竜のもたらす冬に、終わりはない。永久の氷が時を縛り、春の目覚めを許さない。
グラシエルが雄叫びを上げた。
俺のホルダーの表示を白い霜が覆い、色を奪っていく。
ターンプレイヤーを示す光は、再びシオンの側に灯った。
「追加ターンだと!?」
「そうだよ。しかも、シオンさんの場にはライフを削り取るのに十分な打点がある。メイさんは、あの攻撃を凌がなければならない」
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《深海の夜明け》
ネレヴァス/エクシード
あなたの裏向きのファクターを好きな枚数選び、手札に加える。その後、あなたの裏向きのファクターをすべてアクティブにする。
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忘れられた日々が浮かび上がり、暗い海を朝の色に染めてゆく。
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《永久凍土、グラシエル》青・7F/4C
ネレヴァス/レジェンド・ユニット[グラシエル]/ドラゴン
"飛翔"
"守護X":Xはあなたの裏向きのファクターの枚数に3を足した数に等しい。
このユニットがフィールドに出るに際し、あなたの裏向きのファクターを好きな数破棄する。このユニットはその数に等しい+1/+1カウンターを得た状態でフィールドに出る。
このユニットがフィールドに出た時、相手は自分のユニットをこのユニットの上にある+1/+1カウンターの数だけスリープにする。それらは、それぞれのコントローラーの次のスタートフェイズにアクティブにならない。
このカードがフィールドに出るに際し、裏向きのファクターを7枚以上破棄したならば、あなたはこのターンの後に追加の1ターンを得る。
6/8
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水平線を覆う翼、海を閉ざす吐息、時さえ凍てつく羽ばたき。それを人々は、「冬」と呼んだ。
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