おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
俺のドローを挟まず、シオンのユニットが起き上がった。
今度は、ネヴロスもグラシエルも動ける。
シオンは二枚引き、ファクターを一枚置いた。
これで十六枚。七枚を起こしたまま、そのままバトルへ進む。
ホルダーは、まだシオンのターンを示していた。こちらの山札は、手を伸ばせる場所に浮いている。だが、次の一枚を引く番は来ない。
手札の端を親指で押し揃え、向こうの場へ目を戻す。
知っていた能力でも、目の前でやられると腹が立つ。さっきまで横を向いていた巨体が、もう全部こっちを見てやがる。
「全員で、アタックするよ」
七体。
パワーは18、13、7、7、7、7、3。
六十二点。
俺のライフ表示は、49だ。
俺は手札から、一枚を抜いた。
(まあとりあえず、まずはこいつが通るかどうかだ)
「《妖精の帳》! 深海魚がこのターン与えるダメージを、すべて軽減しますわ!」
「2コスト。《深淵への沈没》。帳を打ち消すよ」
広がりかけた布が、海の底へ引かれた。
シオンは山札からの配置を見送った。残る三枚を、ここでは減らさない。
帳は解決していない。魚も止まらず、カードも引けない。
このまま六十二点を受ければ、ライフは尽きる。
(まぁ、通らんわな。さてどうするか。)
俺はホルダーに手をかざし、三枚のエクシードを眺める。
まず目に入ったのは<再誕>エクシードの《物語は終わらない》だ。
これで、十五点取り戻せば、ライフ2が残る。
だが、残るだけだ。
《物語は終わらない》にはドローもついている。だが、残り少ない山札から三枚引いても、底に沈んだ妨害札には届かない。
何より、《深海の夜明け》で、シオンは手札を補充している。しかも手に入れたのは、過去に埋めた、今必要なカードだ。
仮に、《物語は終わらない》で生き残ったとして。
そのあと王子でエラを戻し、糸で衣装を拾う。その手順は、今の手札でも組める。
だが、王子を出すところでまず躓く。
あの手札には見えていないユニット打ち消し、《浮上の阻止》が二枚あってもおかしくない。
しかも、その後に残ってるであろうもう一枚の防御札——三枚目の《ネレヴァスの潮流》を黙らせる一枚まで要る。
生き残った。それで? という訳だ。
あの手札を貫くのに必要なエクシードは、《物語は終わらない》でも、切り札の《リミットレス・シンデレラ》でもない。
レッカが何かを言いかけ、やめた。
リツは口を結び、俺の手元を見ている。
世話役は、まだ凍ったまま。エラは除外領域。
盆を持つ男の足元に白い氷が張りつき、こちらへ向いた肩さえ動かなかった。ブロックに回せるユニットは、いない。
倍以上まで増やしたライフが、次の自分のターンを待つ前に尽きようとしていた。
(そりゃ、多少じゃないわな)
笑いかけて、唇がうまく動かなかった。
俺は墓地へ目を落とした。
シオンの墓地と、表向きのファクターも確かめる。帳を消せるカウンターは、まだ一枚見えていない。
その一枚が、どこにあるか。
伏せた手札からは分からない。山札は残り三枚。そこにあってくれれば、今この攻撃をしのぐ余地はある。
勝つために必要な三枚は、俺の墓地に揃っていた。
今沈められた帳。その隣の静寂。もっと下の、途中で手放した王子。
帳で今の攻撃をしのぐ。静寂で次のターンの返し札を止め、王子にはエラを迎えてもらう。衣装を拾う糸は、もう手元にある。
使う順番を考えながら、三枚の位置へ指を滑らせた。
(祈らせてもらうぞ)
二度目の帳まで消されれば、それまでだ。
崖っぷちの賭け。このエクシードにオールインするしかない。
「エクシード、ディサイド!」
俺の前に、本のホログラムが現れてページが開かれた。
その上へ浮かんだ一枚を、掴み取る。
カードの角が、強張った指先へ当たった。
折るなよ、俺。こういうときほど、丁寧に扱え。
「涙の跡に、花を咲かせましょう! 零れた願いも、満開の笑顔に辿り着く!」
カードを高らかに掲げ、その名を呼ぶ。
「その想いは、幸せへの道を繋ぐ! リベレーション――《ハッピーエンドへの祈り》!」
水面の下から、小さな緑の灯が浮かんだ。
シオンの指が止まる。
「《妖精の帳》、《舞踏会の静寂》、《姫を探す王子》! この三枚を手札へ。眠っているファクター一枚も、アクティブにしますわ!」
十三枚のファクターが、すべて縦に揃う。
墓地から戻った三枚を手札へ収め、薄布の絵を一番手前へ揃えた。
拾ったばかりの一枚を、そのまま差し出す。
「もう一度、《妖精の帳》! そのお魚には、おとなしくしていただきますわよ!」
シオンが手札を見た。
俺は、その指から目を離せなかった。
青紫の瞳が、一度だけこちらへ上がる。俺も視線を返した。カードを抜くのか、抜かないのか。
今度は、札を抜かなかった。
「……通すよ」
「では、一枚ドローですわ!」
十八点にまで肥大した深海魚が、薄い帳を押し広げる。
布は破れず、魚の輪郭から力だけが抜けていった。
残る六体は止まらない。
四十四点。
白い竜の翼が広がり、冷たい光が頭の上を掃いた。その下をウツボが進み、海面が重なった巨体の影で埋まる。
吹雪の向こうに、シオンの姿が霞んだ。
俺は目を閉じず、ライフ表示を見ていた。
帳に包まれた魚の脇を、巨体が抜ける。槍の光が散り、最後にネヴロスの影が視界を覆う。
数字が下がっていく。
10を切る。
そこで、止まった。
5。
残ると、数えていた。
それでも、実際に表示が止まるまで、手札を握った指を緩められなかった。
「……五点だ。よし、まだ終わってねえ!」
レッカが、俺より先に息を吐いた。
俺はまだ、吐けなかった。
手札の王子を見て、ヴェールを見て、今引いた《夜会支度の魔法使い》を見た。
墓地にいる、最初の魔法使いへ視線が落ちた。
あいつがウツボの七点を受け止めていなければ、この表示は0を割っていた。
次の一枚を引く仕事は、もう頼めなくなった。それでも、俺を次のターンまで運んでくれた。
新しく来た魔法使いを、墓地の同じ帽子と見比べる。
(今度は、勝たせてもらうぞ)
俺は帽子の絵から目を離し、手札を握り直した。
「第二ビルド。2コストで《鎖眠の海獣》」
起きていた表向きの三枚のうち、二枚が横を向く。
攻撃を終えたウツボの前へ、鎖を引きずる獣が這い出した。
4/6。次はこちらが攻める番になることも、忘れてはいない。
七体を走らせたあとに、もう一体立てる。攻撃をしのがれたからといって、空いた海を明け渡す気はないらしい。
エンドフェイズ。シオンは薄くなった山札を見て、《ネレヴァス》の起動を見送った。王国で一枚だけ引き、手札から一枚を海底へ沈める。
裏向きは十枚。魚は19/21へ育ち、巫女が眠った二枚を起こす。アクティブは五枚になった。
山札は、残り二枚。
最後の返しを探しながら、次に引くぶんも残している。
シオンの指は、やはり乱れなかった。
「ラストターンだね。どうぞ、メイ」
攻撃を終えた七体は横を向き、出たばかりの海獣だけが立っている。
シオンのライフは20。手札は四枚。
ファクターは十七枚。そのうち五枚は起きたままだ。
こちらの手札は七枚。
ライフは5。祈りで拾った王子と静寂、帳が連れてきた魔法使いを、手札の中で並べ直す。
海の向こうで、シオンがこちらを待っていた。
十三枚のファクターは、全部起きている。
使う札を手前へ寄せ、俺はようやく、デッキへ手を伸ばした。
「ええ。ここからは、わたくしのターンですわ!」
声に出してみると、今度は指までちゃんと動いた。
《ハッピーエンドへの祈り》
フェイブルーン/エクシード
あなたの墓地の「フェイブルーン」カード3枚までを手札に加える。その後、ファクターを2枚までアクティブにする。
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どうか、ここまでの涙にも、笑って振り返れる日が来ますように。
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《封海の巨獣、ネヴロス》青・6F/4C
ネレヴァス/レジェンド・ユニット[ネヴロス]/海獣
"貫通"、"守護2"
あなたの裏向きのファクターが6枚以上あるならば、このカードをプレイするためのコストは0になる。
あなたの裏向きのファクターを2枚破棄する:相手のユニット1体を対象とし、持ち主のデッキの一番下に置く。この能力は同名のカード全体で各ターンに1回だけ起動できる。
7/7
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鎖が鳴るたび、海の底に新たな影が増えていく。
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