おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
聞いておきたかったことが、もう一つある。
「ところでさぁ。今回のエラの主人公指定口上どうよ」
「私はクッソ好き」
「やったぁ」
この世界のいいところトップスリーに入る事の一つ。
切り札を出すときや、エクシードをリベレーションするときに口上を切っても、痛い子扱いされない。
むしろ、シオンはプロだ。かっこよくカードをプレイして、見ている人を楽しませるのも仕事のうちである。
「そういう点で言ったらお前のグラシエルもめっちゃ良かったわ。深海の口上も良き」
「お褒めにあずかり光栄」
「あとは、グラシエルの追加ターンのとき。あそこの口上も最高だわ。処理は正確じゃねーけど、それがいい。『春の目覚めを許さない』で『季節が巡らないから冬のまま。つまり自分のターンのままな』っていうのが伝わる!」
「でしょ~!」
シオンが破顔する。こういうノリが良いところは前世と変わらない。
「でもネヴくん可哀想。レジェンドなのに口上もらえなかった」
「蟹。長くなりすぎると思って省略しちゃったけど、そこは反省だね」
シオンが頷き、ホルダーへ何か書き込んだ。
その横に、仕事用の予定表が見えた。
そうだ。感想戦だけしに来たわけじゃなかった。
「いけね。本来の目的忘れてた。教会案件って、いったい何さ?」
『教会』とは、この世界でほぼ唯一の宗教組織である『万界聖教会』のことだ。
宗教団体としての側面の他にも、『いつの間にか手に入れていたカード』や『パックから出るはずのないカード』、はたまた『精霊が宿ったカード』——『オリジナル』の研究機関としても有名だ。
プレイヤーにとって特に身近なのは、強力すぎるカードを『異端』と認定する役目だろう。認定されたカードは、基本的にホルダーを通しては使えなくなる。
俺たちの感覚で言えば、禁止カードを決めるところだ。禁止改定の話に『異端』なんて言葉がつくあたり、いかにもこの世界らしい。
俺がログを閉じると、シオンもホルダーの表示を切り替えた。
今度はカードの絵ではなく、文字の並ぶ資料が出てくる。
「うん。ちょっと聞いたんだけど、『パラドクス機関』って知ってる?」
「知らん」
「表向きは『アチューン研究所』って名前で活動してる。人とカードの共鳴を限界まで高めるのが理念で、『プロジェクト・オーバーマター』っていう——」
「長い。四文字で」
「悪の組織」
「今月のか。オーケー、ぶっ潰そうぜ!」
俺は背もたれから身体を起こし、シオンのホルダーを覗き込んだ。
資料をこちらへ向けていたシオンの手が、途中で止まる。
「もうちょっと聞かない?」
「聞く聞く。どこにあんの? 何をやらかした?」
「闇のカードに手を出してる。研究所の博士が中心になって、教会が放っておけないような研究を進めてる」
なるほど。
カードゲームで飯を食う人間がいて、道具を作る会社があって、カードの精霊なんかも存在して、大会に大勢が熱狂する。
そういう世界だからか、カードゲームで悪いことをする連中や原理のわからんオカルトアイテムを悪用する連中が、やたらと多い。
一つの組織が潰れたと思ったら、翌月にはまた別の組織が現れる。
俺も月に一度くらいは、その手の連中をカードでぶっ飛ばしている。
月刊悪の組織。今月の天誅。
そのくらいの頻度で、予定に入ってくる用事なのだ。
なんなら週刊悪い人くらいはシバいたりしてるぞ。「カードをよこせ」と言いながら勝負しかけてくる与太者とか。大丈夫かな御伽市の治安。
月刊悪の組織の方は、教会から頼まれたりすることもあるが、なんかOTOGIにわざわざ喧嘩ふっかけてきて俺が潰しに行くパターンが多い。
それが、今月はパラドクス機関の番というわけである。
「で、教会からぶっ潰していいって?」
「うん。シスター・リディアから。御伽市の郊外に、本部を兼ねた研究所があるから、ぶっ潰しといてって」
「雑ゥ!」
リディアは、教会に所属しているシスターだ。
あの人からの頼みなら、話は早い。
頼み方も、近所へ行くならついでに買い物を頼む、くらいの投げ方だったらしい。
今月のお使いも、ずいぶん楽しそうじゃないか。
俺は表示された場所を拡大した。
名前の長い計画の説明は、まだその下に続いている。
プロジェクト何とかの詳細は、どうでも良い。今は地図だ。どこから行けば早いか、誰を連れていくか。
カードは楽しく遊ぶためのものだ。
それで悪いことをする奴らは、気に食わない。
しかも、そいつらをカードでぶっ飛ばして帰ってくれば、世のため街のためにもなるという。
よろしい。実に分かりやすい。
「カードで悪さしようとする奴らを、カードでまとめてしばいてこいってことな。任せろ、そういうのは大得意だ」
「まだ何も頼んでないうちから、行く気だったでしょ」
「そりゃ今月の悪の組織だぞ。本部ごとまとめてしばけるんだぞ」
何を使ってくるのか、ちょっと楽しみですらある。
俺は地図の隣に予定表を開き、週末まで送った。
「よし、今週末に行ってくるわ。紙しばきついでに、悪の組織もしばく。シオンも一緒にどうよ?」
「土曜日なら空いてるからお手伝いしようか。他にも誰か誘う?」
「コハルはちょっと厳しいとして、まずリツはいていいだろ。あと、レッカも連れてく」
「レッカくんも?」
「あいつ、どう見てもホビアニ主人公じゃん。絶対どっかで月刊悪の組織に巻き込まれるし、今のうちにレベリングしとこ」
勝った相手にも次の勝負を吹っかけ、知らない手順があればホルダーへかじりつく。
あの少年が、悪い連中のやることを見て、おとなしく帰る姿は想像しづらい。
知らないところで一人で突っ込まれるより、こっちの目が届くところで経験を積ませておきたい。
「連れてって、いきなり博士とやらせる気?」
「博士は俺がもらう。リツとレッカに中の連中を任せて、シオンは後詰め。何かあったら拾ってやって」
「はいはい。先に一人で奥まで行かないでね」
「善処する」
「今の返事、信用できないなあ」
よく分かっているじゃないか。
偉そうな奴が見えたら、話はそいつに聞くのが早いだろう。
「シグレくんは?」
「連絡先知らん」
「そこからか」
「今度見かけたら聞いとく。似たような案件で誘えるように」
「連絡先を交換する目的、それなんだ」
普通に対戦へ誘うのにも使うぞ。もちろん。
ただ、こういう用事に声をかけられる相手は、多いほうが助かる。
「あとは双子ちゃんとか」
「中学生のガキには、まだ早えよ」
「私たちと一年しか違わないけど」
俺は黙って予定表へ目を戻した。
そうだった。今の俺、高校一年生だった。
自分がガキの側に数えられることは、たまに忘れる。
「こっちは保護者枠だから」
「誰の?」
「レッカ」
「本人には言わないであげてね」
シオンが笑い、俺も鼻で笑った。
「保護者、というと後はマナさんとか?」
「生徒会長のマナパイセン? うーん。良いけど、場所が研究所で、パイセンがいつもの格好で来ると絵面が面白くなりすぎるな。予後悪くなりそうだから一旦パスで」
「……確かに」
マナ先輩があの格好で研究所を背景に大立ち回りする姿を想像する。ダメだ、面白すぎる。
そんなこんなでメンツは俺たちに加えてとりあえずリツとレッカ、誘えればシグレくんとなった。
週末の予定欄には、まだ何も入っていない。
俺はそこへ集合時刻を入れ、地図をもう一度引き寄せた。
「車はこっちで出す。この人数なら午前中には終わるだろ。終わったらみんなで昼飯食おうぜ。帰りに『シャッフル』寄ってもいいし」
「ピクニックかな?」
「悪の組織討伐ツアーです」
「名前だけ物騒にしても、予定が遠足なんだよね」
いいじゃないか。悪い連中をぶっ飛ばして、うまい飯を食って、帰りにもうひと遊び。
休日の過ごし方として、なかなか充実している。
俺が研究所の近くにある飲食店まで調べ始めると、シオンは笑いながら首を振った。
「じゃ、土曜日ね。詳しい場所と資料はあとで送る。寝坊しないでよ」
「こちとら財閥令嬢よ。人間アラームが大量にあるから安心せい」
「起こしてもらう気満々じゃん」
「適材適所ってやつよ」
俺は胸を張ってから、予定の開始時刻を少し遅くした。
朝に強い家人がいることと、俺が早起きを好きなことは、まったく別である。
土曜日、悪の組織討伐ツアー。
予定表へ打ち込んだ文字を見せると、シオンが吹き出した。
「それ、仕事の予定と一緒に見られるんじゃないの?」
「やべ」
慌てて表示を非公開へ切り替える。
それから予定表を閉じて、今度はデッキの一覧を開いた。
さて、何を持っていこう。
博士には、たっぷり遊んでもらわなければ。
《星光の裁定》白・2F/1C
アストレイン/アクション
<クイック>
相手のユニット1体を対象とし、除外する。相手はライフを3回復する。
―
光が去ったあと、戦場にはひとり分の静けさと、わずかな温もりが残った。