おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
リムジンの窓の外では、サングラスの黒服が二人、こちらを見ている。
その手前で、シオンは俺のホルダーを覗き込んでいた。
真っ赤な画面を見て、遠い目をしている。
「なんですの」
「いや、パラドクス機関の人、可哀想だなって」
「悪いことをしているから、今月の天誅の対象なのですわ」
「天誅って、自分で持っていくものなんだね」
「お届け先まで、こちらから伺いますのよ!」
ホルダーを閉じ、車から降りる。
長い金髪が肩に掛かった。俺は片手でよけて、入口まで歩いた。
黒服の男が、サングラスの向こうからこちらを見る。
「もし。こちらに御用があるのですけれど」
「お嬢ちゃん、ここは遊び場じゃないぜ」
「存じておりますわ。闇のカードを扱っていると伺いまして、御用検めに参りましたの」
男の顎が、少し下がった。
隣の男も、こちらへ身体を向ける。
たいへん分かりやすい反応だった。
「……誰から聞いた」
「では、心当たりはおありなのね」
「ガキが、調子に乗るなよ」
男が、黒いホルダーを開いた。
画面の縁を、黒い枠が走る。
俺たちのホルダーにも、同じ色が広がった。
何も押していないのに、対戦の表示へ切り替わる。
「おい、何だこれ。強制拘束?」
レッカの声と同時に、足元から霧が湧いた。
黒い霧が玄関前の舗装路を包み、車の停まっている側を隠していく。
すぐそこにあるはずの車が、輪郭さえ見えなくなった。
レッカが一歩下がる。霧へ入る前に、シオンが肩へ手を置いた。
「出られないよ。いつもの強制拘束を、闇のカードで乗っ取ってる」
「じゃあ、これ消して――」
「ホルダーは普通に対戦を始めたつもりだから、操作しても解除できない。投了もできないよ」
レッカが画面へ目を落とした。
俺も、自分のホルダーを確かめる。
クロッシングの準備は、確かに進んでいる。
俺とシオンは対戦者に選ばれていないが、二人と一緒に霧の中だ。
勝負を見ているだけの人間まで、まとめて閉じ込める。
闇のゲーム。こういう仕掛けで遊びを台無しにするから、こいつらは気に食わない。
「だったら、勝ちゃいいんだろ」
レッカが赤と黒のホルダーを持ち直した。
声には驚きが残っていたが、指は止まっていない。
向かいの男を、まっすぐ見る。
よし。そういうところは、たいへん主人公らしい。
「まずは小手調べですわね。リツさん、レッカさん」
俺は入口へ手を向けた。
「やっておしまいなさい!」
「おう! 任せとけ!」
「君が言うと、どちらが悪の組織か分からなくなるね」
リツが苦笑しながら、白銀と紺のホルダーを起動する。
二つの対戦領域が、入口の両側へ開いた。
「クロッシング!」
そこからは、早かった。
レッカの側では、赤い光が黒い霧を押し返した。
いつものように前へ出るが、勢いのままには札を使わない。
相手の場を見て、残してある札を見て、それから手札の一枚を抜く。
前の試合で、引いた札を勢いのまま使った少年とは、少し違う。
感想戦で話したことは、ちゃんと覚えていたらしい。
最後は、ヴァルグレイン。
炎をまとった竜が踏み込み、男のライフ表示を吹き飛ばした。
熱い風が、俺の頬まで届く。
思わず押さえた髪が、風の向きへ持っていかれた。
映像を見ているだけなら、こんなふうにはならない。
闇のカードが、投影された炎にまで実体を与えているのだ。
「どうだ! 遊び場じゃねえんなら、なおさら負けてられねえんだよ!」
隣では、リツが相手の盤面を見ていた。
騒がず、急がず、次に置く一枚を選ぶ。
星の光が場を満たす頃には、黒服の手は止まっていた。
《星律の執行者、セラフィナ》。
天使の名が表示されると、リツは静かに攻撃を告げた。
「ここまでだ。君の返しは、もう届かない」
白い光が黒い霧を裂く。
二つ目のライフも、尽きた。
二つの勝負は、ほとんど同時に終わった。
レッカの相手をしていた男の輪郭が、急に薄くなった。
レッカの笑顔が消える。
伸ばしかけた手の前で、黒いスーツが平たい光へ押し縮められた。
残ったのは、一枚のカード。
絵の中で、男が口を開けていた。
「……おい」
リツに負けた男も、同じように消えた。
カードが二枚、フィールドの端へ落ちる。
霧は薄れていった。車も、玄関前の舗装路も、また見える。
それでも、二人は戻らなかった。
レッカが足元のカードを見る。
さっきまで張り合っていたリツも、今は何も言わない。
俺は二枚の前へしゃがみ、拾い上げた。
絵の中の男が、こちらを見上げる。
嫌な趣味だ。本当に。
「負けたら、こうなるのかよ」
「今回は、カードに封じる仕掛けみたいだね。クロッシングが終われば霧は消えるけど、封印まで解けるわけじゃない」
シオンが、カードを覗き込んだ。
「奥の人に、戻す方法を聞かないと。二枚とも、持っていこう」
「ええ。ちゃんと連れて帰りますわ」
二枚を、空いているカードケースへ収める。
踏まれたり、折れたりされても困る。
勝ったからって、適当に扱っていいものではない。
「こいつら、自分からやったんだろ。自分らが負けても、こうなんのか」
レッカが、閉じたケースを見ていた。
俺は頷く。
「自分たちは負けないと、思っていたのでしょうね」
「……そんな勝負、やるもんじゃねえだろ」
その通りだ。
うまく回らなくて負けたり、相手の一枚に驚いたり。
そういうことまで含めて、カードは楽しむものだろう。
もう一回、と言えなくなる遊びにして、どうする。
「ええ。ですから、奥の方にも教えて差し上げませんと」
ケースを鞄へ入れ、留め具を閉める。
「もし負けても、わたくしが助け出しますわ。お二人は、安心して思いきり戦っていらして」
「いや、待て。お前も負けたらどうすんだよ」
レッカが、こちらへ顔を向けた。
俺は立ち上がり、スカートの裾を払った。
「あら」
博士のいるらしい、上の窓を見る。
「わたくし、負けるつもりはございませんことよ?」
「そういう話してねえだろ!」
「何かあったら、私もいるよ」
シオンが横から言った。
青のホルダーを確かめる、その手は落ち着いている。
レッカは、ようやく小さく息を吐いた。
「……じゃあ、そっちは頼むぜ」
「うん。レッカくんたちは、自分の対戦をね」
後詰めの話が済むと、レッカはもう、研究所の奥へ目を向けていた。
この手の連中には、俺が勝つ。
閉じ込められた人を戻す方法も、ちゃんと吐いてもらう。
カードを使って、人をカードへ閉じ込める。
そんな遊び方をしたいなら、負けたあとまで付き合ってもらおうじゃないか。
入口には、もう黒い霧が残っていない。
俺はガラスの扉を押す。
「では、参りましょう。お昼ご飯までに、済ませますわよ!」
「やっぱり遠足のつもりなんだね」
シオンが呆れた声で言い、俺の後ろへ続いた。
《星律の執行者、セラフィナ》白・5F/3C
アストレイン/レジェンド・ユニット[セラフィナ]/天使
〈構築制限〉―アストレイン
"飛翔"、"回復"、"障壁(2)"
あなたのオーダー1枚につき、このユニットは+1/+0の修整を受ける。
3/5
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「祈りは聞き届けられました。判決が覆ることはありません。」