おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

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1話の前に、簡易ルールガイドを追加いたしました。


うるせ~! 知らね~! Cross Fact or

 

 研究所の中は、外から見るより暗かった。

 受付の机に人はいない。白い壁には、研究所の理念らしい額が掛かっている。

 人とカードの、新たなる可能性。

 その下の廊下では、さっそく黒服がホルダーを構えていた。

 

(可能性の前に、入口の対応を見直せよ)

 

 子どもを追い返すだけなら、受付で済む。

 それを闇のゲームへ巻き込んで、負けたらカードにする。

 書いてあることと、やっていることの差が大きすぎる。

 

「お前たち、ここがどこか分かっているのか!」

「ええ。先ほど、ハウスではなくラボだと教わりましたわ」

「ふざけるな!」

 

 黒いフィールドが開くより早く、レッカが俺の横へ出た。

 リツも、その隣へ立つ。

 

「奥に用があんだよ。邪魔するなら、俺が相手だ!」

「入口で待っていてもらえなかったんだ。通してくれる気はないんだろう?」

 

 返事の代わりに、相手のホルダーが光った。

 レッカの赤と、リツの白がそれに重なる。

 通路の左右で対戦が始まり、黒い霧が受付まで覆った。

 俺とシオンも、その中だ。

 先へ進もうにも、廊下の奥には霧の壁がある。二人の対戦が終わるまでは、ここで待つしかない。

 

「いい調子ですわね」

「あの二人にばっかり押しつけないでよ」

「経験は、実戦で積むものですわ」

「便利な言い方だねえ」

 

 レッカの攻撃宣言が、廊下に響いた。

 ホルダーの端には、二人の対戦状況を出してある。

 見ていないわけではない。見たうえで、任せているのだ。

 横から代わってやることはできないが、二人とも、自分の盤面をきちんと見ている。

 

 ほどなく、左右のフィールドから続けて勝利の表示が上がった。

 霧が引き、受付の机が戻ってくる。黒服のいた場所には、それぞれ一枚のカードが落ちていた。

 俺はそれも拾い、入口の二枚と一緒にケースへ収めた。

 対戦が終わっても、人は戻らない。上の奴には、ますます聞くことが増えた。

 

 俺とシオンが先に階段を上がると、下の廊下でまた声がした。

 新しい黒服が出てきたらしい。レッカが、相手を呼び止めている。

 

「おい、先に全部終わらせんなよ!」

「博士はわたくしのものですわ!」

「そこじゃねえ! 勝手に一人で突っ込むなって言ってんだ!」

「君が止まると思って言っているなら、レッカも大変だね」

 

 リツの声に、思わず笑った。

 次の階へ出たところで、下から二人の「クロッシング!」が聞こえた。

 今度は、俺たちを巻き込まずに対戦が始まった。

 

 階段の踊り場には、もう一人、男が待っていた。

 黒服ではあるが、他の連中より仕立てがいい。

 細いフレームの眼鏡を掛け、こちらを見ても怒鳴らなかった。

 こういうのが、だいたい中ボスである。

 

「御伽のお嬢様が、ずいぶん勇ましい遊びをなさる」

「ええ。今日は、たいへん充実した休日ですわ」

「研究所への不法侵入だという自覚は?」

「入口で御用を申し上げましたけれど。お返事が闇のゲームでしたの」

 

 男の目が、俺のホルダーへ落ちた。

 そこからシオンへ移る。

 

「水瀬シオン。君まで、こんなところへ来るとは」

「知ってるなら、話が早いね。闇のカードを使うのをやめて、封印された人を戻す方法を教えてほしいんだけど」

「我々の研究を理解しない人間に、口を挟まれる筋合いはない」

「じゃあ、対戦で聞いてもらうしかないか」

 

 シオンが、青いホルダーを構えた。

 落ち着いた声だった。

 男は眼鏡を押し上げ、俺からシオンへ向き直る。

 

「こちらは、お任せしてよろしいかしら?」

「いいけど。先に一人で奥まで行かないでって、言ったよね」

「お二人も、下を片づけていらっしゃいますわ」

「うん。これで、メイについて行く人がいなくなるんだけどね」

 

 もっともである。

 だが、どうやら偉そうな男は、このさらに奥にいるらしい。

 来客があると伝わったのに、入口へ出てこない。

 こういう奴は、たいがい広い部屋で、偉そうな椅子に座っているのだ。

 

「メイ」

 

 振り返ると、シオンが小さく笑っていた。

 

「あとの片づけまで、ちゃんとね」

「もちろんですわ。お楽しみのあとも、忘れませんことよ」

 

 俺は階段を上がり、上の廊下へ抜けた。

 その背後で、シオンの「クロッシング」が響く。

 下の踊り場が黒い霧に隠れ、その内側へ深い青が広がっていった。

 階段を冷たい風が吹き上がり、海の匂いを運んでくる。

 踊り場を塞いだ霧は、上の廊下までは届いていない。

 シオンが最初にどの札を出すのかは、もう見えなかった。

 先日の勝負で、散々見せてもらったんだ。任せるには、充分である。

 

 最上階の奥に、両開きの扉があった。

 廊下には似合わない、黒く磨いた木の扉。

 前には、誰も立っていない。

 見張りが全員、下へ出払ったのか。

 それとも、もう逃げたのか。

 

 ノックは、してやった。

 返事を待つ間が少し短かったことは、許してほしい。

 扉を開けると、大きな机の向こうに、白衣を着た男がいた。

 

 薄暗い部屋。

 背後のブラインド。

 机の脇には、配線のついた測定器と、カードを収めた透明なケースが並んでいた。

 女は机の上で両手を組み、口元へ添えている。

 眼鏡の表面だけが、こちらの光を返した。

 俺は後ろ手に、両開きの扉を閉める。

 廊下の足音が遠くなった。

 

(あー。分かりやすい)

 

 これで違ったら、逆にどうしよう。

 俺は机の前まで歩き、女を見上げた。

 

「あなたが、この研究所を仕切っている博士ですの?」

「いかにも! この研究所も、パラドクス機関も、すべて私が率いている!」

「では、お話が早いですわ。闇のカードで人を閉じ込めるお遊び、ここでおしまいになさいませ。閉じ込めた方々を戻す方法も、教えていただきますわよ」

 

 博士は組んでいた手をほどいた。

 俺の後ろの扉へ目を向け、それから身を乗り出す。

 眼鏡の奥の目が、妙に嬉しそうだった。

 

「御伽の娘! 報告は聞いていたとも。まさか、本当にここまで来るとはねえ!」

「お迎えがずいぶん賑やかでしたので、迷わず参れましたわ」

「ふむ。君も、我がパラドクス機関を、ただの研究組織だと思っているのかね?」

「違いますの?」

「実に惜しい! 君ほどカードに親しんでいる者が、我々の研究の価値を理解していないとは!」

 

 博士は椅子を離れ、背後の壁へ手を向けた。

 画面に、線と数字が浮かぶ。

 人型の図形と、カードの図形。それを繋ぐ、やたらと多い矢印。

 説明するために、わざわざ用意していたらしい。

 

「現在の共鳴は不完全だ! 人間はカードの力の、ほんの一部しか使えていない。精霊の側もまた、薄い媒体を通じて——ああ、もどかしい! 目の前に力があるのに、手を伸ばすことさえできんのだ!」

 

 長い。

 開幕から、もう長い。

 しかも、本人はこれからが本題、という顔をしている。

 

「そこで、プロジェクト・オーバーマター! 人とカードの完全なる共鳴! この隔たりを取り払い、両者を一つへと近づける。想像したまえ! その先に、どれほどの可能性が——」

 

 俺は、ケースから一枚を取り出した。

 入口で負けた男のカードだ。

 机の上へ置くと、博士の説明が少し途切れた。

 

「この方も、その可能性の一部ですの?」

「おお、回収してきたのか! その個体の結果も、貴重なデータだ。成功例ばかりを集めていては、研究は進まんからねえ!」

 

 博士はカードを覗き込み、満足そうに頷いた。

 負けた部下を心配している顔ではない。

 

「では、この方をどうやって戻しますの?」

「結論を急ぐものではないよ、お嬢さん。まだ試験は途上なのだ。技術が完成すれば、その問題も解決できる! 今は、得られた成果を——」

 

(うるせえな。知らねえよ、人をカードに閉じ込めていい理由なんて)

 

 勝手に試験に付き合わせておいて、完成すればも何もあるか。

 俺は男のカードをケースへ戻した。

 相手が話している間でも、折れないように丁寧に扱う。

 方法を聞いているのに、返ってくるのは成果の自慢だ。

 勝ちさえすれば人が戻る、という話でもない。こいつが知っていることを、きっちり聞き出して帰る。

 俺はホルダーを起動した。

 

「ご立派なご説明は、もう結構ですわ」

 

 本を模したホルダーから、光の枠が開く。

 入口で選んだ【盟約】の表示を確かめ、エクシードの欄へ指を滑らせた。

 煤けた服の小さな少女が、画面の端へ顔を出した。

 

「クロスファクターは、人を傷つけるためのものではございませんわ。私とクロッシングなさいませ」

「ほう! 私に講義をするつもりかね?」

「ええ。お分かりになるまで、たっぷりお相手いたしましてよ」

 

 博士は喉の奥で笑った。

 机の上の黒いホルダーを取り上げると、そこから霧がこぼれた。

 閉めた扉にまで、黒い線が伸びた。

 入口とは比べものにならない圧迫感で、部屋が闇に包まれていく。

 

「素晴らしい! では、実証といこうじゃないか。君自身の身体で、我々の到達点を確かめたまえ!」

 

 足元が、遠くなる。

 机も、椅子も、壁も薄れ、黒い空がその向こうへ開いた。

 廊下の声が、遠くなった。

 シオンも、レッカも、リツも、この部屋にはいない。

 霧に囲まれたのは、俺と博士だけだ。三人からは、この対戦は見えない。

 向こうの連中は任せてある。こちらを引き受けたのは、俺だ。

 博士がこちらを見ている。

 俺も、相手のホルダーから目を離さない。

 

「コンタクト、《フェイブルーン》! レディ!」

「コンタクト、《ディスジェネシア》! レディ!」

 

「「クロッシング!」」

 

 さあ、お相手願おうじゃないか。

 カードで人を閉じ込める奴の、いちばん得意なカードで。

 





 《ディスジェネシア》
 ワールド
 あなたはデッキに青、緑のカードと「ディスジェネシア」カードを入れることができる。
 <研究記録>-あなたの墓地から1枚以上のカードが離れたとき、離れたカードの枚数と同じ数の研究カウンターをこのワールドの上に置く。
 <強制進化>-〈随意〉このワールドから研究カウンターを2個取り除く:あなたがコントロールするユニット1体を対象とする。そのユニットに+1/+1カウンターを1個置く。
 ―
 ここでは、命に優劣をつけない。等しく、改良の余地がある。
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