おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

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主人公補正、こっち向けんな

 

「あら、ずいぶんな自信ですこと。受けて立ちますわ!」

 

 レッカは手札から一枚を抜き放ち、ファクターエリアへ叩きつけた。

 

「《竜火の触媒》をアクティブでセットしてファクターは五枚! そのままスリープの二枚を破棄、さらに今セットした《竜火の触媒》を<バースト>して、3コストで召喚!」

 

 対戦卓の上で真紅の魔石が弾け飛び、ファクターエリアから三枚のカードが墓地に送られる。

 

「すべての炎を王冠に、俺の闘志をその翼に! 勝利への道を焼き拓け!」

 

 噴き出した猛火が、少年の腕に螺旋を描いて巻きついた。

 

「吼えろ――《イグナリアの竜王、ヴァルグレイン》!」

 

 叩きつけられたカードから、天を焦がすような紅蓮の火柱が立ち昇った。

 裂けた顎、禍々しく反り返る二本の角、熱波を放つ黒銀の鱗。盤面の上空を丸ごと覆い尽くすほどの漆黒の翼が羽ばたく。

 隣の卓のプレイヤーたちが、思わず手を止めて見上げた。

 竜は天を仰ぎ、俺の体を震わせるほどの咆哮を轟かせる。

 

(……くぅーッ! 何度見てもたまらねえな、この立体映像!)

 

 紙切れの一枚が、質量を持った暴君として眼前に顕現する。この世界に転生して心底良かったと思える要素を挙げるなら、間違いなくトップ三に入る感動だ。

 ――まあ、今その大怪獣が狙いをつけているのは、他でもない俺の喉元なわけだが。

 

「まずは《イグナリアの竜王、ヴァルグレイン》の登場時効果! メイに四点ダメージ!」

「受けますわ」

 

 突き抜ける熱風が正面から吹き荒れ、40の表示が弾けて36へと下がる。

 痛覚自体は無いとはいえ、この迫力で火球を投げつけられれば自然と肩が強張る。

 

「残ったスリープのファクターを一枚破棄して、1コストで《イグナリアの一番槍》をプレイ! さらに、最後の一枚を破棄して1コスト、もう一体召喚!」

 

 レッカが繰り出した手札から、灼熱の槍を構えた突撃兵が二体飛び出す。

 これでレッカのファクターはゼロ枚。手札は残り二枚。

 

「バトルフェイズ! "速攻"を持つ二体の《イグナリアの一番槍》と、《竜火の触媒》の<バースト>効果で"速攻"を得た《イグナリアの竜王、ヴァルグレイン》でアタック!」

 

 巨竜が風圧を巻き起こして跳躍する。

 

「《イグナリアの竜王、ヴァルグレイン》のアタック時トリガー発動! メイにさらに四点!」

「結構ですわ。四点、受けましょう!」

 

 ライフは32。

 ブロックユニットの指定ステップ。スノウがアクティブだが、"飛翔"持ちのヴァルグレインは、同じく"飛翔"を持っていないとブロックできない。スノウのスペックは0/4。槍兵を今は止めることが出来るが、向こうのアクションを考えるとまず間違いなく討ち取られる。

 少し悩んだが、返しの打点は足りている。ライフを守るべきだろう。

 

「一体はスノウでブロックですわ! さあ、ダメージへ進んでよろしくて?」

「まだだ! こっからが俺の本番だぜ!」

 

 ホルダーの中から一枚のカードが飛び出し、レッカの手がそれを掴み取った。

 

「エクシード、ディサイド!」

 

 それは、ゲーム開始前に伏せられた三枚の切り札の内の一つ。

 一枚でゲームそのものの行方さえも決める、ただ一度だけ許された、絶対の権能。

 

「燃え尽きたって終わりじゃねえ! 消えた炎も、散った火花も、灰一粒までも火種へ還れ! 俺の炎はこれからだ!」

 

 レッカがカードを高らかに掲げ、カードが閃光を放つ。

 

「もう一度、燃え上がれ――リベレーション、《イグナリア・イグニッション》! 俺の墓地にあるイグナリアカードをすべてアクティブでファクターエリアへ呼び戻す!」

 

 竜の鱗が、さらに凶悪な灼熱を帯びて発光した。

 墓地に沈んでいたカードたちが、光の奔流となって次々と飛び出してくる。戦死した歩兵、焼き尽くした魔石、先ほど自壊させた触媒。《イグナリア》の名の下に、使い終えたカードが、ファクターエリアへと雪崩れ込んでいく。

 

 並びきらないカードを収めるため、ホログラムの枠が左右へ際限なく横に伸びていく。

 空になっていたファクターエリアが、瞬く間に二十三枚ものカードで埋まった。

 しかも、そのすべてがアクティブ状態。

 

「ヴァルグレインのパワーは、起きてる赤のファクター1枚につき+1される! 俺のファクターは全てアクティブの二十三枚!」

 

 もともとの基本数値と合算され、パワー28という、主人公が使うカードというよりはラスボスが使うような数値を引っ提げた竜王が空を制圧する。

 

「うわ、でっか……」

 

 ギャラリーの誰かが乾いた声を漏らした。

 激しく同意する。

 規格外のパンプアップだと分かっていても、これだけの巨躯を目の当たりにすれば、カードゲーマーとしての脳汁が溢れ出てしまうのを止められない。

 本来なら終盤のリソース回復となるそのカードを、レッカはヴァルグレインの一撃必殺の燃料へと注ぎ込んだ。

 

 竜王のパワーが28。さらに、ブロックされていない《イグナリアの一番槍》がパワー4。

 合計、三十二点。

 寸分の狂いもなく、残りのライフをぴったり削り切る算段だ。

 

「ぶち抜けええええっ!」

 

 槍兵が疾走し、その頭上を、地鳴りのような羽ばたきとともに竜王が急降下してくる。

 視界のすべてを焼き尽くす業火の翼。思わず息を呑んだ俺の頭上から、ビルをも引き裂くような鉤爪が容赦なく叩きつけられた。

 

 衝撃波の轟音。

 

 『32』と表示されていたライフカウンターの数字が、一瞬で『0』へと粉砕される。

 槍に貫かれたスノウが光の粒となって消え、敗北を告げる赤いエフェクトが、俺の足元から立ち昇ろうとした。

 

「――まだですわ。エクシード、ベイルアウト!」

 

 その刹那、ホルダーから一枚のカードが飛び出す。

 ライフが0以下になり、システムが敗北を処理する直前の極小の割り込みタイミング。

 残光の中で、俺はカードを凛と掲げた。

 

「閉じかけた物語に、もう一度奇跡を! 最後の一文に、『めでたし、めでたし』を!」

 

 カードを卓の中心へと滑り込ませる。

 

「さあ、残されたページにハッピーエンドを! リベレーション、《物語は終わらない》!」

 

 荒れ狂う炎の嵐を切り裂き、神聖な白い光が差した。

 フィールドの焼け野原を純白の百合が覆い尽くしていく。

 0を刻んで停止しかけていたカウンターが激しく点滅し、一気に『15』へと跳ね戻った。

 周囲で観戦していたギャラリーから、一斉にどよめきが上がる。

 ライフが0以下になった瞬間に発動する、敗北置換能力――<再誕>を持つエクシード。

 

「ライフを十五点回復。そして<再誕>の追加効果で、デッキから三枚ドローいたしますわ!」

 

 繋がった首の皮一枚。

 俺は山札のトップへ神経を集中させた。

(頼むぞ、デッキ……!)

 一枚目。《七人のまとめ役》。

 二枚目。《魔法を解く指先》。

 三枚目。《森の小さな働き手》。

 

(――ブタか。でも小人を焼くなら、《足並みを揃えて》で守れる。俺を焼く札だけは、勘弁してくれ)

 

 手札は計六枚。淑女としてのポーカーフェイスをミリ単位たりとも崩さず、優雅に小首を傾げてみせる。

 

「ふふ、まだ終わりませんわよ? こちらには六人。次は、わたくしの番ですわ!」

 

 ブラフ混じりの揺さぶりをかける。

 レッカの手札は、あと二枚。

 アタックを終えた少年が、そのうちの一枚へ指を掛け、これ以上ないほど邪気のない笑顔を浮かべた。

 

「もちろん、分かってるぜ!」

 満面の笑み。

「全部、ぶっ放す!」

 

 レッカが両手を大きく広げ、ファクターエリアのカード群を豪快に掬い上げた。

 今しがた墓地から復帰させたばかりの二十三枚ものリソースを、まとめて墓地へと叩き落とす。

 

(あ……クソッ、持ってやがった!)

 

「起きてる赤のファクター、二十三枚を全部バースト! 23コスト、全部まとめて、ぶっ放す!」

 

 竜王の全身を包んでいた猛炎が、逆再生のように足元の大地へと吸い込まれていく。

 巨躯が元のサイズへと戻っていくのと引き換えに、対戦卓の全面にマグマの亀裂が走り、赤熱した光が漏れ出した。

 レッカが、残る二枚から抜いた一枚を渾身の力で叩きつける。

 

「大地を割って、噴き上がれ! 《グラナヴァ火山の大噴火》ッ!!」

 

 咲き誇っていた白い花弁を炭化させ、卓の中央から巨大な火山が噴煙を上げて隆起した。

 残された小人たちが見上げ、腰を抜かす。その頭上から、エリアの限界を超えた火砕流とマグマの雨が降り注いだ。

 《グラナヴァ火山の大噴火》。このカードのコストとして<バースト>したファクターの枚数分、相手プレイヤー本体へ直接ダメージを叩き込む大技。

 つまり、二十三点直撃。

 

 これが通れば、今度こそ完全に灰になる。

 俺は手札の六枚をもう一度、端から端まで睨みつけた。

 指先、働き手、まとめ役、足並み、護り、棺。

 

(……どうひっくり返しても、バーンを防げる<クイック>はねえ)

 

「……ずいぶんと派手に焼いてくださること。お加減というものをご存じなくて?」

「へへっ! もう一回起き上がってきたって、まとめて焼き尽くすまでだ!」

「一試合に使えるエクシードは一度きりですわよ?」

「分かってるって! 今度こそ、これで決めてやる!」

 

 知っていて、なおすべてを灰にする念の入れようだ。

 手札を綺麗に閉じ、卓の上に伏せた。

 

「……対応、ございませんわ」

 

 火山が、大爆発を起こした。

 視界が白熱するほどの閃光と爆風。

 盤面も、小人たちも、すべてが暴力的な紅蓮の濁流に呑まれて消滅していく。

 15――そして0。

 カウンターは突き抜け、−8で完全に停止した。

 今度こそ、冷徹な敗北判定のブザーが鳴り響く。

 視界を塗りつぶす無情な【YOU LOSE】の赤文字。

 

「っしゃああっ!!」

 

 レッカが天井へ向けて力強く拳を突き上げた。

 隣の席で見ていた女の子が、感嘆の声を漏らしながらパチパチと拍手を送る。

 俺はしばらく目の前の『−8』を見つめ、それから静かに息を吐いてカードをまとめた。

 

(次のターンさえ貰えていれば。いや、どこかで一手詰められなかったか?)

 

 脳裏に浮かび上がるのは、カードゲーマー特有の無様な言い訳だ。

 だが、その次のターンを絶対に渡さないプレイングを完遂したのはレッカであり、引き込んだ大噴火まで含めて勝ち切る手順を迷わず組んだ少年の勝負勘の勝利なのだ。

 完敗だ。

 喉の奥が熱くなるほど悔しい。

 ――だけど、それ以上に。 

 俺は制服のスカートを整え、背筋を伸ばして丁寧に一礼した。

 

「お見事でしたわ。対戦、ありがとうございました」

「おう! ありがとうございました!」

 

 顔を上げると、汗を拭いながら笑う少年の顔があった。

 つられて、こちらの口元からも自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「……次は、わたくしが勝ちますわ。覚悟なさい!」

 

 





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 《イグナリアの竜王、ヴァルグレイン》赤・5F/3C
 イグナリア/レジェンド・ユニット[ヴァルグレイン]/ドラゴン
 <構築制限>―イグナリア(あなたのワールドがイグナリアでなければ、このカードをデッキに入れることができない)
 "飛翔" "貫通" "障壁(3)"(3F以下の相手のアクション、およびエンティティの能力はフィールドのこれを対象にすることができない)
 "突破"(このユニットの戦闘ダメージは軽減されない)
 このユニットがフィールドに出たときおよび攻撃するとき、相手プレイヤーに4点のダメージを与える。
 あなたのアクティブ状態の赤のファクター1枚につき、このユニットは+1/+0の修整を受ける。
 5/5
 ―
 イグナリアに燃えるすべての炎は、彼の王冠の一片である。

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 《イグナリア・イグニッション》
 イグナリア/エクシード
 あなたの墓地にある「イグナリア」カードをすべて、アクティブ状態であなたのファクターエリアに置く。その後、あなたの赤のファクターをすべてアクティブにする。
 ―
 火が灯る。世界が、もう一度始まる。

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 《物語は終わらない》
 フェイブルーン/エクシード
 <再誕>(あなたのライフが0以下になったとき、これをリベレーションしてもよい。ライフが0以下でなければこのエクシードはリベレーションできない)
 あなたはライフを15回復し、カードを3枚まで引く。
 ―
 最後の一文は、別れの言葉ではない。

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