おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
(ふーん。やるじゃん。普通にピンチだ)
啖呵を切っておいてアレだが、仮に負けてもシオンがどうにかしてくれるだろう。
それでも駄目なら、教会がカチコミに来るはず。
その後、リディアにアホほど煽られるが。
絶対ヤダな。
俺は手札を揃えて眼前の巨体を見る。
廊下の三人には、こいつが見えていない。
よかったような、惜しいような。
せっかくならレッカにも、この手の派手な初動を見せてやりたかった。
まぁ、闇のカード抜きでやるべき話だが。
「では、わたくしのターンですわ。二枚ドロー」
手札へ来た二枚を見る。
《新緑のブローチ》と、《豊穣の盟約》。
初手も、もう一度眺める。
《むかしむかし》、《屋根裏の小さな猫》、《魔力の結晶化》、《舞踏会の静寂》。それに、ファクターへ置くための《若獣の首飾り》。
うーん、完璧。ひとまず耐えた。
あの実験体をぶっ倒すための第一関門は突破だ。
「まずは《むかしむかし》をプレイいたしますわ。このクロッシングで、わたくしが最初にプレイするカードですので、0ファクター、0コスト。無属性として使わせていただきますわね」
フェイブルーンの最強初動、むかむか。
普通に使うなら、1コストで山札の上から5枚を見て、その中のフェイブルーンのカードを1枚手札に加える。
ところが、自分がこのゲームで最初にプレイするカードなら、0コストで山札全体から好きなフェイブルーンのカードを持ってこられる。
フェイブルーンの初動が安定している理由の一つだ。
俺は山札を開き、《夜会支度の魔法使い》を探した。
公開して手札に加え、山札をシャッフルする。
博士の視線が、魔法使いの札を追った。
「ほう。舞踏会の支度かね? 私の研究成果を前に、実にのんきだ!」
「支度は大切ですもの。準備不足は禁物なのでしょう?」
今日は、特に。
俺は、手札を少し開いた。
結晶化に、猫。静寂。
今探した魔法使いと、ブローチと、盟約。
ファクターに置く首飾りを、手前へ寄せる。
「では、《若獣の首飾り》をファクターへ。《魔力の結晶化》をプレイいたしますわ」
緑の首飾りに、小さな結晶が並ぶ。
どちらもアクティブ。ファクターは二枚になった。
「首飾りをスリープにして1コスト。《屋根裏の小さな猫》をプレイいたしますわ」
培養槽の足元を、小さな猫が歩いてきた。
0/1。実験体の足元へ置けば、見落としそうな大きさだ。
博士は手札へ指をかけたが、まだカードは出さなかった。
俺は猫の登場時能力を解決し、山札の上の二枚を見る。
《新緑のブローチ》と、《誓約の執行者》。
白いカードがあった。第二関門突破。
「一枚を手札へ。《誓約の執行者》をファクターに置きますわ」
白の執行者が、アクティブのファクターへ収まった。
これで三枚。眠った緑の首飾りに、起きた結晶化と執行者。
白の色条件も揃った。
手元には、二枚のブローチがある。
俺は向かいの、眠ったファクターを見る。
相手の使用済みエクシードを見る。
最後に、ニューロシーズの表示へ目を戻した。
「一つ、確認してもよろしいかしら」
「ほう、質問かね? よろしい。実験記録は、正確に読まねばならん!」
「実験体のサイズは81/81。そちらのライフは四十。リベレーションは、先ほど使用済みでよろしいですわね?」
「そのとおり! 我々の成果を、よく見ておきたまえ!」
「では、一たす二十たす二十八は?」
博士が、片眉を上げた。
「四十九。それがどうしたのかね?」
「ええ。次に、四十九たす五十四たす三は?」
「百六だ。君の算数の授業まで引き受けた覚えはないがねえ」
「さらに、百六たす十八かける二は、百四十二でよろしくて?」
「そうだとも」
「では最後です。百二十一ひく百四十二。マイナス二十一で間違いありませんわね?」
「合っている! 計算結果はもう充分だろう。君の質問と、私の研究に、何の関係がある!」
博士は、面倒くさそうに鼻を鳴らした。
俺は、にっこりと笑った。
「検算にご協力、感謝いたしますわ」
「さっきから何を確認している! 私を馬鹿にしているのか!」
「ええ。ですけれど、確認は大切ですの」
「確認、だと?」
笑ってはいるが、確認は本気だ。
前の世界には、世界選手権の準決勝で足し算を間違えて負けた奴がいた。
相手に負けたのではなく、足し算に負けたのである。
あれは、ちょっとつらい。
勝てると思って効果を起動した後で、計算が違っていると指摘される。
しかも、間違いに気づいて卓に崩れ落ちる瞬間が、ビデオカバレージに残っている。
想像しただけで、座り直す足が重くなる。
やらかしたやつの名前なんてったけー。
「し」から始まって「ん」で終わるような気がするんだけどなー。
まぁ、そんな訳で俺は指差し確認派だ。
博士は、残った札を持ち直した。
それが使えるうちに、魔法使いやエラを差し出すつもりはない。
「執行者をスリープにして1コスト。《舞踏会の静寂》ですわ!」
城の窓に、明かりが灯った。
培養槽の下へ、白い床が広がっていく。
「このターン、あなたはカードをプレイできませんわ。この舞踏会には、お静かにお付き合いくださいませ」
「よかろう! その少女が出てきても、私のターンに処分すればよいだけだからねえ!」
まずは、除去が魔法使いやエラへ届く前に封じた。
大きな実験体は、そのまま残っている。
こちらが倒すべき相手は、初めからあれだ。
俺のファクターは三枚で、アクティブは一枚。
手札には、魔法使い、二枚のブローチ、盟約。
主人公のエラは、いつもどおり除外で出番を待っている。
俺は手札の四枚を、使う順番に揃えた。
向かいには、大きな実験体が立っている。
81/81の向こうに、ライフが40。
靴と舞踏服。ティアラに、最後のシンデレラ。
白銀の飾り紐は、三枚ともエラに残す。
これからつけるリンクを思い浮かべ、必要な打点を数える。
最後に一度ハンドをシャッフルし、《豊穣の盟約》を指が弾いた。
(確認完了)
すまんな、博士。
さっき、
あれは嘘じゃ。
手札の向こうに見える博士は、まだ笑っている。
どうぞ。そのままで。
(もうあんたがこのゲームで、カードをプレイすることはない)
俺は顔を上げた。
(御無礼、
《むかしむかし》緑・1F/1C
フェイブルーン/アクション
このカードがこのゲームであなたが最初にプレイするカードであるならば、このカードの必要FとCを0とし、無属性のカードであるかのようにプレイしてもよい。
このカードがこのゲームであなたが最初にプレイしたカードであるならば、あなたのデッキから「フェイブルーン」カード1枚を探し、公開して手札に加える。
そうでないならば、あなたのデッキの上から5枚を見て、その中から「フェイブルーン」カード1枚を公開して手札に加え、残りを好きな順番でデッキの一番下に置く。
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物語は、いつもその言葉から始まる。